「志」の英語教育

英語教育実践について日々の雑感を語ります。

有意な差の有意さ

2008-02-26 23:57:30 | 授業
研究論文や発表の締めに欠かせないのは「有意な差」という言葉である。教育実践に関して仮説を立て、その正しさを証明すべく比較実験を行う。統制群との差を数値化して明示し、有意な差が出たとして仮説は正しいと結論づけるわけである。

この手法自体に異論を唱えるつもりはない。自説に信憑性を持たせる有効な方法である。問題はそれを受け止める側がどう捉えるかだ。有意な差はその差が出たコンテキストの中で有意なのであり、そこには必ずしも普遍性があるとは限らない。


ここ数年、音読やシャドーイングなどの活動の注目度が非常に高い。このブログでも何度か述べているように、自分のスタンスとしては、こういった活動の有用性は認めるが、そこに万能薬の効果を望むのは誤りだと考えている。私の目には今の状況はファナティックと呼ぶべきものに近いのではと思われてならない。

昨年、ある英語教師の集まりで(いつものように)音読活動に傾倒することの危険性を訴えた。参加者から積極的な賛成意見はほとんどなく、会合の締めにはお目付役の指導主事さんからも音読は先行研究からその有意性が実証されていると言われてしまった。

私自身、授業の大きな部分で音読的活動を使っていて、音読を排除しようとしているわけではない。言いたかったのは音読活動だけに頼り切って本当に良いのだろうかということだ。


英語教育の過去を振り返るといくつかの「流行」が確認できる。そして当然のごとく、それら流行の引き金となる研究は「有意な差」という言葉で締めくくられている。しかし、いつの場合も振り子は揺れ続け「流行」はいつしか廃れてしまっているのではないか。

我々現場の実践者が、某かの権威によって引き起こされる「流行」を鵜呑みにし、自分の頭の中で咀嚼するという行程を経ずに、そっくりそのまま指導に導入しているとすれば危険なことこの上ない。不具合が出たとき最終的に被害を受けるのは生徒なのだから。

上手くいっていると実感できるのならまだ良いのかもしれない。しかし、機能していないのが見えていながら、根拠がある(はずの)指導手順だからという理由で見直しの対象から外されているとすれば、なんと不幸なことであろう。

以前に聞いたSandra McKay先生の「権威を鵜呑みにするな」という言葉が思い出される。

むろん、この言葉を引くのも自己矛盾ではあるが・・・。

授業評価2

2008-02-24 21:12:59 | 授業
授業評価、自由コメント編。諸般の事情からコメントそのままというわけにはいかないので、趣旨をできるだけ変えずに再編したものである。後ろの数字は同種のコメント数。まずはポジティブなコメントから。

ハンドアウトに関して
・ハンドアウトは役にたった。(7)
・全訳課題が役に立った。
・要点のまとめがよくできる。(3)

穴埋めプリント(教科書本文の重要表現箇所を(  )抜きした教材)に関して
・穴埋めプリントは役に立った。(7)

単語テストに関して
・単語テストは役に立った。(11)

授業手順に関して
・勉強の仕方などの話が参考になる。(2)
・リード・アンド・ルックアップが役に立つ。(2)
・フラッシュカードが有効。(3)
・前時の復習から授業が始まるのがよい。
・英問英答が役に立つ。
・授業の進行がスムーズ。


続いて、授業で改善したほうがよい点としてあげられたもの。言い訳がましくなるが、私なりの応えを併記する。

・英語の知識に関する話をもっとしてほしい。
・文法をもっとやってほしい。
→ 一定の授業時間の中で、生徒の皆さんが主体になる学習活動と指導者の側からの説明のバランスをとる必要があります。今の次点ではなるべく説明をコンパクトにして、授業中の学習活動を増やせば学習効果が上がるのではないかと考えています。
 ただし、定着のための活動は一人でもできなければなりませんし、上級生になるほど知識の幅も必要になると思いますので、学年が進むにつれ徐々に説明の時間も増えていくでしょう。
 文法に関しては私の授業以外でも扱っていますので授業ではできるだけシンプルにすませたいと思っています。もちろん授業時間以外での質問は物理的に可能な限りいくらでも対応します。

