「志」の英語教育

英語教育実践について日々の雑感を語ります。

Buy the Farm

2009-03-31 20:41:47 | 授業
Buy the Farm という米語表現がある。文字通りに読めば農場を買うという意味だが、「死ぬ」と言う意味の婉曲表現のひとつだ。この表現の由来には諸説あるようだが、戦死者の遺族に支払われる弔慰金が、ちょうど畑を買えるくらいの額であったというのが米国でよく耳にする説明だろう。

http://www.worldwidewords.org/qa/qa-buy1.htm

昔の話だが、この表現にちょっと意外なところで遭遇した。ロサンゼルスのディズニーランドである。

ディズニーランドでは、客がアトラクションの順番待ちをしている間に退屈な思いをしないように、いろいろな工夫がなされていている。ホーンテッドマンションというディズニー版お化け屋敷の順番待ちをしている間に見つけたのである。

館の外にはフェイクの墓地があり、墓石の一つのエピタフに書かれていたのだ。はっきりとは覚えていないが次のような内容だったと思う。

・・・(墓主のブタの名前)は苦しく貧しい人(?)生を送りながらも努力を続けついには農場を買うに至った。

おそらく、米国人の親はこれを見たときに、その意味を子に質したり説明したりしながら、ことばの意味や由来を教えるのだろう。よく言われることであるが、ディズニーランドは単なる遊園地というだけでなく、このように文化や歴史を伝え残す教育的な機能も兼ね備えている。

さて、前回の季節の形容詞の話。

夏はestival、冬はhibernal、春はvernalだが、秋がautumnal以外は見つからない。私が知らないだけかと思ったら、どうやら本当に秋はないようだ。

この件に関して「英語教育の明日はどっちだ!」のtmrowingさんから資料をいただいたのだが、その中に面白い記述を見つけた。

・・・アングロ・サクソンは、年をwinterで数え、日をnightで数えるのが普通であって、したがって、時には(冬は)「年」の意味を持つこともあった。しかしModEになって、比喩的に、yearの代わりにwinterを用いる時には老人の年を、またsummerを用いる時には若い婦人の年を数えるのが普通である。

この説明を読んでピンと来たのが、先日娘達に読んで聞かせたアンデルセンの「年の話」
http://www.andersen.sdu.dk/vaerk/hersholt/TheStoryOfTheYear_e.html
(読み聞かせはもちろん日本語です)

この童話の中で「冬」は老人であり、「春」はコウノトリに乗ってやってきた少年と少女、少年はやがて「夏」になり大人になった少女と結婚する。夏が過ぎると少女は亡くなり、「夏」であった青年は年老いて「冬」になるというもの。

この話が、なぜ「冬」である老人から始まり、また老人で終わるのか、なぜ少女は夏が過ぎると亡くなるのか、読み聞かせながら疑問に思っていたのだ。

ディズニーランドにしろ「年の話」にしろ、「ことば」は単なる情報を伝達するための道具ではなく文化そのものであることが分かる。ことばに「味」や「深み」をもたらす文化的側面を教育から取り去ってしまえば、もはや「ことば」の教育とは言えないのかもしれない。


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自己研鑽用教材

2009-03-30 07:54:04 | 研修
先日、河合塾の研修に出向いたときに、教材・自己研鑽用に数冊の本を買い込んだ。その中で特に「これは」と思ったのがベレ出版のスーパーレベルライティングとスーパーボキャブラリー。共に植田一三先生の著作で上級者向き。

前者では上級ライティングに必要ないくつかのポイントが、それにふさわしい情報量で示されている。例えば、「類語の使い分け」では「言う・話す」に相当する語彙として約70の語が提示され、その中の約30の語について、どのような場面で使うのが適切かの情報が加えられている。

allege・・・証拠や根拠を示さずに悪事や犯罪を伝える場合
relate・・・自分や人に起こった出来事について語る場合
といった具合だ。

その他にも、上級者のための語彙、文法、スタイル、日・英語間の差への意識など有益な(他ではなかなか手に入らない)情報が満載である。

後者は、語彙に特化したバージョンとでも言うべきもので、10000語レベルの語について、その守備範囲が3つのコロケーション例と共に示されている。

例えば、
divestであれば、「地位や権利」を剥奪、
divest 人 of 人's right , position , property といった情報が加えられている。

