ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

島根・女子大生殺人事件 ~ 過去のバラバラ事件を調べると

2009-11-28 23:10:24 | 事件
島根で19歳の女子大生が巻き込まれた事件は、遺体の損壊状況など、その異常性から、社会に衝撃を与えている。

事件のニュースに接する度、人を殺した上に、遺体を無残に損壊して、あちこちに遺棄する人間とは、一体どういう奴なんだろうと、疑問が強く沸き起こってくる。

それは男なのか、女なのか?年齢は?動機は?共感力の極端な欠如は、どこから来るのか?

疑問だらけである。

何かヒントでも見つかるのではと思い、日本で、戦後に発生したバラバラ殺人事件について、すでに解決済みで、犯人の年齢や動機などの詳細が判明しているものを、ネットなどで調べてみた。

その結果、全部で51件の事件を蒐集することが出来た。これらの事件について、いくつかの点について、少し分析してみたい。

まず、犯人の人数・男女別だが、一番多かったのは男の単独犯である。51件中33件で全体の65%を占めている。次に多いのが女の単独犯。7件、14%だった。単独での犯行が全体の8割近くに達している。

残りの11件は、複数犯であるが、男1人女1人のペアでの犯行が7件もあった。単独犯と併せると、ここで9割を超えている。最後に少数のケースだが、女2人が2件、男1人女2人が1件、男3人が1件あった。

つまり、バラバラ殺人事件は、男の単独犯が圧倒的に多く、そうでなければ、ほとんどの場合、女の単独犯か男女ペアの複数犯であるようだ。

意外だったのは、男だけの複数犯が少ないことである。すべてのバラバラ事件を調べたわけではないし、未解決事件は数に入っていないので、強くは言えないが、男だけのグループは、殺害後、遺体をバラバラにするという選択肢は、取らない傾向にあるのかもしれない。

ここまでは、被害者の年齢や犯人の動機などを絞らない、バラバラ事件全体の話である。

一方、今回の島根の事件では、被害者は19歳の女性である。そこで、15歳から25歳までの女性が被害者である事件をピックアップしてみた。

すると、11件がそれに該当した。

犯人構成は、10件が男の単独犯で、1件が女の単独犯。

女による事件は、2001年、埼玉県で、23歳の女性看護師が、親友の同僚看護師を殺害したもので、交際中の男性が、被害者と仲良くなったことが、発端とされている。

さて、若い女性が被害者となった、この11件のうち、わいせつ目的で、犯人が被害者に近づいたケースは6件。この6人の犯人のうち、3人が30歳代、2人が40歳代、そして50歳代が1人である。

また、40歳以上の3人は、すべて、連続殺人を犯したか、もしくは、その疑いが強く持たれている。

一方、わいせつ目的以外の動機で事件が起こっているのは、上に挙げた埼玉の看護師事件を含めて5件あるが、このうち4人が20歳代で、残りの1人は40歳代である。

つまり、若い女性が被害者となったバラバラ事件では、動機がわいせつ行為である場合は、30歳代から50歳代の男の単独犯、動機がわいせつ以外であれば、20歳代の男もしくは女の単独犯という図式になっている。

事件の数が少ないので、たまたま、そういう図式になった可能性もあるが、少なくとも、年齢が高いから凶悪なわいせつ事件は起こさない、というのは誤りのようだ。

次に、被害者と犯人の関係性だが、わいせつ目的の6件と非わいせつ型の5件では、明らかに異なっている。

非わいせつ型の事件では、犯人は被害者の親友、兄、夫などで、両者の間に、濃厚な人間関係が存在している。また、動機は、恋愛をめぐるトラブル、家族間の確執、夫婦間の金銭トラブルなどだが、両者の不仲は、すでに顕在化していることが多く、被害者の身元が判明すれば、犯人特定は容易である傾向がある。

