ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その3

2010-01-24 06:35:53 | 事件
(b) 車で拉致

二つ目は、(b) 「被害者と面識のない犯人が、車で待ち伏せし、通りかかった被害者を襲って拉致し、自宅もしくは事務所・作業場に連れ込んだ」ケース。

これは、現在のところ、かなり有力だと思われている説で、警察も、この線に沿って、捜査を進めているふしがある。なによりも、襲われた場所が、国道9号浜田バイパスの側道だとすれば、そこから被害者の靴が発見された事実を、自然に説明することが出来る。

しかし、靴が落ちていた付近で、被害者が襲われたという説には、一つ問題がある。

犯人は、なぜ、誰がいつ通るとも分からない場所で、待ち伏せしていたのかという点である。何のあてもなく、9号の側道近辺に車を止めていたら、たまたま被害者が一人で歩いて来たというのは、ちょっと出来すぎの感がある。

待ち伏せして襲うのであれば、その場所を、その時刻に、若い女性が一人で通るという情報を、事前に持っているのが普通である。だとすれば、犯人は、過去に何回か、その場所を、その時間帯に、車で訪れて、ターゲットを物色していた可能性が高い。

だが、同じ車が、同じ時間に、人気のない場所に止まっていて、運転手がこちらを見ているというのは、かなり気になる出来事である。実際、被害者の大学では、夏場、車に乗った不審者が出没して、大騒ぎになっている。ところが、秋になって、再び不審者や不審車両が現れたという話は聞こえてこない。

被害者が頻繁に一人で帰宅するようになったのは、寮の友人がバイトを辞めて以降のはずなので、犯人は、10月中旬から下旬にかけて、9号側道近辺での「偵察活動」を活発化させていた可能性がある。

単に車が止まっているだけでは、被害者も含めて、誰も、特に怪しいとは思わなかったのかもしれないが、10 月に入ってからの不審車情報が出てこない点は、気になるところではある。

ところで、拉致に関しては、もう一つ考えてみるべき場所がある。

アルバイト先のショッピングセンターは、その裏手に、パチンコ店が隣接している。犯人が、これらの施設を日常的に利用している人物であれば、夜の9時過ぎに、バイトを終えた女子学生が、ショッピングセンターから出て、家路に着くことを知り得たかもしれない。

ショッピングセンターやパチンコ店の常連客が、営業時間内に、その辺をうろうろしていても、それは不審者ではない。また、そこの駐車場に、車を止めて、車内から外を眺めていても、不審車両だと思う人はまずいない。怪しまれることなく、バイト学生の出勤日、帰宅時間、帰る方向、一人で帰るかどうかなどの情報を集めることが出来る。

ただ、ショッピングセンター近辺で、被害者が拉致されたと考えるのには、どうしても抵抗がある。被害者が建物を出た時刻は、他の従業員も、相次いで帰宅を始める時間帯である。また、ショッピングセンターの1階はまだ営業中で、パチンコ店はさらに遅くまで開いている。

死角というものは、どこにあるか分からないが、これだけ人の目があって、どこから誰が見ているか分からない場所では、犯人は、襲って拉致しようという計画自体を考えないのではないか。

ショッピングセンターやパチンコ店で、被害者に目をつけた可能性はあったとしても、拉致を実行する場所としては、靴の落ちていた9号側道近辺の方が、犯人にとっては、より好都合な場所だと思われる。

(c) 直接、家屋に連れ込まれた

三つ目は、(c)「被害者の帰宅ルート近辺に、犯人の自宅もしくは事務所・作業場があり、通りかかった被害者を、面識のない犯人が、強制的に連れ込んだ」ケース。

靴が側道から発見されている以上、(b) が検討すべき説であることは間違いないが、過去のバラバラ殺人事件を調べても、被害者が車で無理やり拉致されたケースは、動機がわいせつ行為かどうかに関係なく、一件も見当たらない。

一方、(c) のケースは、それに近い事件が最近起こっている。

2008年東京都江東区のマンションで、帰宅した23歳の女性会社員が、同じフロアの二部屋隣に住む33歳の男に玄関先で襲われ、その犯人の部屋に連れ込まれた事件である。

わいせつ目的の犯行で、犯人は、自室の玄関ドア前で、被害者が帰ってくる足音を察知し、飛び出して襲っている。犯人は、被害者とは、時折見かける程度の面識しかなかったが、すぐ近くに住んでいたため、帰宅時間や、一人で帰宅するかどうかなどを知ることが可能で、その情報をもとに犯行を思いついたようだ。

