ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

自民党は原発と発送分離への態度を明確にせよ

2011-06-04 11:16:08 | 政治
内閣不信任案は否決され、政治的混乱はひとまず収まった。しかし、自民・公明両党は参議院での問責もちらつかせるなど、依然として菅政権への揺さぶりを模索しているようだ。

もし、自民・公明が本当に現政権を拒否して、このまま対決姿勢を続け、解散総選挙も辞さない構えであるならば、国民に向かって具体的な政策を示さなければならない。

とくに、原発を推進するかどうかと、発電と送電を分ける発送分離の二点は、今の日本における最大の課題である以上、自らの政策を明確にする義務がある。

ところが、自民党から聞こえてくるのは、菅首相への批判ばかりである。

例えば、大島副総裁は浜岡原発の全面停止について「首相の判断に裏付けがあるのか」と述べているが、では自らが政権にいた場合、浜岡を止めたのかどうかについては、語っていない。

また、菅首相は、原発依存度を高めていく従来の政府方針を変更して、太陽光など再生可能エネルギーを開発していく政策を発表したが、これに対して、自民党がどう考えているのかよく分からない。

発送分離については、自民党の一部で、肯定的な意見が出ているというニュースも流れたが、執行部としてどういう政策を持っているのか、これも分からない。

重要問題に対する政策を明確に打ち出さないまま、内閣不信任案を提出するのは、無責任な態度であり、次期政権を狙う政党としては、完全に失格と言わざるを得ない。

週刊文春6月9日号(p134-138)には、多くの政治家が東京電力から献金を受け取り、便宜を図って貰っていたとの記事が出ている。

国民は、東電マネーが政界に流れ込んでいることを見抜いているので、原発政策や発送分離の議論が歪められてしまうのではないかと、危惧している人は少なくない。

菅首相への揺さぶりが、あまり世論の支持を受けないのも、東電マネーにどっぷり漬かった政治家たちが、東電とは一切関係ない菅直人という政治家を排除しようとしている、そういう構図を見ているからだろう。

真に責任政党を唱うのであれば、谷垣総裁は過去の自民党政権が行ってきた原発推進政策を反省、総括する必要がある。そして、原発と発送分離へのこれからの態度を明確にして、国民にエネルギー政策の未来像を示さなければならない。

その政策を見て、国民がどう考えるか、そこから本当に建設的な議論が始まるはずである。


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原発も赤字も、作ったのは自民党

2011-06-03 08:12:54 | 政治
内閣不信任案はすったもんだの末に否決されたが、谷垣氏など自民党議員の菅首相批判を聞いていると、腹が立つのを通り越して、あきれ果ててしまった。

菅首相では原発事故の収束は出来ないというが、安全対策を怠った危険な原発を作り続けてきたのは、まさに自分たち自民党政権である。

福島第一原発では、全電源喪失への対応が皆無だった上に、緊急時炉心冷却用の非常用復水器や高圧注水系も機能せず、ベント弁すら上手く開かなかった。これらの一つでも正常に作動していれば、これほどまでの大事故にはならなかっただろう。

自民党政権が、原発の安全性を軽視し続けたことが、今の悲惨な放射能汚染につながっている。

また、自民党は震災復興の遅れを指摘するが、一番の原因は菅首相の能力ではなく、巨額の財政赤字である。本来なら、復興債券を発行して財源に充てればいいのだが、実質歳入の数十倍に上る債務残高を抱えている現状では、大型の国債発行は到底無理である。

そのため増税ということになるが、消費税にしても所得税にしても、震災復興の妨げになる可能性もあり、容易には踏み込めない。こういった財源不足が足かせとなって、被災地の復興は遅々として進まない。

大型公共事業を連発して、危険水域を遥かに越える国債発行を長年続けて、日本の財政を瀕死の状態に追い込んだのも、自民党政権である。

しかし、彼らの口から国民に対して反省や謝罪の言葉は一切出てこない。それどころか、責任の全てを今の内閣に押し付けて、人格攻撃とすら受け取られかねない調子で菅首相の批判を繰り返した。

今回の不信任案騒動ではっきりしたのは、自民党に再び政権を取らせてはいけないということである。自分の失政を見つめる勇気がなく、それを他者攻撃にすり替えて誤魔化すような政治家に、国を任せることなど出来ない。

