夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ピーター・セラーズの愛し方』

2005年06月29日 | 映画(は行)
『ピーター・セラーズの愛し方』(原題:The Life and Death of Peter Sellers)
監督:スティーヴン・ホプキンス
出演:ジェフリー・ラッシュ,シャーリーズ・セロン,エミリー・ワトソン他

1980年に54歳で亡くなったコメディ俳優ピーター・セラーズ。
彼の生涯を描いた伝記物です。

以前、ある雑誌で女優のキム・ベイシンガーが、
セラーズ主演の『チャンス』(1979)のことを絶賛していました。
数十年間、住み込みで働く屋敷から
一歩も外へ出たことのなかった庭師のチャンスが、
あるじの死をきっかけに世間へ放り出されます。
勘違いから大物だと思われて、やがては大統領にまで……という物語でした。

セラーズはこの『チャンス』でアカデミー賞主演男優賞候補に。
作品自体も非常に高い評価を受けました。
けれど、私はどうしても好きになれませんでした。
一度観たきりですが、強い不快感が残ったのです。
そして、本作を観て、なぜ『チャンス』が嫌いだったのか、わかったような気がしました。
そういう意味で、本作はとてもおもしろかったです。

セラーズは『ピンクパンサー』(1975~1978)でも有名です。
『ティファニーで朝食を』(1961)の監督ブレイク・エドワーズが
セラーズのことをイヤな奴だと思いつつ、
その魅力に取り憑かれていたことも本作で明かされています。
セラーズが『ピンクパンサー』に出演する気になるようにと
監督が占い師を買収していたのも楽しいネタ。

『博士の異常な愛情』(1964)でセラーズを起用したのは
もちろんスタンリー・キューブリック。
『ターミナル』(2004)や『Shall we Dance?』(2004)でおなじみの
スタンリー・トゥッチがキューブリック役。

妻子のある身でありながら、ソフィア・ローレンにひとめ惚れ。
ローレンに田舎住まいを揶揄されればすぐに都会へ引っ越し。
両想いだと勝手に信じ込む姿はほとんど滑稽。

セラーズを演じるジェフリー・ラッシュは
まるで本人を見ているかのような気にさせられます。
難儀な奴、でもなぜか彼に引き寄せられる、そんな人柄だったようですね。

本作を見てわかった、私が『チャンス』を嫌いな理由。
まさに無知と無邪気は紙一重。
無邪気に人を傷つける、そんな印象のせいです。

セラーズの出演作を観たことがない方は、『博士の異常な愛情』をぜひ。
その後にブルース・ウィリス主演の『アルマゲドン』(1998)をどうぞ。
『アルマゲドン』をロードショーで観て、
『博士~』のパロディシーンに大笑いした思い出があります。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

誤訳じゃないけど気にかかる。

2005年06月24日 | 映画(番外編:映画と邦題・字幕・台詞)
戸田奈津子さんの笑ける誤訳について書いたら、
私が字幕なしで英語を理解していると
嬉しい誤解をしてくださった方がいらっしゃいます。
ムリ、ムリ~。(^^;

でも、日本語って素晴らしい言葉だと思うので、
その日本語に翻訳されている字幕が
英語ではどんなふうに表現されているのか、
耳の穴かっぽじって聴くようにはしています。

そう訳されたら身も蓋もないやん!と思うこともしばしば。
たとえば『シックス・センス』のあの台詞
あれは「2番目じゃなかった」という言葉だからこそ、
ブルース・ウィリスの切なさが伝わってくるのだと思っています。
「大事に思ってた」では表せない気持ちだと思いますが、
字幕としては「2番目じゃなかったよ」ではわかりづらいでしょうね。
じゃあ何て訳せばいいのかと聞かれると、わかりません。(--;
これは清水馨さんという方が字幕担当でした。

必死で聴いていると、戸田さん翻訳作品に限らず、
興味深い発見がいっぱいあります。
英語の台詞では俳優名が列挙されているのに、
字幕では日本でそこそこの知名度の俳優だけ。
削られた人、泣いてるかも。

インターネットでアダルトサイトにショッピングサイトと、
あちこち閲覧しているという台詞の字幕では
アダルトサイトという言葉だけがカット。
実はそれもその登場人物の日常を示す部分では。

子どもの質問に対して母親役のジェニファー・ロペスが
“Google it in the school.”と答えていたのは
『メイド・イン・マンハッタン』(2002)。
「調べてみましょ」=“Google”とは、
日本語の「ググれ」(2ちゃんねる用語?)と同じ!

