夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『自虐の詩』

2007年10月30日 | 映画(さ行)
『自虐の詩』
監督:堤幸彦
出演:中谷美紀,阿部寛,遠藤憲一,カルーセル麻紀,竜雷太,
   蛭子能収,島田洋八,松尾スズキ,Mr.オクレ,西田敏行他

ロードショーにて。

映画のために話が書き下ろされることが珍しいほど、
単行本やコミックが原作であることが多くなりました。
本作も「日本一泣ける4コマ漫画」と言われる、
業田良家のコミックの映画化です。

宮城県気仙沼市の中学生、幸江。
母親は幸江が幼い頃に家出して、
頼りない父親とふたり暮らし。
貧乏と不運を持って生まれて来たと言っても過言ではない。

彼女の親友は、やはり貧乏な同級生、熊本さん。
「こんな町にいちゃいけん。
出て行け、そして二度と戻ってくるな。
どんなに遠く離れていても友だちだから」。
そう熊本さんは言う。

時と所が変わって大阪、天王寺。
通天閣に臨むアパート“パンション飛田”。
幸江は元ヤクザのイサオの内縁の妻となっていた。
イサオは定職に就かず、勝てもしないのにギャンブル三昧。
少しでも気に入らないことがあると、
ちゃぶ台をひっくり返すのが日課。

そんなイサオに文句も言わず、
幸江は近所のラーメン店“あさひ屋”でパート。
米櫃から米を掬うとき、ささやかな幸せを感じている。

アパートの女管理人は、幸江を不憫に思い、
あさひ屋のマスターは幸薄そうな幸江に想いを寄せ、
警官は、毎度イサオを迎えにやって来る幸江に同情する。

ある日、報われない恋に身もだえするあさひ屋のマスターが
ソープランドで偶然出会ったのが、
服役を終えて出所したばかりの幸江の父親で……。

いや~、笑いました。泣きました。
幸江とイサオの馴れ初めが明かされると、
誰に何を言われようが、幸江がイサオと別れないのも納得。
しかし、「幸江さんを綺麗な体で迎えに来たかった」と言ってたわりには、
大阪でまた「兄さん」と言われるような人になっているのは何故?
と、ツッコミたくはなりましたけれど。

妙なイントネーションの大阪弁を聞くと、
気色悪さを感じてしまうものですが、
アパートの女主人を演じるカルーセル麻紀は天晴。
明らかに変な大阪弁だけど、すんごい迫力で違和感なし。

個人的には、最後の十数分はカットして、
幸江が出かけるところで終わっても良かったかなと。
だけど、熊本さんにも泣かされたので、
うーん、やはりあるべきシーン?
最後まで席を立つなかれ。

原作、早速注文しました。

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『フライ・ダディ』

2007年10月26日 | 映画(は行)
『フライ・ダディ』(英題:Fly, Daddy, Fly)
監督:チェ・ジョンテ
出演:イ・ジュンギ,イ・ムンシク,イ・ヨンス,キム・ソウン他

金城一紀原作の『フライ,ダディ,フライ』が
岡田准一と堤真一主演で映画化されたのが一昨年のこと。
ジャニーズの中では岡田君が好き(っていうほど知らんけど)。
堤真一はもともと大好きなもので、
日本版オリジナルは大のお気に入りでした。
その韓国版リメイクが本作。

ヘヴィ・メタボリックな中年サラリーマン、ガピルは妻と娘の三人家族。
住宅ローンを抱え、昇任を待ち望み、会社と家の往復だけの毎日。

ある日、娘が学校帰りのカラオケ店で、
他校の男子学生から暴行を受けたと連絡がある。
病院へ駆けつけると、顔を激しく殴られた娘の姿が。
加害者であるテウクとその教師らは、まるで人を小馬鹿にした態度。

テウクの両親は有名な政治家で、
警察にもマスコミにも手を回し、事件を揉み消したらしい。
テウク自身も高校のボクシング・チャンピオンで、
学校側は英雄の不祥事を表沙汰にしたくないのだ。

「お前にも隙があったのではないか」と責めるガピルに
娘は「もうお父さんには会いたくない」と言う。

娘の信頼を回復するため、復讐を心に誓うガピルは、
庖丁を携えてテウクのもとへ向かうが、
通りすがりの同校の学生スンソクに強烈な一撃を喰らわされて気絶。
目が覚めると、そこはスンソクとその同級生たちの集まる小屋。
無謀さを戒められたスンソクは、彼らに事情を打ち明け、
どうしてもテウクを殴り返したいのだと言う。