・少し授業のテンポが速すぎる。間違いを直す時間が足りない。
→ 授業進度の制約から、どの活動にも十分に時間が割けていません。また、個々で行う活動にはスピードに個人差もあります。時間がないときには、約3/4の人が活動を終えたら次に行くようにしています。

・ハンドアウトのレイアウトにもっと工夫を。
→ 実は、ハンドアウトを作るときにどうやって一枚に押し込もうかいつも悩んでいます。できるだけ使いやすいハンドアウトになるようにさらに改善していくつもりです。

・CDが欲しい。
→ こういったコメントが出るのは好ましい勉強ができている証拠だと思います。3月に入ったらCDは販売されます。

・最初の指導手順の方がよかった。
→ その気持ちはよくわかります。おそらく、最初の手順を続けていた方が定期テストの結果は良かっただろうと思います。しかし、ある程度勉強のやり方がわかったら、そこからはあえて手を離すことも必要だと考えました。最初の手順は自転車の補助輪のようなものだと理解してもらえれば幸いです。

・字が汚い。
→ その通りですね。ハンドアウトを板書代わりだと思ってください。もし重大なポイントで板書が読めないことがあれば、その場で指摘してください。

・絵が下手。
→ 下手な絵でも文脈から理解できるはずだと思い、あえて上手に描いていない場合もあります。(負け惜しみ?)

・訳を配って欲しい。
→ 個人的には条件がクリアできれば訳は配る方が良いと考えていますが、指導者間の訳に対する考え方の違いがボトルネックになっています。とりあえず、今のスタイルで全く本文の意味がわからないということはないと思われます。一つの妥協点だと思ってください。

授業評価1

2008-02-24 17:19:50 | 授業
授業評価の概略と考察など。勤務校では以下の共通フォームで授業アンケートを実施している。数字は肯定的回答の割合。


皆さんの授業に対する取り組みについて

1) 授業には意欲的に取り組んでいる・・・89.5
2) 授業の予習をしている・・・97.4
3) 授業の復習をしている・・・28.9
4) 授業に集中できている・・・89.5
5) 課題や提出物をきちんと出している・・・86.8
6) 授業の前には着席している・・・78.9
7) 授業の疑問点は質問している・・・34.2

担当者の授業について

8) 授業はわかりやすい・・・84.2
9) 授業進度は適切だ・・・86.8
10) 授業開始・終了時間は守られている・・・73.7
11) 指導者の声は聞き取りやすい・・・81.6
12) 板書は見やすい・・・34.2
13) 質問への対応は適切だ・・・89.5
14) 発表や作文の機会が十分にあった・・・76.3
15) リスニング力の向上に配慮があった・・・86.9
16) 小テスト、ハンドアウトが役立った・・・97.4


この数字に関する私の感想・反応など。

1) ほとんどの皆さんがよくやってくれていると思います。
2) 予習中心学習の重要性をよく理解してもらえたと思います。
3) その分、復習に手が回せない様子が伝わってきます。
4) ほとんどの皆さんがよく集中できていると思います。
5) 予習プリント等、課題もよくやってくれています。
6) 始業が遅れ困るという現状はないと認識しています。
7) 授業の仕組みからいって質問は出にくいのかもしれません。

8) もっと日本語で説明をという意見があります。バランスは再考の余地があります。
9) いろいろな制約があるので・・・難しい部分もあります。
10) やや意外な数字。小固まりを繋げる授業なので時間と切れ目を合わせにくいから?
11) これは意外に高めでした。早口、滑舌の悪さ申し訳ないと思っています。
12) ここは予想通り。ハンドアウトが板書だと思ってください。
13) 痛み分けですね。
14) 何を作文と捉えるかで数字が変わりそうです。
15) リスニングの「問題集」は来年には導入する予定です。
16) この数字の高さにも驚きました。

