「志」の英語教育

英語教育実践について日々の雑感を語ります。

和文英訳の問題集の問題(わざとです)

2009-09-26 15:21:27 | ライティング
受験向けの英作文教材はあまり売れないらしく、関係の出版社にとってこの分野は鬼門だったりするようだ。学校向け教材として送られてくるサンプルを見ても種類は少なく選択の幅は狭い。

そんな中で、以前にも述べた某定番(にならざるを得ない)問題集を使っているのだが、そこで見た問題から再び気付きを。

「与えられた状況に不満を言っても始まらないし、不平を言う人は生涯その状況から抜け出せないだろう。生きるとはその自分だけの特別な状況を生かして、そこから自信のある己を作り出すことだ」

この問題に対する模範解答として与えられたのがこれ。

Complaining about your circumstances won't get you anywhere. In other words, as long as you keep on complaining about them, you won't try to improve them. But if you are to live more positively, you should make the best of your given circumstances and creating a confident self from them.

もし、課題の和文からこの模範解答がそのまま書ける人がいれば、その人には英語力を超える能力があると言ってよい。おそらく、日本語を「意訳」して英文を作ったものなのだろうが、これを和訳したところで元の和文にはとてもなりそうにない。

これを「正解」として与え、これに沿って生徒に自分の訳例を「訂正」させるくらいなら、英訳させたりせずにハナから英文を与え丸暗記させた方がまだ指導として筋が通っているような気がする。

高校生に書けると私が想定する範囲で英訳してみたものが以下である。

You cannot get anywhere by complaining about your circumstances. Those who complain are not likely to get out of them all through their lives. You have to make the best of your circumstances and try to have confidence in yourself.

入試で点が稼げるかどうかという視点から論じるつもりはない。が、和文英訳指導に際しては、丸腰のまま英訳をさせるなら、到達できそうなゴールを示してやらないと、「英作はやっても無駄」感を生徒の中に広げてしまうだけにはならないだろうか。逆に身の丈にあった解答を示してやれば、直すべき致命的な間違いが浮き上がり、「使える」文法力がつくこと請け合いである。

おそらくは、ネイティブスピーカーが解答作成に加わる段で、より自然な英文への追求から、和文との乖離が広がるのだろう。しかし、英作文を指導する立場からすれば、これ見よがしに無理めな解答を提示する問題集は使いにくいことこの上ない。英作の教材はぜひ生徒目線で作って欲しいものである。その意味では、竹岡先生の教材はかなり優れていると感じている。


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知識の活用

2009-04-26 15:32:00 | ライティング
Write it Rightという英作文のテキストを使っている。個人的にはなんとなく使いにくく感じ、あまり好みではないのだが、週12時間の授業しか持たない者としては、教材の選定に大きな発言権はないのでやむを得ない。

さて、この問題集の和文英訳問題に以下のようなものがあった。

「自動車は便利であると同時に危険でもある。1人1人の運転者は、交通規則を守って、事故を起こさぬよう常に注意しなければならない。」

解答例として示されたものがこれ。
Automobiles are convenient but dangerous. All drivers should obey the law and drive cautiously at all times.

もう一つ別解として示されたものがこれ。
Cars are both convenient and dangerous. Every driver should obey the traffic laws and be careful at all times.

「自動車は便利であると同時に危険でもある」はそこだけ単体で見るとかなり表現に幅を持たせてよいように思われる。しかし、続く文とのcoherenceを考えると、一つ目の解答例に分がありそうだ。

英文読解の指導で、あるいは現代文や小論文でもそうかもしれないが、否定語の後には筆者の本音=重要な情報が来るから注目せよという指導をすることはよくあるだろう。その知識を表現活動にも活かすといった視点が必要なのではないか。

英訳すべき日本語を吟味してみれば、筆者が指摘したいのは、自動車の便利な面ではなく、危険な面であることは明らかである。そうであれば、少なくとも外国人の使う英語としては、前者の方が聞き手に対して思いやりのある表現であるといえるだろう。

和文英訳問題の弱点の一つは、日本語の言い回しを尊重しすぎてしまうために、すっきりした英語らしい文が書けなくなってしまうことにありそうだ。これは単に日本語独特のイディオム表現を直訳してはならないというだけの話ではないようだ。


