夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『はじまりは5つ星ホテルから』

2014年02月28日 | 映画(は行)
『はじまりは5つ星ホテルから』(原題:Viaggio Sola)
監督:マリア・ソーレ・トニャッツィ
出演:マルゲリータ・ブイ,ステファノ・アコルシ,レスリー・マンヴィル,
   ファブリツィア・サッキ,ジャン・マルコ・トニャッツィ他

ちょっぴり眠かった前述の『ブエノスアイレス恋愛事情』
それでも幸せ感に包まれて、約1時間後の本作上映開始までロビーにて待機。

この日の朝から読みはじめた池井戸潤の『下町ロケット』がおもしろすぎ。
池井戸さんの著作では『空飛ぶタイヤ』が最高だと思っていましたが、
『下町ロケット』も甲乙つけがたいおもしろさ。
1時間があっというまに過ぎ、このまま続きを読みたいと後ろ髪を引かれながら入場。

本作をぜひ観たいと思ったのは、タイで宿泊したスコータイホテルが5つ星だったから。
採点にまったく手心が加えられないものだとは思えませんが、
居心地満点だった5つ星ホテルが、どんなふうに採点されるのか興味があって。

イタリア人で40歳の独身女性イレーネは、5つ星ホテルの覆面調査員
世界中のホテルにお忍びで滞在して5つ星に相違ないかを厳しくチェックする。

優雅に見える職業だが、世界中を飛び回るこの仕事をしていれば結婚なんて無理。
妻として母親として家庭を仕切っている妹のシルヴィアからは嫌みを言われっぱなし。
唯一落ち着ける相手のアンドレアとも恋人としては破綻、
いまは親友としてつきあっている。

アンドレアの女性関係には口を出さないで来たが、
あるときアンドレアがナンパしてつきあいはじめた相手、
ファビアーナが妊娠したと聞かされ、動揺する。
彼女は、結婚してくれなくてもいいが子どもは産むとアンドレアに宣言しているらしい。
結婚する気などなかったアンドレアも、父親となる決意をした様子で……。

どこからどう見ても女性向き、男性には退屈な作品かもしれません。

女性ならば憧れるであろう、ラグジュアリーなホテルでの滞在。
イレーネは決して美魔女とかではなく、年相応の美しさと洗練された身のこなし。
タバコを吸った手そのままでほうれん草をちぎるのだけは勘弁してほしいですけれども。(^^;
誰かに縛られることはなく、でも、何でも相談できる親友(しかも異性で男前)がいる。

だけど、他人が想像するような高給取りではない(本作の台詞によれば「職人並み」)。
親友に恋人ができて、これまでのような関係を望めなくなるのかと思うと寂しい。
かわいい姪っ子たちと上手くやっているつもりでも、母親の代わりにはなれない。

優雅な毎日を送っていながら、独身で、子どもなし、友だち少なし、老後の不安も。
ひねくれた見方をすれば、女性に劣等感と優越感を上手いバランスで与える作品なのでは。

アンドレアと寝てしまったイレーネが、ファビアーナと鉢合わせ。
怒ったファビアーナをアンドレアではなくイレーネが追いかけて、
一方的に話しかけ、しばしの沈黙の後のシーンが最高です。泣けました。
こんなシーンも女性ならでは。

それにしても凄い5つ星チェック。
温度計を常に持ち歩いてワインやスープの温度をはかっているなんて。
いずれも客の好みや体調にもよると思うんですが、
基準が明らかでなければ採点なんてできないか。

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『ブエノスアイレス恋愛事情』

2014年02月26日 | 映画(は行)
『ブエノスアイレス恋愛事情』(原題:Medianeras)
監督:グスタボ・タレット
出演:ハビエル・ドロラス,ピラール・ロペス・デ・アジャラ,
   イネス・エフロン,アドリアン・ナバロ他

前述の『鉄くず拾いの物語』のあと、なんともいえない衝撃でボーッとしたまま、
同じスクリーンにて2011年のアルゼンチン/スペイン/ドイツ作品を。

監督はアルゼンチン出身、故郷ブエノスアイレスを舞台に撮った長編デビュー作。
2005年に撮った同名短編が高い評価を受けての長編化だそうです。
全体的にキュートな印象の本作ですが、ところどころ眠かった。
もしかしたら短編のままのほうがよかったのかしらんと未見ながら思ったりもして。