今回の事件でも、もし、犯人の家や職場が、被害者の帰宅ルート近辺にあれば、被害者が何曜日の何時頃そこを通るのか、一人なのか連れがいるのかなどを、怪しまれることなく知ることが可能である。

ただ、被害者を連れ込む段階で、一つ疑問がある。

かりに人通りの少ない場所や時間帯だったとしても、家や職場のすぐ前の路上で、通行人を襲って引きずり込むというのは、かなり無謀な行為である。誰かに見られた場合、すぐに自分の身元が判明してしまう。江東区の事件は、マンションの中で起こっている。被害者を自室に連れ込むときに、マンションの通路を移動することになるが、見られる可能性は、まだ低い。

帰宅の途中、被害者から見て、心理的に、犯人の家屋に入らざるを得ない出来事が起こったのかもしれない。

一つの可能性を考えてみる。

被害者はバイト先を出た時に、ゴミの入った袋を持っていたという報道(*) がある。これは、ショッピングセンターのしかるべき場所に捨てに行くゴミだったのか、それとも、被害者自身に処理が任されていたゴミだったのか、公になっていない。

(*)「島根女子大生遺棄:待ち合わせ形跡なし…遺体発見2カ月」毎日新聞 2010年1月7日10時37分

被害者のバイト先は、日本でも有数の大手チェーンなので、店で出たゴミをバイト従業員に処分させるなどということは、まず、ないとは思うが、万が一にも、もし後者であれば、次のような出来事が起こる可能性もある。

バイト先のゴミを寮に持ち帰って捨てると、寮の管理者に渋い顔をされる。かといって、道端に捨てるわけにもいかない。そこで、帰宅途中に見かけた一般のゴミ収集所に、悪いとは思いながらも、こっそり置いてしまった。翌日が、その地区のごみ収集日であれば、すでにゴミ袋が出ていることもある。そこに店のゴミを紛れさせた。

そして、犯人がそれを見ていた。すぐに出てきて、被害者を注意し、話があるからと自分の家屋に引きずり込む。責任感の強い人ほど、申し訳ないという気持ちが先行するので、相手に従ってしまうかもしれない。また、被害者が、過去に何度か同じことを同じ収集所で行っていれば、犯人は、その日その時間に、若い女性がゴミを捨てに来ることを予想出来たかもしれない。そうであれば、わいせつ目的の犯行を事前に計画していたこともあり得る。

勿論、もし、被害者が、そのゴミ袋をショッピングセンターの収集所に捨てに行く係だったというだけなら、この推測は、まったく成り立たない。

いづれにしても、帰宅途中に何かが起こって、被害者は、心理的理由から抵抗することが出来ず、犯人の家屋に連れ込まれたという可能性は、考えてみる価値がある。

ところで (c) の説が正しいとすれば、9号の側道で発見された被害者の靴は、捜査のかく乱を目的として、犯人が、後から置いたものということになる。実際、靴の発見以降、警察は、この場所で被害者が襲われ、車で連れ去られたという見方を強めている。(c) の犯人なら、捜査関係者が (b) 説を意識することが、好都合であるのは間違いない。

事件後、警察関係者が捜査に走り回っている中、被害者の遺留品を置きに行くのは、一見大胆な行為であるが、この近辺の状況がリアルタイムで分かっていれば、大きく躊躇することはないと思う。警官や刑事に呼び止められる時間帯、パトカーを見かける時間帯、人通りの多い時間帯などを知った上で、自転車に乗って、あるいは、散歩を装って捨てれば、靴一個である、見つかる危険は低いだろう。

(c) の説は、話の流れに無理がないこと、似たような事件が近年実際に起こっていることから、検討すべき説と言わざるを得ない。自宅や職場前の普通の路上で被害者を襲うのは、無謀ではあるが、被害者を心理的に追い詰める出来事が起こった可能性もある。むしろ、そういう出来事があったからこそ、犯人は、犯行に及んだのかもしれない。

(終わり)


報道されている情報と、戦後に起こったバラバラ殺人事件から、考えられる可能性を推測してみました。公にされていない重要事実があるかもしれないし、過去に例のないことが今回初めて起こった可能性も否定は出来ません。従って、上に挙げた説はすべて、考え得る可能性というだけで、間違いなくこれだと言えるものは一つもありません。

ただ、事件について、あれこれ考えてみることは意味のあることだと思います。多くの人が事件を忘れてしまうことほど、犯人にとって好都合なことはないですから。

犯人が逮捕され、法の裁きを受ける日が一刻も早く来ることを、願って止みません。

平岡都さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。


<関連ブログ>
島根・女子大生殺人事件 ~ 過去のバラバラ事件を調べると
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その1
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その2
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その3
島根・女子大生殺人事件 ~ 公式プロファイリングが意味するもの


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その2

2010-01-24 00:38:48 | 事件
<被害者はなぜ、そこに行ったのか>

遺体の損壊場所が、犯人の自宅もしくは所有する事務所・作業場で、殺人もそこで行われたとすれば、被害者はなぜ、その場所に足を踏み入れたのだろうか。

まさにこの点が、今回の事件で、もっともよく分からない部分である。乏しい目撃情報、少ない遺留品など、ショッピングセンターを出た後に何が起こったのか、手がかりがほとんどない。被害者は、まるで神隠しにでも遭ったかのように、忽然と姿を消している。

ただ、被害者が、犯人の自宅や事務所・作業場に入った時点に的を絞れば、そのときの状況は大きく二つに分けられる。

一つは、(1) 何らかの理由があって、被害者が自分の意思で、そこに入った場合。もう一つは、(2) 威嚇的あるいは暴力的な方法で、無理やり連れ込まれた場合である。

それぞれ検討してみたい。

(1) 理由があって

この場合は、被害者が、アルバイトの後に、誰かを訪問する、あるいは、誰かと会う約束があったかどうかが、考える手掛かりになる。報道によると、携帯電話やPCの履歴からは、バイトの前に、そういう約束をしていた形跡は見つかっていないようだ。

また、警察は、被害者の手帳やカレンダーも調べているはずで、10月26日の欄に、何かの予定が書き込まれていたという話も、聞こえてこない。さらに、バイトが終わった後に、被害者が携帯電話を使った形跡もないと言われている。

何かの口約束があって、明日、明後日のことなので、メモに残さなかった可能性はある。また、見つかっていない携帯電話に、その約束が書かれていた可能性もある。

ただ、約束があったとしても、月曜日の夜9時以降に、誰かとどこかで落ち合う、もしくは、直接その人物の家か職場を訪れるのに、直前の確認電話をしないというのは、相手が親しい友人であっても、ちょっと考え難いシチュエーションだ。

唯一考えられるのは、ショッピングセンターの真ん前で、待ち合わせをする場合である。確認電話を入れるより、そこに行った方が早い場合だ。しかし、近い時刻にショッピングセンターを出た従業員で、被害者が誰かを待っている、あるいは、誰かと話している場面を見たひとはいないようである。

やはり、被害者が、事前の約束に従って、自ら意図して誰かと会った可能性は、低いと考える方が自然だろう。

では、被害者が「ショッピングセンターを出た後、偶然、誰かと出合って、急遽、相手の家に行くことになった」可能性はどうだろう。例えば、被害者は、帰宅途中に、車に乗った顔見知りと遭遇して、寮まで送って貰うことになったが、車内で話をするうちに、その人物の自宅に行くことになった、というようなケースである。

この場合は、事前の約束がないので、被害者のメモや履歴を調べても、何も出てこないし、ショッピングセンターを出た後、電話を使った形跡がなくとも不自然ではない。

だだ、被害者は、相手の自宅もしくは事務所・作業場へ、夜の遅い時刻に一人で行く、という決断を短時間でしたことになる。被害者は若い女性なので、その人物が男である可能性は、極めて低いだろう。そして、犯人が女であるならば、喧嘩の末に被害者を殺してしまうことはあっても、遺体をここまで激しく損壊するとは思えない。

確かに、1994年福岡で38歳の女性美容師が、30歳の同僚美容師を殺害して、バラバラにした事件では、遺体は激しく損壊されていた。この事件は、犯人が女であっても、凄惨なバラバラ事件を引き起し得ることを示している。しかし、福岡の事件は、仕事上での嫉妬や自分の愛人をめぐる邪推といった、強い怨恨感情が犯行の動機で、犯人が被害者の悪口を言いふらすなど、事件の前からトラブルが顕在化している。

一方、今回の事件では、そういった強い怨恨など、人間関係上の深刻なトラブルは、被害者の周りから見つかっていない。従って、「顔見知りと偶然会って、急遽行くことになった」というケースも、可能性は低いということになる。