もちろん、専門用語や日本語の文化を説明する表現なども満載である。その内容とレベルの高さから何年か前に悉皆研修で受けた田邉祐司先生の講座を思い出してしまった。

(そういえば、田邉先生の研修の時に「夏」の形容詞は何かという質問がありました。春、夏、冬は知っているのですが、「秋」の形容詞は知りません。どなたかご存じありませんか? もちろん、autumnal 以外です)

福岡からの帰りは例によってポッドキャスト三昧。最近のお気に入りはJustvocabulary。この番組もGRE-SATレベルの語が例文と適切な文脈の説明付きで紹介されるので有り難い。


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今年度も終わりです

2009-03-27 08:05:05 | その他
後期の結果も出そろい、今年度も終わりを迎えようとしている。勤務校では生徒、学年団の先生方のがんばりで、まずまず納得のできる結果が出たと思う。国公立大合格率が50%を超えたのは5年ぶりだろうか。

昨今、後期の廃止や枠縮小で中・後期の合格がかなり厳しくなっていたが、今年に限っては逆転勝利を収めた生徒がかなりいた。特に、厳しめの判定から中期で合格を勝ち取った生徒が何名かいたのは非常に立派。この学年の持つ高い自力が最後にしっかり発揮されたのだと思う。

その一方で、前期で良い判定を得ながら苦汁をなめる結果になってしまった生徒もいた。中にはマークミス以外に原因が考えられないようなケースもあったから、受験はやはり怖いものである。

今、言えることは一つだけ。合格した生徒も、残念ながら思いを果たせなかった生徒も現実をしっかり受け止め、今いる立場から進む道が自分の人生にとって最高であったと、何年か後に胸を張って言えるように、これからの努力を大切にして欲しいということ。

人生の選択に正誤はない。強いていえば、選択を正しいものにするのは、選択をした後の振る舞い方なのだということをしっかり覚えていて欲しい。


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河合塾研修講座

2009-03-24 02:38:31 | 研修
先週末は福岡で行われた河合塾による教員向け研修会へ。同校の人気講師によるセンター、文法、英作文、読解指導の講座四本立て。ここの予備校さんはこれまで教員向け研修会はあまりされてないということで、今回の企画には大いに興味が湧いた。

もともと河合塾には「(良いにしろ悪いにしろ)堅い」というイメージを個人的に持っており、その背景について知りたいという思いもあった。講義の後に情報交換会も行われ、その「堅さ」の源のようなものも感じられたのは収穫であった。

簡単に言えば、「組織」としての結束力が強いということ。各講師の説明内容が共同歩調でかなり揃えられている。おそらく、反論や異論が投げかけられたときの対処の仕方も決まった手順のようなものが存在するのだろう。

実は、昨日も県の企画で講師のお一人をお呼びして県立高校の高校生向けに特別講座を実施していただく機会があり、これにも参加した。このときも英語の教員と情報交換があり、さらに深く予備校の様子がうかがえて良かった。

中でも印象に残ったのは、以下の二つ。

模試の採点基準は沢山の採点者の基準を揃えるため綿密に協議している。その結果、どうしてもあまり好ましくない答案に良い点を与えてしまったり、本質は突いているのに基準をクリアできないために点が与えられないケースが出てきてしまう。

授業中に生徒を指名することはできない。予定通り授業を消化しなければならないという時間的な制約と、他の生徒の前で「恥」をかかせることのマイナスを考慮するためだ。指名して追いつめると場合によっては保護者から抗議があることもある。

なるほど文化が違うわけだ。

講座の中でもっとも興味を引いたのは英作文。素材の和文の中でわざわざ訳し出すべきでない日本語独特の言い回しを「虚字」と呼んでカットさせたり、逆に英語に置き換えるときに補足すべきポイントを明示したりする指導は参考になった。

また、生徒の板書した答案を添削して授業を進めるという方法でなく、指導者の方から考え方を説明しながら英作を実演していくという方法も悪くないと感じたのもよかった。あらかじめ生徒の答案を集めて見ておき、気になる間違いを指摘しながら説明すれば受け身の指導にならずに済むはずだ。

講義は90分の予定だったが、どの講師も10分から15分延長して授業をされた。いくらしゃべり方や説明のもっていき方が参考になるとは言っても、既知の内容をこのボリュームで4本立ては結構きついものがある。そういう意味でも生徒の気持ちが理解できて勉強になりました。


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さよなら寝台特急

2009-03-15 21:09:59 | その他
英語教育とまるで関係ないので恐縮だが、東海道本線から姿を消したブルートレインの話である。父親の仕事の関係で子供の頃から寝台特急には何度かお世話になっていた。3段式の狭いベッドの奥でパリパリのシーツの感触を楽しみながら母や祖母と一緒に毛布にくるまったものだ。