ブエノスアイレスでひとり暮らしをしているマリアナ(♀)とマルティン(♂)。
(冒頭で述べられる住所によれば)同じ通りに住んでいる模様だが、
お互い面識はなく、ご近所さんであることももちろん知らない。

ふたりに共通しているのは「恐怖症」。
マリアナはエレベーターが怖く、マルティンは広場と人ごみが怖い。
そしてふたりとも、異性との別れが原因で、近ごろ人づきあいが億劫。

建築家のマリアナは、思った仕事にはありつけず、
今はショーウィンドウのディスプレイを手がけている。
肌を寄せ合う相手といえばマネキンだけ。
わかり合える相手を見つけるのは、まるで「ウォーリーを探せ」。
どうしてもウォーリーを見つけられないページがある絵本を捨てられない。

マルティンは幸いにしてウェブ・デザインの仕事が順調で、
家にこもったままの生活でもなんとかなっている。
買い物もすべてネットで注文して済ませているが、
つきあっていた女性が飼い犬を彼に預けたままいなくなったため、
散歩させてやらなければならないと考える。
散歩係をネットで募ると即座に見つかり、
広場恐怖症を克服するために、散歩係の女性と一緒に歩いてみることに。

こんなふたりが出逢うまで。

「近所に住んでいるのに、互いを知らない男女の物語」、
監督は「閃いた」そうですが、あまり珍しい感じがしません。
万国共通で思いつくことなのか。
『ターンレフト ターンライト』(2002)然り、『おと・な・り』(2009)然り。
どれも最後の最後に顔を合わせてハッピー・エンディング。
本作もやはりそうですが、この2作に比べると眠い。
再三眠気に襲われていましたが、ふたりがチャットを始めるころからお目々パッチリ。
ブエノスアイレスという街の風景も面白く、建築物にも目を惹かれます。

幸せな日に舞い上がり過ぎることなく、悲しい日をやり過ごそう。
そんなふうに決めていたマルティンとマリアナが出逢ったら。

主演のふたりはどちらもチャーミング。
優しいエンディングに胸がキュン。微笑まずにはいられません。

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『鉄くず拾いの物語』

2014年02月24日 | 映画(た行)
『鉄くず拾いの物語』(原題:Epizoda u Zivotu Beraca Zeljeza)
監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:ナジフ・ムジチ,セナダ・アリマノヴィッチ他

来年度には繰り越せない分の有休を消化するため、
毎年この時期は同僚の誰かが入れ替わりで休んでいるような状況。
先週は私が休みを取らせてもらって映画をハシゴ。

何が何でも観たい作品は見当たらず、とりあえず候補として考えたのは、
来月には別の劇場になってしまう梅田ガーデンシネマで3本。
招待券もまだ1枚残っているし、あとの2本も1,000円で観られます。

ほかの候補として考えたのは、3本目をガーデンシネマで観るとして、
1本目と2本目は大阪ステーションシティシネマで。
けれどもそれだとメンバー料金の1,600円にしかならないので、
先に金券ショップへ寄って、前売り券を入手してからステーションシティへ行こうかと。

仕事に行くときよりも早く家を出て新梅田シティへ。
この辺りではもっとも安い、最大料金1,000円のタイムズへ駐車したのち、
福島駅のほうが近いやろという地点からJR大阪駅までてくてくと。
そして愕然、もしかすると金券ショップって朝早くからは開いていない!?
新幹線などの切符のみ、早朝でも自販機で購入できるのですねぇ。
半世紀近く生きてきて、知らなかったこの事実。(^o^;

ホワイティ梅田をうろうろするも、1軒とて営業中の店はなく、
仕方なくそのままスカイビルへ戻ろうとヨドバシカメラの外周を通ってぐるり。
通常は近道に使わせてもらうヨドバシカメラ駐車場もまだ閉鎖中なんだもの。
バスに乗ってもいいぐらいの距離を朝から歩いたのでした。

そして結局ガーデンシネマで3本。その1本目がこれ。

第86回アカデミー賞外国語映画賞のボスニア代表作。
『ノー・マンズ・ランド』(2001)が衝撃的だったダニス・タノヴィッチ監督。
同国の出身で現在はパリに住むその監督が、母国の新聞記事に胸を痛めて奮起。
貧困にあえぐロマ族の一家が実際に体験した出来事を
当事者たちを起用して撮り上げたという、まるでドキュメンタリー。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナに暮らすロマ族の一家。
父親のナジフとその妻セナダ、幼い娘サンドラとシェムサは、
貧しいながらも仲良く幸せな毎日を送っている。

ところがある日、3人目を妊娠中のセナダが激しい腹痛に見舞われる。
ナジフが車を飛ばしてセナダを病院へと運び込むと、すでに流産しているとのこと、
母胎も危険な状態にあるため、早急に掻爬手術を受けるようにと言われる。

しかし、ナジフ一家には保険証がない。
保険証がなければ1000マルク近い手術費用を全額負担しなければならず、
そんな金がナジフに払えるわけがない。
なんとかしてほしいと頼み込むが、あっさり断られ……。

戦争にも行ったナジフに恩給もなければ、生活保護も子ども手当もなし。
こんな状況になれば愚痴もこぼしはしますが、
それでも普段の家族にはみじめさのかけらもなし、笑いが絶えない。
生きるために躍起になっている様子もなくて、ただただ自然。

近所に住む人びともそうで、状況をありのままに受け入れ、
今日生きるためにできることをするだけ。
困っている隣人には当たり前のように車を貸し、保険証すら差し出す身内。
電気を止められれば故障した自分の車を解体して金を払う。

暗い話なのに、今日できることをして毎日を明るく生きている。
そんな姿に衝撃を受けました。
彼らの毎日を悲惨だと思うこと自体が傲慢なのか。凹みます。

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『大統領の執事の涙』

2014年02月22日 | 映画(た行)
『大統領の執事の涙』(原題:Lee Daniels' The Butler)
監督:リー・ダニエルズ
出演:フォレスト・ウィテカー,オプラ・ウィンフリー,キューバ・グッディング・Jr.,
   デヴィッド・オイェロウォ,レニー・クラヴィッツ,ヤヤ・アラフィア他

109シネマズ箕面にて、前述の『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』とハシゴ。

ここ数年、非常に多いような気がする人種差別を取り上げた作品。
特に心に残っているのは『ヘルプ 心がつなぐストーリー』(2011)。
奴隷制を巡っては『リンカーン』(2012)、ヴァンパイアものだけど『リンカーン/秘密の書』(2012)も。
本作もそんなブームに乗ったうちの1作品ではありますが、
20世紀にどういった人種差別があり、そこに何が、誰が変化をもたらし、
今のアメリカになって行ったのかを学習するのにうってつけの作品かと。

綿花を栽培する農園の奴隷の息子として生まれ育ったセシル。
雇い主の家族によって母親を手込めにされ、
反抗心を見せた父親はセシルの目前で撃たれて死亡、母親は廃人に。
セシルのことを案じた女主人は、セシルを邸内に招き入れ、
“ハウス・ニガー”(白人の屋敷の外で働く“フィールド・ニガー”に対し、
屋敷に住み込んで身の回りの世話をする黒人奴隷のこと)の職を与える。

セシルにとっては、綿花の栽培よりも好きだと思える数々の仕事。
主人一家のためにお茶を入れたり食事を運んだり、靴を磨いたり。
セシルは仕事をきっちりと覚えて真面目にこなす。
やがて今が出て行き時だと、女主人に別れを告げる。

屋敷を出てはみたものの、行くあても金もない。
空腹を我慢できずに忍び込んだホテルで情けをかけられ、給仕として採用される。
客同士の話は聞かない。政治に関心を持たない。空気のごとき存在に。
白人の前では白人の前用の顔を。それを忠実に守るセシル。

そんな仕事ぶりが認められ、ワシントンD.C.の一流ホテルからお呼びがかかる。
田舎のホテルとは大違いの高級ホテルに移ってからも、
そつなく給仕を務めるセシルに、今度はホワイトハウスに来ないかと。
大躍進に、最初のホテル時代に知り合って結婚した妻グロリアも大喜びで……。

ずいぶん若い頃のセシルから老いたセシルまで、
わが家では「鶴瓶」と呼んでいるフォレスト・ウィテカーが好演。似てません?
メイクに頼った感はなく、歩き方で年齢が表現されています。

こういう作品を観るたびに、世界史の教科書で勉強した程度では
何も頭の中に残っていないし、わかっていなかったんだなぁと痛感。

セシルが仕えてきた歴代の大統領として登場するのは、
アイゼンハワー(ロビン・ウィリアムズ)、ケネディ(ジェームズ・マースデン)、
ジョンソン(リーヴ・シュレイバー)、ニクソン(ジョン・キューザック)、
レーガン夫妻(アラン・リックマンジェーン・フォンダ)。