過去にテウクに勝った唯一の人物が
目の前のスンソクだと知ったガピルは、スンソクに弟子入りを志願。
冬休み後に控えた決闘の日に照準を合わせ、特訓が始まる。

おみそれしました。オリジナルよりいいかも。
岡田君が演じた役をリメイクで演じるのは、
美形俳優のイ・ジュンギ。
『王の男』(2006)の彼を見れば、同性であれども彼にイカレるのがわかります。
本作でもクールに、強く、色っぽく。

だけど、彼以上に素晴らしかったのは、
最初、冴えないただのオッサンだったガピルを演じるイ・ムンシク。
妻に内緒で会社を休職するさい、
理由を聞きたがる同僚たちに対して、
彼は返事をする代わりに、「君らは、いい父親か」。

メタボなお腹が40日後には割れていることにもご注目。
お父さんたち、ぜひ観て涙してください。笑いも十分。
いいなぁ、こういう映画。

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『ビューティフルメモリー』

2007年10月22日 | 映画(は行)
『ビューティフルメモリー』(原題:Marilyn Hotchkiss Ballroom Dancing & Charm School)
監督:ランドール・ミラー
出演:ロバート・カーライル,マリサ・トメイ,ジョン・グッドマン,
   メアリー・スティーンバージェン,ドニー・ウォールバーグ他

劇場未公開だと、邦題を考える気もないのか思うほど、
この邦題はイケてなさすぎ。
原題は“Marilyn Hotchkiss Ballroom Dancing & Charm School”。

家業のパン屋を受け継いでいる40代のフランク。
妻が自ら命を絶ってからというもの、毎日淡々と仕事をこなすだけ。
「妻と死別した夫の会」のグループカウンセリングに参加しているが、
まったく立ち直れずにいる。

ある日、ハイウェイを走行中、大破した車を目撃する。
緊急電話をかけると、車内の瀕死の男性が意識を保つよう、
救急車の到着まで話しかけるように指示を受ける。

50代とおぼしき男性の名はスティーブ。
40年ほど前に交わした約束を果たしに行く途中だった。
新世紀に入って5年5ヵ月と5日目の今日、
初恋の女性リサと、マリリン・ホッチキス学校で会う約束。

1962年、上流家庭に憧れる主婦たちが、子どもをこぞって通わせた、
社交ダンスとマナーを教えるその学校に、
リサと会いたい一心で通い続けたスティーブ。
自分の代わりにリサに会いに行ってほしいとフランクに告げ、
スティーブは息を引き取る。

フランクはマリリン・ホッチキス学校を訪れる。
リサらしき人は見当たらず、人捜しに来たと言えないまま、
新入会員として紹介されたフランクは、
メレディスという女性に出会うのだが……。

地味ですが、ほわっと温かい気持ちになれます。
フラッシュバックされるスティーブの初恋。
リサと踊りたいのに、リサとだけ踊れない。
自分以外はみんなリサと踊っているのに。
悪ガキの面目もどこへやら、リサの前では口もきけないスティーブが可愛らしい。

40年ほども前の約束を相手も守るなんて、
どうしてそんなに自信があるんだと言う仲間に対し、
「連絡がなくなっても、お互いに結婚しても、
何があっても会うと約束したんだ。
会えば、会えなかった間の過去はすべて消える。
新しい始まりだ。やり直せる」とスティーブ。

虚無感に襲われていたフランクが、
やむを得ず参加した社交ダンスの1回目のレッスンは、
決して楽しいものではなかったのに、
何かが琴線に触れた様子も伝わってきます。

ちょっぴり切ないシーンも。
だけど、人恋しくなる秋にぴったりかも。
パンの香りが立派な脇役。

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『フランシスコの2人の息子』

2007年10月16日 | 映画(は行)
『フランシスコの2人の息子』(原題:2 Filhos de Francisco - A História de Zezé di Camargo e Luciano)
監督:ブレノ・シウヴェイラ
出演:アンジェロ・アントニオ,ジラ・パエス,
   ダブリオ・モレイラ,マルコス・エンヒケ他

ブラジルで大人気の兄弟デュオ、
ゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノの半生を描いた作品。
1962年生まれのゼゼと1973年生まれのルシアーノは、
デビュー以降、2,000万枚以上のCDセールスを記録。
映画もブラジルでは歴代興行成績No.1に輝いたそうです。

ブラジルの田舎町。
フランシスコと妻のエレーナは、小作農として生計を立てている。

音楽をこよなく愛すフランシスコの夢は、
子どもができたら音楽家にすること。
そして夫婦は7人の子どもに恵まれる。

長男のミロズマルと次男のエミヴァルに、
フランシスコはアコーディオンとギターを買い与える。
一日中ラジオから流れる音楽を聴いていた兄弟は、
フランシスコの思惑どおり、音楽好きに育ち、
独学で歌と演奏技術を身につけてゆく。

2人の息子に楽器を持たせるためなら
ありったけの農作物をも差し出すフランシスコのことを、
村人たちは「イカレている」とあざ笑い、
地主であるエレーナの父親からはついに追い出される。

不安な顔を見せるエレーナに、
「俺を信じろ」とフランシスコはひと言。
一家は都会へと移り住む。

しかし、食べるものにも困る状態が続く。
少しでも家計の足しになればと
バスターミナルで演奏を始めるミロズマルとエミヴァル。
やがて、見るからにチャランポランなエージェントの目に止まり……。

この貧乏度は中途半端じゃありません。
都会で借りることになったのは、到底、人が住めるとは思えぬ家。
だけど、とりあえず点いた灯りを見て笑い出す子どもたちに救われます。

なんだか頼りなくて、家族にはかなり横暴で、
でも基本的に善人で、ちょっぴり浅はかなフランシスコ。
そんな彼に強引に音楽への道を歩まされているのかと思いきや、
音楽が好きで好きでたまらない子どもたち。
「みんな、父さんのことをイカレてると言ったけど、
俺たちもイカレてたのさ」という台詞に惚れました。

驚いたのはエンドロールの長さ。約8分。
エンドロールが長い=関わった人間が多い、
つまりはお金のかかっている映画だと今まで思っていましたが、
たぶんこの映画はそうじゃないですね。
あっちの村人もこっちの村人も、
みんなクレジットされてるんじゃないでしょか。

イカレるときはみんな一緒に。

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『サン・ジャックへの道』

2007年10月12日 | 映画(さ行)
『サン・ジャックへの道』(原題: Saint Jacques...La Mecque)
監督:コリーヌ・セロー
出演:ミュリエル・ロバン,アルチュス・ドゥ・パンゲルン,
   ジャン=ピエール・ダルッサン,マリー・ビュネル他

大好きな女流監督が、こんなロードムービーでも魅せてくれました。
旅に出なあかん理由からしてサイコー。

中年の兄姉弟、ピエール、クララ、クロード。
長男のピエールは自己チューな会社経営者。
長女のクララは無神論者で高校教師。
次男のクロードは無職の酔っぱらい。
会えば罵り合いになるほど仲が悪い。

ある日、彼らのもとへ母親の訃報が届く。
弁護士から遺言を聞けば、遺産は100万ユーロと70万ユーロ相当の別荘。
母親はそれらをすべて、慈善団体に寄付するつもりだと言う。
ただし、もしもある条件を満たすなら、
子どもたち3人に相続させることにすると。

その条件とは、3人一緒に聖地巡礼の旅に出るというもの。
フランス山間部の町ル・ピュイを出発し、スペインの西の果て、
キリスト教の聖地サンティアゴ(フランス語でサン・ジャック)へ。
実に1,500km、2ヵ月におよぶ巡礼の旅を3人そろって徒歩で成し遂げた場合にのみ、
遺産を相続することができるのだ。

そんなアホな。だけどお金はほしい。
そう考えた3人は、嫌々ながらも旅に出る決意をする。

「道まかせツアー」と名づけられた、
聖地巡礼の旅に参加するのはほかにも数名。
ベテランガイドのあとに続き、歩き始める。

聖地巡礼の旅と言っても、問題の3名はもとより、
信仰心に駆られて参加している者はほとんどいません。
親からこの旅を贈られた女子高生2名。
そのうちの1名のことが好きで参加した男子学生。
唯一、純粋な信仰心の持ち主と思われるのは、
その男子学生に誘われて参加したアラブ人の少年。
しかし、イスラム教の聖地メッカに行くと思い込んでいます。
ほかに長年病気を患っていたと思われる、ワケありげな女性。

どの人物も個性的、でもどこかに実在しそう。
そして、それぞれ、悩みを抱えています。
妻がアル中だったり、浮気していたり、失読症だったり。
最初のうちは大自然のなかで携帯を手放せず、
休憩中にほぼ全員が携帯片手にわめいている姿には吹き出します。

いつのまにか観ている自分まで参加者に。
必ず元気になれる、愛すべき作品です。

同監督の『女はみんな生きている』(2001)は
メリル・ストリープ主演でリメイクされる予定。
めちゃくちゃ楽しみです。

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