次回は細かいコメントについて。

単語テスト試行錯誤

2008-02-22 06:50:19 | 語彙
語彙指導に関しては「ネクステージ・リピート英単語」を用いて単語テストを毎時間実施。普通の方法では面白くないので、ちょっとだけ工夫している。岡田順子先生の「語彙の定着をさらに促進する単語テスト集」を参考にさせてもらった。

とりあえず、今の自分がこの単語テストで採用すべき方向性として、1)できるだけ効果的に繰り返し学習できるようにすること、2)語彙の深みはあえて追求せずサイズを広げることに集中すること、3)できるだけ手間のかからないようにすることを考えた。

そこで、1回の授業でテストする単語数を30とし、そのうちの15語が出題される、次回のテストでは1回目のテスト後半の15語と新たな15語を加えて出題範囲の30語とし、以降は15語ずつ入れ替えていくこととした。

番号のみ書かれた紙に指導者が読み上げる日本語訳に相当する英単語を書いていく方式。試験時間は相互採点を含め5分程度。これ以上の時間は45分授業では無理。

授業は週3回なので週に60語を最低2回ずつ覚えようとすることになる。また、時々予告なしにスキップする(^_^;)とさらに学習が繰り返される。当初はこれに加えて週全体を範囲とした追試を放課後に組み込もうとしたがうまく時間の調整がつかずに断念。

定期テストではそれまでに学んだ範囲が試験に組み込まれる。考査のできを見て次回の考査でも同じ範囲を組み込むこととしている。教材のレベルが高いので1年の間は必要以上に先を急ぐ必要はないと考える。難易度で4つのステージに分けられているが、そのうち2つ程度カバーできればよしとしたい。

多くの生徒は毎回真剣に取り組み8割以上の得点をあげているが、今のところ実力に十分反映されているとは言えない。なかなか難しいものである。

単語テストの効果的な実施方法をご存じの方がいらっしゃれば、コメントかメールをいただけると幸いです。

Need another 1100 words?

2008-02-20 22:00:10 | 語彙
もう10年以上前になるが、Barron'sの1100 WORDS YOU NEED TO KNOWという本を入手し、楽しく効果的に語彙を拡大することができた。語彙レベルはおそらく7000~ 8000なので高校生にはちょっと無理だが。

この本はいろいろな点で工夫が見られる。まず、1週間単位で単語を覚えられるということ。学習者は1週間で完結する連続したストーリーを読みながら、その中に出てくる語を1日に数個ずつ覚える仕組みになっている。

ストーリーの下にはターゲット語とその定義をマッチさせる問題、ターゲット語を単文に挿入させる問題が載っている。おまけに、1日一つずつイディオム表現も載っている。

週末にはその週学んだ語を網羅する確認テストがある。さらに、より大きな確認テストがより大きな区切りであり、巻末には全範囲の確認テストもあるといった具合。

特筆すべきは、ターゲット語が後に出てくるストーリーの中に何度も繰り返し出てくること。これにより自然な復習ができる。おかげで比較的楽に英検1級の1次を突破できた。今でも語彙力アップのアドバイスを求められればこの本を薦めることにしている。

語彙レベルは高いが仕組み自体はとてもよくできているので、同じ発想の語彙学習教材が日本の高校生向けレベルで日本の出版社から出ればいいのにと思っていたものだ。


時は流れて10+α年後。生徒の語彙学習については2年の後半までにある程度のめどをつけさせたいと考え、1年の夏休み前から単語教材を持たせることにした。採用したのは比較的新しい桐原書店のネクステージ、リピート英単語。

この教材の特徴は単語ごとに例文がついていること。そして、学習が進むほどに例文中にその回のターゲット語より前に学んだ語が現れるよう配慮されている。さらに、別冊でCDつきの例文集も販売されている。これも工夫次第でいろいろ活用できそうだ。