世間知らずのお坊ちゃんだと思われていたケネディが、
人種差別に心を痛めて人種差別法案の撤廃を叫んだのちに撃たれる。
徹底した非暴力主義で人種差別をなくそうとしたキング牧師もやはり撃たれる。
こういった中でも少しずつ拡大していった公民権運動がわかりやすく描かれています。

執事である父親セシルのことを、白人にへつらう黒人として恥じる長男ルイス。
しかし、そんなルイスに、キング牧師は「執事は立派な仕事だ」と言います。
彼ら(執事)は、真面目に仕事をすることで、白人の黒人に対する紋切り型イメージを変えさせた。
彼らは自身で意識をしていないとしても、闘っているのだと。

黒人であり、なおかつゲイであることをカミングアウトしているリー・ダニエルズ監督。
そんな彼にこんな静かに力強い作品を見せられたら、生きる力になります。

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『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』

2014年02月20日 | 映画(ま行)
『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』
監督:三池崇史
出演:生田斗真,仲里依紗,山田孝之,上地雄輔,岡村隆史,吹越満,
   遠藤憲一,皆川猿時,大杉漣,岩城滉一,堤真一他

土曜日の晩はたいていお酒を飲み過ぎます。
だもんで、へろへろの日曜日は家でおとなしくDVDを観ることにしているのですが、
この日曜日はなんとなく大丈夫そうだったので、朝から109シネマズ箕面へ。

いつものとおり端っこの席を押さえたら、
上映間際に小学生の男の子を連れた綺麗なお母さんが、私のすぐ隣に立ち、
「その席なんですけど」。えっ、ごめんなさ~い!とチケットを出そうとすると、
「別にいいですけど。前の列でもかまわないので」とお母さんニッコリ。

そういうわけにはいかないでしょうと、チケットを確認したら、おうてるやん、私。
お母さんは私と同世代らしく、老眼が相当キテている模様。
自分のチケットを遠く離して見つめ、「あ、私たちが前の列でした」とまたしてもニコッ。

お~い、人にまちがっているという前にちゃんと確認してくれよと思いましたが、
男の子が「ちょ~、お母さん、勘弁してや。めっちゃ迷惑やん」と小声で言うてるのを聞いてワロた。

で、大好きな三池崇史監督の作品です。脚本は宮藤官九郎
「童貞」という言葉は頻発、コンドームも登場する本作、
母子で観ても大丈夫なんだろうかと素朴な疑問。
イマドキの親子なら説明に困ったりはしないのかしらん。

谷袋警察署の交番に勤務する問題児、菊川玲二(生田斗真)。
近隣の住民との間にしょっちゅういざこざを起こして始末書の山を築き、
ついに署長の酒見(吹越満)からクビを言い渡されてしまう。

しかし、それは表向きの話。
クビになった玲二が、これこそ天職とばかりヤクザになったと見せかけて、
広域暴力団数寄矢会に潜り込ませようという魂胆。
警察署と厚生労働省の麻薬取締局が数寄矢会の会長、轟(岩城滉一)を挙げようというのだ。

こうして極秘に潜入捜査官、通称土竜(もぐら)の命を受けた玲二は、
日本一凶悪といわれる数寄矢会へと潜り込むことに。

不審に思われることなくヤクザの仲間入りをしようと、
まずは数寄矢会阿湖義組の若頭、日浦(堤真一)に近づく。
「ヤクザは面白くなきゃいかん」が信条の日浦は、
玲二の捨て身の振る舞いにウケて、兄弟の契りを交わそうと言いだし……。

あまり計算されたふうではなく、かなりテキトー。
勢いで笑わせる芸風に、憤る人もいそうです。

けれどもやっぱり憎めないのです、三池監督の作品って。
さまざまな予告編のナレーション担当者の中で、私がいちばん好きな声の持ち主、遠藤憲一が、
吹越満や皆川猿時と一緒に歌って踊ったり、
堤真一がまたしてもワラかすヤクザ役にハマっていたり、
独りどこまでもクールな山田孝之に、全身ヒョウ柄刺青の上地雄輔と、
なんだかみんな、とっても楽しそうなんだもの。
大杉漣がつくる特製ドリンクは、見ているだけでオエッとなりましたけれども。

堤真一演じる日浦は、麻薬には絶対に手を出さないというルールを課しています。
「ヤクザがクスリに手を出したら、極道が外道になる」。これはよかった。

同じ潜入捜査官ネタでも、『新しき世界』とはエライちがい。
だから映画はおもしろいのだ。

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