『ウィズ・ユー』(1997)はケヴィン・ベーコンが知的障害を持つ青年役で、
家庭環境に恵まれない10歳の少女と心を通わせるドラマ。
ふたりが引き裂かれるときの別れの挨拶が
“See you later, alligator.”でした。
いわゆる韻を踏むというやつです。
しかし、字幕は「さよなら、ワニさん」。
いきなり「ワニさん」て言われても困るがな。

ついでに、この作品中には登場しませんが、
“See you later, alligator.”と言われたら、
“In a while, crocodile.”と答えるもんだそうです。

“See you later, alligator.”、
さて、あなたなら何と訳します?
「さよオナラ」というアホな言葉が頭をよぎった私をお許しください。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ステップフォード・ワイフ』

2005年06月21日 | 映画(さ行)
『ステップフォード・ワイフ』(原題:The Stepford Wives)
監督:フランク・オズ
出演:ニコール・キッドマン,マシュー・ ブロデリック,ベット・ミドラー,
   グレン・クローズ,クリストファー・ウォーケン他

寡作な小説家なのに、書けばベストセラー、
しかも映画化度のめっぽう高い、アイラ・レヴィン原作。
『死の接吻』(1991)は未見ですが、原作はとてもおもしろかった覚えが。
ロマン・ポランスキー監督の代表作『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)は
「妊婦は決して読まないでください」という宣伝文句が怖くて、
妊婦じゃなくても原作が読めず、映画版も怖くて観られず。
シャロン・ストーン主演の『硝子の塔』(1993)も原作は彼ですね。

上記の作品に比べると、本作はスリラー度がゼロに等しいですが、痛快。
レンタル新作コーナーにて。

もっとも成功した女性として、TV業界に名を馳せるプロデューサー、ジョアンナ。
次々と高視聴率を叩きだすが、
彼女が制作した番組が原因で恋人に逃げられた男がTV局を訴えると言う。
莫大な賠償金の請求を恐れたTV局は、
男への言い訳のためにあっさり彼女のクビを切る。

情熱を燃やしていた仕事を失い、傷心のジョアンナ。
夫で、副局長のウォルターも辞表を提出。
これまでの仕事のことは忘れて新しい土地で楽しく暮らそうと、
一家はコネティカット州のステップフォードへ引っ越す。

美しいこの町には上流階級が集う。
瀟洒な新居を手に入れ、紳士クラブにも歓待されて、ウォルターは満足げ。

しかし、ジョアンナはどこかに不自然さを感じる。
町の奥様方が揃いも揃って完璧すぎるのだ。
誰もが金髪に女性らしい花柄のワンピース姿。
体型も完璧、色気があって、笑顔を絶やさず、炊事洗濯も完璧にこなす。
夫たちには常に従順、貞淑な妻。

やがてジョアンナは、町の男たちが自分たちにとって理想の女を手に入れるべく、
妻たちをロボット化していることを知る。

ブラックな笑い満載のコメディに仕上がっています。
人気ドラマの『24 TWENTY FOUR』の裏ネタとして
「登場人物のうち、いい人はMacを使ってるけど、
わるい人はWindows」という噂を聞きましたが、
本作もジョアンナが使うのはApple、
町を仕切るマイクは元Microsoftの社員という設定。

ネタバレですけど、『スリーピー・ホロウ』(1999)で
首なし騎士役だったクリストファー・ウォーケンが、
本作では首だけになっちゃうシーンにウケまくり。笑えます。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』

2005年06月17日 | 映画(ら行)
『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』(原題:The Assassination of Richard Nixon)
監督:ニルス・ミュラー
出演:ショーン・ペン,ナオミ・ワッツ,ドン・チードル他

前述の『タナカヒロシのすべて』とハシゴしたのがこちら。
2作のあまりの「色」のちがいに、そのギャップもおもしろい1日でした。

製作総指揮にはレオナルド・ディカプリオや
『サイドウェイ』(2004)の監督であるアレクサンダー・ペインも名を連ね、
主演はリベラリストで有名なショーン・ペン
その面々が1974年に実際に起きたハイジャック事件に鼓吹されて作りあげた作品です。

サム・ビック、44歳。
どんな仕事に就いても長続きしない彼は、妻と3人の子どもに見放されかけて別居中。
彼にはいつの日か親友とともに、タイヤの移動販売会社を経営したいという夢がある。
まずは金を貯めて、妻とよりを戻そうと、事務用家具のセールスマンになる。

上司はこの世でもっとも優秀なセールスマンはリチャード・ニクソンだと言う。
戦争終結を公約しておきながら、それを守らず、
2度目も同じ公約を掲げて、国民に自分を売り込むことに成功したニクソン。
約束は約束、それを守らなくても勝手、嘘八百並べてでも、
とにかく客に家具を売りつけろ。

セールスマンの心得が録音されたテープを四六時中聴き続けるサム。
しかし、彼にとっては悪徳とも思える会社の理念が徐々に心を蝕んでゆく。

ちょっと繊細すぎる普通の男が、
テレビに映るニクソンを見て国家に対して不満を募らせていくさまを
ショーン・ペンは肩の力を抜きつつ大熱演。
ロバート・デ・ニーロにも並ぶ出来。

興味を惹かれたのはサムが融資の依頼に行くシーン。
会社で物を売るとき、本当は30%の利益があるのに、
客には15%がぎりぎりの線だと言えと上司が強要する。
自分は30%が利益であることを客に明かしたい。
そのうえで、「15%ずつ、私とあなたで分ければ、
ほら、ふたりともが得するでしょう」と言って売りたいのだと。
融資査定者が「結局どちらも15%引きなら同じことでは?」と唖然とすると、
「同じではない」ときっぱり言います。
屁理屈かもしれないけど、これはわかるような気がします。

アメリカという名の砂漠の、小さな砂粒のひとつにすぎない人間でも
運さえ味方してくれれば、尊大な権力者に挑めるかもしれない。
現場で射殺された実際のハイジャック犯の言葉です。

とっても左寄りの映画。
でも共感できる部分が多分にあります。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

タナカヒロシのツッコミどころ

2005年06月14日 | 映画(た行)
昨日、『タナカヒロシのすべて』のパンフレットを
私がいそいそと職場に持っていったのを知り、
ダンナが「鳥肌実が職場で通じるの?」と怪訝な顔。
みんな鳥肌実を知ってる職場って変でしょか。

あまりに笑けたので、私のツボにハマった数々のツッコミどころを。

まず、遠山かつら工場の制服。
かなりの割合の工員がハゲ、もしくは将来ハゲ確実で、
そんな頭にもかかわらず、なんともかわいいピンクの制服。
全然似合わんっちゅうのよ。

タナカヒロシの上司(高橋克実)は
この社交性ゼロの部下とコミュニケーションをとろうと
「一杯どうだ?」と誘いますが、いとも簡単に断られます。
それでも部下と打ち解けたくて、
「タナカくんは買い物とかしないの?
 ほら、ヴェルサーチとか、ユニクロとか」。
「映画はいいよねぇ。スピルバーグとか、シネコンとか」。
並列するものがおかしいんだよぉ。

不法就労で退去させられることを恐れながら弁当を売る女性(ユンソナ)は、
「シャケ」か「クリームコロッケ」しか言わないタナカに
ひそかな好意を抱いています。
ある日、弁当を買う客の列に並ぶタナカの前に割り込んだふたり組。
怒りもしないタナカをはがゆく思う彼女は、
ふたり組が「シャケ弁当をくれ」と言うと「売り切れです」。
「じゃあ、クリコロ弁当」と言うと「それも売り切れです」。
「いったい何が残ってるんだよ」とぼやくふたり組に向かって、
彼女の答えは「3色ちくわ弁当ならあります」。

3色ちくわ弁当って何なのよ。
弁当の中身は白いフタのせいで見えません。
きっとひとつはそのまま揚げて、もうひとつは青のりでしょ。
あとのひとつは紅ショウガかなんか?
しかし、ちくわばっかり3色って。
気になってしゃあない。

「テルミンと俳句の会」では、前からいる生徒が
「猫の子が 横切っていく 春うらら」と詠めば、
初心者のタナカが詠む句は
「春雨が 横切っていく マンホール」。
何なのよ、その堂々としたパクリかた!

オープニングは西田佐知子の『コーヒールンバ』。
エンディングは「サニー、カローラ、ファミリア♪」っちゅう、
クレイジーケンバンドの中古車貿易商アラブ人の歌、『シャリマール』。
映画に何の関係もないやんかいさ~。オモロすぎ。

ツボちがいの人だと、1,800円は高いかも。
ハマっちゃうと、思いだし笑いが止まらなくて、
怪しい人と思われそうな1週間になります。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする