「志」の英語教育

英語教育実践について日々の雑感を語ります。

Feeling Dirty 木村達哉先生の英語教師塾 in Kobe (その3)

2008-08-29 17:32:30 | 授業
シリーズ第三回目は要約の課題から。要約に関しては個人的にあまり嬉しくない思い出があり、苦手と言うより嫌いな問題パターンだ。まあ、それはともかく、要約は受験指導では避けて通れないところであり、他の先生方の授業を見学できるのは有り難いことである。また、木村先生から要約技術に関する素晴らしいアイディアを頂いたことはすでに記した。

しかし、個人的には今の主たる関心事は読解の深み。要約のために取捨選択をかけながら読むという技術の必要性は深く認識しつつ、敢えて要約課題を使って読みの深さについて述べてみたい。というわけで要約技術論は先延ばし。

以下のパッセージは、ちょっと面白い趣旨の温暖化に関する論説文の結びの部分である(一部リライト)。その前に簡単に前半の内容を紹介する。

「温暖化については実は正確に分かっていないことが多い。また、新しい科学的な報告からすると、温暖化のスピードやその大きな被害の現実化は初期の予想よりも遅れそうだ。もしそうであれば、代償、危険度、効果などを冷静に見極めて温暖化対策を講じるべきだ」

これに続いて、

If global warming is really happening, but it won't bring imminent disasters, a gradual approach is worth considering. (中略) A gradual approach also makes it cheaper to exchange dirty technologies with cleaner ones. It costs much more to close down a coal plant earlier than planned than to replace it with something cleaner at the end of its useful life.

この文章の中で面白いと思うのはdirty - clean と、coal plant。 dirty - cleanはもちろん単に汚い、清潔のレベルではない。

dirty = 地球温暖化を加速する(温暖化ガスを多く発生する)
clean = 地球温暖化をあまり加速させない(温暖化ガスをあまり発生しない) 

さらに、coal plantがより"clean"なものに取って代わられなければならない対象であることを考えれば、おそらくこれは「石炭工場」ではなく「(石炭を用いる)火力発電」であろうという論理的な推測が可能になる。さらに、それに対してsomething cleanerは「水力、風力、太陽熱などの発電」であろうと思いを巡らせ、この範疇に原子力を入れるのは可能だろうかなどと考えることにもつながっていくだろう。

読む力をしっかりつけるためには、このように批判的視点を持ったり発想を広げたりして考えながら読むことが必要なのではないか。辞書を使いながら、文(章)構造を解析するという従来型の学習だけでは越えられない壁が存在するのである。ちなみにdirty - clean、coal plantについて上記のような意味を手元の辞書に見つけることはできない。

MATRIX! 木村達哉先生の英語教師塾in神戸(その2)

2008-08-28 13:19:47 | 研修
上位語・下位語の概念についての以前のエントリー。
http://blog.goo.ne.jp/zenconundrum/c/e91615d2028e4a9eb97d76681eb9601f

例えば「哺乳類」というカテゴリーの下に「犬」や「猫」といったサブカテゴリーが存在し、さらに「犬」というカテゴリーの下には「ブルドッグ」や「チワワ」などが存在する。また、「哺乳類」という言葉自体もその上の「動物」といったより大きなカテゴリーのサブカテゴリーとなっている。つまり、単語のネットワーク(のうちの一つ)は、上下関係と並列関係のマトリックスになっているのだ。

実は、上記のような重層性は学術的研究のあらゆる場面で極めて重要なものであり、論理的な思考・分析には欠かせないものである。そもそも、「分かる」という言葉自体、分類・カテゴライズを思わせる言葉なのだから。論文の構成においても、より広い漠然とした抽象概念から具体的なものへ階層的に絞り込んでいくパターンがよく見られる。

当然、大学入試の素材となる論説文を読み進める場合にも、抽象→具体、漠然→明確の道筋は押さえておいた方がよい。と言っておいて以下のパッセージを見て欲しい。ある論説文のイントロである。

1) How have computer technology and the Internet changed the way people and companies work? 2) For one thing, they have made it possible for many people to work from any place they like, including their homes. 3) And they have brought about important changes in the way companies do business.

