夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『No.10』

2024年04月27日 | 映画(な行)
『No.10』(原題:Nr.10)
監督:アレックス・ファン・ヴァーメルダム
出演:トム・デュイスペレール,フリーダ・バーンハード,ハンス・ケスティング,アニエック・フェイファー,
   ピエール・ボクマ,ディルク・ブーリン,ジーン・ベルヴォーツ,ヤン・ベイヴート他
 
母の告別式の翌日、“M-1グランプリ2023スペシャルツアー in 大阪”を観た後、
シネ・リーブル梅田に寄って前述の『クラメルカガリ』『クラユカバ』を観たら爆睡。
これは映画がつまらないからなのか、私が疲れているからなのか判断つかず。
もう1本観る気が起きて、オランダ/ベルギー作品の本作を鑑賞。
 
監督はオランダ出身のアレックス・ファン・ヴァーメルダム。
なんだ、面白かったら睡魔には襲われないじゃあないか。
いったい何ですか、これは。どの方向に進むのかわからないまま最後まで。
えーっ、ここで終わるの!?と呆気に取られました。怪作と言いたい。
 
初老の舞台俳優マリウスの妻レナーテは長患いにより家で寝込んでいる。
病床から始終夫を呼ぶものだから、マリウスは台詞を覚えることに集中できない。
 
その日もほかの役者らと乗り合わせて稽古場へと向かうが、
マリウスのせいで稽古が滞り、演出家のカールやほかの俳優たちはイライラを募らせる。
 
マリウスよりグッと若い中年俳優ギュンターがメインを張っているが、
実はギュンターはカールの妻で女優のイサベルと不倫中。
そのことに気づいたマリウスがカールに告げ口すると、カールはマリウスにメインを張らせ始める。
 
浮気がバレているとは思いもしないギュンターは、急にカールが自分を外しにかかったことに納得できず……。
 
舞台役者たちの愛憎が絡み合う人間ドラマなのかと思っていました。
ちょっとサスペンスの要素もあるのかな、とか。
ギュンターの娘リジーが父親の私生活を隠し撮りしている理由もさだかではなく、
さらにはギュンター宅の向かいで暮らす聖職者らしき人物たちが大きな謎。
 
そうしたら話はとんでもない方向へ。
ネタバレになりますが、ギュンターが宇宙人とは。
ギュンターは幼い頃に森で拾われ、里親に育てられた過去がある。
宇宙人一族が赤ん坊を何十人か地球に連れてきて置き去りにし、どれくらい適性があるか調べていた模様。
こんな展開はまったく予期していませんでしたから、ホントに唖然呆然。
 
想像の遙か上を行くエンディングに、しばし立ち上がれませんでした。
いや~、びっくりしたなぁ、もう。でも面白かったんだなぁ。
人には薦めないけれど、嫌いじゃない。むしろ無茶苦茶で好きです、私は。

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『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

2024年03月08日 | 映画(な行)
『ネクスト・ゴール・ウィンズ』(原題:Next Goal Wins)
監督:タイカ・ワイティティ
出演:マイケル・ファスベンダー,オスカー・ナイトリー,デヴィッド・フェイン,ビューラ・コアレ,
   レイ・ファレパパランギ,セム・フィリッポ,ウリ・ラトゥケフ,レイチェル・ハウス,
   カイマナ,ウィル・アーネット,リス・ダービー,タイカ・ワイティティ,エリザベス・モス他
 
109シネマズ大阪エキスポシティにて、前述の『QUEEN ROCK MONTREAL』の後に観ました。
21:40からの回だから、もう寝たいぐらいの時間です。でも面白かったから寝なかった。
 
サッカーのアメリカ領サモア代表チームは、2001年に0-31というワールドカップ予選史上最悪の大敗を記録したチーム。
公式戦で勝利したことがないのはもちろんのこと、1ゴールすら決めたことがなかったそうです。
2011年におこなわれた2014年のワールドカップのオセアニア予選1次で初勝利を決めたときの実話に基づく
大好きなタイカ・ワイティティ監督が自らおちゃらけた役でチラリ登場するのも毎度のこと。
この監督とかM・ナイト・シャマラン監督が自作に登場するシーンを探すのはいつも楽しい。
 
不名誉な記録で笑い者にされながらもサッカーを楽しむアメリカ領サモアの代表チームだったが、
とにかくなんとしてでも1ゴール決めてほしいというのが島民たちの願い。
村の中心人物でサッカーチームの面倒も見ているタビタは、外国人監督を招聘すべきだと考える。
 