例文自体のクオリティが今ひとつだったり、ストーリーがないことなどまだBarron's社に追いついたとは言えないが、それでも着実な進歩を感じさせる。語彙教材も「でる単」から30年そこらでずいぶん様変わりしたものだ。

(パッセージ付き単語集では音読英単語もあるが、個人的にはパッセージ自体がイマイチという印象)

変形ディクトグロス

2008-02-18 21:47:11 | 文法
ディクトグロスという指導方法については、近年よく耳にするようになっている。簡単に言えば学習者がパッセージを聞きながらメモをとっておき、それをもとに元のパッセージを再構築するという活動である。

ディクトグロスはグラマー・ディクテーションとも呼ばれるとおり、学習者に文法力が要求される。学習者はメモしておいたキーワードを、文法力を駆使して適切につなげていくのだ。

ディクトグロスは活動自体の難易度が高めなので通常の授業では工夫が必要だ。易しめの素材を使ったり、パッセージを短くしたりするという手段がよくとられるようだ。

ただし、素材のレベルを下げるために練習させたい文法項目を省いては意味がない。また、パッセージを短くすると、どうしても無味乾燥なものになりがちだ。内容的につまらない素材では学習者が面白いと感じる活動はできそうにない。


・・・というわけで素材のレベルを下げずに、活動自体をもう少し噛み砕く方法はないかと考えていたところ、同僚のALTの持ってきた指導過程に可能性を感じた。


1) 最初にコンプリート・センテンスを創出することの有効性を説明。主語と動詞を省かないこと。そして、接続詞を使う場合には必ず複数の節を使うこと。
2) 次に、コンプリート・センテンスの概念がきちんと伝わっているか確認するために、いくつかの単語を板書してそれを使い自由に文を作らせる。このとき後で聞かせるパッセージから単語を選ぶのもよい。
3) 要領が伝わったら主活動。新出語彙を確認してから、パッセージを2回読み聞かせ。
4) ここでペアを組ませて2種のハンドアウトを配布。ペアは異なるハンドアウトを持つ。ハンドアウトには話の流れの順にパッセージの内容に関する質問があり、交互に英問英答してゆく。
5) この段階でコンプリート・センテンスを用いて答えさせるのがみそ。答えの中心となる情報は質問の下に予め添えられている。相手が答えられない場合、その中心情報を「ヒント」として単語だけで与えるのである。
6) ペアワークが終わったら各自で元の文を再生して書き留め、グループで比較。


どこでこの手法を学んだのか聞いたら、完全に自分のオリジナルでディクトグロスなど聞いたこともないとのこと。参りました、私の負けです。

TBLT: Current Trends by Dr. Rod Ellis 2

2008-02-18 06:37:40 | 研修
ロッド・エリスの講演会で印象に残った言葉と自分の感想およびメモ書き。


「学習者中心主義は必ずしもよい教育活動に結びつくとは限らない」

TBLTは必ずしもペアワークやグループワークの形態をとらなくてもよいという流れから。学習者中心主義は動機付けや学習方略、メタ認知との関連が強いと考えている。学習者中心主義だからと言って、学ぶ側の好きなようにやらせるだけでは単なる放任・無責任だ。学習者中心的だと学習者には感じさせながら、指導者側がうまく学習活動をコントロールできている状態が理想。


「コレクティブ・フィードバックは1分半に1回が標準的な頻度」

TBLTにおけるリキャストなどのコレクティブ・フィードバックは文法などの型の指導という点で重大な意味を持つ。研究者が大きな関心を寄せるのは理解できるが、変数が多すぎて今ひとつ一般化しにくいのでは。たとえば、学習者の文化背景や性格、モチベーションによっても適切なフィードバックのあり方は変わるだろう。


