ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

「payoff」の意味は「advantage」 ~ 十年で語義が変わった?

2008-01-31 12:12:02 | 英語
英語の辞書は、改訂版が出たら、出来るだけ買い換えた方がいい。

以下は、それを実感した話です。

2008年1月28日付の国際誌TIMEに、アフガニスタンの女子教育に関する記事が載っていました。その中で、教育を受けた女性の割合が高い国ほど、健康、経済、民主主義の水準が高い、という主旨の文章があり、

There's another payoff that is especially importnat to Afghanistan: educated women are a strong bulwark against the extremism that still plagues Afghanistan, ・・・

と続きます。

読解の鍵は、「payoff」という言葉ですが、いつも使っている1991年版のLONGMAN英英辞書で、「payoff」を引くと、第1項目が「給料、借金、カードのローンなどを払う」、第2項目が「物語の結末」という意味で、この文章での使われ方と違う気がする。

それで、本屋に行って、2005年版を引いてみました。

ありました、ぴったりの意味が。しかも第1項目で。

an advantage or profit that you get as a result of doing something

91年版には、この「利点」という語義は、影も形もないので、ここ十数年の間に、主流になった使用法ということですね。

思っている以上の速さで、言葉の意味が変化していたので、驚きました。

結局、上に挙げた英文の訳は、

女子教育には、アフガニスタンにとって、とくに重要なメリットが、もう一つある。この国は、今なお、イスラム過激派に蝕まれているが、教育を受けた女性は、それに対する、強力な防波堤になるという点である。

という感じでしょうか。

ちなみに、最新版では、第2項目は「裏金、賄賂」、第3項目は「解雇時に支払われる金」で、これも、91年版と、かなり違う。

長年使っている辞書は、慣れているし、愛着もあって、手放し難い部分はあるんですが、こうも意味が違うなら、新しいのに切り換えた方がいいですね。

この2005年版は、そのまま買って帰りました。「payoff」の問題だけじゃなく、図や語義説明などが、91年版に比べて、さらに工夫されていて、使い易そうだったので。

ところで、私は、LONGMANの回し者ではないです。単なる辞書の愛用者で、何の関係もありません(笑)。

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池袋のサラ ~ キャバクラ外伝最終話

2008-01-26 17:24:51 | 小説
それは、二月のある夜のことだった。厳しい寒さが、何日か続いたあと、ふっと寒さが緩んで、春が来たかのような、暖かさだった。私は、池袋の街を歩いていた。とくに用事はなかった。久しぶりの暖かさに浮かれて、ぶらぶらと、散歩した。

交差点で信号を待っていると、ピンクの派手なジャンパーを着た、女の子が近寄ってきた。

「あの、よかったら、飲んでいきませんか」

彼女は、一枚のチラシを差し出した。それは、サラの店だった。

「今だと、最初の一時間、四千円になります。いかがですか?」

サラと別れてから、一年以上が、経っていた。あれから、一度も、店には行かなかった。そして、サラのことも、店のことも、長い間、頭から消えていた。

「んー、いいや。飲む気ないし。お金も、あんまり持ってないから」
「もしですね、四十分までなら、二千円で大丈夫なんですよ。どうでしょうか」

彼女は、食い下がった。まだ、あどけなさが残る、少女のような子だった。その黒い瞳を見ていると、久しく忘れていた、サラの顔が、まざまざと浮かんできた。

「店に行ったとして、君は、付いてくれるの?」

予想外の質問だったのかもしれない。彼女の目が、少し大きくなった気がした。

「いえ、あの、わたしは、あの、ダメなんです」

そして、小さな声で言った。

「ちょっと、歳の関係で」

二年前の今頃、サラも、この子と同じように、路上でビラを配っていた筈だった。

「分かった。行こう。その店」
「わたしは、あの、ダメですけど」
「いいよ、それで」
「ほんとですか?やったー。ありがとうございます」

彼女は、ニコニコしながら、私を店に案内した。呼び込みは、今日が初めてで、お客さんが全然来てくれないので、どうしようか困ってた。彼女は、途中、そんな話をした。

席に着いて、店を見渡してみた。内装など、以前とほとんど変わっていなかった。懐かしい眺めだった。

「いらっしゃいませ。今日、暖かいですよね」

大きなストールを肩に掛けた、女性が席についた。名札を見ると、クミコだった。彼女も、私を、すぐに思い出した。

「お客さん、以前、よくいらしてた。サラちゃん、指名の」
「うん。よく覚えてるね」
「ええ、よくいらしてる方は」

クミコは、女の子とか、黒服とか、メンバーが、前とは、随分変わったと言った。

「サラは、どうしてるの?まだ、やってるの、この店で」
「いいえ、サラちゃんは、辞めました」

クミコは、私の顔をじっと見た。そして、おもむろに話し始めた。

「ジンナイさんも、辞めたんですよ。お客さん、ジンナイさん呼んで、怒ったことあったでしょ。あれから、二ヶ月くらいして」
「なぜ、辞めたの?僕が、怒ったのが関係してるとか」
「いいえ。ジンナイさん、沖縄に帰って、結婚したんです」
「結婚って、相手は?」
「もともと、沖縄に、婚約者がいたみたいですよ」

私は、絶句した。クミコは続けた。

「サラちゃん、すごく悲しんでました。ジンナイさんが辞めてからも、サラちゃんは、半年くらい、店に出てたんですよ。でも、お客さんについているとき以外は、いつも泣いてました。本当に、いつもいつも泣いてるんですよ。色んな想い出があって、この店にいるのは、つらいんでしょうね。それでも、店を辞めないで、サラちゃん、出て来るんです。サラちゃん、ジンナイさんのこと、本気で好きだったんですね」

一時間ほど飲んで、会計をした。クミコは、店の前まで、見送ってくれた。ふと、サラは、今、例のデパートで、働いているんじゃないか、そんな考えが、心に浮かんだ。

「サラが、今、どうしてるか、知ってる?駅前の百貨店で、働いているとか?」
「今のことは、ちょっと分からないです」
「T百貨店で、一時、働いてたでしょ。婦人服売場で。知らない?」
「ああ、それ、サラちゃん、そのデパートの面接受けたんですよ。でも、落ちたって言ってました。だから、そこで働いたことは、ないと思いますよ」

お祝いのプレゼントを貰ったときの、無表情なサラの顔が浮かんだ。

「そうなんだ。ありがとう」

クミコと別れて、駅に向かって歩いた。真冬なのに、空気が生暖かかった。

サラは、色んな嘘をついていた。そして、サラも、大きな嘘をつかれていた。誰かを騙して、誰かに騙されていた。彼女は、あの店で、金儲けの道具にされて、心と、体と、そして、十八、十九という貴重な時間を、すり減らしただけだったのだろうか。

それとも、サラは、あの店から、何かを得たんだろうか?

サラの言葉を思い出した。

自分は、恋愛ロボットだ。ひとを好きになるために、生まれてきたんだ。だから、好きになったら、とことんいっちゃうんだ。

私を、追い払いたかったのは、ジンナイではなく、サラだった気がしてきた。ジンナイとの関係を、私にしゃべってしまったことが、彼女の心の負担になっていた。そのことをジンナイが知れば、自分は、嫌われるかもしれない。それが、怖かった。

だとすれば、最後の日、私は、サラの最も嫌がることを、してしまったことになる。

あの時は、ジンナイに遊ばれているサラを、助けるつもりだった。しかし、実のところは、私には目もくれない、サラに対する苛立ちが、爆発したのかもしれない。

「結局、嫉妬じゃないか」

ほろ苦い味が、心の中に広がった。

池袋駅の地下構内は、家路を急ぐひとで、あふれていた。一人の若い女性とすれ違ったとき、ふっと、青林檎のような甘い香りがした。

サラだ。サラとすれ違った。

はっとして、振り返った。人の群の中に、サラを探した。しかし、雑踏に紛れて、その女性がどこに行ったのかさえ、分からなかった。ただ、ひとびとが、無表情に行き交っているだけだった。

おわり

「池袋のサラ」、いかがだったでしょうか。最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございます。

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池袋のサラ ~ キャバクラ外伝第五話

2008-01-25 18:31:12 | 小説
その日以来、私は、店に行かなくなった。池袋の街からも、足が遠のいた。必要に迫られて、一度、T百貨店で買い物をしたが、若い女性向けの服売場は、通らないよう、気をつけた。「実習生」と書かれた名札を付けて働いているサラと、鉢合わせすることが、嫌だった。

サラを連想させるものは、見たくなかった。サラの名刺、店のライター、無国籍料理のレストランの割引券。そういったものは、全部捨てた。テレビで「肌水」のCMが始まると、すぐにチャンネルを変えた。

私が、サラに、何を求めていたのか、そして、サラは、私に、何を与えてくれていたのか、よく分からない。しかし、いつの間にか、麻薬中毒のように、心が、サラに依存し始めていた。彼女と、会えないのは、思った以上に、苦痛だった。

季節はゆっくりと進んでいった。十月に入って、街には、秋の気配が漂い始めた。そんなある日、大学時代の友人と、池袋で飲むことになった。久しぶりの再会で、酒が進んだ。飲み屋を何軒もはしごして、気が付くと、終電の時間を過ぎていた。

友人の乗ったタクシーを見送った後、自分のタクシーを拾おうと、あたりを見回した。随分と酔っていたが、ふと、あることに思い当たった。私の立っている場所は、サラのいた店のすぐ近くだった。私は、店の方へ、おもむろに歩き始めた。「引き返せ」という声が聞こえたが、体が勝手に動いた。

通い慣れた階段を下って、私は、店に入った。席に通されて、「ご指名は?」と訊かれた。誰でもよかったが、「クミコ」という名前が、口を突いて出た。座って店を見渡すと、隅の方に、ジンナイが立っていた。その横に、小柄な女の子がいた。細身で、色白。

息を呑んだ。それは、サラだった。ジンナイと、額を寄せ合うようにして、何かを話していた。私の目は、サラに釘付けになった。しかし、サラは、こちらを全く見なかった。頭の中が、ぐるぐると回って、少し気分が悪くなった。