(2) 強制的に

すると、被害者は、無理やり連れ込まれたという (2) の可能性が高くなる。この事件では、無言電話がかかってきたなど、身代金要求を思わせる出来事は起こっていないので、営利誘拐の可能性はほとんどなく、わいせつ目的の拉致としか考えられない。そうであれば、被害者が拉致された状況に関して、三つほどのケースを想定することが出来る。

それぞれについて、検討したい。

(a) 送り狼

まず、一つ目は、(a)「被害者は、帰宅途中に、偶然、車に乗った知り合いと出会い、寮まで送って貰うことになったが、その人物にそのまま拉致されて、家に連れ込まれた」ケース。

この説では、被害者のバッグなどが、犯人の車にあるので、遺留品がほとんど発見されない事実と符合する。ただ、犯人が顔見知りである場合は、被害者は恐怖以上に、怒りの感情を持つ可能性が高く、大人しく従うとは思えない。激しく抵抗する相手を脅しながら、自宅まで運転し、さらに、車から降ろして家に連れ込むのは、並大抵のことではない。

だからこそ、この手の送り狼というのは、自分の家まで連れて行くよりは、暗がりに車を止めて襲うことが多い。殺人が起こるとすれば、むしろ、車を止めた場所であって、激しく抵抗する相手を、かっとなって殺してしまったという方が現実的だ。

そうであれば、犯人は、遺体をその場所に遺棄するか、あるいは、そのまま車で運んで、人目につきにくい場所に遺棄するだろう。犯人が、遺体をわざわざ自宅に持ち帰って損壊するというのは、過去の例から見ても、可能性は極めて低い。遺体そのものへの強い執着があれば、話は違ってくるが、送り狼が目的だった人間である。遺体を消し去って、証拠や殺人自体を隠滅したいと一瞬思っても、本当に実行するとは思えない。

(a) の説は、「家に連れ込む」ことを、送り狼が考えるか、また、それは可能なのかという部分に疑問符が付く。「暗がりで車を止めて、わいせつ目的で襲ったが、抵抗されて殺害、証拠隠滅のために遺体を自宅に移動して損壊」という修正を加えたとしても、同じ疑問が付いてまわる。

(つづく)

<関連ブログ>
島根・女子大生殺人事件 ~ 過去のバラバラ事件を調べると
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その1
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その2
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その3
島根・女子大生殺人事件 ~ 公式プロファイリングが意味するもの


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その1

2010-01-22 20:30:05 | 事件
昨年11月初旬、広島県北部の臥龍山で、10日ほど前から行方不明だった島根県立大の女子学生がバラバラ遺体となって発見された。それ以来、警察は、死体遺棄事件として大規模な捜査を続けているが、二か月以上が経過した今でも、犯人逮捕には至っていない。

10月26日の夜、アルバイトを終えた被害者が、バイト先であるショッピングセンターを出たことは、確認されている。しかし、その後、2kmほど離れた学生寮に向かったはずなのだが、途中で何が起こったのか、未だに分からない。

帰宅ルートは、八幡宮の境内を通るコース、浜田駅まで行ってバスに乗るコースなど、複数あると言われているが、その夜は、どのコースを通ったのか。帰る途中に、誰か知り合いに会ったのか。どこかに寄り道したのか。それとも面識のない人物に襲われたのか。

被害者の行動や起こった出来事が見えてこない。

被害者の遺留品については、唯一、彼女が履いていた靴が、帰宅ルート近辺で発見されたが、失踪時からそこにあったのか、それとも、犯人が後から置いたのか、「特定は困難」のようで、現在のところ、何かを具体的に物語る手掛かりとはなっていない。

帰宅途中で起こったことについては、不明なことだらけだが、一方、遺体を損壊した時の状況については、発見された遺体の状態から、いくつかのことが推論出来るように思う。

この事件は、発端ではなく、終端から見たほうが、近づき易いかもしれない。

少し考えてみたい。

<遺体損壊現場の条件>

報道されているような、大がかりな損壊を行うためには、それなりの設備がないと、かなり難しい。

まず、上水道と下水道が稼働している風呂場もしくは大型の洗い場。

さらに、手元を上から照らす電灯。それも、懐中電灯のような狭い範囲を照らす弱い明かりではなく、室内蛍光灯レベルの広くて強い光のもの。つまり、100ボルト電源からの電気が必要である。

遺体の一部に焼かれた痕跡があり、別の部分は、煮た可能性もあるので、ガスが使える環境かもしれない。ただ、「焼く」という作業は、程度によっては、室内で行うには危険なので、焚き火が出来るような庭、もしくは、焼却炉付きの庭、を持っていることも考えられる。