「初級者にはインプットを主にしたTBLT活動を」

初心者は持ち駒がないのでTBLTはできないのではという指摘に対して。当然、持ち駒を作るようなタスクを組むということ。インプットを主な活動としたTBLTについては大いに研究の価値がある。クラス全体でTBLT的な手法を使えば授業にダイナミズムを与えられるだろう。モジュール的にも使えるはず。問題はどんな活動をディバイズするか。プラブー (Prabhu)という研究者のインドにおける実践が大いに参考になるらしい。


「化石化など本当はないのだという考え方もある」

化石化はTBLTの弱点の一つとされることが多い。エリス博士自身、前回の講演では「化石化+コミュニケーションの力」と「化石化なし+コミュニケーションの力なし」の選択の問題だとされていた。ところが、今回は「化石化」という概念自体に疑問を投げかけられた。確かに、一旦、化石化(のような状態)となってしまったとしても、将来それを修正できる可能性が0だとは言えない。


「TBLTは上級者にはベストな教授法であるとは言えないかもしれない」

これはTBLTがコミュニケーションにプライオリティをおき、日常的なコミュニケーション指向であることに関係している。逆に言えば特に初級・中級者に有効ということ。


「日本のようなEFL環境の方がTBLTには適している」

ESL環境では教室外でも目標言語でコミュニケーションをとる機会は豊富にある。EFL環境であるからこそ目標言語でコミュニケーションをとって完成できる課題を与えることにより大きな意味があるのだ。上記のコメントと合わせると日本の高校という環境は実はTBLTに最適だということになる。

自分の過去を振り返るとTBLTの困難な面がどうしても気になり、ここしばらくは目を逸らせがちであった。まず、何が何でもTBLT的手法を使うというところを前提にすることから始めなければ。どんな頻度で、どのような学習コンテキストで使えば有効かが模索できるのはそこからだ。

TBLT: Current Trends by Dr. Rod Ellis 1

2008-02-17 14:35:46 | 研修
昨日は福岡へ赴きロッド・エリスの講演会に参加。テンプル大学福岡校の講座にJALTが乗っかった企画である。テンプル大学は Distinguished Lecturer Seriesと銘打って優秀な研究者を呼び有益な講演会を行っている。

エリス博士の講演会に参加するのは実は4回目だ。最初の講演会のテーマが今日と同じくTBLTでテンプル大学福岡校の企画であった。今日はその続編といったところ。ちなみに、その他の講演では文法指導とコレクティブ・フィードバックがテーマであった。

今回のレクチャーの主な柱は、提唱者ごとのTBLTバリエーションの確認とTBLTへの批判論に対するレスポンスである。

エリス博士が取りあげた提唱者はロング、スキーハン、エリス博士ご自身の3名である。もちろん、TBLTの提唱者は他にもたくさんいる。逆に、TBLTに批判的な研究者としてシードハウス、シーン、スワンの3名が挙げられた。

前半はTBLTの概要と提唱者ごとのとらえ方の差についての講義。ロングが明示的な学習に懐疑的なのに対しエリス博士は比較的ソフト路線。TBLTだけにしがみつかないという姿勢はこの分野の研究者としては好感が持てる。

後半はTBLT批判論の検証。TBLTに反対の立場をとる研究者はより伝統的なPPPという学習プロセスを支持する。つまり、1)提示して、2)練習してから、3)表現を作出というわけだ。

TBLTへの批判的視点の多くは、広範囲の語彙や文法項目が本当にカバーできるかということである。対するレスポンスとして、1)TBLTをアウトプットのみを重視した教授法だととらえることが間違いであること、2)TBLTのバリエーションによってはかなり柔軟な対応が可能という点が挙げられた。

全体的には前回の講義ほどはインパクトを感じなかったが、これはむしろ当時の自分がいかに何も知らなかったかを示すものだろう。断片的になるが印象に残った言葉がいくつかあるので、近いうちにそれらについて考えをまとめたい。

とりあえず、今回はここまで。

Free The Children 2

2008-02-14 21:43:59 | 授業
グローバリゼーションにより、先進国の有力企業は国際的に通用する競争力を求められる。そして、効率向上を求めて経済活動の一部を海外に移動することを目論む。