クミコがやって来た。

「こんにちは。お久しぶり、ですよね?」
「サラ、サラが、いるんだけど」
「サラちゃん?ええ、いますよ。どうして?」
「サラは、辞めたんじゃなかったっけ」

クミコは、不思議そうな表情で、私を見た。

「サラちゃんが?いいえ。サラちゃんは、辞めてないですよ」
「一度も?」
「ええ。ずっと、出てますよ」

ようやく、私は、嘘をつかれていたことに、気が付いた。サラは、辞めていなかった。でも、なぜ、そんな嘘を?その時、ジンナイが、ちらっと、私の方を見た気がした。

猛然と、怒りがこみ上げてきた。こいつ、オレを店から追い払いたかったんだ。サラとの関係を、上にチクられるのが、怖かったんだ。私は、そう確信した。酔いと怒りで、それ以外の可能性を検討する余裕はなかった。

私は、クミコに言った。

「ジンナイを呼んで。ここに」

ジンナイは、すぐにやって来て、怪訝そうな顔で、尋ねた。

「どうされました」
「あんた、なんで、そんなことするんだ」
「はっ?」
「なんで、好きでもないのに、サラに手を出したんだ」
「あの、いえ」
「こっちは、全部、知ってるんだぞ。お前の上司に、全部、ぶちまけてやろうか」

怒りで声が大きくなった。店内が少し、静かになったように感じた。

「あの、あの、少し、お待ち下さい」

ジンナイは、店の隅に戻って、ウツミに何やら、早口でしゃべっていた。目が大きく見開いて、顔が蒼白だった。やがて、そこにサラが加わって、三人で話し始めた。

私は、席を立って、店の出口に向かった。サラが、追いかけてきた。振り向いて、サラを見た。彼女の顔は、怒りで歪んでいた。

「なんで、ねえ、なんで、そんなこと言うの。なんで、そんなこと言うの」

サラの表情を見て、私の怒りは急速にしぼんだ。もう何を言っても、無駄だ。サラの心には、私の言葉は、届かない。絶対に届かない。そのことが、心底、分かった。

「もういい。たくさんだ。君の顔は、二度と見たくない」

そう言って、私は、店を出た。一度も、振り返らず、歩いた。

これが、サラとの、本当の別れになった。

最終話へつづく

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池袋のサラ ~ キャバクラ外伝第四話

2008-01-24 17:27:55 | 小説
寒いです。

暖冬、暖冬と言うけれど、この冬では、一二を争うくらい寒いわけで。体は、例年の寒さなんか、覚えてないって。

ところで、里田まい、すごいな。

ヘキサゴンで、「白身魚のすり身と、卵をまぜて、巻いたものは?」に対して、

「アスパラベーコン!」

魚と卵は、どこいった?(笑)

さて、今日は、第四話です。

物語の中では、季節は真夏。ちょっと、羨ましいぞ。

最初から読みたい方は、ここから、第一話へジャンプできます。

では、はじまりー。


第四話

七月も半ばを過ぎて、猛然と暑くなってきた。梅雨は、どうやら明けたらしい。夜の池袋は、エアコンの室外機から出る熱気と湿気で、空気がよどみ、むしむしと不快な暑さが、街を覆っていた。私は、汗だくになりながら、まだ、サラの店に通っていた。

「最初、ビールにします?」

少し笑いながら、サラが尋ねてきた。

「やっぱり、最初は、ビールで」

サラは、小さなグラスに、ビールを注ぐと、言った。

「ごめんなさい。今日、指名が入ってて。すぐ戻って来ます」

店内は、かなり混んでいた。サラが席を立っても、しばらく、誰も来なかった。ビールを飲みながら、私は、考え込んだ。

サラの告白を聞いても、彼女に対しては、不思議なくらい、腹が立たなかった。サラが、ジンナイを好きになるのは、やむを得ないことのような気がした。おまけに、自分に、腹を立てる資格があるのかどうか、よく分からなかった。

ただ、ジンナイが、本気で、サラを好きだとは、信じられなかった。担当だから、好きとは言えない、でも、抱かれてくれ。安っぽい、だまし文句としか、思えない。

ジンナイは、サラの想いを、都合良く、利用しているだけかもしれない。そう考えると、心の奥底に、なにか憂鬱なものが、溜まっていく気がした。

三十分くらいして、サラが戻ってきた。

「今、お客さん、見送ってきたの。ジンナイさん、次はこっちに行け、次はあっちって、ひどいんだから。で、あたしは、はい、はいって、その席に突入するの」

嬉しそうに笑いながら、サラは続けた。

「そうそう、明日、テンプク、どうしようかな。いっそ、ジンナイさんに、家まで持ってきて貰おうかな」
「テンプクって、何?」
「お店で着る服。店、服、ね。今日、持って帰れないから」

サラの目には、あの日の、不安な色は、微塵もなかった。ジンナイとの関係が、その後どうなったのか、サラは、一言も話さなかった。しかし、彼女が、ジンナイを、心底信頼していることは、疑う余地がなかった。

しばらくして、サラは、また席を立った。ジンナイに呼ばれたようだった。サラが奥の方のテーブルにつくのが見えた。よく見ると、サラの隣には、テレビによく出ている、お笑い系のタレントが、二人座っていた。顔を見れば、誰もが分かる、有名人だった。

もはや、サラは、ジンナイのために、働いているようなものだった。そして、ジンナイにとっても、指名数が上がってきたサラは、強力な切り札だったのだろう。

八月に入ると、サラの指名は、ますます増えて、席を立つことが多くなっていった。指名する意味がないくらいで、店に来る気持ちが薄まってきた。

さらに、お金の問題があった。四月以来、週一回とはいえ、半年近く通い続けて、大きな負担になっていた。もう終わらせなきゃ、そう考えることが、多くなっていた。

ある日、サラは、キャバクラでの仕事を、親に反対されているのだと、話し始めた。

「前から、早く辞めなさいって、言われてて、もう、かなりやばい。昨日も、お父さんに、すごく怒られて。ちょっと、もうやばい、やばい」
「どうするの。やめるの?」
「八月中に、辞めなさいって、言われちゃった。だから、来週の金曜日を最後にして、お店、辞めようと思ってるの」

正直、ほっとした気分だった。何かから、解放されるような、そんな安堵を感じた。

次の金曜日、私は、花束を買って、店に行った。サラの最後なので、客からの贈り物が、さぞ多いのだろうと思ったが、店内は、普段通りで、あっけない気がした。サラは、ほとんどずっと、私の席に付いてくれた。

いつもは、十一時過ぎに帰るのだが、その日は、店の最後まで居るつもりだった。

トイレから戻ったとき、私を通そうと立ち上がったサラが、バランスを崩して、倒れ込んできた。サラを抱きかかえるような形になったとき、柑橘系の、青林檎のような甘い香りが、広がった。香水だった。サラは、香水をつけていた。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

しかし、その香りは、抱きしめるくらい、サラの近くに寄らなければ、分からない。それほど、ほのかな香りだった。

誰のためにつけているんだ?

心の底から、鬱屈した感情が、ふつふつと湧き出して来るのを感じた。

十一時半になった。そろそろ帰らないと、と言って、私は立ち上がった。しかし、サラは、今日は、最後までいて、と引き留めようとした。終電だから、と言っても、今日だけは、最後までいて、とサラは、食い下がった。こんなに頑固に、何かを主張するサラを、初めて見た。しかし、私は、サラの言葉に耳を貸さず、外に出た。

店の前で、サラは、小さく手を振って、私を、見送った。一瞬、何か、言いたげな表情をしたが、すぐに、いつもの笑顔に戻った。街の暑さは相変わらずだったが、風が吹いていて、少しだけ涼しさを感じた。

第五話へつづく

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池袋のサラ ~ キャバクラ外伝第三話

2008-01-23 16:46:58 | 小説
ゴーギャンの人生をヒントに書かれた、サマセット・モームの「月と六ペンス」。その中で、画を描きながら、放浪を続ける、野獣のようなストリックランドが、こんなことを言う。

「セックスってのは、健全で、健康的なものだ。それは、オレも知っている。だが、恋愛、あれはいかん。狂ってて、まともじゃない。病気だよ、病気」

人間という生き物が、愚かに見えるとすれば、それは、かなりの部分、この病気が原因でしょう。不幸なことに、この病気を治す方法は、新しく病気にかかること、すなわち、新しい恋愛を始めることしかない。

さて、今日は、第三話です。

最初から読みたい方は、ここから、第一話へジャンプできます。

では、スタート!(笑)


第三話

六月に入って、雨模様の日が多くなった。

この頃、サラは、いつも、何となくボーっとしていて、私の話を、上の空で聞いていることが多かった。ただ、たまに、話の流れとは関係ないことを、突然、ぺらぺらとしゃべり出すことがあった。

「肌水」がバックの中でこぼれて、携帯から、ハンカチから、何から何まで肌水の匂いがする。駅前の駐輪場から、時間外に、フェンスを越えて自転車を出そうとして、怪我した。そんな、日常のこまごました出来事を、延々としゃべった。

あるとき、サラから、駅前のT百貨店で働くことになった、と聞かされた。

「若い女の子向けの、婦人服売場なの」
「客に、こんなのお似合いですよ、とか言って、服を売るとか?」
「そう。でも、まだ見習いだから、覚えなきゃいけないことがいっぱい。店には、どういうタイプの服があるとか、揃えてるサイズとか、色とか。あと、生地の種類も、すごく多いの」
「ここ、辞めるの?」
「やめないよ。デパートは六時までだから。その後、ここに来る」

次の木曜日、私は、小さな熊のガラス細工を買って、プレゼント用の包装をして持って行った。

「一応、お祝い。安いけど」

サラは、ちょっと驚いていたが、中味を確認すると、小さく「ありがとう」と言って、無表情にバックにしまい込んだ。まるで、キャッチボールで、ボールを受け取ったような、そんな感じだった。

帰り際に、サラが、今度、ご飯を食べに行きませんか、と言い出した。

「いいよ。店は、どこがいいの?」
「どこでも、いいです」
「同伴ということで?」
「はい」
「じゃあ、来週の木曜は?」
「はい、来週の木曜で」

四月に、サラと会うまでは、指名すら、したことがなかったのに、今では、プレゼントをして、さらに同伴出勤の約束までしている。女の子を、少しでも好きになったら、客は、店の術中に、どんどん嵌っていくということだ。キャバクラというのは、そういうシステムになっているらしい。

しかし、それに気がついても、大抵の場合は、手遅れである。

次の木曜日、私は、サラを、無国籍料理の店に連れていった。照明を落とした、広いホールのような空間に、丸テーブルがいくつも置かれている。エビとカニの料理がメインで、とくに、脱皮直後のカニを、まるごと揚げて、塩で食べる、ソフトクラブシェルの唐揚げは、店のお薦めだった。

席に通されて、サラに、その話をすると、彼女は、こともなげに言った。

「わたし、エビとか、カニ、だめなんです」
「そ、そうなの。でも、ここは、エスニックとか、なんでもあるから」
「そういうのも、だめなんです」

サラは、ひどい偏食だった。エビカニはもちろん、スパイシーはだめ、刺身もだめ。そもそも、肉も魚もあまり好きじゃなくて、サラダならいいけど、シーフードはちょっと。ソフトクラブシェルなんか、論外。この子は、今まで、何を食べて生きてきたのか、真剣に悩むほど、すごい偏食だった。

結局、サラは、チャーハンを注文した。ごはんものは、大丈夫らしい。水を飲みながらチャーハンを食べている前で、カニをバリバリ食べるわけにもいかず、私も、中華焼きそばを頼んで、ビールを一本だけ飲んだ。

間が持たないので、三十分余りで、レストランを出て、歩いて店に向かった。遠くに店が見える頃、サラが話し始めた。

「この前ね、お客さんと、初めて同伴したの。それでね、店に戻る途中、そのひとが、ホテルに行こうって、言い出したの。いやです、って言ったんだけど、聞いてくれなくて。手をつかんで、連れて行こうとするの。だから、怖くなって、手を振りほどいて、走って逃げたの。それで、すぐジンナイさんに電話して。そしたら、お客はいいから、とりあえず、帰って来いって。ずっと、電話、つなぎっぱなしにしてたんだけど、ジンナイさん心配して、店の前で待っててくれたの」
「その客は、どうなったの。そのまま消えた?」
「ううん、後から、店に来たよ。で、同伴ってことで、席に付いたよ。同伴なのに、別々に店に入るなんて、おかしいよね。きゃっ、はっ、はっ」

サラは、すごく楽しそうに笑った。

店でも、サラは、終始機嫌が良かった。店の七夕イベントのために、ウツミくんの運転するマイクロバスで、女の子何人かで、笹を採りに行ったときのことを、とくに嬉しそうに話した。

「笹採ろうとしたら、地元のおじさんがいてね、ウツミくん、ニコニコしながら、こんにちは、ぼくら、東京の女子高のもので、実習で使う笹採りに来たんです、って。でも、帰り際に、どうもお騒がせしました、この子達、専門学校の生徒で、って説明してるの。もう、話変わってるじゃん。だめじゃん。きゃっ、はっ、はっ」

時計を見ると、十一時を回っていた。そろそろ帰ろうと思ったとき、サラが、ぽつりと言った。

「あのね、この前ね」

小さな声で、聞き取れなかった。

「えっ?どうしたの?」

サラは、もう一度、繰り返した。

「あのね、この前ね、仕事上がりで、ジンナイさんと、ファミレスで、ご飯食べたの」
「うん」
「それでね、いつも家まで送ってくれるんだけど、ジンナイさん、おれの家に来ないかって。ジンナイさん、アパートでひとり暮らしなの」
「・・・・」
「ついて行ったの。そしたら、部屋で、抱きしめられて」
「・・・・」
「わたし、そういうのいやです、って言ったの。ちゃんと、付き合ってからじゃないと、いやですって。そしたら、おれだって、ちゃんと付き合いたいけど、立場上、付き合えないのは、お前も分かってるだろう、って」
「・・・・」
「でも、おれの気持ちは、分かるだろう。おれだって、お前の担当じゃなかったら、ちゃんと付き合いたいんだよ、って」
「・・・・」
「わたしね、ジンナイさんのこと、すごく好きなの。好きだからね、好きだからね、ちゃんとしたかったの。でもね、そうやって、好きなひとに言われたらね、それ以上、抵抗するのは、ダメなの。無理なの」

サラは、不安そうな目で、私を見ていた。それは、怯える小動物のような目だった。その後、私が、サラに、何を言ったのか、よく覚えていない。会計を頼むと、ジンナイが、席にやって来て、金額の書かれた、小さな紙を見せた。

「二万六千三百円になります」

鉛筆で書かれたその文字は、今でも、記憶に焼き付いている。

第四話へつづく


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池袋のサラ ~ キャバクラ外伝第二話

2008-01-21 18:56:02 | 小説
今日は、第二話です。

最初から読みたい方は、ここから、第一話へジャンプできます。

では、はじまりー、はじまりー。


第二話

それ以来、毎週木曜日に、店に行くようになった。話をするにつれ、少しずつ、サラのことが分かってきた。

高校は、都内の女子校で、服装やら、化粧やら、とにかく規則が厳しかった。とくに、出席に関しては、めちゃくちゃに厳しい。休むと、先生が、家までやって来るくらい厳しい。

だから、死にかけるくらい調子が悪くても、這ってでも学校に行った。お陰で、三年間、ほとんど、無遅刻無欠席。その反動なのか、授業中はよく寝ていて、勉強は大嫌いだった。

もっとも、出席して、規則さえ守っていれば、成績が悪くても、先生は、怒らなかったそうだ。

まるで、就業規則だけは守るが、仕事はしない、たちの悪い公務員のような生き方を、生徒に、薦めているみたいだ。

サラの化粧や、髪型、雰囲気がキャバクラっぽくなかったのは、校則を守ったまま、店に出ていたからだった。

しかし、卒業する前から、なぜキャバクラで働こうと思ったのか、その辺は、よく分からない。それで、サラに聞いてみた。

「なんか、やりたいこととか、目指してる職業とか、あるの?」
「専門学校に行こうかなと、思ってるの」
「どういう専門学校?」
「んー、音楽か、体育の専門学校がいいなあ」
「体育?そんな学校あるの?」
「あるよ、多分。で、音楽関係の仕事に就くか、体育の先生になりたい。でも、学校行くには、お金が要るから。いま貯めてる最中かな」
「じゃあ、趣味とか、好きなこととか、ある?」
「香水集めるの、好きだよ。いっぱい持ってるの、家の部屋に飾ってて」

しかし、サラは、まったく香水をつけていなかった。そのことを指摘すると、怪訝そうな顔をした。

「つけないよ。とくに、ここでは。香水集めるの、遊びだから。仕事じゃないから」

五月に入って、暑い日が続いた。その木曜日も、駅から店まで、十分ちょっと歩くだけで、夜なのに、汗ばむほどの陽気だった。

喉が乾いたので、サラに、バドワイザーを注文して貰った。背の高い、ひょろっとした感じの黒服が、ビールとグラスを持って来た。

ところが、栓抜きがない。サラも気が付いて、その黒服の方を見ながら、右手を胸の前で、小さく動かしている。黒服は、不思議そうにサラを見ていたが、別のテーブルに呼ばれて、居なくなってしまった。

それは、ビールの栓を抜く仕草のつもりらしい。なおも、手を動かしていると、通りかかった、中肉中背の別の黒服が、サラを見て、すぐに栓抜きを持ってきた。

「やっぱり、ジンナイさんじゃないと、だめね。ウツミくん、使えない」

サラは、私に聞かせる風でもなく、独り呟いた。その日は、途中で、サラに指名が入って、代わりに、クミコという子が、席に来た。

「お客さん、いつもサラを指名してるひとでしょ?私ね、サラちゃんと、仲良しなの」

クミコは、二十二、三歳くらいの感じで、サラより、明らかに年上だった。サラの独り言が気になったので、クミコに聞いてみた。

「ジンナイって、どういうひとなの?」
「ジンナイさんは、サラの担当さん。私の担当も、ジンナイさん」
「ウツミくん、というのは?」
「ウツミくんは、また別の担当さん。でも、ジンナイさんの方が、人気があるの。仕事が出来るし、かっこいいし。ヨーコとか、担当、ウツミくんだけど、ジンナイさんに変わって欲しいって、いつも言ってる。ウツミくん、いいひとなんだけど、ちょっと抜けてるのよね。お酒、薄目がいいですか?」

クミコの話によると、十人から十五人くらいの女の子を、一人の黒服が担当していて、出欠の確認とか、店からの連絡とか、注意とか、アドバイスとか。直接の上司というか、世話係みたいな存在らしい。人気のジンナイは、歳は二十五、六で、確かに、かなりのイケメンだった。

三十分ほどして、サラが戻ってきた。

「ジンナイって、サラちゃんの担当なんだ」
「そうそう。そうなの。ジンナイさんって面白いんだよ。この前ね、仕事上がりで、ジンナイさんと、ファミレス行ったの。そしたら、ジンナイさん、回りの知らないお客さんに、こんにちは、暑いですねー、って、平気で話しかけるの。相手も、びっくりしちゃうよね。ジンナイさん、沖縄出身って言ってたけど、沖縄のひとってみんなそうなのかな。そんなわけないよね。きゃっ、はっ、はっ」

帰るとき、店の前まで、見送りに出たサラが、空を見て言った。

「あっ、雨が降りそう。傘、大丈夫?」

雨はすぐに降り出した。カバンを頭に載っけて、駅まで走った。夜の街は、突然の雨で、ひとびとが右往左往していた。

第三話へつづく

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池袋のサラ ~ キャバクラ外伝第一話

2008-01-20 15:20:24 | 小説
今回は、小説です。

キャバクラを舞台にした、ちょっとした物語です。全六話の予定で、ジャンルは不明ですが、おそらく、恋愛ものではないと思います(笑)。

では、はじまりー、はじまりー。


第一話

今から十年以上前、まだ肌寒い四月初旬。その日は木曜日で、仕事が、早く終わる日だった。すぐ帰るのもつまらない。乗換駅の池袋で降りて、街をぶらぶら散歩してみた。

ショットバーに入ろうか、迷ったが、カップルに囲まれて、カウンターで一人も、落ち着かない気がした。

交差点を渡ったとき、すぐ先に、キャバクラがあるのを思い出した。地下一階にある、こじんまりした店で、二回ほど行ったことがある。割と安かったはずだ。

入り口に立っていた黒服に案内されて、店に入った。テーブルとソファーが雑然と配置されていて、薄暗く、無愛想な造りだった。

席に着くと、一人の女の子がやって来た。色白で、ほっそりしている。大きな黒い瞳とセミロングの黒髪が印象的だった。あっさりした化粧で、キャバクラ嬢のイメージとは、かけ離れていた。

「いらっしゃいませ。サラといいます」

隣に座るなり、サラは、機械仕掛けの人形みたいに、しゃべり始めた。

「高校を卒業したばかりで、今日初めて、お客さんにつきます。本当は、二月から、店で働いていました。でも、高校生は、接客が出来ないので、外でビラを配ってました。外と違って、中は、暖かいから好きです。でも、やり方が、なにも分からなくて、大変です」

実際、サラは、なにも知らなかった。

その店では、客がトイレから帰ってくると、女の子が、おしぼりを渡してくれる。しかし、戻ってみると、サラは、おしぼりで、自分の手を懸命に拭いていた。それは、客に渡すんだよ、と言うと、目を丸くして、私の顔をまじまじと見つめた。

「ごめんなさい。すいません。ごめんなさい。黒服のひとから、おしぼり渡されたんですが、意味が分からなくて。とりあえず、自分の手を拭いてました」

思わず笑うと、サラも、つられて笑った。

作る水割りも、びっくりするほど、濃い。サラちゃん、これじゃ飲めないよ、と言うと、すいません、すいません、ってひたすら謝ってる。万事この調子で、客として入ったはずなのに、サラに、キャバクラのレクチャーをするはめになっていた。

しかし、なんだか、ひどく楽しかった。サラと一緒にいると、周りにある、テーブルも、グラスも、ブランデーの瓶も、コースターも、ハンカチも、鮮やかに浮き出て見えた。暗い店内で、サラの場所だけ、光が当たっているようだった。

サラを見ていて、ふと思った。綺麗な黒髪なので、ストレートにしたら、もっと似合うんじゃないか。ほろ酔い気分にまかせて、そのことを言ったら、サラは、はい、はい、そうですね、と何度も、うなずいた。

結局、その日は、十一時くらいまで飲んだ。帰り際、木曜は、必ず、店に出ています、とサラが言った。じゃあ、また来週来るよ、言葉が、つい口から出た。

約束通り、次の木曜日、店に行って、サラを指名した。キャバクラで指名したのは、初めてだった。席に着くと、すぐにサラがやって来た。

髪が、ストレートになっていた。

「似合いますか?」

入社面接で、試験官を見るような目で、私を見ながら、サラが尋ねた。

ストレートの黒髪が、色白の肌に映えて、とても綺麗だった。少し、胸が熱くなった。

第二話へつづく

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ケンタッキーとバーミヤン、そして吉野家

2008-01-19 21:31:06 | 政治
例のゴキブリ騒動以降、ケンタッキーとバーミヤンは、食べなくなった。気持ち悪いという以上に、それぞれの会社の対応が、「そんなことは、あり得ない」の一点張りだったのが、一番大きい。

客には見えない部分だけに、厨房の衛生状態というのは、常に気をつけていないと、悪化するおそれがあるのは、誰でも知ってることである。だからこそ、ネットで、ゴキブリの話が流れたとき、多くのひとが、「そういうことも、あるかもしれない」と考えて、大騒ぎになった。

しかるに、会社側は、ろくに調べもしないで、それを無視、あるいは全面否定。さらに、デマを流されて、自分たちこそ、被害者だと言わんばかりの態度だった。

仮に、ゴキブリの話が本当でも、きちっと調べて、関係者を処分して、社長が謝罪して、今後の防止策を発表すれば、もっと気持ちが違ったと思う。

ネットを見て、お客が不安をもっているのに、その問題に正面から向き合わない。そんな会社の作る商品を、信頼できるだろうか?