この世界最弱チームにやってきたのは、性格が災いしてアメリカのチームを追われたトーマス。
無職になるかアメリカ領サモアに行くか、選択肢は2つのみ。致し方なく後者を選ぶ。
 
覚悟を決めて現地入りしたはいいが、これでよく代表と言えたものだと思うくらい酷いチーム。
何も知らず、何も知ろうともしない選手たちに呆れ果て、すっかりやる気を失い……。
 
勝たなくてもいいんです。1点取るだけでいいんです。でもその見込みがまるでない。
この手の話はどう進むか決まりきっていて、新鮮さはありません。
でも、オセアニアの自然と陽気すぎる人々を見ているだけでもじゅうぶん楽しい。
 
選手の中で特にユニークなのは性同一性障害のジャイヤ。
いずれ性別適合手術を受ける予定ですが、今はホルモン剤を摂取しているだけでまだ男性。
だからまだ出場権はある。
彼、いや、彼女のような人のことをサモアでは「ファファヒネ」と呼ぶらしくて、
誰もがそれを理解し、差別するどころかむしろ彼女を信頼してチームを引っ張らせている。
 
短気でどうしようもない監督だと思われていたトーマスにはかつてとても辛い出来事があって、
それを引きずったまま生きていたことがわかります。ここは少し涙を誘われる。
 
トンガとの対戦はエキサイティングで、ゴールのシーンは手を叩きたくなる。
単純明快、でもお涙頂戴には走っていない。スカッとします。

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『ナイト・オン・ザ・プラネット』

2024年03月05日 | 映画(な行)
『ナイト・オン・ザ・プラネット』(原題:Night on Earth)
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ウィノナ・ライダー,ジーナ・ローランズ,アーミン・ミューラー=スタール,ジャンカルロ・エスポジート,
   ロージー・ペレス,イザック・ド・バンコレ,ベアトリス・ダル,ロベルト・ベニーニ,マッティ・ペロンパー他
 
この日こそは梅田まで行こうと思っていたのに、結構激しい雨降り。
そんな中で帰りが遅くなるのも嫌になり、イオンシネマ茨木で何か観ることに。
何かと言ってももうほとんど未見のものが残っていない。
んじゃ、この日で上映終了の本作で手を打つことにしましょうか。
 
このところ昔の作品を上映している劇場をちらほら見かけると思っていました。
4Kレストア版ではなくて、普通のリバイバル上映
単に『オペレーション・フォーチュン』(2023)の上映に合わせたのだと思っていたら、
Filmarksによる企画“Filmarks 90’s”だったようで。
これは1990年代の名作を映画館でリバイバル上映するという企画で、
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』はその第1弾、本作はその第6弾らしい。
 
1991年のジム・ジャームッシュ監督作品。
もちろん観たことはあって、印象に残っている作品ですが、劇場では観ていません。
おそらくDVDをレンタルして観たのだと思います。
 
欧米の5都市で同じ冬の日の夜から明け方にかけて、それぞれの町のタクシー運転手が客を乗せる。
ほとんどがタクシーの中で繰り広げられる会話で成立している作品なのですが、こうして改めて観るとやっぱり面白い。
本作の話は『ちょっと思い出しただけ』(2021)にも出てきます。
 
第1話はロサンゼルス
タクシー運転手のコーキーを演じるのはウィノナ・ライダー
くわえタバコで尻の下には電話帳を敷き、女だてらに夜の街を激走。
空港で拾った客ヴィクトリアにジーナ・ローランズ。これがまたカッコイイ。
ビバリーヒルズの邸宅に帰る彼女はキャスティングディレクターで、
コーキーをスカウトしようとする話でした。
このときのウィノナ・ライダーの可愛さと言ったら。このときがピークかなぁ。
 
第2話はニューヨーク
黒人男性ヨーヨーは、寒さに震えながらブルックリンの自宅へ帰ろうとしますが、
タクシーが全然止まってくれない。止まっても、行き先を伝えるや否や走り去ってしまう。
やっと1台捕まえたけれど、そのタクシー運転手の東ドイツから来たばかりのヘルムートは、
オートマ車に慣れていなくて恐ろしいほど運転が下手なうえに英語も片言。
いくら何でもこりゃ無理だと乗るのをやめようとすると、ヘルムートに縋りつかれます。
致し方なくヨーヨーが運転を代わり、ヘルムートを助手席に乗せてブルックリンヘ。
ヘルムートは元の場所へ自力で戻れたでしょうか。
 
第3話はパリ
コートジボワール移民のタクシー運転手は、上から目線の男性2人客に腹を立てて下車させる。
金をもらい忘れてツイていない自分を呪っていたところ、
若い盲目の女性がタクシーを待っているのを見つけて乗せます。
盲目ならば面倒なこともないだろうと思っていたのに、彼女はやけに気が強くて辛辣。
女性を演じているのはベアトリス・ダル。
ちょうど『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』を観て彼女を思い出していたからタイムリー。
 
第4話はローマ
タクシー運転手のジーノは夜中でもハイテンション。
無線にも冗談で返し、一方通行を無視しまくり、ほかの車とぶつかりかけても気にしない。
たまたま乗せた客が神父だったことから、この機会にと懺悔を始めます。
ジーノ役にはロベルト・ベニーニ。よくこれだけ口が回るものです。
懺悔の内容が、性に目覚めた少年時代にカボチャでやったとか羊相手にしたとかで、ドン引き。
そうそう、昔観たときも引いたなぁと思い出す。ちょっと辟易。
男性ウケはいいかもしれないけれど、神父が亡くなってしまうところも含めて私は笑えません。
 
第5話はヘルシンキ
無線連絡を受けたタクシー運転手ミカが指定場所へ向かうと、そこには3人の酔っぱらい。
そのうちの1人アキは完全に酔い潰れていて乗車後も眠りこけたまま。
残りの2人によれば、アキにとって今日というのか昨日は人生最悪の日だったらしく、
ローンを完済したばかりの車で会社に行って遅刻して、度重なる遅刻のせいでクビを告げられ、
車に戻ると当て逃げされてボコボコになっていた、帰宅するとまだ10代の娘が妊娠したとのこと、
自分のクビを告げると妻から離婚を言い渡されたのだと、アキの「不幸」を聞かされます。
そこで口を開いたミカは、不幸ってその程度かと言い、自らの不幸を語りはじめます。
このアキ・カウリスマキ感は凄いですね。客の名前もカウリスマキ兄弟に倣ってミカだし。
アキ役のマッティ・ペロンパーは本作公開の3年後、わずか44歳で他界していますが、
フィンランド人の著名俳優として、フィンランド映画100周年記念切手に登場しているし、
「マッティ・ペロンパー賞」なる映画賞も設けられているそうです。
 
第2話と第5話が好きです。
もちろん可愛いすぎるウィノナ・ライダーも。ロベルト・ベニーニは要らない。(^^;

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『ナイアド その決意は海を越える』

2024年02月23日 | 映画(な行)
『ナイアド その決意は海を越える』(原題:Nyad)
監督:エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ,ジミー・チン
出演:アネット・ベニング,ジョディ・フォスター,リス・エヴァンス,アナ・ハリエット・ピットマン,
   ルーク・コスグローヴ,エリカ・チョー,ジーナ・イー,カーリー・ローゼンバーグ,エリック・T・ミラー他
 
Netflixで「あなたへのオススメ」に出てくるたびにスルーしていました。
だって、アネット・ベニングジョディ・フォスターのシワシワの顔、見たいですか。
だけど第96回アカデミー賞主演女優賞助演女優賞にノミネートされて、スルーもしていられなくなりました。
 
監督は『MERU/メルー』(2015) や『フリーソロ』(2018)のエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン。
後者では第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得。
このふたりは『ニルマル・プルジャ 不可能を可能にした登山家』 (2021)の製作総指揮も務めています。
これまでドキュメンタリー作品ばかりを手がけてきたこのコンビが、初めて長編劇映画に挑む。
ドキュメンタリーではないと言っても、そこはこのコンビらしく、実在の人物を描いた作品です。
 
「マラソンスイミング」という言葉があるのを私は知りませんでした。
海や川、湖などの自然環境の中でおこなわれる水泳競技のことだそうで。
 
アネット・ベニング演じるダイアナ・ナイアドは1949年生まれ、今年75歳。
マラソンスイマーとして数々の挑戦をしてきた人ですが、
28歳のときにキューバからフロリダまで泳いで渡ろうとして失敗。
それをなんと60歳になってからやり遂げようと思い立ち、再び挑戦。
その後失敗を繰り返すも毎年挑戦し、成し遂げたのが64歳のときのこと。
 