本文では、このあとに2つの具体例が続く。1つめは、アメリカの会社が24時間電話対応するために、インターネットと時差を利用してオーストラリアなどの他国で顧客からの電話を受けるようにしているというものだ。

もう一つは、やはりアメリカの会社がインターネットを利用してインドでコンピュータの専門家を雇うというものである。雇われたプログラマーは自国にいながらインターネットを通して仕事ができるというわけだ。

ここからが本題。

元のパッセージに戻って考える。先に述べたように、1) の文は主張するポイントへ絞り込むため、より上の階層、分かりやすい言葉で言えば、より大きな「箱」を疑問文の形で提示したものと考えられる。この「箱」がカバーする範疇は「コンピュータとインターネットが人や会社の仕事の方法を変えた」ということだ。

そして、2)は1)をさらに絞ったもの。ここで小さくなった「箱」では「労働者が就業する場所に制限を無くすことが可能になった」ということがカバーされている。

問題は3)(コンピュータとインターネットは会社が事業をする方法に重要な変化をもたらした)である。木村先生の勉強会で授業をされた先生方のうち複数の方が、And ≒ For another (For one thingに対して)と説明された。私はこの解釈は間違っていると指摘した。

もし、And ≒ For anotherならば、2)と3)は並列の関係になる。たとえて言えば、1)という大きな箱の中に、2)と3)という2つの箱が横に並んでいることになる。仮にそうだとすれば、この後に出てくる2つの具体例は、どちらの箱にはいるのか。

2つの例を読めば、これらは「(労働者が就業する場所に制限がなくなった)ことにより(会社が新しい企業活動を営めるようになった)」ことの具体例であることが分かる。すなわち、これらが入るべき箱は2)+3)であり、この両者の間に境目はないのだ。

さらに核心をつくと、For one thing, がかかっているのは、 they have made it possible for many people to work from any place they like, including their homes. と And they have brought about important changes in the way companies do business. の両方なのである。

蛇足ながら、二つの解釈の違いを強めに表現して日本語訳してみる。

「コンピュータやインターネットは、どのように人々や会社が働く方法を変えただろうか。第一点として、人々が自宅を含む好きなところで就業することを可能にしたことがあげられる。第二点としては会社が企業活動を営む方法に重大な変化をもたらしたことがあげられる。」

「コンピュータやインターネットは、どのように人々や会社が働く方法を変えただろうか。いろいろある中で一つあげられるのは、人々が自宅を含む好きなところで就業することを可能にし、それによって会社が企業活動を営む方法に重大な変化をもたらしたことがあげられる。」

私の持ち時間で、もしFor anotherが本当に存在するとすれば、どのような続きが予想されますかと逆に問いかけさせていただきました。A型の蠍座ですから、ご容赦を。私が考えたのはネットマーケットなど。すべてを見通していらした木村先生はアングラ・ビジネスを想像してしまったと仰っていました。

木村達哉先生の英語教師塾 in 神戸 (その1)

2008-08-26 15:38:39 | 研修
先週末は再び木村達哉先生主催の勉強会へ参加。今回の開催地は神戸の灘校である。テーマは英文読解の指導。評論、小説、大意要約の3題から1題を選んで20分で授業をする。

参加者は授業をする先生方とオブザーバーの先生方、それにベネッセ社、アルク社、数研出版社の皆さん。授業をされた方々は皆研究熱心で、それぞれに工夫された説明を展開。

今回は私も授業をしたが、いわゆる「解説や説明」の授業ではなく活動が中心。会の趣旨からずれるのは分かっていたが、多少バラエティがあってもいいかもと勝手に判断しました。なにせ、2日間で20近くの授業を聴くのだから。

特に参考になったのは大意要約の解き方。皆さんとても参考になる授業展開でしたが、木村先生の手法はまさに圧巻。おそらくご本人のブログで、詳しく解説があることだろうと思います。

昼の部、夜の部ともに大いに盛り上がり、十分にエネルギー補給ができた。また、ここで取り上げたいネタもいくつか仕入れたので、しばらくシリーズになりそう。参加された方々はつくづくしつこいとお感じになるかもしれないが、ご容赦ください。

TOEIC IP

2008-08-18 06:33:52 | テスト
先週末はTOEIC IPを実施。実質の受験時間は2時間だが準備や説明、片づけなどを含めると、どうしても午前中がまるまる潰れる。それでもなお、実施担当者には他ではなかなか得難いメリットがある。それはTOEICの疑似受験体験ができるということだ。

監督者はリスニングの流れ等の確認のために、問題冊子を開き中身を見ることが許されている。本番と極めて近い形でTOEICの問題を眺められるのはやはり有り難いことである。

以前に文科省の研修でTOEFLを受験したときは、ほとんど時間は余らなかった。英検を受けたときも時間に余裕があったという思いはない。果たして今回のTOEICはどうかというと、30分弱余った。もちろんマークシートへの記入は一切していないから、実際に受ける場合にはそれほどの時間は余らないだろうが。

試験の手応えは、答えに確信が持てない問題が10問弱といったところ。実際の誤答は5~10問くらいになるのだろう。実際に答案を提出してみれば何点くらいになるのだろうか。

これをいうと意外だという反応が多いのだが、実は私は今までにTOEICを受験したことがない。おそらくこれからも受験はしない。

TOEICは英検と違い合格・不合格がないので良いようだが、実は結構シビアだと思う。TOEICははっきりとした数字で結果が示されるので受け取った結果はそれ自体それ以上でもそれ以下でもない。「合格」の場合はそのラインを超えていることを意味するのであり、そのライン上にいることを意味するものではない。強いていうなら、TOEICにおける合格点は一つしかないのだ。

