『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第3回目です。
◆解熱剤と氷枕の罪悪
著者の鮎川氏は、西洋医学の間違いの典型的な例として、解熱剤と氷枕を挙げています。
その理由は、熱というものは病気を追い出すために身体の方から出す抵抗の表われであり、熱が高いということは抵抗力が大きいことを示すからです。
この熱に対して解熱剤や氷枕を使うことは、せっかくの抵抗力を減らすこと、言い換えると、病気の味方をして身体を弱めることになるので、必要がないばかりか、罪悪であると断じています。
そして、解熱剤や氷枕を使うと、感冒(かぜ)から急性肺炎、急性肺炎から急性中耳炎、急性中耳炎から急性脳炎を併発する場合があると警告しています。
面白いことに、西洋医学を受け入れた当時の人々も、麻疹(はしか)に限っては、「麻疹はウッカリ医者には診せられない。」と言って、医者にかかるのを避けていたそうです。
その理由は、麻疹の場合は、解熱剤や氷枕を使うと、吹き出るべき発疹が思うように現われず、また現われてもすぐに引っ込んで肺炎や腎炎などを併発することを経験的に知っていたからです。
ちなみに、麻疹が内攻してあわや併発症かと思われる場合には、葛根湯(かっこんとう)を服用させると一度に発疹が現われて易々(やすやす)と治癒していくそうで、鮎川氏はその様子を、「漢方を知らない現代の医者には到底、想像もつき兼ねる痛快事である。」と表現しています。
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誤解のないように補足しておきますが、漢方で有熱性伝染病に使われる小柴胡湯(しょうさいことう)の主薬である柴胡(さいこ)は、解熱剤として働きます。
したがって、発熱に対して漢方医は何もしないわけではありません。病気に抵抗しようとする肉体の作用を最大限に尊重し、症状の変化に応じて最適な薬草を処方して自然治癒力の手助けをするのが漢方のやり方なのです。
それに対して、発熱の初期から解熱剤や氷枕で病気を封じ込めようとする西洋医学のやり方は、見当違いの大間違いである、というのが鮎川氏の主張だと思われます。
また、今回登場した葛根湯は、『臨床応用漢方医学解説』(湯本求真:著、同済号書房:1933年刊)という本によると、「項背強症」(うなじと背中がこわばる症状)に対する特効薬だそうです。
世間では、葛根湯をかぜ薬程度にしか思っていないようですが、インフルエンザだけでなく、脳膜炎や破傷風、赤痢、疫痢、腸チフスなどにも有効な優れものだそうです。
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