ジャン・アレチボルトの冒険

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島根・女子大生殺人事件 ~ 公式プロファイリングが意味するもの

2010-02-01 20:04:26 | 事件
「犯人は被害者の自宅周辺やアルバイト先への通勤路沿線に住んでいた可能性が濃厚」で「20 - 40代程度の男による単独犯行の可能性が高い」。

昨年12月から警察が行ってきた「プロファイリング」の分析結果である。(「島根女子大生遺棄:通勤路周辺居住20~40代の男か」毎日jp 2010年1月31日 2時31分 更新:2月1日 10時56分)

感想を述べるとすれば、「極めて妥当」な推論と言う他ない。現在の捜査状況と過去に起こった類似事件から考えれば、この分析結果に行き着かざるを得ないのだろう。

勿論、このプロファイリングが、現実の犯人を言い当てているのかどうかは、別問題である。今回の事件が、過去に例を見ない特別なケースという可能性を、完全に排除することは出来ない。

それを踏まえた上で、なぜ「極めて妥当」なのかを説明したい。

このブログでは、過去三回にわたり、事件について可能性の高いケースを考えてみた。主旨はこうである。まず、手の込んだ遺体の損壊状況から、「遺体損壊現場は犯人の自宅もしくは事務所・作業場で、庭付き一軒家クラスの建物。犯人は、その空間を一人で所有している」と推論。さらに、過去のバラバラ殺人事件において、殺人現場と遺体損壊現場は94%以上の確率で一致していることから、「同じ場所で殺人も行われた」可能性が濃厚。

次に、被害者がその場所に入ったのは、(1) 自発的か、 (2) 強制的か、で二つの可能性に大別。(2) については、(a) 被害者は寮まで送って貰うつもりで顔見知りの車に乗ったが、そのまま拉致された、(b) 面識のない人物に、人気のない場所で襲われ車で拉致された、(c) 犯人の自宅、事務所・作業場が被害者の帰宅ルート近辺にあり、その建物前の路上で襲われて連れ込まれた、の三つの可能性を考えた。

警察の捜査から、被害者は、10月26日の夜、誰かと会う約束をした形跡はなく、アルバイト終了後、携帯を使った形跡もないと判明。また、被害者の知り合いを、かなり範囲を広げて調べても、事件につながる人物が出てこないことから、(1) と (2)-(a) の可能性は極めて低いと考えるのが妥当。

そうなると (2)-(b) か (2)-(c) の可能性が高いことになるが、(2)-(b) の場合、犯人は被害者の帰宅ルート、帰宅時間、一人で帰ることなどの情報を、どうやって入手出来たのかという疑問が残る。さらに、過去のバラバラ殺人事件で、被害者を車で無理やり拉致したケースは、動機がわいせつかどうかに関係なく、一件も見当たらない。

一方、(2)-(c) の場合は、被害者の帰宅に関する情報は、容易に入手が可能である。さらに、つい最近、類似の事件が発生している。すなわち、2008年東京都江東区のマンションで、帰宅した23歳の女性会社員が、二部屋隣に住む33歳の男に玄関先で襲われ、その犯人の部屋に連れ込まれた事件である。

国道9号の側道から被害者の靴が見つかっているので、 (2)-(b) はNシステムの解析などを通して、捜査を続けるべき方向性の一つではあるが、現時点で可能性が最も高いケースとなると、(2)-(c) を挙げざるを得ない

以上は、当ブログで行った推論である。一方、科学警察研究所のプロファイリングも、扱う情報はより多くて、より正確なはずだが、現実の捜査情報に過去の類似事件を重ねるという基本的な分析手法は、さほど変わらないと思われる。そして、その結果、ほぼ同じ結論にたどり着いたわけで、主観に左右されない「極めて妥当」な考察と評するしかない。

この分析結果が現実に正しいかどうかは分からないが、捜査関係者が、今の時期に、それをマスコミにリークすることには、一つの目論見があると思う。

警察にとって、一番やりたくないのは、地元住民への捜査である。とくに、今回のように犯人を特定する証拠がほとんどない状態で、ローラー作戦的に、住民を一人一人、一軒一軒訪ねて、職務質問のようなことを行うのは、もっとも避けたい捜査だろう。

何といっても、地元住民は、警察を支える納税者であるし、地域の防犯対策などの協力者でもある。もし、警察への不満が地域の中で募っていけば、捜査全般に悪影響を与えかねない。しかも、かりに100人の住民を調べても、最高にラッキーな場合ですら、99%の人は不愉快な思いをすることになる。捜査には細心の注意が必要である。

これだけ難しい捜査を始める以上、地域住民が納得する何らかの根拠が必要になる。警察庁の研究所が「プロファイリング」という先端技術を使って分析したところ、「犯人は被害者の帰宅ルート近辺に住んでいる」という結論が出たというのは、格好の説得材料になるのではないか。

つまり、今回のプロファイリングは、警察にとって、分析結果が正しいかどうか以上に、それをマスコミにリークしたことに重要な意味合いがあるように思う。捜査は、まず (1) の可能性を消去し、次に (2)-(a) の可能性もほぼ潰し、そして (2)-(b) のラインからも有力な不審者は現れなかった。

いよいよ面倒な (2)-(c) に取り掛からなければならない。プロファイリング結果のリークは、地元納税者を捜査対象にすることへの、お知らせと言い訳なのかもしれない。

<関連ブログ>
島根・女子大生殺人事件 ~ 過去のバラバラ事件を調べると
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その1
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その2
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その3
島根・女子大生殺人事件 ~ 公式プロファイリングが意味するもの

コメント (1)
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