毎日新聞より転載
シリア:人影絶えた第3の都市ホムス旧市街 無数の弾痕
毎日新聞 2015年11月26日 19時10分(最終更新 11月26日 20時53分)
シリア中部ホムスで、内戦で破壊された旧市街の商店街。内戦前は小売店が軒を連ねていた=2015年11月24日午前、秋山信一撮影
【ホムス(シリア中部)秋山信一】2014年5月まで反体制派の拠点だったシリア第3の都市ホムス旧市街に入った。住宅や商店、モスク(イスラム礼拝所)など、あらゆる建物に無数の弾痕が残り、空爆を受けた建物は屋根がひしゃげていた。ホムスを舞台に激戦を繰り広げたアサド政権軍と反体制派は14年に停戦合意。戦闘は収まったが、1年半以上たった今も生々しく残る傷痕が、再建への道のりの険しさを物語っていた。
24日朝、ホムス中心街では、仕事や学校に向かう市民が行き交っていた。内戦下とは思えないほど穏やかな風景は、車で5分ほど走ると一変した。屋根が崩れ、コンクリートむき出しの中層ビル群--。旧市街に人影はない。
11年3月に民主化要求運動「アラブの春」に触発されたデモが始まる前、旧市街には2000以上の商店が軒を連ねていた。だが、政権の武力弾圧に反発する反体制派が11年秋ごろ、一帯を軍事拠点化。商品は略奪され、建物も軍事用に改変された。さらにアサド政権の空爆や砲撃で、建物自体も大きな被害を受けた。
商店のシャッターには必ずといっていいほど弾痕が残る。店内の壁には狙撃や移動用の穴が作られ、室内には人さし指大の薬きょうや手投げ弾の破片が散らばっていた。入り組んだ路地には、政府軍の狙撃を避けるための地下通路も張り巡らされていた。
「拷問や処刑に使用された部屋だ」。同行したアサド政権の情報省職員が指し示した。壁や床には血痕のようなものがべったりと残る。壁から30センチほどの棒が突き出ており手錠として使われたとみられる金属製の輪が二つぶら下がっていた。シリアでは政府軍側も、反体制派に対する処刑や拷問を行ったと非難されている。
ホムスを包囲した政権側は物資や電気の供給路を断ち、疲弊した反体制派側が折れる形で14年に停戦が成立。反体制派は域外に撤収し、政権側が支配権を取り戻した。
だが、各地で続く内戦への対応に追われる政府に、ホムスの再建を推進する余裕はない。旧市街には反体制派が残した政権批判の落書きさえ、そのまま残されている。商店主の大半も国内外に避難したままだ。
旧市街にいたのは外部に住む人間ばかりだった。ダマスカス在住で、旧市街の商店主から復旧を頼まれたという建築デザイナーのサメル・ワルダさん(52)は「物価高騰の影響で資材を集めるのも一苦労だ」と話した。
ホムス郊外では今も政権側と反体制派の戦闘が続き、9月以降は政権を支援するロシア軍の空爆も加わった。「一番苦痛を受けるのは市民だ。戦争はもうたくさんだ」。ホムスの別の地区に住み、旧市街でがれきになった商店を片付けていた建設作業員のターレク・アブドさん(33)が小さく首を振った。
◇シリア内戦
中東の民主化要求運動「アラブの春」に触発されて2011年に始まった反体制デモをアサド政権が徹底弾圧し、反体制派側との内戦に突入した。隣国イラクで勢力を伸ばした過激派組織「イスラム国」(IS)が混乱に乗じてシリア国内に侵入し、情勢が複雑化。米国などが昨年からIS拠点への空爆を開始し、ロシアも9月末から空爆に踏み切った。一部地域は停戦したが、国土の大部分で戦闘が続く。国連によると、内戦で25万人以上が死亡、人口約2200万人のうち約1200万人が家を追われ、約430万人が難民となっている。
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シリア中部ホムスで、内戦で破壊された旧市街の商店街。内戦前は小売店が軒を連ねていた=2015年11月24日午前、秋山信一撮影
【ホムス(シリア中部)秋山信一】2014年5月まで反体制派の拠点だったシリア第3の都市ホムス旧市街に入った。住宅や商店、モスク(イスラム礼拝所)など、あらゆる建物に無数の弾痕が残り、空爆を受けた建物は屋根がひしゃげていた。ホムスを舞台に激戦を繰り広げたアサド政権軍と反体制派は14年に停戦合意。戦闘は収まったが、1年半以上たった今も生々しく残る傷痕が、再建への道のりの険しさを物語っていた。
24日朝、ホムス中心街では、仕事や学校に向かう市民が行き交っていた。内戦下とは思えないほど穏やかな風景は、車で5分ほど走ると一変した。屋根が崩れ、コンクリートむき出しの中層ビル群--。旧市街に人影はない。
11年3月に民主化要求運動「アラブの春」に触発されたデモが始まる前、旧市街には2000以上の商店が軒を連ねていた。だが、政権の武力弾圧に反発する反体制派が11年秋ごろ、一帯を軍事拠点化。商品は略奪され、建物も軍事用に改変された。さらにアサド政権の空爆や砲撃で、建物自体も大きな被害を受けた。
商店のシャッターには必ずといっていいほど弾痕が残る。店内の壁には狙撃や移動用の穴が作られ、室内には人さし指大の薬きょうや手投げ弾の破片が散らばっていた。入り組んだ路地には、政府軍の狙撃を避けるための地下通路も張り巡らされていた。
「拷問や処刑に使用された部屋だ」。同行したアサド政権の情報省職員が指し示した。壁や床には血痕のようなものがべったりと残る。壁から30センチほどの棒が突き出ており手錠として使われたとみられる金属製の輪が二つぶら下がっていた。シリアでは政府軍側も、反体制派に対する処刑や拷問を行ったと非難されている。
ホムスを包囲した政権側は物資や電気の供給路を断ち、疲弊した反体制派側が折れる形で14年に停戦が成立。反体制派は域外に撤収し、政権側が支配権を取り戻した。
だが、各地で続く内戦への対応に追われる政府に、ホムスの再建を推進する余裕はない。旧市街には反体制派が残した政権批判の落書きさえ、そのまま残されている。商店主の大半も国内外に避難したままだ。
旧市街にいたのは外部に住む人間ばかりだった。ダマスカス在住で、旧市街の商店主から復旧を頼まれたという建築デザイナーのサメル・ワルダさん(52)は「物価高騰の影響で資材を集めるのも一苦労だ」と話した。
ホムス郊外では今も政権側と反体制派の戦闘が続き、9月以降は政権を支援するロシア軍の空爆も加わった。「一番苦痛を受けるのは市民だ。戦争はもうたくさんだ」。ホムスの別の地区に住み、旧市街でがれきになった商店を片付けていた建設作業員のターレク・アブドさん(33)が小さく首を振った。
◇シリア内戦
中東の民主化要求運動「アラブの春」に触発されて2011年に始まった反体制デモをアサド政権が徹底弾圧し、反体制派側との内戦に突入した。隣国イラクで勢力を伸ばした過激派組織「イスラム国」(IS)が混乱に乗じてシリア国内に侵入し、情勢が複雑化。米国などが昨年からIS拠点への空爆を開始し、ロシアも9月末から空爆に踏み切った。一部地域は停戦したが、国土の大部分で戦闘が続く。国連によると、内戦で25万人以上が死亡、人口約2200万人のうち約1200万人が家を追われ、約430万人が難民となっている。
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