一方、菅首相も反省すべき点は少なくない。

学者や作家を登用していくつも有識者会議を作るのではなく、国民が選んだ議員たちに党内や国会で広く議論させて、様々な復興策を決めていくのが筋である。

なぜ選ばれたのか不明な民間人が復興策決定を主導して、党内の大部分の若手に発言する機会がなければ、不満が鬱積するのも当たり前である。

参議院の勢力分布が不安定な現在、総選挙をしてどんな政権が誕生しても、強力な政治指導力は期待できない。また、民主党内で首相を変えても、発足後数ヶ月は支持率が高いだろうが、すぐに人気が落ちて、これまでの二の舞である。

さらに大連立のような連立組み替えも、事実上は絵空事である。

つまり、財政だけではなく、政治も今ドン詰まり状態で身動きが取れない。結局、しばらくは、菅首相が踏ん張って震災復興を進めていくしか道はない。

良いとか悪いとかではなく、それしかない、やるしかないということだ。

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首相交代は日本の恥

2011-06-02 01:45:35 | 政治
過去5年間のG8へ出席した各国の首脳

アメリカ
2007 ブッシュ大統領
2008 ブッシュ大統領
2009 オバマ大統領
2010 オバマ大統領
2011 オバマ大統領

イギリス
2007 ブレア首相
2008 ブラウン首相
2009 ブラウン首相
2010 キャメロン首相
2011 キャメロン首相

イタリア
2007 プローディ首相
2008 ベルルスコーニ首相
2009 ベルルスコーニ首相
2010 ベルルスコーニ首相
2011 ベルルスコーニ首相

カナダ
2007 ハーパー首相
2008 ハーパー首相
2009 ハーパー首相
2010 ハーパー首相
2011 ハーパー首相

ドイツ
2007 メルケル首相
2008 メルケル首相
2009 メルケル首相
2010 メルケル首相
2011 メルケル首相

フランス
2007 サルコジ大統領
2008 サルコジ大統領
2009 サルコジ大統領
2010 サルコジ大統領
2011 サルコジ大統領

ロシア
2007 プーチン大統領
2008 メドヴェージェフ大統領
2009 メドヴェージェフ大統領
2010 メドヴェージェフ大統領
2011 メドヴェージェフ大統領

日本
2007 安倍首相
2008 福田首相
2009 麻生首相
2010 菅首相
2011 菅首相

日本の国際的地位が低下するのは当たり前。日本の首相との会談は無意味と言われても返す言葉がない。

この上、不信任案を可決して、また首相を変えても、世界の笑い者になるだけである。だだ、次は日本の政治だけでなく、我々国民も嘲笑の的にされるだろう。

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真夏の工事現場横の「自販機」は浪費なのか

2011-04-20 14:44:31 | 政治
石原都知事はどうしても自動販売機を止めたいらしい。自販機を「完全な浪費」であるとして、攻撃し続けている。

だが、真夏の日中に屋外で仕事をしたことのある人なら、誰でも自販機が必須であることを理解しているだろう。

工事現場の作業員、交通整理をする警備員、外回りの営業マン、引越し業者など、自販機の冷たい飲み物で救われている方々は多いはずだ。

しかも、自販機は午後1時から4時までは、節電のため冷却機能を止めているので、ピーク時の消費電力は全供給電力の0.05%程度に過ぎない。

日本中を見回しても、これほどシビアな節電を達成している機械はまず見当たらない。

仕事だけでなく、レジャーを楽しむ人々にも利用され、極めて少ない電力でよく冷えた飲み物が手に入る。重要な社会的設備となっている自販機を「浪費」と決め付ける石原氏の理論的根拠がまったく見えない。

石原知事は、かつて数億円も掛かる豪華な外遊を行い、批判を浴びたことがある。カジノ構想をぶち上げたのも石原氏である。

都民の税金を湯水のごとく無駄遣いする人間が、工事現場で汗水たらして働くひとが120円を払って買おうとする冷たい缶ジュースを「浪費」だとわめいている。

こんな人物が、人の上に立っていることこそが異常であり、税金の「浪費」である。

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自販機こそ優れた節電対策である

2011-04-15 11:34:03 | 政治
「自動販売機なんてやめちまえ。コンビニで買って家で冷やせ」

石原都知事の言葉だが、これは大きな間違いだ。

飲料自販機は、少ない電力で、効率よく飲み物を冷やすように作られている。小さな取り出し口、高い保冷能力を持った内部構造、緻密な温度管理プログラム。

夏場平日午後1時から4時までの冷却機能停止だけではなく、電気代を抑えるために様々な節電対策が施されている。

スーパーやコンビニの開放型冷蔵庫や、何度もドアの開け閉めをする普通の冷蔵庫を思い浮かべるだけでも、その冷却効率の高さは一目瞭然である。

従って、家庭用冷蔵庫でいつ飲むとも分からないジュースを、朝から晩まで冷やし続けるより、自販機で必要な分だけ買ってすぐに飲む方が、はるかに節電効果が高い。

そして、それだけの節電効果があって、お得だからこそ、多くの自販機が街に設置されている。むしろ、それらを積極活用して、家の冷蔵庫には出来るだけ飲み物を入れず開閉回数を抑えた方が、有効な節電対策になるだろう。

東京電力が夏場に供給できる電力5000万キロワットに対して、自販機の総消費電力は26万キロワットで0.5%程度だが、飲料メーカー、自販機メーカー、広告代理店、設置店舗など、それが生み出している経済効果は何兆円という規模に上る。

「いささか味気ない」という難点はあるが、これほど省エネ効果が高く、かつ経済効率のよい販売形態は他に類を見ない。日本人が自販機でものを買うのは、便利社会に溺れたエネルギーの浪費癖からではなく、それが優れた社会的節約術だからである。

「あんなところに、自販機なんて必要か?無駄じゃないか」という声もあるが、お金を払って不要なものを置き続けるひとがいるだろうか?

小さな雑貨屋の前にぽつんと一台ある自販機も、高速道路の大型サービスエリアにずらりと並ぶ自販機も、誰かが飲み物を買って、電気代がお得で、ちゃんと採算が取れて、それで生活しているひとがいて、多くの人に必要とされているから、そこに存在している。不必要ならとっくに撤去されているだろう。


都議会民主党は、自販機の冷却機能停止を、午前10時から午後9時に延長するよう促す条例案を提出するという。自販機はすでに節電効果を持っているが、もし規制条例を作るならば、他の業界も対象にして、20-25%程度の削減を求めるのが筋である。しかし、この条例は自販機しかも冷却機能だけを狙い撃ちにして、事実上、飲料自販機を使えなくするものだ。とくに、自販機内の温度上昇による商品のダメージを考えると、終日停止の自販機が続出する可能性も大きい。

夏場日中、すべての飲料自販機が冷却停止もしくは販売停止。公園、プール、スポーツセンター、遊園地、温泉スパ施設、海水浴場、サービスエリア、公共施設など、各所で混乱が起こるのは明らかだが、その結果得られる節電効果は、東京電力管内の他県がすべて同じ条例を採択しても0.5%である。売り上げの大幅減少など、経済的損失の大きさと併せて考えると、検討する価値すらない常軌を逸した規制案だ。

真夏の公園、使えない最新式自販機の横で、売店の奥にある、ガラス引き戸で開閉する旧式冷蔵庫のジュースを客が並んで買っている光景が、効果的な節電対策と言えるだろうか?

夏場のピーク時節電のために、真に実効性のある対策は何か。

今こそ、冷静で科学的な議論が必要である。しかし、東京都の指導層は、震災や計画停電のショックからか、誰かを悪者にして感情的に攻撃するだけで、まともな提案が出来ていない。

その結果、皆で一致団結すべき時に、逆に都民の不安や対立が激しくなりつつある。

都知事や都議会民主党は「花見は要らない」「自販機は要らない」と叫び続ける前に、まず「自分たちは必要だろうか?」と、静かに自らに問うてみるべきである。

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石原流「消費抑制論」は大不況を招く

2011-04-12 11:32:33 | 政治
「我欲」を捨てて「慎ましい」生活を送る。

石原都知事の言葉であるが、彼はこういった消費抑制論の危険性を理解していないようだ。

電力不足から起こる供給の減少を、需要の抑制で乗り切る。シンプルで分かり易い考え方だが、問題なのは、震災の影響によって、消費マインドが予想以上に冷え込んでいて、供給の減少をはるかに超えるスピードで消費が落ち込んでいく可能性が高いことである。

あれだけの悲惨な災害である。おまけに、福島の原発事故は未だに解決せず、強い余震がしつこく続いている。

被災地以外であっても、人間の心情として、多くの人が贅沢や遊びを控えて、財布のひもを締めるのは自然の成り行きだ。

さらに、国家財政はすでに破綻している。復興予算の財源を国債にしようが、増税でまかなおうが、国民生活を圧迫するのは間違いない。失業者救済などのセイフティネットに手が回らない現状では、消費意欲が減退するのも当たり前である。

また高齢化社会がすでに到来していることも、この傾向に拍車をかけている。若い世代と異なり、年金や今までの蓄えで生活している年齢の高い人々は消費を抑えて貯蓄を殖やすという発想に共鳴しやすい。こういった生活防衛意識が、石原氏の「我欲」や「慎ましい」という言葉でさらに強化されていく。

今の日本には、消費を支える要因が何一つ見当たらない。

花見の自粛。パチンコや自動販売機への攻撃。この一ヶ月、石原氏は、被災地への配慮や節電を名目に、人々がお金を使う行為や施設をことごとく非難し続けている。

「自粛」などと言われなくても、もう誰も余分な物を買わなくなってきているのだが。

しかし、消費の抑制こそ地獄の入り口である。

3月11日を境に、生活様式を変更して消費を急激に減らす行為は、買われなくなった商品を作る多くの人が苦境に陥ることを意味する。

そして、失業者の増加。さらなる消費の低迷。さらなる失業者。

最悪のデフレスパイラルだ。

あれはけしからん、これもけしからん。

自分自身の明日への不安を、他者への攻撃にすり替えているうちに、大不況という地獄がひたひたと迫ってきている。

街にホームレスがあふれ、お腹を空かせた子供がさまよう。

豊かな日本では絶対にあり得ないと思っていたことが本当に起こる可能性がある。

攻撃しやすい敵を見つけて、誰かを悪者にしているだけの石原氏が、これからやって来る未曾有の事態に対処できるとは思えない。

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「パチンコと自販機を完全撤廃」の節電効果は1%程度

2011-04-11 15:15:45 | 政治
都知事四選を果たした石原慎太郎氏が、当確後のインタビューで「パチンコと自動販売機で合わせて1000万キロワット近い電力が消費されている国は日本以外にない。こういう生活様式は改めたほうがいい。」と発言した。(#注1参照)

パチンコを我慢して、自動販売機をなくせば、大きな節電効果が上がるという意見である。

本当だろうか?

東京電力管内のパチンコ店と飲料用自販機で消費される一日の総電力量はそれぞれ約400万キロワット時。従って、合わせて800万キロワット時。もし石原氏が発言通りの「1000万キロワット」ではなく「1000万キロワット時」と言うつもりだったのであれば、一日の消費電力量としては概ね正しい数字である。

一方、Yahoo!JAPANのトップページに出ているように、東京電力の電力供給能力は現時点で4250万キロワットである。この数字から計算すると、一日の供給可能電力量は10億キロワット時 (= 4250万 * 24) 程度ということになる。

つまり、パチンコ店をすべて閉店して、自販機を全部撤去した場合、東京電力が現在供給可能な電力量の約1% (= 800万 / 10億) が節電できる計算になる。

勿論、1%という数字は決して小さいとは言えない。原子力による電力供給は、3月11以前では全供給能力の30%だったのだから、石原氏が主張するように「生活様式を改めれば」原子力発電所の30分の1くらいは要らなくなる。

しかし、パチンコの全店閉店と自販機の完全撤去の結果起こる、関連企業の倒産や失業者の増加というマイナス効果を考えれば、社会全体として、到底割に合わない節電対策である。

従って、現実の政策としては、言及する価値すらない案で、端的言えば、絵空事である。

ところで、一般家庭の一日の使用電力量は10キロワット時程度だが、100ワット電灯を毎日10時間点けているのを、こまめに消して半分の5時間にすれば、家の全消費電力の5%を節電したことになる。

小さな節電を積み重ねれば、「生活様式を改め」なくとも、驚くほど大きな効果が現れるということを、石原氏は知らないようだ。


#注1
「キロワット(kW = kJ/s)」と「キロワット時(kWh = 3600 kJ)」は、本質的に意味の異なる単位なので、節電などを議論する際はどちらを使っているのか明確にすべき。発言の際、石原氏は「1000万キロワット時」というべきところを「1000万キロワット」と誤って発言した可能性がある。

ちなみに、パチンコ店の営業時間を15時間、自動販売機を24時間稼働とすれば、使用電力はそれぞれ30万キロワットと20万キロワット程度になる。Yahoo!JAPANなどに載っている電力供給能力4250万キロワットと比べる場合は、この数値を使う。
コメント (1)
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都知事選・期日前投票は「記名投票」である

2011-04-09 03:43:09 | 政治
過去の衆議院選挙で期日前投票をしたときに、投票所入場整理券に名前はもちろん、理由すら書く必要は無かった。それが、投票率を底上げしてきたことは間違いない。

ところが、今回の都知事選では、有権者が「見たことの無いような投票整理券」が届いた。どうやら期日前投票するのであれば、住所・氏名・理由を当局に提出する必要があるようだ。これが記名投票かどうかは議論があるだろうが、都民の、あるいは国民の気持ちが萎縮することは事実である。

石原慎太郎知事は、できるだけ投票率が少ない方がよいと思っているわけではあるまい。都知事選まであと2日である。都知事や総務省は震災のどさくさに紛れて、投票率が下がらないように最大限の努力をするべきである。

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「トイレットペーパー品切れ」=「買いだめ」という幻想

2011-04-08 03:46:32 | 政治
スーパーの棚から品物がなくなると、すぐに「買いだめはやめよう」という声が上がる。「品薄」なのは、誰かが「買いだめ」しているからだと安易に考えるひとが多い。

しかし、「品薄」=「買いだめ」は間違いである。

例えば、ある大型スーパーに、毎日100人の客がトイレットペーパーを買いに来るとする。12ロール入ったものを1人が1個ずつ買うとすれば100個売れることになる。これが通常の需要量である。

店は毎日100個を仕入れればよいが、在庫として100個ほど余分に棚に置いておけば、100人の客は200個のトイレットペーパーから自分の1個を選ぶことが出来る。多くの客は、スーパーに十分な数のトイレットペーパーがあると感じるだろう。

ところが、今回の大震災のように、もし物流がある日を境に何日間か止まったらどうなるだろう?

仕入れが止まった日(1日目)に来た100人の客には、在庫分の100個しかないが、とりあえず全員買って帰ることが出来る。だが、次の日(2日目)に来る100人の客は、在庫分もないので、誰もトイレットペーパーを買うことが出来ない。

買えなかった100人は、トイレットペーパーなしでは生活できないし、かといって代わりになる商品もないので、その次の日(3日目)もトイレットペーパーを求めてやって来る。この100人に、新たな100人の客が加わるので、3日目には、200人の客がやって来るがやはり誰も手に出来ない。

仮に物流停止が3日間で終わり、4日目から仕入れが再開して、100個のトイレットペーパーが店に届いたとする。すると、この日にやって来る300人の客が、この100個を奪う合う形となり、200人の客はむなしく帰るしかない。

そして、5日目も、300人の客が来て、トイレットペーパーは100個。6日目も、300人で100個。メーカーが増産体制を整えて100個以上の仕入れが可能になるまで、この状態が延々と続いていく。

つまり、誰一人として「買いだめ」したわけではなく、きちんと1人が1個ずつ買っているのだが、スーパーの棚は、いつ見ても空っぽという感じになる。この時点で、需要量は300個。通常の3倍に跳ね上がっている。

おそらく、毎日毎日、普段の3倍の客がやって来るので、品不足でパニックになった人たちが、家にまだトイレットペーパーがあるのに殺到しているという印象を、多くの人が受けるのかもしれない。

しかし、トイレットペーパーが家に無くなったという当たり前の理由で買いに来て、しかも1人が1個ずつ買ったとしても、仕入れが3日間止まっただけで、これだけの品不足が起ってしまう。

