東京新聞より転載
都内・千葉も避難対象に? 原子力艦の事故時「範囲」見直しか
2015年11月22日 朝刊
米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)などに配備されている原子力艦で事故が起きた際の国のマニュアルを検証する政府の作業委員会が今月発足し、議論が始まった。早速、周辺住民が避難を始める放射線量の判断基準の引き下げを決定。今後は、避難範囲を見直すかどうかが焦点となる。基地問題に携わる専門家は「原発事故並みの三十キロに拡大すべきだ」として、東京都内や千葉県内でも避難計画の策定が必要だと訴える。 (加藤寛太)
「知りませんでした」。作業委員会が発足した十一月初旬。横須賀基地から三十キロ圏内に位置する東京都大田区や千葉県木更津市、富津市の担当者は、いずれもマニュアルの検討作業が始まっていることを知らなかった。作業委は六日の初会合で原子力艦で事故が起きた際の避難判断基準について従来の毎時一〇〇マイクロシーベルトから、原子力災害対策指針と同じ毎時五マイクロシーベルトに引き下げることを決定。政府は二十日、正式に基準を変更した。
これからの作業委の議論で焦点になるのが、原発事故と原子力艦の事故の避難範囲の違いだ。
東京電力福島第一原発事故を受け、国の原子力規制委員会は原子力災害対策指針をまとめ、原発から三十キロ圏内を緊急時防護措置準備区域(UPZ)とし、自治体に避難計画の策定を求めた。だが、二〇〇四年に国の中央防災会議が策定した原子力艦の事故のマニュアルは、「半径三キロ以内は屋内退避」などとなっている。
作業委の事務局を務める内閣府の担当者は「原発指針がマニュアルにどう影響を与えるかを今後、検証する。単純にマニュアルを指針に合わせるということではない」と説明する。
しかし、避難範囲が仮に三十キロに拡大されれば、大田区などに加え、百万人以上の人口を抱える横浜市や川崎市も避難計画が必要となる。UPZの人口が九十六万人で最も多い東海第二原発(茨城県)で同県内の市町村は、避難場所の確保の難しさなどから計画はいまだ策定できておらず、横浜市などで計画を作ろうとすれば難航は必至だ。
お膝元の横須賀市はより深刻だ。原子力災害対策指針は原発から半径五キロ圏内を予防的防護措置準備区域(PAZ)と定め、事故が起きたら、ただちに避難を開始したり、住民にあらかじめ安定ヨウ素剤を配布したりすることが決められた。稼働している九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)のPAZの人口は約四千九百人。一方、横須賀市は二十万人を超え、四十倍以上だ。
「そもそも首都圏という人口過密地帯で原子炉を稼働させること自体が間違っている」。横須賀市で原子力空母の配備に反対してきた呉東(ごとう)正彦弁護士は話す。
十月に横須賀基地に配備された原子力空母「ロナルド・レーガン」は動力として加圧水型原子炉二基を搭載。熱出力は二基の合計で百二十万キロワットと想定され、福島第一原発1号機(同百三十八万キロワット)に近い。
「政府の責任で横須賀への配備を認めた以上、原発と同様の基準で対策を取るのは当然で、大変でも先延ばしは許されない。国が基準を変えれば三十キロ圏内の自治体も万一を想定した準備を進め、住民が原子力艦の是非を考えるきっかけにもなる」と指摘する。
<原子力艦災害対策マニュアル検証作業委員会> 原子力災害対策指針と原子力艦マニュアルとの間で、事故時の避難判断基準や避難範囲に食い違いが生じており、設置された。日本原子力研究開発機構の本間俊充・安全研究センター長や原子力安全技術センターの下吉拓治参事ら有識者5人と内閣府、警察庁、原子力規制委員会事務局の原子力規制庁など関係省庁の担当者ら12人-の計17人の委員で構成している。
都内・千葉も避難対象に? 原子力艦の事故時「範囲」見直しか
2015年11月22日 朝刊
米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)などに配備されている原子力艦で事故が起きた際の国のマニュアルを検証する政府の作業委員会が今月発足し、議論が始まった。早速、周辺住民が避難を始める放射線量の判断基準の引き下げを決定。今後は、避難範囲を見直すかどうかが焦点となる。基地問題に携わる専門家は「原発事故並みの三十キロに拡大すべきだ」として、東京都内や千葉県内でも避難計画の策定が必要だと訴える。 (加藤寛太)
「知りませんでした」。作業委員会が発足した十一月初旬。横須賀基地から三十キロ圏内に位置する東京都大田区や千葉県木更津市、富津市の担当者は、いずれもマニュアルの検討作業が始まっていることを知らなかった。作業委は六日の初会合で原子力艦で事故が起きた際の避難判断基準について従来の毎時一〇〇マイクロシーベルトから、原子力災害対策指針と同じ毎時五マイクロシーベルトに引き下げることを決定。政府は二十日、正式に基準を変更した。
これからの作業委の議論で焦点になるのが、原発事故と原子力艦の事故の避難範囲の違いだ。
東京電力福島第一原発事故を受け、国の原子力規制委員会は原子力災害対策指針をまとめ、原発から三十キロ圏内を緊急時防護措置準備区域(UPZ)とし、自治体に避難計画の策定を求めた。だが、二〇〇四年に国の中央防災会議が策定した原子力艦の事故のマニュアルは、「半径三キロ以内は屋内退避」などとなっている。
作業委の事務局を務める内閣府の担当者は「原発指針がマニュアルにどう影響を与えるかを今後、検証する。単純にマニュアルを指針に合わせるということではない」と説明する。
しかし、避難範囲が仮に三十キロに拡大されれば、大田区などに加え、百万人以上の人口を抱える横浜市や川崎市も避難計画が必要となる。UPZの人口が九十六万人で最も多い東海第二原発(茨城県)で同県内の市町村は、避難場所の確保の難しさなどから計画はいまだ策定できておらず、横浜市などで計画を作ろうとすれば難航は必至だ。
お膝元の横須賀市はより深刻だ。原子力災害対策指針は原発から半径五キロ圏内を予防的防護措置準備区域(PAZ)と定め、事故が起きたら、ただちに避難を開始したり、住民にあらかじめ安定ヨウ素剤を配布したりすることが決められた。稼働している九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)のPAZの人口は約四千九百人。一方、横須賀市は二十万人を超え、四十倍以上だ。
「そもそも首都圏という人口過密地帯で原子炉を稼働させること自体が間違っている」。横須賀市で原子力空母の配備に反対してきた呉東(ごとう)正彦弁護士は話す。
十月に横須賀基地に配備された原子力空母「ロナルド・レーガン」は動力として加圧水型原子炉二基を搭載。熱出力は二基の合計で百二十万キロワットと想定され、福島第一原発1号機(同百三十八万キロワット)に近い。
「政府の責任で横須賀への配備を認めた以上、原発と同様の基準で対策を取るのは当然で、大変でも先延ばしは許されない。国が基準を変えれば三十キロ圏内の自治体も万一を想定した準備を進め、住民が原子力艦の是非を考えるきっかけにもなる」と指摘する。
<原子力艦災害対策マニュアル検証作業委員会> 原子力災害対策指針と原子力艦マニュアルとの間で、事故時の避難判断基準や避難範囲に食い違いが生じており、設置された。日本原子力研究開発機構の本間俊充・安全研究センター長や原子力安全技術センターの下吉拓治参事ら有識者5人と内閣府、警察庁、原子力規制委員会事務局の原子力規制庁など関係省庁の担当者ら12人-の計17人の委員で構成している。