夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『キリクと魔女』

2004年03月26日 | 映画(か行)
『キリクと魔女』(原題:Kirikou et la Sorcière)
監督・脚本・原作:ミッシェル・オスロ

フランスのアニメーションだと言うので、
しゅわしゅわしゅわっと喋る(フランス語ってこんなイメージ?)、
オシャレなアニメを想像していました。
そしたら、フランスはフランスでもこれはアフリカ系。
前々述の『名もなきアフリカの地で』と景色がだぶり、
大地で培われたパワーを感じました。
スタジオジブリがはじめて提供した洋画アニメとしても話題です。

アフリカの小さな村。
キリクはまだ母親のお腹の中。
「母さん、僕を産んで!」と声をかけると、母はこう答える。
「お腹の中で話す子は、自分で生まれるの」。
そしてキリクは自分で胎外へ出る。
ヘソの緒も自分で切り、すぐさま立ちあがるキリク。

村には魔女カラバの呪いがかけられ、
黄金は奪われ、泉は涸らされていた。
カラバに戦いを挑んだ男たちは生きて帰ることなく、
彼女に喰われてしまったらしい。

この日、ひとりでカラバのもとへと向かった叔父に
キリクはこっそりついてゆく。
カラバに狙われた叔父をキリクは見事救う。

その後も次々と襲われる村の子どもたち。
しかし、そのたびにキリクは知恵をはたらかせ、みんなを救う。

ことごとくキリクに妨害されることに憤るカラバ。
キリクはなんとか呪いを解こうと、
カラバの縄張りを通り越したところにある、
「禁じられた山」の賢者に会いにいくことにする。

小さなからだのキリクが一生懸命考える姿に
生きるための原点を見るような気がします。
キリクが発する言葉、「どうして?」。
村の人びとが考えるのをやめて諦め顔なのに対し、
キリクはなぜこういうことが起こるのかを問いつづけ、ひとつずつ解決していきます。
そしてカラバがどうして意地悪なのかがわかったとき、
キリクは自分のすべきことを理解します。

「大きくなりたい」というキリクに、
「小さいからこそできることがある。
 そして、大きくなったときには、忘れずにそれを喜びなさい」
とやさしく語る賢者の言葉が印象に残りました。

幼少時代をギニアで過ごした監督。
声優にはセネガル人を起用し、「ヨーロッパのフランス」とはまったく趣を異にします。
鳴り響くアフリカの伝統音楽も圧巻。
ジブリやディズニーとはひと味もふた味もちがうアニメ、
たまにはどうでしょ?

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『人生は、時々晴れ』

2004年03月24日 | 映画(さ行)
『人生は、時々晴れ』(原題:All or Nothing)
監督:マイク・リー
出演:ティモシー・スポール,レスリー・マンヴィル,
   アリソン・ガーランド,ルース・シーン他

いわゆる「台本」を用意せず、
俳優のアドリブにまかせて撮影することで有名なマイク・リー監督。
なりゆきまかせだなんて怠慢?
同監督の『秘密と嘘』(1996)や、
邦画では、「台本にセリフなし」で撮られた諏訪敦彦監督の『M/OTHER』(1999)など、
このスタイルが嫌いな人にとっては
ウザイ以外の何ものでもない作品でしょう。

フィルはタクシー運転手。
毎日の稼ぎは少ない。
内縁の妻ペニーは夫の稼ぎを埋めるべく、スーパーでレジ係のパート。
フィルにそっくりの太った娘と息子。
娘のレイチェルは老人ホームでまじめに勤務しているが、息子のローリーは無職。
ひたすら食べては、ペニーに反抗的な態度をとる。

フィルの同僚ロン。
しょっちゅうタクシーで事故を起こしている。
妻のキャロルはアル中。
娘のサマンサはそんな両親に愛想をつかし、街へ出かける毎日。

アイロンがけが仕事のモーリーン。
娘のドナとふたり暮らし。
つとめて会話を試みる母親だが、娘は常に母を遠ざける。

ロンドン郊外の集合住宅で暮らす、こんな3家族の日々のひとコマ。
世間一般で起こりそうなことを通して、家族のありかたを問われます。

台本なしのこの演出、好き嫌いはあるでしょうが、
人まかせで進められるこの演出は真実味があり、
グイグイと胸に迫ってきます。

稼ぎが少ないために居場所のないフィル。
ある日、無線も携帯も切って遠出をする気持ちは
世のお父さんたちはよくわかるかもしれません。
そして、そんなフィルの姿を見て、
料理、洗濯、買い物、子育てと休むひまなく働くペニーが
「私には切れるスイッチなんてないのに」と泣き叫ぶ気持ちに
お母さんたちは「そのとおり」と言いたくなるでしょう。

お互いに言いたいことを口に出さずに我慢してきた夫婦が
終盤、すべての思いを洗いざらいぶちまけて、
絆を修復していく過程は心を打たれます。
それを見守る子どもの姿も。

「車をぶつけられた」と憤るロンに、フィルが語るセリフ、
「もしその事故に遭わなかったら、次の角で子どもをひいていたかもしれない」。
これっていい考え方や!と思いました。

さて、あなたが役者なら、夫婦の会話はどんなふうになりますか。

人生は、時々晴れ。
この邦題(原題は“All or Nothing”)はなかなかいいですね。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『名もなきアフリカの地で』

2004年03月22日 | 映画(な行)
『名もなきアフリカの地で』(原題:Nirgendwo in Afrika)
監督:カロリーヌ・リンク
出演:メラーブ・ミニッゼ,ユリアーネ・ケーラー,レア・クルカ,シデーデ・オンユーロ他

昨年度のアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞したドイツの作品。

ユダヤ人のヴァルターとその妻イエッテル、幼い娘レギーナ。
弁護士であるヴァルターは、ナチのユダヤ人迫害から逃れるため、
ひと足先にケニアのロンガイにある農場へ渡る。

1938年4月、やっと家族で暮らせる目処がつき、
ヴァルターは妻子を呼び寄せる。

美しい自然に囲まれたこの地で、レギーナは料理人オウアとすぐに親しくなる。
オウアはレギーナを「小さなメンサブ(奥様)」と呼んで可愛がり、
現地の言葉を教えたり、地元の子どもたちの輪の中にレギーナを誘い入れる。
ドイツでは犬をなでることすらできなったレギーナが
ここではさまざまな動物と触れあうようになる。

それに対し、いつまでもドイツの生活が忘れられない母イエッテル。
彼女は「こんなところでは暮らせない」と叫び、
言葉を教えようとするオウアに「あなたがドイツ語を覚えなさい」と罵る。
レギーナを学校にも通わせられないと、夫への恨みつらみが尽きない。
そんな折、夫からドイツのユダヤ人教会が爆破されたと知らされる。
ユダヤ人は皆遅かれ早かれ収容所送りになる。

夫は言う。「学校に行けないのが何だ。命があることをありがたく思え。
君のオウアに対する態度は、ナチのユダヤ人に対するそれと同じだ」。

第二次大戦が始まり、ドイツ人は敵性人として英国軍に身柄を拘束される。
しばらくして、仕事を持つ男性は拘束を解かれることになり、
ヴァルターは家族とともに新しい農場に移る。
オウアは一家の居場所を探し当て、ふたたび彼らの生活が始まる。

生き抜くために見ず知らずの土地に飛び込んだ夫と
投げ込まれたという思いをなかなか拭えない妻。
そうだからこそ、やがて妻が「人は違いにこそ価値がある」と気づいて語るシーンは
非常にたくましさを感じます。

こんな状況下でも子どものなんと素直なこと。
料理人のオウアとレギーナを見ているだけで温かい気持ちに包まれます。
素晴らしい作品でした。

オウア役のシデーデ・オンユーロは、
スタッフが早くからこの役に推薦しようと決めていたにもかかわらず、
彼の居場所がわからなくて、つかまえるために苦労したそうです。
湖のほとりで彼を発見したとは、まさに映画を地でいくような役者さん。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『デブラ・ウィンガーを探して』

2004年03月15日 | 映画(た行)
『デブラ・ウィンガーを探して』(原題:Searching for Debra Winger)
監督:ロザンナ・アークエット
出演:ロビン・ライト・ペン,ダイアン・レイン,ジェーン・フォンダ,
   ホリー・ハンター,メグ・ライアン,シャロン・ストーン,
   パトリシア・アークエット,ウーピー・ゴールドバーグ,
   エマニュエル・ベアール,ローラ・ダーン,マーサ・プリンプトン他

『愛と青春の旅立ち』(1982)のヒロイン、デブラ・ウィンガーは
順調にキャリアを伸ばしていたにもかかわらず、
ある日突然引退してしまった。
理由はいったい何だったのか。

女優ロザンナ・アークエットの心に浮かんだ、
こんな疑問から生まれたドキュメンタリー。
1959年生まれの彼女は40代に入ったいま、
女優として、母親としての自分を見つめなおすべく、
仕事と家庭の両立は可能なのかどうか、女優仲間にマイクを向ける。
その数、実に34名。

試みとして非常におもしろいと思いました。
まさに本音トーク。

まず、母親としての彼女たちの思い。
家庭円満と言われている人、離婚した人、さまざまです。

「母親は与えられるものも多いけど、奪われるものも多いの」。
「私にとっては子どもが最優先。それは絶対。
 でも、仕事のオファーが来て、断ったあと、その映画がヒットしたりすると
 さびしく思うことがある。後悔ではないんだけど」。
「子育てが犠牲じゃないなんて嘘。無責任な物言いだわ」。

そして、女優としての思い。

「性格俳優なんて言われる人は男ばっかり。
 女は若くて綺麗じゃないと使ってもらえない」。

男の40代といえばアブラが乗っていい頃合いとされるのに、
女の40代といえばシワやシミが目立ちはじめて下り坂。
40代の女性は普通の40代の女性を描いた映画だって観たいはずなのに、
世間でもてはやされるのは新進女優の映画ばっかり。

こうして女優は誰しもが整形に走るようです。
そんななか、フランシス・マクドーマンドの言葉が痛快。
「私は絶対整形しないとホリー・ハンターと決めたの。
 なぜなら私はいま44歳。10年後には54歳。
 みんなが整形したら、10年後に54歳相応に見える人はいなくなる。
 そしたらその役は全部私にまわってくる」。

ホリー・ハンターがこう話していました。
「映画を通じて、女性を見る目を
 こちら側から育てられたらいいなと思います」。

同世代の女性なら共感できることがいっぱいあるはず。
没頭して聞き入ってしまったインタビュー満載なのであります。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ファム・ファタール』

2004年03月11日 | 映画(は行)
『ファム・ファタール』(原題:Femme Fatale)
監督:ブライアン・デ・パルマ
出演:レベッカ・ローミン=ステイモス,アントニオ・バンデラス,ピーター・コヨーテ他

『キャリー』(1976)のブライアン・デ・パルマ監督の最新作。
スリリングな展開と、ほとんど無意味なエロ・シーンに
デ・パルマ健在を嬉しく思い、最後は抱腹絶倒。

フランス、カンヌ映画祭の会場。
『イースト/ウエスト』なる映画の上映イベントに登場したのは
385カラット、1000万ドルの宝石をちりばめられたビスチェに身をまとった
(というのか、ほとんどハダカ)モデルのベロニカ。

このビスチェ強奪を念入りに計画していた一団がいた。
実行犯のロールはスタイル抜群、美しい女性。
カメラマンに扮して会場入りした彼女はベロニカを誘惑し、トイレの個室へと連れ込む。
ラブシーンを演じつつ、ベロニカからビスチェを剥ぎとると、
個室外で待機していた仲間が偽物とすり替えてゆく。

みごと宝石強奪と思いきや、ロールは仲間を裏切って逃走、宝石を独り占めする。
銃撃戦となったトイレでは、負傷した仲間が取り押さえられる。

アメリカに飛んだロールは赤の他人になりすまし、
機内で知り合った裕福な男性と結婚。
7年後、アメリカ大使となった夫に付き添い、彼女はパリに戻ってくる。

裏切った仲間が出所してくるはずの今、
世間に顔を知られると困る彼女は取材をことごとく拒否、
写真を撮られないように用心していた。

しかし、顔をひた隠しにする大使夫人を怪しく思う新聞社が
ニコラスというカメラマンを高額な報酬で雇う。
カネに困っていたニコラスは、姑息な手段で彼女の撮影に成功。
彼女の写真が街中に貼りだされた。

ムショ帰りの仲間から逃げるため、ロールはあの手この手を考える。
彼女を追い続けていたニコラスもその罠にハマり……。

「ファム・ファタール」というのはつまりは「運命の女」で、
レベッカ・ローミン=ステイモス演じるロールには
「これでファム・ファタールかえ?」と賛否両論ありましょう。
しかし、悪女の似合うこと!

音楽は阪本龍一。
ブランドものがわんさか出てくるこの作品に、
音楽がさらなるゴージャスな雰囲気を醸し出しています。

前述の『“アイデンティティー”』と同じく、
「こんなん、アリかよ」などんでん返し。
でも憎めないんだなぁ、この監督。
これは反則でしょん?と思いつつ、
観賞後、妙に爽やかな気持ちになるのはなぜだぁ!

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする