ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

放射線による発がんリスクの個人差

2011-04-28 14:35:15 | 原発事故
福島第一原発の事故以来、放射線がどの程度危険なものか、メディアで連日のように取り上げられている。

何ミリシーベルトまでなら浴びてよいのか、汚染された野菜や水道水を口にしてもいいのか。テレビに登場する専門家は「この程度なら大丈夫」と安全を強調することが多い。

曰く、低レベルの線量であれば、被ばくしても発がんの危険性はほとんど上がらない。

しかし、こういった話を聞いて気になるのは、発がんリスクの個人差が無視されていることである。

何ミリシーベルトで発がんリスクが何パーセント上昇する、というのは社会全体を見た統計的な数字である。がん患者がそのパーセントだけ増えるということで、平均的な発がん確率の話である。

放射線を浴びて、まさにこの自分ががんになる確率のことではない。

放射線以外の発がん刺激を考えると、体質的に放射線に弱い人と強い人がいてもおかしくない。そして、もし自分が弱い体質であれば、がんを発症する確率は統計的な数字よりもずっと高くなる。

例えば、喫煙は肺がんリスクを高めるが、ある人は毎日何本も吸うヘビースモーカーなのに肺がんにならず、ある人は一切吸わないのに副流煙でがんになってしまうことがある。

明らかに、喫煙という発がん刺激に対して、体質的に強い人と弱い人がいる。

さらに顕著な例として、色素性乾皮症(XP)という病気がある。

紫外線も発がん刺激の一つであるが、真夏の海水浴に行っても、ほとんどの人は皮膚がんにならない。しかし、XPの方は紫外線によるDNA損傷を修復する機構が弱く、少しの紫外線でも皮膚がんのリスクが高まってしまう。そのため、出来るだけ日光を浴びないという生活を送る必要がある。

社会全体で見ると、日常生活で浴びる程度の紫外線なら、皮膚がんになるリスクの上昇は微々たるもので、まったく安全と言ってもよい。しかし、XPの方にとっては、同じレベルの紫外線でもリスクは極めて高くなり、非常に危険である。

放射線もDNAを損傷するが、その修復機構の強さにも個人差がある。また、がん化した細胞を攻撃する免疫系の強さも人によって異なる。さらに、遺伝あるいは生活習慣から、もともとDNAの損傷程度が大きい人もいれば小さい人もいる。

従って、低線量の放射線、とくに内部被ばくによる発がんリスクが個人個人で異なるというのは、間違いなくあるはずなのだが、現在のところはっきりしているのは、小さな子供は弱いということだけである。

放射線感受性にどの程度の個人差があるのか、特定の生活習慣、特定の病気でとくに注意すべきものがあるのか、そういったことはほとんど分かっていないと思う。

そして勿論、自分や自分の家族がどういう体質なのかを知る術も、現在のところはない。

今回の日本のように、数千万の人が相当程度の放射線を浴びるのは史上初めての事態で、過去の事例から今後我々一人ひとりに何が起るかを推測するには、規模と多様性が大きすぎる。

そのため、政府や専門家が提示する「安全なライン」は、一つの参考意見として捉えた方がよいと思う。少なくとも、彼らが語っているのは社会全体の安全であって、テレビの前に居る「あなた」の安全ではない。

やはり「放射線は出来るだけ浴びない方がいいし、汚染された食物は出来るだけ食べない方がいい」ということが、多くの人にお勧めできる考え方である。

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まずは放射性汚染水の発生ルートを調査すべき

2011-04-27 11:41:27 | 原発事故
2号機のタービン建屋地下と立て坑にある高濃度汚染水は、数日前から始まった集中廃棄物処理施設への移送作業が難航している。汲めども汲めども水位が下がらないらしい。

保安院と東京電力は地下水が流れ込んでいる可能性を示しているが、それを証明する調査は行っていない。

また、4号機タービン建屋地下のたまり水は、1ヶ月前と比べて放射性物質の濃度が250倍に跳ね上がっていたが、政府・東電は3号機タービン建屋からの流入を示唆するだけで、裏付け調査をしていない。

加えて、4号機の原子炉建屋地下は5メートルもの深さで水没していることが判明したが、この水の出所を曖昧にしているうちに、建屋上階にある核燃料貯蔵プールから水が漏れていることが分かってきた。

さらに、1号機タービン建屋にも汚染水が存在し、1号機原子炉からの漏出が強く疑われているのに、さしたる調査もないまま、格納容器に大量の水を注入する「水棺」作業が進んでいる。

例えば、1号機へ注入する水に、蛍光物質など何らかのマーカーを入れておけば、その水が1号機タービン建屋に出ているかどうかは調べることが出来るだろう。他の原子炉への注入水にもそれぞれ異なるマーカーを入れれば、どの注入水がどの汚染水となっているのか一種の「流出マップ」を作れるのではないか。

そして、地下水や海水に関しても同様の調査を行い、タービン建屋のたまり水を中心に、放射性汚染水の動きの全体像を掴むよう努力すべきである。仮にそれが難しい調査であっても、まず第一に行わなければ、今後の予定など立つはずもない。

しかし、政府・東電はこういった必須の予備調査をしないままに、汚染水の排水作業や原子炉の「水棺」化を工程表通りに進めようとしている。

次から次へと「想定外」の事態が起るのは当たり前である。

保安院は東電に対して、地震・津波発生直後の計測データを「回収」して提出するよう求めたというニュースが入ってきた。

「今まで何をやってたんだ?」という言葉しか出てこない。

地震発生から数時間のデータは、現在原子炉で何が起こっているかを解明する切り札と言っても良い。このデータは、汚染水の流出箇所特定にも、何らかのヒントを与えるかもしれない。

これほど貴重なデータを今まで放置していたのだとすれば、保安院の官僚と東電の幹部は、開いた口が塞がらないほど「無能」と言わざるを得ない。

あるいは、もし何かの意図を持ってデータを「隠蔽」していたのであれば、目を剥くほど「悪質」である。

いづれにしても、原発事故を収束させるには、彼らから指揮権を取り上げるのが一番の早道かもしれない。

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「水棺」というほど穏やかではない

2011-04-26 14:22:45 | 原発事故
福島第一原発1号機で、原子炉格納容器を水で満たす「水棺」作業が進んでいる。

圧力容器にまで水が入り込めば、炉内の温度が下がって一息つけるかもしれない。イメージとしては、グラグラ沸騰する鍋のお湯に、大量の水を入れて冷やすようなものである。

しかし、この作業が成功したとしても、それで目出度しというわけにはいかない。

一時的に温度が下がっても、燃料棒が発する熱量が減少したわけではない。上の喩えで言えば、鍋を置いているコンロの火が消えたわけではない。当然、そのまま放置すれば、格納容器の水まで温度上昇を始めるので、外部からの注水はこれまで通り続けなければならない。

むしろ、水の量が増えた分、温度を下げるのは今まで以上に難しくなるので、さらに厳密な温度管理が必要になるだろう。

また、「水棺」によって、原子炉全体の重量が大きくなったことも心配な点だ。水の重みで格納容器がダメージを受ける可能性は排除できない。さらに、原子炉を支えている基盤構造が地震で破損する危険も大きくなってくる。

政府・東京電力は、数ヶ月のうちに循環式冷却装置を外部に取り付けて、100度以下を連続的に保持する冷温停止状態にもっていくとしている。冷却システムが上手く完成するかどうか自体、大きな賭けのようなものであるが、かりに成功したとしても、冷やす相手は無傷の原子炉に入った無傷の燃料棒ではない。

水素爆発で大破した脆弱な建物のなかに、水の注入で巨大重量に膨れ上がった原子炉が存在し、その中心に溶融した燃料棒が何本も入っている。大きな余震がいつ起るとも分からない状況下で、その燃料棒を何年にも渡って外部ポンプで冷やし続ける。

「水棺」という言葉は「静かに眠りについた原子炉」といった印象を与えるが、それとは程遠い代物だ。

これほど危険な構造物に「水棺」という名前が付いているのは、笑えない皮肉である。

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そんな試合を見たかったんじゃない

2011-04-25 02:56:32 | 野球
プロ野球が「プロ」スポーツであるならば、お金を払って球場に来てくれるファンが満足するプレーや試合を見せる努力をするのは当然のことである。

では、落球を捕球と見せかけてアウトにするプレーを見て、何人のファンが喜ぶだろう?

そのプレーで勝敗が決したゲームを見て、何人のファンが「お金を払ってよかった」と満足して帰るだろうか?

巨人・脇谷選手の落球・誤審がこれほど騒がれるのは、そのプレーや試合を見て、「こんなものを見たかったんじゃない」と思った人が多かったからに他ならない。

「勝負事ですからね。 まず、落としましたと言う人はいません」

日本ハムのダルビッシュ投手が自身のツイッターで囁いたとされる言葉であるが、今のプロ野球界の「常識」をよく言い表している。脇谷選手のアピールプレーも審判の誤審も「許容範囲内」であり、だからこそ、日本プロ野球機構もコミッショナーも、この件に関してコメントすら出さない。

しかし、野球関係者のこういった「常識」は、真剣勝負を期待している多くの野球ファンの気持ちを完全に裏切っている。

しかも「勝負事」を続けていけるのは、他でもないそのファンがお金を払って支えてくれているからだという事実を、「プロ」であるにも関わらず無視している。

誤魔化しのプレーとそれを見抜けない誤審で勝敗が決まったのに、ほとんどのプロ野球関係者は暗にそれを許容して、何一つ改革しようとしない。これほど「低レベルな試合」を客に見せておいて、自分たちはプロであると嘯いている。

セリーグの開幕問題以来、日本社会がプロ野球を見る目はいつになく厳しい。ファンが望むものすら分からなくなっているプロ野球は、今後さらに厳しい立場に陥るかもしれない。

プロ野球のそういう姿は、決して見たくない。

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脇谷選手の落球・誤審はプロ野球の試金石

2011-04-22 11:02:49 | 野球
脇谷選手のあのプレー(4月20日阪神・巨人戦7回裏二死)は、今のプロ野球の常識からすれば、一種の「許容範囲内」であり、同じ場面に立てば、他の選手も多くが同じことをしただろうと思う。

こういう審判へのアピールはプロとして「巧みな」技術であり、チームを勝利に導いたのだから、むしろ賞賛されるべきプレーとすら言えるかもしれない。

だからこそ、脇谷選手も試合後に開き直りともとれる強気のコメントをしたのだろう。

しかし、これは「プロ野球業界」という小さな世界の「業界内常識」に過ぎない。

やはり、アウトやセーフを誤魔化した選手は厳しく批判されるべきだし、それを見抜けず誤審した審判は相応の処分を受けるべきである。

どう考えても、それがあるべき本当の姿というものだ。

だが、当たり前の主張が通用しない「プロ野球村」がこのまま「業界内常識」を放置し続ければ、プロ野球はますます一般社会からかけ離れた世界になっていく危険がある。そして、大相撲のように、ついには社会から完全に遊離して、見放されてしまうかもしれない。

人気低迷にあえぐプロ野球が、今まで野球に興味を持たなかった人たち、とりわけ子供たちにアピールするためにも、今のプロ野球が暗に認めてしまっている悪習を、自ら正していく必要がある。

ゴルフというスポーツは、すべてが自己申告制である。こっそりボールを動かしたり、スコアを誤魔化すと、厳しい処分が待っている。いかにも「紳士」たることを重んじる英国発祥のスポーツらしいが、ゴルフが世界的なスポーツに発展した背景に、ルールを重んじる厳格な姿勢が存在したことは間違いない。

実際、審判員の目を誤魔化して、スコアを稼ぐプロゴルファーというのは聞いたことがない。

ゴルフと野球は違うのだという意見もある。しかし、誤魔化しがまかり通るスポーツというのは、いずれ衰退していく気がしてならない。

かつて「選手は紳士たれ」と言っていたのは、確か、脇谷選手が所属するチームの偉い人だった気がする。あまりに遠い昔のことなのでよく分からないが(笑)。
コメント (1)
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「想定内の地震」で破損の可能性

2011-04-21 11:55:58 | 原発事故
福島第一原発事故の大きな特徴は、原子炉建屋内に大量の水素が溜まって爆発したことである。しかし、原子炉や配管系に損傷が無ければ、燃料棒がむき出しになって水素が発生しても、これほど多量に外部に漏れだす可能性は低いはずだ。

例えば、1979年のスリーマイル島原発事故でも水素が発生したが、ほとんどが原子炉格納容器内にとどまり、建屋が吹き飛ぶことはなかった。

原子炉を停止中の4号機で、プールに一時保管していた核燃料が原因と見られる水素爆発が起こるのは3月15日。地震発生の4日後だが、この時点で1号機と3号機はすでに建屋の爆発を起こしている。少なくともこの二つの爆発については、使用済み核燃料の貯蔵プール以外、つまり原子炉から水素が漏れ出た可能性が高い。

とくに、1号機に関しては、地震が発生した3月11日夜から12日未明にかけて、圧力容器内の水位が急速に減少する一方、圧力が激減しているデータがある。これは原子炉本体の地震による損傷をダイレクトに示唆している。

また、1号機から3号機の事故経緯が、それぞれ大きく異なっていることも注目すべき点である。津波によって冷却ポンプを動かす電源が喪失しただけであれば、同じような構造を持った機械系なのだから、その後、似たような事故経過を辿るはずである。これほどの相違が出るのは、地震による損傷具合が各機まちまちだったからとするのは、自然な考え方である。

2時46分の巨大地震とその後ほとんど絶え間なく続いた余震によって、原子炉やパイプ・バルブ系が損傷し、大量の水素が漏れ出てしまった。これは、今後の事故原因調査でまず一番に検証するべき説である。

というのも、もしこの説が正しければ、現在稼働中のすべての原発について、耐震設計を見直す必要があるからだ。

東京電力の清水正孝社長は参議院の予算委員会で証言し、「想定外の津波」による事故であることを強調した。しかし、3月11日に福島第一原発で何が起こったのか、地震による被害、津波による被害はそれぞれ何だったのか、現段階では「分からない」という他ない。

「津波被害を受けなかった福島第二原発や女川原発は何事もなかったではないか」という意見もあるが、同じ大きさの地震でも、建っている場所によって揺れの質が違ってくるのは不思議なことではない。第二や女川が大丈夫だったから第一も壊れなかったはずというのは、粗雑な議論と言わざるを得ない。

「原発は地震ではびくともせず、その後の想定外の巨大津波で今回の事故が起こった」というのは、東電にとって最も有り難い仮説であるが、それを支持する根拠は日に日に弱まっている。

少なくとも、本格的な事故原因の調査が始まる前に、事故を起こした会社のトップが「想定外の津波」を強調するのは、責任逃れにしか聞こえない。

そもそも「想定していた津波」が妥当だったかどうかも含めて、検証が始まるのはこれからである。

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真夏の工事現場横の「自販機」は浪費なのか

2011-04-20 14:44:31 | 政治
石原都知事はどうしても自動販売機を止めたいらしい。自販機を「完全な浪費」であるとして、攻撃し続けている。

だが、真夏の日中に屋外で仕事をしたことのある人なら、誰でも自販機が必須であることを理解しているだろう。

工事現場の作業員、交通整理をする警備員、外回りの営業マン、引越し業者など、自販機の冷たい飲み物で救われている方々は多いはずだ。

しかも、自販機は午後1時から4時までは、節電のため冷却機能を止めているので、ピーク時の消費電力は全供給電力の0.05%程度に過ぎない。

日本中を見回しても、これほどシビアな節電を達成している機械はまず見当たらない。

仕事だけでなく、レジャーを楽しむ人々にも利用され、極めて少ない電力でよく冷えた飲み物が手に入る。重要な社会的設備となっている自販機を「浪費」と決め付ける石原氏の理論的根拠がまったく見えない。

石原知事は、かつて数億円も掛かる豪華な外遊を行い、批判を浴びたことがある。カジノ構想をぶち上げたのも石原氏である。

都民の税金を湯水のごとく無駄遣いする人間が、工事現場で汗水たらして働くひとが120円を払って買おうとする冷たい缶ジュースを「浪費」だとわめいている。

こんな人物が、人の上に立っていることこそが異常であり、税金の「浪費」である。

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「除染」は放射性物質の「消去」ではない

2011-04-19 15:23:08 | 原発事故
福島第一原発事故による避難、屋内退避区域を「除染」すれば、住民の帰宅を早めることが出来るという主張がある。土の部分は表面を薄くさらって、道路や建物は水で洗浄するという考え方だ。

しかし、表面の土を除いたり、アスファルトを水で洗うと、その部分にあった放射性物質は「除染」されるが、新たに汚染された残土や洗浄廃液が出てしまう。

そういった汚染土や汚染廃液は、放射線の線量は低いものの、量が莫大となる。

例えば、半径20キロ避難指示区域の30%が土壌部分だとして、この表面を10センチメートルだけ削り取ると、ギザの大ピラミッド約8個分の放射性汚染土が出現する。

また、その区域の10%がアスファルトだとして、厚さ1センチメートルほどに洗浄水をまいた場合、小中学校にあるような25メートルプール約2500杯分の汚染廃液が出てくる。

線量が低いので、運搬には支障が少なく、保管期間もせいぜい数十年程度でよいと思うが、これだけ大量の放射性廃棄物を受け入れてくれる市町村が、日本のどこにあるのだろう?

一方、原子炉に関しては、漏れ出てくる高濃度汚染水をゼオライトなどに通し、放射性物質を除去して、再び冷却水として再利用する計画が進んでいる。これも「除染」の一種だが、今度は、超超高濃度の放射性物質が付着したゼオライトが廃棄物として出てしまう。

何万トンという元々の汚染水に比べれば、汚染ゼオライトは量こそ少ないが、あまりに放射線の線量が高すぎて、人間は近づくことすら出来ず、その運搬は困難を極めるだろう。

また、放射能の減衰期間は数百年レベルとなり、それだけの間壊れない耐久性の高い容器がまず必要で、さらに、地下深くなど自然災害の影響を受けない保管場所を探さなければならない。

もちろん、そういう場所が見つかったとしても、自治体や住民が受け入れてくれる可能性はほぼ絶望的だ。

結局、「除染」というのは、そこにある放射性物質を「より低濃度でより大量」か「より高濃度でより少量」に形を変えるだけのことで、放射性物質そのものは1原子たりとも消える訳ではない。

原子炉で一度出来てしまった放射性廃棄物を「消去」するには、放射能が減衰するまで何年、何十年、何百年、ひたすら待つしかない。

人類は、少なくとも現在、それ以外の方法を持っていない。

まさにこれが、原子力発電が極めて危険と言われる所以である。

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東電「工程表」には「現場」という言葉がない

2011-04-18 14:34:36 | 原発事故
三ヶ月以内に、2号機格納容器の損傷部分をコンクリートで固めて補修する。

東京電力が発表した「工程表」の一文であるが、では、誰がどうやってこの補修を行うのだろうか?

そもそも、2号機に関しては、高濃度汚染水のためにタービン建屋にすら満足に入れない状態である。その汚染水が漏洩している本体である原子炉建屋に入ることは、ほぼ不可能だ。

三ヶ月という時間が経ったとしても、セシウムの半減期30年から計算して、放射線量は99%程度にしか減衰しない。事態は今と何ら変わらない。

かりに原子炉建屋内部の汚染状況が思った以上に軽くて、なんとか原子炉付近まで近づけたとしても、超高濃度の放射性物質を含んだ水あるいは水蒸気が噴出する格納容器の損傷部分にコンクリートを打つのは、死に至る被ばくを覚悟しなければ出来ない。

もし、作業を可能にする遠隔ロボットがあるのなら、話は分かる。しかし、そんなロボットがない以上、現場の人間が命の危険に晒されるような作業を「工程表」に入れるべきではない。

断固として、別の方法を模索すべきである。

東京電力のトップは、国内外の厳しい批判にさらされて、「工程表」を出してきた。しかし、そこには、現場作業員が命の危険を伴う無謀な仕事をしなければ実現不可能な目標が、いくつも書き連ねられている。

しかも、東電の取締役たちは、六月をめどに辞任するという話も出ている。「工程表」の第一ステップの結果すら出ていない時期である。つまり、「工程表」が実現できなくても、何の責任も取らないというわけだ。

一方、彼らが辞めた後も、現場の作業員は毎日命を削りながら、事故処理に当たらなければならない。そして、どんなに危険であっても、会社のトップが記者会見で大々的に発表した以上、「工程表」のノルマ通りに作業を完成させることが求められる。

「うっかり線量計をつけ忘れ」たり「作業内容をうっかり記録し忘れたり」。「うっかり」しなければ、達成できないノルマが時間と共に、どんどん増えていくだろう。

一ミリシーベルトも放射線を浴びない安全地帯にいる人間が、自分たちの政治的都合だけで、事故処理の方法やスケジュールを決めていく。その結果、現場の人間が常軌を逸した決死の作業を強いられる。

「工程表」に「現場」という発想がないことが、今回の原発事故の構造を象徴している。

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自販機こそ優れた節電対策である

2011-04-15 11:34:03 | 政治
「自動販売機なんてやめちまえ。コンビニで買って家で冷やせ」

石原都知事の言葉だが、これは大きな間違いだ。

飲料自販機は、少ない電力で、効率よく飲み物を冷やすように作られている。小さな取り出し口、高い保冷能力を持った内部構造、緻密な温度管理プログラム。

夏場平日午後1時から4時までの冷却機能停止だけではなく、電気代を抑えるために様々な節電対策が施されている。

スーパーやコンビニの開放型冷蔵庫や、何度もドアの開け閉めをする普通の冷蔵庫を思い浮かべるだけでも、その冷却効率の高さは一目瞭然である。

従って、家庭用冷蔵庫でいつ飲むとも分からないジュースを、朝から晩まで冷やし続けるより、自販機で必要な分だけ買ってすぐに飲む方が、はるかに節電効果が高い。

そして、それだけの節電効果があって、お得だからこそ、多くの自販機が街に設置されている。むしろ、それらを積極活用して、家の冷蔵庫には出来るだけ飲み物を入れず開閉回数を抑えた方が、有効な節電対策になるだろう。

東京電力が夏場に供給できる電力5000万キロワットに対して、自販機の総消費電力は26万キロワットで0.5%程度だが、飲料メーカー、自販機メーカー、広告代理店、設置店舗など、それが生み出している経済効果は何兆円という規模に上る。

「いささか味気ない」という難点はあるが、これほど省エネ効果が高く、かつ経済効率のよい販売形態は他に類を見ない。日本人が自販機でものを買うのは、便利社会に溺れたエネルギーの浪費癖からではなく、それが優れた社会的節約術だからである。

「あんなところに、自販機なんて必要か?無駄じゃないか」という声もあるが、お金を払って不要なものを置き続けるひとがいるだろうか?

小さな雑貨屋の前にぽつんと一台ある自販機も、高速道路の大型サービスエリアにずらりと並ぶ自販機も、誰かが飲み物を買って、電気代がお得で、ちゃんと採算が取れて、それで生活しているひとがいて、多くの人に必要とされているから、そこに存在している。不必要ならとっくに撤去されているだろう。


都議会民主党は、自販機の冷却機能停止を、午前10時から午後9時に延長するよう促す条例案を提出するという。自販機はすでに節電効果を持っているが、もし規制条例を作るならば、他の業界も対象にして、20-25%程度の削減を求めるのが筋である。しかし、この条例は自販機しかも冷却機能だけを狙い撃ちにして、事実上、飲料自販機を使えなくするものだ。とくに、自販機内の温度上昇による商品のダメージを考えると、終日停止の自販機が続出する可能性も大きい。

夏場日中、すべての飲料自販機が冷却停止もしくは販売停止。公園、プール、スポーツセンター、遊園地、温泉スパ施設、海水浴場、サービスエリア、公共施設など、各所で混乱が起こるのは明らかだが、その結果得られる節電効果は、東京電力管内の他県がすべて同じ条例を採択しても0.5%である。売り上げの大幅減少など、経済的損失の大きさと併せて考えると、検討する価値すらない常軌を逸した規制案だ。

真夏の公園、使えない最新式自販機の横で、売店の奥にある、ガラス引き戸で開閉する旧式冷蔵庫のジュースを客が並んで買っている光景が、効果的な節電対策と言えるだろうか?

夏場のピーク時節電のために、真に実効性のある対策は何か。

今こそ、冷静で科学的な議論が必要である。しかし、東京都の指導層は、震災や計画停電のショックからか、誰かを悪者にして感情的に攻撃するだけで、まともな提案が出来ていない。

その結果、皆で一致団結すべき時に、逆に都民の不安や対立が激しくなりつつある。

都知事や都議会民主党は「花見は要らない」「自販機は要らない」と叫び続ける前に、まず「自分たちは必要だろうか?」と、静かに自らに問うてみるべきである。

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