また、電話帳を無料配布する袋の一部が発見されているので、固定電話を設置している可能性がある。

遺体の切断には、通常の包丁以外に、大型の刃物が使われた可能性があると報道されている。推定される刃物の種類などは公開されていないが、特殊な大型刃物は、それなりの保管場所がないと、置くのに困るものである。

例えば、鉈 (なた) や斧 (おの) のように屋外で使うものは、台所や押入れに入れておくわけにいかない。汚れの問題もあるし、収納スペースの問題もある。こういった刃物は、屋外に設置された納屋か倉庫に入れておくのが、普通である。

これだけの設備が揃っているとすれば、それは一軒家であるか、あるレベル以上のマンション・アパートの一室、もしくは事業所で、犯人はその空間を一人で日常的に使っている可能性が高い。特に、焚き火が出来る庭があり、小さくとも納屋か倉庫があるような家屋ならば、遺体の状況を無理なく説明出来るだけの設備ということになる。

つまり、損壊が行われたのは、犯人の自宅、もしくは、自ら所有する事務所か作業場のような場所である可能性が高く、人の住んでいない空き家やちょっとした離れとは思えない。

確かに、刃物さえ用意すれば、さほどの設備がなくても、空き家、あるいは屋外ですら遺体をバラバラにすることは可能だろう。

実際、戦後間もない1946年、横浜で発生した事件では、33歳の工員が、通りすがりの22歳女性をわいせつ目的で空き家に連れ込んだ後、殺害し、その空き家で遺体の損壊を行っている。また、1954年埼玉では、29歳の男が、19歳の女性を、夜、畑で襲って絞殺し、その場で、遺体をバラバラにしている。

しかし、今回の事件では、犯人は、かなり手の込んだ損壊を行っている。しかも、手袋を使うなど、自分に結びつく証拠が残らないように、慎重に作業を進めたふしがある。捕まることなど気にしていないような、上記二つの事件とは、異なる点である。

そんな時間と労力の掛かる作業を行う以上、犯人にとって、その場所は、そこに居る限り自分は不審者ではなく、他人に見られたり、不意に誰かが入ってくる心配のない、安全な空間だったのではないだろうか。

<殺人現場と遺体損壊現場の関係>

過去に起こったバラバラ殺人事件を見ると、殺人が行われた場所と遺体が損壊された場所は、ほとんどのケースで一致している。

戦後の主な事件を50件ほど調べてみたが、両者が異なっていると確認できたケースは、1979年福岡の病院長殺人事件、1989年東京の幼女連続殺人における最後4番目の事件、1995年埼玉の愛犬家連続殺人事件の3件だけである。

殺人現場と遺体損壊現場は、実に、94%以上の確率で一致している。

上に挙げた3件のうち、最初と最後の2件は、男女ペアの複数犯による犯行で、真ん中の1件は、男の単独犯だが、被害者は5歳の保育園児だった。殺人現場と遺体損壊現場の一致は、小さな子供でもない限り、重くて大きな遺体を人知れず動かすのが難しいこと示している。

また、複数犯による2件は、いずれも、犯人の自宅や職場で殺人が行われた後、自分たちとは関係の薄い場所に遺体が移され、損壊されている。逆に、犯人が遺体を自宅に持ち込んだケースは、幼女連続殺人事件における4番目の殺人のみである。しかも、その犯人も、前に起こした三つの幼女殺害では、遺体は屋外に遺棄している。

今回の事件では、被害者の方は身長150cmくらいの、小柄な女性だったと報道されている。しかし、それでも、体重は少なくとも40kg近くはあったはずで、遺体を動かすのは容易なことではない。殺人が別の場所で行われた後、これほど重くて、目立つ遺体を、わざわざ、自宅あるいは職場に運び込んで損壊する。過去の例から考えても、滅多に起こらないことである。

従って、遺体の損壊場所が、犯人の自宅もしくは所有する事務所・作業場ならば、同じ場所で殺人が行われたと考えるのが、まずは妥当なアプローチだろう。

ただ、連続幼女殺人事件のように、犯人が、遺体自体に強い興味を持っている場合は、危険を冒してでも、自宅に運び込む可能性を排除はできない。殺人現場が、遺体損壊現場と異なっている可能性も、少しは念頭に置いておくべきかもしれない。

(つづく)

<関連ブログ>
島根・女子大生殺人事件 ~ 過去のバラバラ事件を調べると
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その1
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その2
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その3
島根・女子大生殺人事件 ~ 公式プロファイリングが意味するもの





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする