夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『23年の沈黙』

2011年05月31日 | 映画(な行)
『23年の沈黙』(原題:Das Letzte Schweigen)
監督:バラン・ボー・オーダー
出演:ウルリク・トムセン,ヴォータン・ヴィルケ・メーリング他

2010年のドイツの作品で、先週末にレンタル開始。
ドイツ映画批評家賞の作品賞にノミネートされましたが、
日本では未公開。

1986年7月8日。
11歳の少女ピアは、自転車で帰宅途中、
跡をつけてきた赤い車の運転手に麦畑へ連れ込まれ、
強姦された挙げ句に殺される。
数日後、警察は湖の底からピアの遺体を発見するが、
犯人逮捕には至らず、迷宮入り。

2009年7月8日。
建築家のティモは、TVの報道を見て愕然とする。
13歳のジニカという少女が行方不明になり、
あの麦畑に自転車が残されていたというのだ。

23年前と同じ日に、同じ場所で、同じ年頃の少女が行方不明に。
偶然とは思えない出来事に、ティモは居ても立ってもいられず、
妻子に仕事だと偽って家を出るのだが……。

これは最初の映像で明かされるので、ネタバレではないのですが、
先の事件の犯人は赤い車の運転手で、
現場にほど近い地域の集合住宅の管理人を務めるペアという男。
当時、ティモは学生で、その集合住宅の住人でした。
小児性愛の傾向を自分に認めてはいるものの、ひたすらそれを押し隠し、
真っ当な人生を歩んできたはずが、
ペアにその性癖を見抜かれ、ずばり指摘されてしまいます。

赤い車の助手席に乗っていたティモは、事件後に遠方へ引っ越し、
ペアに見つからないように暮らしてきました。
それが、23年後に、ペアが犯人としか思えない事件が起き、
ティモは激しく動揺してペアに会いに行きます。

後の事件についても、犯人はペアだと言いたげな進行です。
しかし、ここで謎なのは、誰が殺したかではなく、
なぜ23年も経ってから同様の殺しを犯したのか。
これを解いてゆく過程に非常に見応えを感じます。

先の事件を解決できないまま退職した老年の元刑事。
病気で妻を亡くしたショックから立ち直れないままの現役刑事。
彼らを叱咤しつつも優しく見守るマタニティの女刑事が最高。

ごつごつしたドイツ語は、このテーマに妙に合っています。
そして、こんなに陰鬱なのに、空と雲と小麦畑が美しい不思議。
それがちょっとした救いでもあり、余計に不穏さを増すものでもあり。

オチはなるほどとは言いがたいのに、
老いればそんな動機もあるのかと納得してしまったりして。
けど、なぜに23年なのか。その意味は見いだせず。
原題は“Das Letzte Schweigen”で、「最後の沈黙」の意。
それならば納得。

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「さるさる日記」サービス終了につき、引っ越してきました。

2011年05月27日 | ごあいさつ
2002年10月より8年と7カ月、「さるさる日記」にお世話になりました。

友人がHPを立ち上げるさいに、そのページのひとつのコーナーとして、
映画について書いてみないかと声をかけてもらいました。
それがきっかけで書きはじめたのが“夜な夜なシネマ”。

ブログという言葉もまだ普及していなかったころ。
コメント機能や画像の貼付機能もない、超原始的な「さるさる日記」。
だからこそ続けて来られた気がして、
「さるさる日記」のサービス終了時がやめどきかと思っていましたが、
書き積んだものがなくなるのもさびしくて、備忘録代わりに続けることに。

過去の日記に登場する「管理人さん」とは当時のHPの主、
「掲示板」とはそのHPに設置されていた掲示板のことです。
私にきっかけをつくってくださった「管理人さん」にあらためて感謝!

さて、シンプルな「さるさる日記」が気に入っていましたが、
引っ越してせっかくあれこれできるようになったので、カテゴリー別に分けてみました。
興味を惹かれたネタがありましたら、ぜひお読みください。
文中に登場するURLが過去のさるさる日記のもののため、
リンクされていない場合はお許しを。徐々に整備していきます。

批評するような器じゃないので、映画をご紹介する程度に努めています。
製作年を特に記していない作品は、執筆当時に公開中、
あるいはDVDレンタル開始後まもないものです。
ふだんあんまり映画をご覧にならない人がここを覗いて、
「この映画ちょっとおもしろそう」とか
「この役者さんのほかの映画が観てみたい」とか思ってくれたら
このうえなきしあわせ。

ついでに、ブックマークに入れているお店について。
もともとは1軒のお店にかよっていたのが、
そこから移られたり独立されたりしたスタッフのお店を追いかけるうち、
かよいたいお店が増えてゆきました。
番外編「映画と食べもの・飲みもの」に登場する、
たとえば、私の苦手なヤキソバパンをおいしくつくってくれたシェフ、
レッドブルでカクテルをつくってくれたソムリエもいるお店です。
いずれも大好きなスタッフのいる、大好きなお店ばかり。
ご紹介まで。

これからもよろしくお願い申し上げます。

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『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』

2011年05月26日 | 映画(あ行)
『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』(原題:Inside Job)
監督:チャールズ・ファーガソン
ナレーション:マット・デイモン

関西では、新スポットの大阪ステーションシティにあるシネコン、
ステーションシティシネマのみにて上映中。

全米では昨秋に公開され、当初は日本公開の予定はありませんでした。
どうせ日本では当たらんやろと未公開のはずだった作品が、
公開を希望する署名運動が起こって日の目を見た最近の例では
『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2009)や『ファンボーイズ』(2008)などがありますが、
本作はそういう経緯は聞いていません。
今年2月にアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞したゆえでしょうか。

日本語字幕の監修はTVでもおなじみ、経済アナリストの森永卓郎氏。
緊急公開決定のせいなのか、パンフレットもなく、
売店で「代わりにどうぞ」とチラシをくれました。

さて、そんな愛想のない作品のあらすじは。

2008年9月に、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻。
それが引き金となった世界的な金融危機、リーマンショック。
本作では、このリーマンショックの前後に、
アメリカの金融業界と政府がいったい何をやったのかを追及しています。
み~んなグルの「インサイド・ジョブ(内部の犯行)」でしょって。

取材を受けた人は全員実名で登場し、顔出しもしています。
当然、取材を拒否した人も多数いるなか、
出演することによってイメージだだ下がりになる場合でも
取材を了承した人物は潔しとすべきか。

映像から受ける印象の善人悪人は別にして、そうそうたる顔ぶれです。
著名投資家や作家、シンガポールの首相にフランスの蔵相、
IMF(国際通貨基金)やFRB(米連邦準備制度理事会)のお偉方、
ハーバード大学、コロンビア大学、ニューヨーク大学の教授などなど。
客の半数近くが金融業者で占められていた高級娼館の経営者も登場します。
さらには当時の映像を盛り込み、金融危機の内幕を徹底的に暴きます。

お金がいくらあっても、家や自家用ジェットをいくつ持っていても、
ウォール街政治に関わった人たちは満足できない。
おもしろいと思ったのは、頭の中を調べてみたらという話。
勝ったらお金がもらえる賭けをするときに快感を得る脳の部分は、
ドラッグを使用したときに快感を得る部分と一致するそうです。

マット・デイモンの声が本作にぴたり。
何が起こったのか知っておきたい人にオススメ。

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『ダンシング・チャップリン』

2011年05月23日 | 映画(た行)
監督:周防正行
振付:ローラン・プティ
出演:ルイジ・ボニーノ,草刈民代他

関西ではテアトルシネマグループの劇場にて公開中。

周防正行監督が『Shall We ダンス?』(1996)のヒロインに抜擢し、
それが縁で翌年に結婚したバレリーナの草刈民代。
本作のポスターには、2009年にバレリーナを引退した彼女の「ラストダンス」と。
彼女を撮りたくてたまらない監督の、究極のおノロケ映画とも言えます。(^^;

さて、これがとてもおもしろいバレエ映画でした。

フランスのバレエの振付家ローラン・プティが、
チャップリンの作品を見ていて突然思いついたというアイデアにより、
“Charlot Danse avec Nous(チャップリンと踊ろう)”という作品ができました。
チャップリン役と言えばこの人しかいないと、ルイジ・ボニーノに。
彼は、1991年の初演以来、何十回もの公演をこなし、
還暦を迎えたいまも、バリバリ現役のダンサーです。

この「チャップリンと踊ろう」の舞台をフィルムに収めたくなった周防監督は、
ルイジと草刈民代の共演で、企画を進めます。
本作は二部構成になっていて、第一幕はメイキング。第二幕がバレエ。
合わせて130分ちょいですが、
まずは映画をつくる過程をじっくり見て、5分間の休憩を挟み、
完成した「バレエの舞台」を「映像で観る」。楽しいです。

世界でもっとも美しい職業だと自負するバレエダンサーたち。
体が思いどおりに動くときには心がついてゆかず、
心が体に追いついたと思ったら、もう体はついてきてくれないんだ。
ユーモアを交えながら、そんな心のうちをルイジは語ります。

また、映画と舞台、双方のつくり手は、分野としては同じでも、
お互いにイメージできないもの、譲れないものがあります。
周防監督とローラン・プティのやりとりにはそれが表れていて、
最終的にはどうなるのかと興味を惹かれます。

映画監督は公園で撮影したいと言い、
舞台監督はスタジオでしか撮影したくないと言う。
第二幕だけでもじゅうぶん楽しめる内容ですが、
こういったふたりのやりとりを第一幕で見ていると、
第二幕では感動の波が押し寄せます。

周防監督作品の『シコふんじゃった。』(1991)。
劇場で鑑賞中に拍手喝采が湧き起こり、
ほかのお客さんたちとあんなにも一体感を持った映画はこれのみ。

本作は、拍手喝采は起こらないものの、
みんな、心の中では拍手したいと思っている、
そんな雰囲気を感じた作品でした。

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『人生万歳!』

2011年05月20日 | 映画(さ行)
『人生万歳!』(原題:Whatever Works)
監督:ウディ・アレン
出演:ラリー・デヴィッド,エヴァン・レイチェル・ウッド,パトリシア・クラークソン他

NYを愛してやまないウディ・アレンが、
ロンドンで3本(これとかこれとか)、バルセロナで1本(これ)撮ったあと、
久々にNYで撮った1本。
昨年暮れに公開された2009年の作品で、このGWにレンタル開始。

かつてはノーベル賞候補にもなったことのある、自称天才物理学者ボリス。
気難しく厭世家の彼は、離婚を決めた折りに窓から飛び降りるも、
障害物に自殺を阻まれ、脚を負傷するにとどまった。
いまはその脚を引きずりながら、ひとりで暮らしている。
毒舌ぶりには磨きがかかり、ときには昔なじみの友人も引くほど。
チェス指南の子ども相手であろうとクソミソにけなす。

ある夜、アパートの階段に座り込んでいた若い女が、ボリスにすがりつく。
メロディと名乗るその女は、南部から出てきた田舎娘。
厳格な母のもとを飛び出してきたという彼女は、
仕事と部屋を見つけるまでの間、泊めてほしいと言う。
ほんの少し同情したボリスは彼女を追い返せず、同居することに。

ところが数日後、親子以上に年の離れたボリスのことを
メロディは好きになってしまったと言い出して……。

絶対に嫌いになれない監督なのですが、
ヒロイン役のボケの間(ま)がしっくり来ないのか、最初はテンポが微妙。
しかし、話が半分以上経過した辺りから、
原題の“Whatever Works”のとおり、「何でもあり」になってワヤクチャ、絶妙に。

以下、思いっきりネタバレです。

NYへやって来たメロディの母親マリエッタは、性に目覚めて奔放に。
ボリスの男友だち2人と、3人で暮らすようになります。
と書くとエロいですけれど、ちっともエロくありません(笑)。

メロディの父親ハワードは、マリエッタの親友との浮気が原因で離婚しましたが、
マリエッタと復縁するつもりで、これもNYへ。
ところが、変貌したマリエッタにあっさりフラれ、
ふらりと入ったバーで、自分が実はゲイであることに気づきます。

ボリスとメロディの「知性格差結婚」はやがて駄目になり、
若い二枚目俳優と恋に落ちたメロディはボリスにサヨナラ。
再び自殺を図ったボリスは、今度は女性占い師の上に落っこちて。
もう無茶苦茶な可笑しさ。

人生はほぼ偶然の要素で成り立ち、
その偶然の中で、本当の相手を人は探し求めていると言う監督。
本作で偶然がもたらす結末は最高にハッピー。
人生、なるようになる。心配は無用。

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