先日、池袋の街を歩いていて、偶然、吉野家の前を通った。ふと、牛丼が食べたくなって、店に入ってみた。吉野家に行くのは、十年ぶり以上である。

吉野家は、店員が、デカ盛りの悪ふざけをした問題で、きちっとした調査を行い、責任を持って対処した。消費者から見て、納得のできる対応である。

デカ盛り騒動がなければ、そのとき吉野家には、入らなかっただろう。

ピンチは、対応次第で、チャンスになる。逆に、小さな問題に思えても、対応を誤ると、大きなイメージダウンを招いてしまう。

消費者が注目するのは、問題そのものではなく、その後の対応であることを、企業トップは、肝に銘じた方がいい。

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AKB48の大島麻衣とジョニー・デップ

2008-01-18 19:16:45 | 芸能
二十歳の女の子が、スカートから出た脚を、オジサンにジロジロ見られたら、嫌な気がするのは分かる。でも、プロのアイドルが、テレビのトークショーで、こういう話をするときは、言い方を工夫した方がいい。

わざわざ近寄ってきて、ぶしつけに、じっとり見てくる奴は、腹が立つけど、知らんふりしながら、遠慮がちに、チラっと見るひとは、ちょっと可愛い、とか。本心では、「オジサンは、みんなイヤラシイ」と思ってても、嘘でも、一言加えないと(笑)。

そうすれば、多くの「オジサン」視聴者は、「オレは、そこまではやらないよ」と考えて、もう少し、余裕を持って番組を見たと思う。

今回の発言は、大島麻衣が、自分から言い出したというより、「オジサンズイレブン」の番組スタッフが、視聴率アップのために、スパイスの利いた主張を、彼女に求めた可能性が高い。テリー伊藤と、ひと悶着あるようなやつを(笑)。

若槻千夏くらいのトーク力があれば、笑いを取りつつ、喧嘩しつつ、最後は、気分よく終わる、ってな芸当が出来たはずだけど、大島麻衣には、荷が重すぎた。男性ファンを本気で怒らせてしまっては、話にならない。その意味で、この役は、無茶振りだったと思う(笑)。

しかし、AKB48の事務所は、大島麻衣のブログ炎上という事態を、過小評価しない方がいい。

安室奈美恵や、倖田來未は、テレビ番組で、「手や脚を見られたくない」とは、言わない。彼女たちは、美しい肢体による、シャープなダンスが、ファンを魅了する要素の一つであることを、理解している。AKB48も、ミニスカートから出た脚を、一つの魅力として、ステージを作っている。メンバーの女の子たちが、観客の視線に嫌悪を感じていると、ファンが誤解すると、足が遠のくかもしれない。

さらに、AKB48にとって、オジサンファンは、間違いなく、気前の良い、お得意様である。彼らを不愉快にさせると、売り上げ減少につながる危険性がある。

ファンというのは、何を言っても受け入れてくれる、お兄さんやお父さんではない。お金を出す代わりに、色んなものを要求してくる、シビアな顧客である。しかし、そのファンが、自分たちを支えてくれているのも、紛れもない事実である。

「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」の宣伝のため、来日しているジョニー・デップは、こう言っている。

私のファンは、私のクライアントである。彼らがいるおかげで、私は仕事を続けていける。

出演したテレビ番組の中で、自分のクライアントを、「痴漢」呼ばわりするプロはいない。今後も、仕事を続けたければ、大島麻衣と、AKB48の事務所は、ハリウッド俳優の、この言葉をかみしめましょう。


アイドルに関して、以下のような、ブログを書いています。よろしければ、ご覧になって下さい。

モーニング娘。その傾向と対策 ~ 第一部


モーニング娘。その傾向と対策 ~ 第二部


モーニング娘。その傾向と対策 ~ 第三部


浦浜アリサとナボコフの「ロリータ」




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クジラの肉は安全なのか?

2008-01-17 17:39:15 | 政治
クジラの肉を調べたら、ダイオキシンなどの有害物質が、高濃度で検出された、という報道が、何年か前にあった。続報がないので、詳細は分からないが、食物連鎖の頂点に立つクジラが、海に流れこんだ汚染物質を、体内に蓄積・濃縮しているというのは、科学的に筋の通った話である。

最近は、スーパーでも、鯨肉を見かけるほど、クジラの国内供給量が増えている。浅草には、クジラ料理専門店が、新規オープンしたと聞いたし、学校給食に、クジラ肉を復活させる計画もあるらしい。

しかし、肝心の安全性に関しては、何の情報も伝わってこない。

南極海では、日本の調査捕鯨船が、環境保護団体 Sea Shepherd のメンバーに乗り込まれて、大騒ぎしている。オーストラリアの裁判所が、その地域での調査捕鯨を、違法であると判断したことが、きっかけになったらしい。

オーストラリアの領海問題、南極の資源保護、地元の反捕鯨感情などが絡み合って、外交問題にまで発展している。

だが、今や、捕鯨の一番の問題は、「クジラの肉は食べられるのか?」という点にある。食用に適さないほど、汚染が進んでいるのだとすれば、クジラを捕る意味がない。そして、それは、マグロなどの大型魚をはじめとして、多くの魚貝類が、かなりの程度、汚染されていることを意味する。

海洋汚染によって、海産物が食べられなくなるかもしれない。深刻な食糧及び環境問題である。政府は、一刻も早く、鯨肉汚染の調査に乗り出して、結果を公表するべきである。

調査捕鯨なのに、汚染の「調査」をしないで、危険な鯨肉を、市場にたれ流す。政府は見て見ぬふりをして、業者が大儲けする。給食で、それを食べた子供たちは、ダイオキシンなどを、知らない内に、体に蓄積していく。社会問題化したときには、官僚たちは、定年退職して、責任を問われない。

薬害エイズ、薬害肝炎と同じ、悪魔のシナリオだ。

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