大人になってからも東京に出るときには新幹線より寝台車を好んで使った。その方が効率的に時間が使えるのだ。比較的新しいタイプの車両にはシャワーやロビーなども備えられ、長旅のダメージはほとんどなかった。20台の後半から何年か連続で海外に出る機会があったが、成田から飛ぶときはたいてい寝台だった。

寝台特急全廃の噂が出始めてから、一人で東京に行く機会があればぜひもう一度乗ろうと考えていた。結局、叶うことはなかった。最後に乗ったのは平成11年。アメリカで半年間の研修を受けるのに東京まで乗っていったのが富士だった。それ以降、寝台特急に乗ることも、仕事の関係で海外に出ることもなくなり、ほぼ10年が経とうとしている。

いつの間にか、ALTの連中と年の差も広がり、国際交流系の仕事は若い世代に譲るようになり、英語以外の仕事の比重が重くなっている。知らず知らずのうちに少しずつ大切なものを失っているような気がするが、止まって考える余裕などもちろんない。時は確実に流れ、文字通りあの頃の自分に夢を見させてくれた寝台特急も消えてしまった。


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入試百景

2009-03-12 05:58:15 | その他
一昨日で国公立大学前期の合格発表もほぼ出揃い大勢が掴めている。全体的にはまずまずといったところか。特に、九州大学をはじめとする「難関大」が比較的好調。地元大学の合格も順調に近いが、その一方で「ブロック大」と呼ばれる大学は苦戦が目立った。

超難関大レベルは低学年からのシステムの再構築が必要だと再認識。もはや、生徒の自力任せでは超トップ校合格者は非常に出にくい時代である。来年からは攻めに出るつもり。

そんな中で京大の工学部に合格した生徒が挨拶をしに来てくれた。添削指導につきあっていたので彼の合格は非常に嬉しく思っていたところ。この学年とはこの1年しか縁がなかったが、それでも3年前半の音読がよかったと言ってくれたのには勇気を貰った。

さて、一昨日は時を同じくして県立高校の入試も実施された。英語はオーソドックスな出題で平均点は上がるかも。本校受験者の皆さんは高校英語もこの程度となめたりすると痛い目に遭うからご注意を。晴れて本校ご入学の暁には最初からビシビシいきますので覚悟しておいてください。


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ユメタン2と語彙指導

2009-03-11 07:36:39 | その他
灘の木村先生による単語集のユメタン2が発売されている。実はこれにコラムを書かないかというお誘いを受け、全国の優秀な先生方に混じってコラムを書かせていただいた。しかも、有り難いことに、かなり目立つ場所に置いていただいている。何人かの生徒からもコラムを見たと声を掛けられた。

この単語集の「売り」は、単なる単語集ではなくてCDで学ぶ語彙学習プログラムであるということ。毎日、例えば10語ずつ覚えていくのではなく、同じ100語を1週間くり返し学んで定着させようというもの。 出版元のアルク社はタイムマラソンやリスニング・マラソンなど、この手のシステム化教材はお家芸だから、著者と出版社の方向性がぴったり一致した例といえる。

アルク社と言えば、岡田順子先生の「語彙の定着をさらに促進する単語テスト集」もお勧め。スペースト・リハーサルの考え方も勉強になるが、第一章の語彙習得理論のまとめが有り難い。いずれにせよ、脳科学の影響もあり、語彙指導に対する考え方は転換期に来ているよう。最近よく言われるのは以下のようなことだろうか。

音を有効に活用すること。
体を有効に活用すること。
少しずつ覚えるのではなく、一度に大量を扱い繰り返すこと。
語を含む表現全体(チャンク)で覚えること。
語彙力には広さに加え深さもあること。
スピードが大事であること。
心的辞書内のネットワークを意識すること。

以前、ルイスのレキシカル・アプローチなどにお詳しい当時の研究指導主事、M先生が「語彙指導の行き着くところはインパクトと繰り返しにつきる」と仰っていた。これも覚えておいて損はない言葉だと思う。


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広島大学国際シンポジウム

2009-03-10 07:05:05 | 研修
先週末は広島大学のシンポジウムへ足を運ぶ。ピッツバーグ大学の白井恭弘先生のお話を聞くのが主な目的。参加者の多くは大学関係者のようだったが、その割にはお話はかなり初歩的だったように思う。