大抵の生活必需品についても、仕入れが止まれば、同じようなことが起きる。ただ、とくにトイレットペーパーは、無しで済ますわけにいかないし、代用品もないので、それがはっきりした形で現れてくる。「品不足」といえばトイレットペーパーが思い浮かぶのは、そのためだと思う。

さて、物流停止から何週間か経って増産が開始され、店が毎日200個のトイレットペーパーを仕入れ始めたとする。すると、何週間も続いた品不足はたった2日で解消して、店はすぐに仕入れ量を100個に戻すだろう。

せっかくお金をかけて増産体制を取ったメーカーからすれば、何の得にもならない品不足である。また、スーパーにとっても、全体の売り上げが増えたわけではない。増えたのは文句を言う客だけだ。

そこで彼らはこう言うかもしれない。

「そらみたことか。一人がトイレで使う量が増えるわけじゃないんだから、たくさん作ったって、たくさん仕入れたって意味無いんだよ。品薄?どうせ誰かが買いだめしてるんでしょ」

増産や仕入れ増にあまり旨みがないことも、トイレットペーパーが品薄になりやすい理由の一つかもしれない。

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送電網は本当に「スマート」なのか?

2011-04-06 09:02:06 | 政治
送電網の各所に配置されたコンピューター内臓の「スマートメーター」が需要と供給のバランスを常時監視して、電力の最適な配分を行う「スマートグリッド」。停電の多い米国を中心に技術開発が進んでいるシステムだが、日本では、電力会社に「我々の電力網はすでにスマートだ」という意識が強く、積極的な研究が行われてこなかった。

しかし、今回の電力危機で、首都圏の送電網が本当にスマートなのか、疑問を感じる出来事が多発した。

計画停電の際、その地域を通る道路の信号機まで止まって、交通事故で命を落とされた方が出てしまった。また、大きな病院も例外とされず、容赦なく停電の対象になった。これは、信号機や大病院への送電ラインを一般家庭などへのラインから切り離せないことを意味する。

逆に、鉄道の変電所があるからという理由で、付近のかなり大きなエリアが計画停電から除外されている例もある。変電所への送電ラインが独立していないということだ。

結局、東京電力ご自慢の「スマート」な送電網は、鉄道、道路、病院といった必須の社会的インフラを、普通の家庭と区別することが出来なかった。

モザイクのように入り組んだ計画停電エリアマップは、需要側の社会的重要度を考慮せず、供給側が自分たちの都合で作り上げた送電網地図で、いざという時に備えて、社会基盤を支える使命感が感じられない。

緊急時、重要な社会施設への電力供給を止めないためには、分岐点ごとに「スマートメーター」を設置して、きめの細かい電力分配が可能な送電網を作る必要がある。

また、各家庭やそれぞれの事業所にも「スマートメーター」を付ければ、ある時間帯で節電可能な家庭や事業者から、同じ時間帯に大きな電力が必要な事業者へ優先的に電力を回すことも出来る。

例えば、ピーク時の消費電力に上限があるが、その見返りとして料金が安くなるコースを作れば、節電対策が進むと同時に、社会全体として「公平感のある」電力分配ができるだろう。

「スマートグリッド」は開発中の技術で、こういった送電システムの再構築には、多額の投資が必要となる。それは、利用者への負担という形で跳ね返ってくる可能性もある。しかし、原子力は勿論、火力にせよ、水力にせよ、新たな大規模電源が当分は見込めない今、供給電力を最大限に活用する送電システムの開発に、お金を惜しむべきではない。

福島第一原発事故で露呈したのは、東京電力が「原発は絶対に安全」という思い込みのもと、安全でなくなった時の備えを怠っていたことだ。送電システムについても「すでにスマート」という過信のもと、緊急時の対応策を何も考えていなかった。

その結果、すべての発電所が停止したわけではないのに、電車が走らない区間が出現し、駅が閉鎖され、道路の信号が消え、首都圏は大混乱に陥ってしまった。そして、いつ起きるとも分からない大規模停電に怯えて、経済活動は停滞するばかりだ。

深刻さを増す放射能汚染と先の見えない電力危機。

東京電力の「我々はスマートである」という思い上がりが、その出発点にある。

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