ただ、1件だけ、毛色の違う事件がある。1954年、埼玉県で、19歳の女性が29歳の男に殺された事件である。この犯人は、自分を振った元恋人を追いかけて各地を転々とするストーカーだったが、たまたま見かけた無関係な被害女性を、元恋人と思い込み、犯行に及んでいる。つまり、人違い殺人で、被害者と犯人は、赤の他人である。ただ、この事件は、ストーカーがバラバラ殺人を引き起こす可能性があることを示している。

一方、わいせつ目的の事件では、犯人と被害者は、初対面かそれに近い。かりに面識があっても、同じマンションに住む隣人であったり、客とホステスであったりと、関係性が希薄である。そのため、初動捜査で犯人の目星がつかなければ、事件が長期化する可能性がある。

今回の島根の事件では、被害者である女子大生が、恋愛、友人関係などで、深刻なトラブルを抱えていたという話は出ていない。警察は交友関係を調べたが、不審な人物はいなかったという報道もある。

また、犯人に結びつくような有力情報は、未だに得られておらず、警察の捜査は足踏み状態にも見える。

こういった状況の影響だと考えられるが、被害者とはあまり関係のない人物による、わいせつ目的の犯行という見方が、一般に広まりつつある。

でも、本当に、そうなんだろうか?

恋愛や友人にまつわる情報は、故人のプライバシーに深く関わるので、かりにトラブルがあっても、確実に事件と結びつくのでなければ、警察は公にしないだろう。また、ストーカーの場合は、本人も周囲も気付かないまま、思いをこじらせていることもあり得る。

さらに、この事件は、発生してからまだ一カ月程度で、捜査が長期化しているとも言えない。

従って、わいせつ目的の犯行か、それとも、それ以外の動機なのか、現時点では判断しようがない。何といっても、若い女性が被害者となった過去のバラバラ殺人は、そのほぼ半分が、非わいせつ型の事件である。

しかし、わいせつ目的から、さらに踏み込んで、若い男による単独の犯行、もしくは若者グループによる犯行と推測する声も多い。

この推測も、あり得ないとは言えないし、それで決まりとも言えない。過去の例を見ると、40歳代、50歳代の男が、わいせつ目的で凶悪なバラバラ殺人事件を起こしているし、男だけの複数犯というのは、すべてのバラバラ事件を見渡しても、なかなか見当たらない。

一つ言えることは、今の段階で「わいせつ」「若い男」という先入観を持つのは危険ということだ。もし、不審な現場を目撃しても、そこに居たのが年配の男や若い女だったという理由で、今回の事件と切り離して考えるのは、早計かもしれない。過去の事件は、「中年男」も「若い女」も、あり得ることを示している。


1997年、神戸で、連続児童殺傷事件が発生した。いわゆる酒鬼薔薇事件である。あの当時、犯人は、がっしりした体格の30歳代から40歳代の男で、遺体は車で運ばれたというイメージが、広く流布した。

その結果、警察へ提供される情報は、30歳代、40歳代の不審人物と不審車両に関するものであふれかえり、犯人の似顔絵と称するものまで、出回った。

しかし、結局、犯人は14歳の中学三年生で、犯行には、ママチャリ、つまり自転車が使われていた。


そもそも11歳の男の子を殺して、その首を中学校の正門に置く人間の人物像など、誰にも分かるわけがなかった。同種の事件など、まず存在しないからである。

しかし、当時は、恐怖と緊張から、何とか犯人像に迫りたいという社会的欲求が際限なく膨らんでいた。そして、それに応えるように、架空の犯人像が独り歩きしていった。

過去の事件を調べる最大の利点は、犯人像は、そう簡単に絞り込めるものではないという事実に、気づくことかもしれない。

<参考にしたサイト>
「戦後の主なバラバラ殺人事件」

<関連ブログ>
島根・女子大生殺人事件 ~ 過去のバラバラ事件を調べると
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その1
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その2
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その3
島根・女子大生殺人事件 ~ 公式プロファイリングが意味するもの



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