賑やかな店内からこっそりと出てきた淳は、誰も居ない非常階段に一人腰掛けた。
いつもの”青田先輩”の仮面を外し、飾らない自分で息を吐く。
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小さく「疲れたな‥」と呟きながら、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻いた。
重苦しい気持ちが、胸を塞いで気分を暗くさせる。
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頭の中に、つい先日柳楓と交わした会話が甦った。
「赤山ちゃんと仲直りする気あんの?」「分かってるよ」
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柳に言われたからではなく、淳は自分から謝ろうと思っていた。
何と言っても、始めは皆の前で彼女の意見を否定したくせに、結局彼女の案を採用することにしたのだ。
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事実を客観的に見れば見るほど、自分のすべきことは明らかだ。
他の面は嫌いでも、あのことに関しては事を荒立てずに和解すべきだろう。
互いに気まずい感情を持ち続けるのも良くないし
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だから淳は計画したのだ。赤山雪に謝るための算段を。
ちょっと呼び出して‥
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まず、大量の段ボールを前に困っている彼女に、「手伝うよ」と手を差し伸べる。
彼女は困惑顔をしながらも、「はい」と頷くしかないだろう。
拒めないのは分かってる
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彼女では手の届かない高い所に軽々と箱を乗せながら、こう切り出せば良いだろう。
あの日俺、変に反応し過ぎちゃったよな。事が大きくなるかと思ってしまって。
悪かったと思ってるし、もう気を遣わないでくれると嬉しいな
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いつも通り、頼れる”青田先輩”として彼女にも接すれば良いじゃないか。
今日は手伝ってくれてありがとう。
広報チームに行きたいなら、行ってくれても構わないよ
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彼女は戸惑いながらも、「ハイ」と返事をするだろう。
これが淳の考えた算段だった。
こんな風になるだろう?明らかじゃないか
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けれど。
どうして赤山雪という人間は、自分の想定から大きく外れて行くんだろう。
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たった一人で、誰にも助けを求めずに、指を痛めながら。
ようやくこっちを向いたと思ったら、
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結局、そっぽを向かれた。
結果として自分は、”キツイ仕事を言いつけた横暴な先輩”だ。
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こんなはずじゃなかった。
こんなことになるなら、もっとシンプルに行けばよかった。
いや、わざわざこっちのチームに呼ばなくても‥学校で話せば良かったじゃないか
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「ちょっといい?」とただ話し掛ければ良かった。
こんな小細工なんてしなくても。
どうして‥
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浮かんで来るのは、不機嫌な横顔。
声を掛けようとしたら驚いて倒れて、それきりこちらを見ようともしない。
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自分ばかりが彼女を見ていた。彼女に向けて、カマをかけるような物言いまでして。
「設営チームの人は手を挙げて。俺はこっちに携わることになるけどー‥
それじゃ広報チームは‥」
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当たり前のように、自分が居ない方のチームに手を挙げる雪。
その存在はいちいち癇に障り、淳は苛ついた。
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どうにかして彼女を設営チームに呼び込めないものか。
加速した苛つきは、普段は冷静な自分を、想定外な行動へと駆り出す。
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そして淳は深く息を吐いてから、こう口にしたのだった。
「広報から一人設営チームに来ない?
そうすると人数が釣り合うんだけど」
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今考えると、なんて苦しい言い訳だろう。
一人移動させたところで、大して変わり無いだろうに‥。
俺ってばどうして‥
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自分らしくもない。
それでも、胸に広がるこの苦々しい気持ちに嘘はつけない。
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彼女と和解しようとすればするほど空回る。
けれどこんな風に考え込むのは、余計自分らしくない。
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淳は気持ちを切り替え、非常階段を後にする。
ずっと悩んでたってしょうがないだろ
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そして淳はいつもの”青田先輩”の仮面を被ると、店内に戻って作業を続けたのだった。
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大分設営の方も進み、皆それぞれの手を休め始めた。
雪の周りで、学科生達が大量にあった段ボールの行方について話している。
「食器とかが入った段ボールがいっぱいあったハズなんだけど、全部どこ行った?」
「えー?いつ着いたの?それ知らなかったんだけど」
「誰か知らんが整理までしてくれて、マジGJだな!」
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彼らの後ろで、雪がハハハと乾いた笑いを立てていた。全部私一人でやったんですよ、と言ってしまいたい。
そして彼らは続いて、こんなことを言い始めた。
「やーでももう一通り片付いた感じだよな。掃除も終わったし!」
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雪の頭にハテナが浮かぶ。
皆あたかも全て終わったかのように帰り支度を始めているからだ。
「帰ろー!あーマジ大変だった」「おつかれしたー」「みんなおつかれ!」「あーもー熱出そー」
えっ?これから始まるんじゃないの??