文法学習を学校では扱わずにすべて家庭学習にまわして、学校ではひたすら多読を指導した結果、平均偏差値が10上がったとか、カーネギーメロン大学の日本語教育の成功例などのお話についてはもっと詳しく聞きたかったが、またまた時間不足で消化不良。

ご講演は白井先生のほかに首都大東京の萩原裕子先生、名古屋大学の飯高哲也によるものがあり3本立て。こちらの方は非常に専門性が高く(というか、自分にその分野の知識がないため)概要を掴むのがやっと。しかし、研究の手法や幼児の母語以外の音声認識力と母語の発達の関係、L1とL2が入れ替わる事例など興味深いお話で楽しめた。

その後、県立広島大の今泉敏先生、広大の迫田久美子先生、同じく広大の山脇成人先生なども加わってパネルディスカッションがあったが、私は帰りの電車の都合で早々に退却。白井先生ご自身のブログによれば、結構盛り上がった様子で参加できなかったのは残念。

行き帰りの電車の中では、ひたすらポッドキャストを聞きつづけ、時間が無駄にならなかったのも良かった。広島や福岡へ出向くときは車が多かったのだが、このパターン結構はまりそうな気がしている。


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Go. Go. Gadget!

2009-03-07 05:38:46 | その他
世の中の大方の流れに反して、このところ頻繁に電化製品を購入している。家計に余裕があるからではなく、故障や不具合が相次いぎしかたなくである。

最初の大物はテレビ。10年弱使った29型のブラウン管が変色が激しくなったので、思い切って42型のプラズマへ。上手くモデルチェンジのタイミングにはまったようで、12万円弱で購入できた。

2つ目は携帯電話。長年使ってきたvodaphone(!)をついに手放しiPhoneを購入。サイズや使い勝手などに弱点もあるのだが、自分のニーズには合っていると思う。しかし、購入後まもなく本体が無料になってしまったのは大ショック。同じくsoftbankを使っている家内に無料期間中に機種変更したらと薦めている。

3つ目は、その家内が愛用するiMac。2001年に買ったおにぎり型モデルが潰れてしまいようやく液晶画面のiMacへ。不幸なことにiMacも購入後すぐに新型の発表があったが、割安で買えたからよしとしよう。

iPhoneは先に購入したiPod nanoと同じく授業でも上手く使えそう。新学期に向けて構想を練っている最中なのである。

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後期試験に悪問苦闘

2009-03-05 22:51:18 | テスト
卒業式も終わり今日から本格的に前期試験の合格発表。結果は当然悲喜こもごもであるが、運がなかった人たちも後期に向けて努力を続けて欲しい。こちらの方も今週いっぱいは後期の指導で添削三昧が続きそう。

さて、そんな中で地元大学医学部の後期試験対策の指導をしているが、問題のクオリティの低さに困っている。問題文はともかく、設問の詰めが甘いので何を求められているのか悩んでしまう。さらに、この問題を出すなら聞き所はここじゃないでしょうという突っ込みを入れたくなるケースもちらほら。

極めつけは(注)の入れ方。それなりのお考えがあってのことだとは思うが、英語の試験としてはまったく不的確。たとえば・・・、

homeopathy :ホメオパシー、同種療法

いったいこの注に、注としてどのような価値があるのか? カタカナや漢字に置き換えたところで、ほとんどの受験生には気休めにもならない。ひょっとして医学部を受けようとする人間ならばこの程度の専門用語は知っておけと言うことだろうか。

(ちなみに、ホメオパシーについての詳しい情報はこちら

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%A1%E3%82%AA%E3%83%91%E3%82%B7%E3%83%BC )

さらに、

resveratrol : 5-[(1E)-2-(4-hydroxyphenyl)ethenyl]-1,3-benzenediol. C14H12O3 (Figure 1). Phytoalexin, used by plants in a defensive response to attacks by fungi and insects, found in a variety of plants; active ingredient of Asian folk medicine "Kojo-Kon" which is the powdered root of the Japanese Knotweed. This compound is produced as stress metabolite in response to fungal infection or injury. This compound has anti-platelet aggregating activity.

metabolite : a substance formed in or necessary for metabolism, the chemical activities in a living thing by which it gains energy.

platelet : small flat thin circular objects in blood stream used for formation of a blood clot.

aggregate : to combine into one mass.

これ、本当に注と言えるのか。ちなみにmetabolite以下の3つの注は、注中の語の注である。

英語教育の専門家が作ったものではないからという言い訳は通用しない。もう少し多くの目で見て問題を検討し適切な出題をして欲しい。これは、もはや「不細工」ですむものではない。


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