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英作文特講

2009-02-06 17:26:04 | ライティング
3年生向けに2次試験対策の英作文講座を実施している。正確に言えば、ほとんど英文和訳の指導ではあるが。正直に告白すると、英作文の授業はあまり好きではなかったのだが、今回は灯りのようなものが見えてきたような気がしている。

指導教材はオリジナル・ハンドアウトで、4パートに分かれている。最初はトピック別の重要表現の確認。例えば、「旅行・交通」のトピックではbe packed with commutersなどの表現をなるべくチャンクで提示している。1時間の講座なのであまり欲張らずに、15アイテムほど紹介する。ただし、説明の段階で反意語などを付け加えることもある。

2つ目のパートはよくある間違いの指摘。たとえば、We couldn't help giving up the plan. など。これもあまり欲張らずに10アイテム程度を紹介。

3つ目は、英作文で便利な言い回しをいくつか紹介し、それを応用して作文をしてみるもの。このステージは、その場で考える取り組みやすいものと、その発展バージョンを用意し、発展バージョンは前回の講座で扱った内容を繰り返して学べるようにしてある。

そして最後は英作文のヒント。ここでは意見を述べる文や物や言葉を説明する文の基本的な書き方を紹介したり、難解な日本語をシンプルな英文にまとめる方法について実例を交えながら紹介している。

いつもの、いわゆる「英作文(和文英訳)」の授業と大きく違うのは、定期テストのことを考えなくていいから、模範解答に必要以上に縛られないこと。チームで英作を教える場合にはある程度の解答の摺り合わせがいるが、それをする必要がないので自分が一番望ましいと感じる英文が使える。

英作文の指導が難しい理由には、これぞ決定版と言える教材が見つけづらいこともあるが、今回のようにいくつかの好みの教材からつまみ食いしながら自前で作れば、より自分にあった教材になり指導の流れにも一貫性が作りやすい。

この時期に英作指導をという考えは、昨年本校で進学指導についてご講演をされた隣県のM教頭先生から頂いたアイディアである。なるほど力のある人から話を聞いて無駄になることはないようだ。


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楽しくためになる(?)ライティング指導

2008-10-23 02:55:12 | ライティング
進学校におけるコミュニケーション活動は家庭での準備段階で力がつくように仕掛けるのが良いだろうと考えている。また、コミュニケーション活動は必ずしも音声を通したものでなくても良く、コミュニカティブな作文指導は研究の余地があると思う。(「コミュニカティブな作文」というフレーズは単に分かりやすいイメージを目論んで使っているだけですので突っ込まないでください)

アイデアを探す一つの方法として小中学校における国語の指導に目を向けるということがある。このこと自体は今までにもいろんなところで指摘している。しかしながら言いっぱなしでこの先の具体的なところについては一つも触れていないので、今回は手持ちの国語教育用教材の中から役に立ちそうな考え方をちょっとだけ紹介する。

1 大作よりも単作文の多作を
 苦しい練習にばかり時間をかけて作文自体を嫌いにしてしまうよりも、楽しいお気楽活動を沢山こなさせることで作文好きを増やすことができるだろう。

2 論理性を鍛えるだけでなく遊び心を称える余裕を 
作文を通して論理性を磨くのは大切だ。しかし、作文は個性の表現であり、楽しさ、ユニークさ、発想の転換なども同じくらい大切だ。この視点を持てばより多くの生徒を正当なポジティブ評価ができる。

3 じっくり書かせるよりも短い時間での指導を
要はライティングのフルーエンシーにも注目しましょうということ。ずっと前に受けた研修で制限時間中に思いつくままに何でもどんどん書かせるという指導を紹介していた先生もいる。

4 ワークシートで書きやすさの演出を
何もないところから書き始めるのは大人でも大変だ。ある程度道しるべがあれば気安く取り組むことができる。文の一部をすでに決めていたり、キーワードを与えたり、具体的な書きやすい指示を与えたりしながら楽しい書式でワークシートを作れば原稿用紙にはない気軽さが生まれよう。

5 楽しい競争の導入を
作文は読みあいしてこそ価値があるというもの。グループワークなどでも使えるし、コンテスト形式でも使える。ライティングの醍醐味はいつ誰からどれだけ素晴らしい作品が飛び出すか分からないということだ。クラスマネジメントにも活用できる方法だと思う。


同僚からもらった全国大学入試で出題された自由英作文を個人的に集めたものを眺めていて思いついた書き込みでした。


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