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ゾロゾロと出て行こうとする皆に、堪らず雪は声を掛けた。
「あの、ちょっと待って!今日やっとかなきゃいけないことは沢山残ってるはずだよね?
これで終わりじゃないよ、私が前やったときはー‥」
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そんな雪の言葉に、キノコ頭があからさまに顔を顰めた。
雪の方に向き直り、ふてくされながらこう返す。
「あくまで自主参加じゃないんですかぁ?」
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しかしキノコ頭は青田淳の姿が見えると、すぐさま態度を変えてこう続けた。
「あたしなんて今日用事あって来れないはずだったんですけどぉ、
わざわざ来たんですよぉ?」
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そんな彼女の姿を見て、瞬時に雪は悟った。
こういうタイプには何も言っても無駄だ、と。
「そっか。それじゃね、バイバイ」
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笑顔を飾って、適当に別れの挨拶を交わす雪。
すると彼女と似たような笑顔を飾った人が、皆に向かって手を振っていた。
「それじゃな。皆おつかれさま。気をつけて帰ってな」
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皆を送り出すその横顔を見て、雪は思った。
あの人も諦めたのか‥?
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青田淳の顔は、笑っているようで笑ってない。
しかしそれに気づかないキノコ頭は、わざとらしく咳をしながら淳にしなだれかかった。
「あ‥なんだか寒気が‥」
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それを見て、驚きのあまり目が飛び出す雪。
ダメ!危険だよ!
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機嫌の悪い青田淳に近づくとどうなるか。
そんなこと、この身を持って分かってる。
これからは気をつけろよ
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あのブラック淳が現れるかもしれないのだ。
雪は咄嗟にキノコ頭へと手を伸ばし、彼女の肩をぐっと掴んだ。
今度はキノコ頭の目が飛び出す。
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間一髪セーフ‥。冷や汗ダラダラである。
「早く帰って、薬飲んで休みなねっ?」
「あ‥ハイ‥」
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キノコ頭は不満たらたらな顔をしながら、雪に向かってペッペッとツバを吐き掛けた。
しかしやっぱり、青田淳の前ではナヨナヨだ。
「残って仕事しましょうかぁ?」「ううん、早く帰んなよ」
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青田淳はそう言って、帰りたがっている人達を送り出した。雪はゲッソリして、その場に立ち尽くしている。
「仕上げ手伝ってくれる人は、ちょっと残ってくれる?」
「さようなら~」 「じゃあなー」
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淳がそう言うと、残る人は残り、帰る人は帰って行った。
そして雪は律儀にも、その場に残ったのだった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>空回り でした。
淳先輩、完全な空回りです‥
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しかしこんな風に頭を悩ませる先輩を見ると、人間らしいなと少し微笑ましかったり‥。
でも雪の立場になったら大変な仕事押し付けられて、たまったもんじゃないなと思ったり‥。
そしてキノコ頭‥はよ帰れ!
次回は<<雪と淳>シンクロ>です。
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いつもの”青田先輩”の仮面を外し、飾らない自分で息を吐く。
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小さく「疲れたな‥」と呟きながら、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻いた。
重苦しい気持ちが、胸を塞いで気分を暗くさせる。
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頭の中に、つい先日柳楓と交わした会話が甦った。
「赤山ちゃんと仲直りする気あんの?」「分かってるよ」
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柳に言われたからではなく、淳は自分から謝ろうと思っていた。
何と言っても、始めは皆の前で彼女の意見を否定したくせに、結局彼女の案を採用することにしたのだ。
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事実を客観的に見れば見るほど、自分のすべきことは明らかだ。
他の面は嫌いでも、あのことに関しては事を荒立てずに和解すべきだろう。
互いに気まずい感情を持ち続けるのも良くないし
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だから淳は計画したのだ。赤山雪に謝るための算段を。
ちょっと呼び出して‥
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まず、大量の段ボールを前に困っている彼女に、「手伝うよ」と手を差し伸べる。
彼女は困惑顔をしながらも、「はい」と頷くしかないだろう。
拒めないのは分かってる
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彼女では手の届かない高い所に軽々と箱を乗せながら、こう切り出せば良いだろう。
あの日俺、変に反応し過ぎちゃったよな。事が大きくなるかと思ってしまって。
悪かったと思ってるし、もう気を遣わないでくれると嬉しいな
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いつも通り、頼れる”青田先輩”として彼女にも接すれば良いじゃないか。
今日は手伝ってくれてありがとう。
広報チームに行きたいなら、行ってくれても構わないよ
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彼女は戸惑いながらも、「ハイ」と返事をするだろう。
これが淳の考えた算段だった。
こんな風になるだろう?明らかじゃないか
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けれど。
どうして赤山雪という人間は、自分の想定から大きく外れて行くんだろう。
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たった一人で、誰にも助けを求めずに、指を痛めながら。
ようやくこっちを向いたと思ったら、
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結局、そっぽを向かれた。
結果として自分は、”キツイ仕事を言いつけた横暴な先輩”だ。
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こんなはずじゃなかった。
こんなことになるなら、もっとシンプルに行けばよかった。
いや、わざわざこっちのチームに呼ばなくても‥学校で話せば良かったじゃないか
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「ちょっといい?」とただ話し掛ければ良かった。
こんな小細工なんてしなくても。
どうして‥
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浮かんで来るのは、不機嫌な横顔。
声を掛けようとしたら驚いて倒れて、それきりこちらを見ようともしない。
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自分ばかりが彼女を見ていた。彼女に向けて、カマをかけるような物言いまでして。
「設営チームの人は手を挙げて。俺はこっちに携わることになるけどー‥
それじゃ広報チームは‥」
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当たり前のように、自分が居ない方のチームに手を挙げる雪。
その存在はいちいち癇に障り、淳は苛ついた。
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どうにかして彼女を設営チームに呼び込めないものか。
加速した苛つきは、普段は冷静な自分を、想定外な行動へと駆り出す。
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そして淳は深く息を吐いてから、こう口にしたのだった。
「広報から一人設営チームに来ない?
そうすると人数が釣り合うんだけど」
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今考えると、なんて苦しい言い訳だろう。
一人移動させたところで、大して変わり無いだろうに‥。
俺ってばどうして‥
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自分らしくもない。
それでも、胸に広がるこの苦々しい気持ちに嘘はつけない。
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彼女と和解しようとすればするほど空回る。
けれどこんな風に考え込むのは、余計自分らしくない。
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淳は気持ちを切り替え、非常階段を後にする。
ずっと悩んでたってしょうがないだろ
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そして淳はいつもの”青田先輩”の仮面を被ると、店内に戻って作業を続けたのだった。
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大分設営の方も進み、皆それぞれの手を休め始めた。
雪の周りで、学科生達が大量にあった段ボールの行方について話している。
「食器とかが入った段ボールがいっぱいあったハズなんだけど、全部どこ行った?」
「えー?いつ着いたの?それ知らなかったんだけど」
「誰か知らんが整理までしてくれて、マジGJだな!」
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彼らの後ろで、雪がハハハと乾いた笑いを立てていた。全部私一人でやったんですよ、と言ってしまいたい。
そして彼らは続いて、こんなことを言い始めた。
「やーでももう一通り片付いた感じだよな。掃除も終わったし!」
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雪の頭にハテナが浮かぶ。
皆あたかも全て終わったかのように帰り支度を始めているからだ。
「帰ろー!あーマジ大変だった」「おつかれしたー」「みんなおつかれ!」「あーもー熱出そー」
えっ?これから始まるんじゃないの??
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ゾロゾロと出て行こうとする皆に、堪らず雪は声を掛けた。
「あの、ちょっと待って!今日やっとかなきゃいけないことは沢山残ってるはずだよね?
これで終わりじゃないよ、私が前やったときはー‥」
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そんな雪の言葉に、キノコ頭があからさまに顔を顰めた。
雪の方に向き直り、ふてくされながらこう返す。
「あくまで自主参加じゃないんですかぁ?」
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しかしキノコ頭は青田淳の姿が見えると、すぐさま態度を変えてこう続けた。
「あたしなんて今日用事あって来れないはずだったんですけどぉ、
わざわざ来たんですよぉ?」
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そんな彼女の姿を見て、瞬時に雪は悟った。
こういうタイプには何も言っても無駄だ、と。
「そっか。それじゃね、バイバイ」
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笑顔を飾って、適当に別れの挨拶を交わす雪。
すると彼女と似たような笑顔を飾った人が、皆に向かって手を振っていた。
「それじゃな。皆おつかれさま。気をつけて帰ってな」
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皆を送り出すその横顔を見て、雪は思った。
あの人も諦めたのか‥?
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青田淳の顔は、笑っているようで笑ってない。
しかしそれに気づかないキノコ頭は、わざとらしく咳をしながら淳にしなだれかかった。
「あ‥なんだか寒気が‥」
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それを見て、驚きのあまり目が飛び出す雪。
ダメ!危険だよ!
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機嫌の悪い青田淳に近づくとどうなるか。
そんなこと、この身を持って分かってる。
これからは気をつけろよ
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あのブラック淳が現れるかもしれないのだ。
雪は咄嗟にキノコ頭へと手を伸ばし、彼女の肩をぐっと掴んだ。
今度はキノコ頭の目が飛び出す。
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間一髪セーフ‥。冷や汗ダラダラである。
「早く帰って、薬飲んで休みなねっ?」
「あ‥ハイ‥」
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キノコ頭は不満たらたらな顔をしながら、雪に向かってペッペッとツバを吐き掛けた。
しかしやっぱり、青田淳の前ではナヨナヨだ。
「残って仕事しましょうかぁ?」「ううん、早く帰んなよ」
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青田淳はそう言って、帰りたがっている人達を送り出した。雪はゲッソリして、その場に立ち尽くしている。
「仕上げ手伝ってくれる人は、ちょっと残ってくれる?」
「さようなら~」 「じゃあなー」
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淳がそう言うと、残る人は残り、帰る人は帰って行った。
そして雪は律儀にも、その場に残ったのだった‥。
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<雪と淳>空回り でした。
淳先輩、完全な空回りです‥
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しかしこんな風に頭を悩ませる先輩を見ると、人間らしいなと少し微笑ましかったり‥。
でも雪の立場になったら大変な仕事押し付けられて、たまったもんじゃないなと思ったり‥。
そしてキノコ頭‥はよ帰れ!
次回は<<雪と淳>シンクロ>です。
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今後付き合う事が分かっている上で雪ちゃんと先輩のすれ違いぶりを見ると、先輩の空回りを応援したくなります!頑張れ青田淳!!(笑)
「赤山ちゃんと仲直りする気がありはする?」
「自分でちゃんとする」
これ、日本語でなんと言うべきでしょうか。
まず楓の言い方はある/ないを疑う感じ。
そして淳は「(自分の事は自分が)決める」、
「楓は気にしなくていいよ」って感じです。
仲直りするとは言ってません。
この後の呟きも「仲直りするべきなのは確か」も
ちょっと「たしか(だけど)」ってニュアンスですし。
作為的なことするから雪ちゃんからは胡散臭く見えてしまうけど、素の感情はすごい素直でまっとうじゃないか~♪
やっぱ裏目パパの教育で表現と問題解決方法が歪んでしまっただけなのだね。
素の自分で行けばそれはそれでドS先輩として人気になりそうなのに…青田家的にアウトなんでしょうか~もったいない。
柳先輩いいお友達ですね。
そしてやっぱ黒淳は、いい表情しますね!
キノコ頭は容姿も微妙そうですもんね‥
なにげに面食い淳‥
ちょっとそれを踏まえて書き直してみます。ありがとうございました!
そんなグチャグチャ考えんとサッサと謝れば良いのに‥。巻きこまれた雪ちゃんが気の毒です。。
それでも故意につらい仕事をおしつけたわけじゃなかったのは安心しましたね。