泳ぐったって、ただ泳ぐだけじゃないんですよね。
キューバからフロリダまでは約160キロ。サメもいれば、強烈な毒を持つクラゲもいる。
海路を知り尽くしている航海士あってこその挑戦で、
航海士の指示で船を動かす船長も、サメやハコクラゲの専門家も必要。
そして何よりも、ダイアナが最大の信頼を置くコーチ、ボニー・ストールなしでは無理。
 
すべてを用意するにはお金がかかります。
ダイアナのみならず、ボニーも、航海士のジョンまで自宅を抵当に入れて金を工面。
執念でこのマラソンスイミングを成功させようとします。
 
海流のせいで予定していた進路と異なる選択をしなければならないこともあるから、
64歳で成し遂げたときは全行程で177キロ。
62時間眠ることなく、誰も手を触れることなく、見守られて。
 
少女のときには水泳のコーチから性的虐待を受けていたことも明らかになっていて、
フロリダまでの間にそのときのことを思い出したりもしてしまったりする。
こんなにもつらいのになぜ挑戦しつづけるんだろうと思いましたが、
チーム競技としてのマラソンスイミングを成し遂げたときの皆の顔を見れば納得。
 
凄い人がいたものです。
実際の映像も織り交ぜられ、エンドロールでは愉快な彼女の姿を見られます。

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『ニューヨーク・オールド・アパートメント』

2024年02月22日 | 映画(な行)
『ニューヨーク・オールド・アパートメント』(原題:The Saint of the Impossible)
監督:マーク・ウィルキンズ
出演:マガリ・ソリエル,マルセロ・デュラン,アドリアーノ・デュラン,タラ・サラー,ジーモン・ケザー他
 
前述の『サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者』の後、同じく塚口サンサン劇場にて。
シネ・リーブル梅田で見逃した本作を鑑賞することができました。
 
監督はこれが長編デビュー作となるスイス出身のマーク・ウィルキンズ。
タイトルからセドリック・クラピッシュ監督の『スパニッシュ・アパートメント』(2002)のような群像劇を想定していたら、
そんなのほほんとした作品ではありませんでした。相当ヘヴィー。
 
シングルマザーのラファエラは、ウェイトレスをしながら双子の兄弟ポールとティトを育てている。
 
中華料理店のデリバリーのバイトをしながら英語学校に通うふたりは、
挙手しても教師から無視されるなど、まるで透明人間のような生活を余儀なくされていたが、
ある日、クロアチアからの移民だという絶世の美女クリスティンが転入してきてウキウキ。
 
クールなことこのうえないクリスティンからちょっと声をかけられるだけでメロメロになり、
妄想を膨らませていたふたりは、毎日彼女と会いたくてたまらない。
そのせいで、仕事上がりのラファエラを迎えに行く日課をすっぽかすことも。
 
一方のラファエラは、店の客で小説家のエワルドに言い寄られ、部屋に連れ込むようになる。
やがてエワルドはラファエラに店を辞めてブリトーのデリバリー店を始めようと言い出す。
メキシコ人でもないのにブリトーなんてと渋るラファエラだったが、
資金は出す、これはチャンスだなどとエワルドに言われて乗り気になってしまう。
 
母親のことが気になりつつもクリスティンにぞっこんのふたりは、
自分たちがいつまで経っても透明人間なのはイケていない童貞だからなどと自嘲していると、
クリスティンからある条件と引き換えに童貞卒業を持ちかけられ……。
 
なんだかこうして書いていても軽い青春ものに感じられますが、全然そうじゃない。
 
冒頭、おでこを負傷したラファエラが友人らしき女性に伴われてやってきた部屋は、
保健衛生局から立ち入り禁止の貼り紙をされていて、中は荒れ放題。
そこにいるはずの息子たちの姿が見えず、ラファエラが動揺するシーンから始まります。
 
時系列をいじりながら物語は進行。
貧しいながらもまぁまぁ幸せに暮らしていた3人に思えましたが、
クリスティンとの出会いやエワルドの登場によってそれが少しずつ変わってしまう。
 
みんな恋をしたいし、より良い生活を送りたいと思っているのに、それが全部悪い方向へ。
良いことなんていっさい望んではいけないのだろうかと思わされます。
 
金だけは持っているのかと思えたクリスティンも、高級娼婦として体を売っているのには訳がある。
だけど金目当てに騙されていると知ったときの彼女の気持ちは計り知れません。
 
どう考えても行く先は暗い。それでも前向きに生きる人たち。
最後は少しだけホッとする。

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