接続詞whenと時制

2008-08-16 06:25:07 | 文法
正直なところ文法の説明をするのはあまり得意ではない。というか、それにあまり強い思い入れが持てないのだ。言葉のような複雑なものに対し、何らかの普遍的な解釈の物差しを当て、すべてが理解可能であるような態度をとること自体が、生徒に誤ったメッセージを伝えるのではないかという思いがおそらく根底にはある。

とは言うものの、生徒からの質問の多くは文法的なものである。また、長年教員をやっていると聞いてくるポイントも分かってくるから、そういった項目については説明の仕方のパターンもできてくる。たいていの場合、説明の「キモ」になるところは、生徒向けの参考書や解説書で故意に触れてなかったりはぐらかした表現をしていたりするものだ。

というわけで昨日(も)受けた質問を一つ。

・when I was a childなどは過去時制と共に使い、現在完了には使えないということであるが、過去完了ではどうなのか。

1)「私は子供の頃に3年間東京に住んでいたことがある」を英語で表現すると、
○ I lived in Tokyo for 3 years when I was a child. であり、
× I had lived in Tokyo for 3 years when I was a child ではよくない。

しかしながら、このような場合もある。

2)「戦争が始まったのは、私が東京に住み始めて3年たったときであった」
× I lived in Tokyo for 3 years when the war broke out. ではなく、
○ I had lived in Tokyo for 3 years when the war broke out. である。

生徒の目から見れば、従属節が同じ when+過去なのに、なぜ一方では主節に過去が要求され、他方では主節に過去完了が要求されるのか理解しがたいのだろう。

これを説明するときに動詞のアスペクトのことに触れると分かりやすいと思う。前記の例でいえば、when I was a child に用いられているwasは状態動詞であり、その動詞が表すのは瞬間的な事象ではなく、ある程度の時間的な広がりを持った事象だ。一方broke outは到達動詞であり、それが表すのは瞬間的な事象である。

1)の場合、lived in Tokyo for 3 yearsはwhen I was a childで表される広がりを持った時間の中に完全に含有される。一方、2)の場合はhad lived in Toyo for 3 yearsで表される3年という長さを持った時間は、一瞬の出来事にすぎないwhen the war broke out で表される時間からさらに過去へとはみ出てしまう。

以上のようなことをアスペクトや到達動詞といった用語は用いずに説明するのである。

自分の知る限り一般的な高校生向けの参考書で状態動詞、動作動詞以外のアスペクトについて紹介があることはない。授業で扱う項目について後から復習・確認ができないのは好ましくないので、授業中に積極的に触れることもない。しかしながら、これに関する質問をどれだけ頻繁に受けるか考えてみれば、敢えて触れずに済ますこともどうなのだろうかと感じるのである。


沈黙は金

2008-08-15 16:27:58 | スピーキング
体調はすっかり戻っているものの、思うところあって思うところを思うままに書くのは抑えている。ただ、それなりにアンテナは伸ばしているつもりなので、夏休みといえども感じることは結構あったりする。なんだか訳が分からないが、かなり前からの疑問を一つ。畑中豊先生の「英語授業マネジメント・ハンドブック」を読んでいて思い出したのだ。

ローマ字表記の話で、タ行にはchiやtsuなどがある。その他にもザ行ではziではなくjiであったりする。こういったところは普通に理解できる。自分が納得できないのはカ行である。以前に日本語教育を専門とする先生に聞いてみたこともあるが、納得のいく説明は得られなかった。

カ行は普通、ka、ki、ku、ke、koで表記され、無声軟口蓋破裂音などと呼ばれる。ただし、キだけは、調音点が他のカ行音より前方になり硬口蓋化するため後部硬口蓋になると説明されるようだ。これに納得がいかない。ケもキと同様ではないのか?

例えば「ka」と同じ調音法でカ行を発音してみると、例えば「カ」「クィ」「ク」「クェ」「コ」のようになるのではないのだろうか。逆に、「キ」と同じ調音法でカ行を発音してみると、「キャ」「キ」「キュ」「ケ」「キョ」のようになると自分には感じられるのだ。

理論上それは間違っているというような答えを聞いて苦笑するしかなかったが、私の咽の感覚はおそらく他の人とは違っているのだろう。(ちなみに、私はOKを発音する時には「クェ」の方を使います)

夏風邪は

2008-08-03 13:27:25 | その他
先週半ばから体調が思わしくないので夏風邪かと思いきや、熱が下がったら下痢がひどくなりました。症状からして食中毒(おそらくカンピロバクター)だったようです。完全復活までにはもう少し時間がかかりそうです。