例えば、国内の生産工場を閉鎖し海外へを移転する。移転を受ける発展途上国は経済の活性化を期待して工場誘致を歓迎し先進国大企業の経済活動に有利な条件を整える。

その結果、法整備は不十分なまま発展途上国に生産工場が設けられる。生産工場は直営のものもあろうが下請けのものもある。当然、労働環境は劣悪である。

発展途上国においても競争原理は働き、より安価な労働力・より従順な労働者である低年齢者を雇用する動きが加速する。これにより、大人の労働者は雇用の機会が減少する。

また、労働環境の悪さのため低年齢労働者も早いうちに不健康になる。健康状態が悪化した労働者は早期に解雇される。

若年のうちに解雇された大人が生きていく保証を得るもっとも簡単な方法は、子供をもうけ働かせて収入を得ることである。親は家族が生きていくために、働ける年齢になればできるだけ早く子供を労働現場へ送るのだ。

労働現場へ送られた子供は教育を受けることができない。また、働くほどに健康は蝕まれ親と同じ道へと追いやられることになる。


まさに悪循環である。


一方先進国にも問題は起こる。

生産拠点を海外へ移出されると国内の雇用は減る。また、国内の同種の生産活動はコストの面で海外に張り合うことができず廃業へと追い込まれてしまう。

・・・先進国内でも「格差」が拡大する。


児童就労の問題は単に幼い子供に重労働を課して残酷だというだけにとどまらない。ちょっと想像力を働かせるだけでもこれだけ根の深いものだということが分かるだろう。

もちろん、これが総てではない。児童就労問題は環境問題や望ましくない民族主義の台頭にもつながっているのだ。


私は素直なところ、教えている生徒に今すぐに政治活動を起こして欲しいと思っているわけではない。しかし、少なくとも先進国の有利な条件の下で勉強ができる自由が与えられていることの有り難みを十分に感じて欲しいとは思っている。

将来、この社会のリーダーになるはずの彼らには自分の側にいる人だけでなく、遠く離れた場所にいる人、さらに時間的に遠い未来の人たちへの責任も感じて欲しいのだ。


重たい話になってしまい申し訳ありません。週末はロッド・エリス大先生の話を聞く予定です。通算で4回目。今回は最新のTBLT論ということでとても楽しみです。

Free The Children 1

2008-02-14 07:08:57 | 授業
英語Ⅰの授業は児童就労を題材にした課にはいる。この問題と闘うために、まだ12歳の少年の頃に Free The Children という団体を作ったカナダ人、Craig Kielburger の話である。

スキーマ作りのためネット上の児童労働の悲惨な現実を訴えた記事を前時に渡しておいた。

Part 1はクレイグ少年が初めて児童就労問題と接点を持つ新聞記事の話。パキスタンで就労児童として4歳から働き続けた Iqbal Masihという少年が、児童就労反対運動を起こし、そのために銃殺されたのである。

授業はいつものようにテンポ良く進む。単語テストからファーストリーディングで読み聞かせ。そのあとは簡単な英問英答による内容確認。最近は時間節約のため教科書を開けたままなので、生徒は答えを本文から探そうとするのだが、それでも多くの生徒が答えるときには教科書から目を切って答えている。ちょっとしたことだがとても大事なこと。この1年の成果が出ているようでうれしい。

その後は読解の重要ポイントを確認した上、フラッシュカードを使いチャンクでまとめた語彙の音読。本文訳の確認。

本文訳の確認は完全に個々の活動。スラッシュで切った本文をコラムナー形式で立てに連ねその右に予習として訳を書かせている。授業では机間巡視の上予習ができているものだけに訳例をわたし自分の訳と見比べさせる。

生徒が訳の確認をしている間に、たいていは次の再生活動に使う質問などを板書するのだが、今回はかわりに児童就労問題の根の深さをフローチャートにして板書。題材が重たいときには表面的な理解だけではどうしても物足りないのだ。