夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

クリーニング店にまつわる話

2015年08月31日 | 映画(番外編:映画と読み物)
十数年前に今の家に引っ越した折り、
どこのクリーニング店にお世話になろうかと悩み、
TSUTAYAの近くにあるお店に決めました。
そこならばDVDを借りた足で寄れるからという理由で。
そんな安直な理由で選んだにもかかわらず、
受付担当の女性陣はみな、いい人ばかり。
安心してクリーニングをおまかせできるお店でした。

そこに通うきっかけとなったTSUTAYAの店舗は数年後に閉店。
しかし、受付の方々とのお話が楽しく、クリーニング店通いは続きました。
ところが去年、二人体制だった受付が一人体制になってから、なんだか変。
返ってきたものを見ると、仕上がりが雑な気がして仕方ありません。
もちろん受付の人は変わらずいい人たちばかりだから、
文句を言うのも忍びなく、なんだかなぁという思いが募る一方。

そんなある日、ダンナがキレました。
三つボタン段返りのブレザーのプレスの位置があきらかにおかしい。
さすがにクレームを言ったら、受付の人も「これは駄目ですねぇ」。
工場に再送してくれましたが、戻ってきたブレザーにアイロンプレスされた形跡はなく、
手で折り目をつけ直しただけの様子。
いくら「申し訳ありませんでした」のメモが付けられていても、これでは。

さらにはダンナお気に入りのダウンジャケット。
羽毛が片寄り、肩辺りは何も入っていない状態でスカスカ、寒いのなんのって。
それまでは「受付の人とのおつきあいもあるやろから」と言っていたダンナが
さすがに「もう許さん。クリーニング屋、替えて」。
フェードアウトしたのが今年春先のこと。

仕事帰りに通えそうなクリーニング店をネットで探しまくりました。
チェーン店は数多くあれど、きっとどこも似たり寄ったり。
1軒だけ、そうでない店を見つけて通うことに。
家に帰るにはしばし逆方向へ車を走らせねばならず、面倒だけど致し方なし。

そうしたらこれがほんとにいいクリーニング屋さんで。
ブレザーは言わなくてもきっちり段返りプレス。
ダウンジャケットは丁寧に処理してくれて、ふわふわぬくぬくに戻りました。
チェーン店のように翌日には仕上がりませんが、そんなの全然かまわない。
いったい店を変えるまでどれだけ衣類に負担がかかっていたのでしょう。

さて、前置きが長くなりました。
ご紹介するのはクリーニング店を舞台にした小説『切れない糸』です。

著書の坂木司は、読者に先入観を与えたくないからと覆面作家を貫いています。
正確な生年月日も内緒、性別すらあきらかにされていません。男性っぽいけど。

これまでに読んだ著書の中では『和菓子のアン』が好き。
デパ地下の和菓子屋さんを舞台にした青春ミステリーで、
高校を卒業して店に就職したばかりの主人公女子が体験するささやかな事件。
彼女が仕事を通して成長していく姿が清々しいほか、
和菓子の豆知識みたいなものもてんこ盛りで楽しい。

映画化された『ワーキング・ホリデー』(2012)も同著者。
ヘヴィーな文体と内容を好む人にはまったく向きませんが、
殺人が起こらないミステリーは爽やかで、ときにはこんなのもいいなぁと。

そして『切れない糸』もやはり人は死なない青春ミステリー。
就活にことごとく失敗した主人公の和也は、父親の急死により、
思いがけず家業のアライクリーニング店を継ぐことになります。
預かった衣類の中から生まれる数々の謎。
それを和也とともに解き明かすのは、大学時代の友人・沢田。

4話からなる連作小説で、それぞれに映画の話もちょこっと。
父子でフレンチトーストを焼けば『クレイマー、クレイマー』(1979)。
砂糖とミルク入りコーヒーが出てくれば『バグダッド・カフェ』(1987)。
サブリナパンツといえばオードリー・ヘップバーン
そして『ローマの休日』(1953)の話も。
沢田がバイトする喫茶店の名前は“ロッキー”で、
由来は当然シルヴェスター・スタローンの『ロッキー』(1976)かと思いきや……。

アライクリーニング店の受付を担当するパートのおばちゃんは3名。
松岡さんと竹田さんと梅本さんの松竹梅トリオで、
まるで『チャーリーズ・エンジェル』(2000)とか。
やたら映画に詳しいアイロンの達人シゲさんがめちゃシブイ。
シゲさんがつぶやく奇術師チャニング・ポロックを見たいから、
『ヨーロッパの夜』(1960)を観てみなければ。

卒業式のさいに、息子にスーツを贈ろうとする母親。
会社勤めはしないし、スーツを着る機会などないんだから安物でいいと言う和也に、
「クリーニング屋の息子が、クリーニングに出すほどの値打ちもない背広を買ってどうするのよ」と母親。
笑うとともに、心が温かくなりました。
電話のこちらで顧客に向かって懸命に頭を下げる和也の様子には、
見えなくても通じるんだという『神様からひと言』(2006)も思い出し。
ちょっといい話です。

そうそう、通いはじめたクリーニング店には、もちろん(笑)初回にお礼の電話をしました。
「励みになります」とたいそう喜んでくれたお店のご主人。
だけど、「当たり前のことをしているだけなんですけどね」ともおっしゃいます。
その「当たり前のことをするだけ」というのが、きっととても難しい。

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お礼のお礼をいただいて

2015年08月29日 | まるっきり非映画
本日は映画も本もまったく関係のない話です。

この間の日曜日の同窓会。
そもそも同窓会で行く店なんて、みんなで飲んでしゃべれたらどこだっていい。
もういい年をした大人だから、値段の安さにこだわることはないけれど、
高価なコースにしたところで、しゃべるのに夢中で手をつけないこともあるから、
そりゃ安いに越したことはないでしょう。そんな基準で選んだお店でした。

だけど、とっても楽しかった。
店長さんの秘策により、当初2時間のつもりだった飲み放題が3時間に。
大皿と言ってもきっちり人数分出てくる料理も多いから、
おしゃべりしつつもみんなしっかり自分の分を食べています。
無駄に広くない店なので、呼べばすぐに来てくれる店員さん。
中継よろしく、注文後に待たされることもありません。

そんなこんなでとても楽しく過ごせたので、
本来は予約確認のためにのみ使うサイトから、
「お礼を申し上げるすべがないのでここから」と後日お礼のメッセージを送りました。

その数日後、電話が鳴りました。
受話器を取って名乗ったら、「間違えました」。なんだ間違い電話かよ。
その数分後、ふたたび鳴る電話。
もいっぺんさっきの人とちゃうんかいと、今度は名乗らなかったら、
「あの、○○さん(=私の旧姓)のお宅ではないでしょうか」。
贔屓屋の店長さんではないですか。ビックリしました。

「あんなメッセージをいただいて恐縮です。従業員一同たいへん喜んでいます」とのこと。
「店をやっていてよかったと思った」とまでおっしゃる。
どうやら昼間に何度かかけてきていただいていたようで、
夜にかけてみたら違う名前の人が出るし、
でももしかしたらと思ってもう一度かけてみましたと。
同窓会だったので旧姓で予約したんです、すみません。
そんな電話をわざわざいただいたら、こっちのほうが嬉しくなるというものです。

そもそもここは予約のときからおもしろかった。
最初は午後4時開始のつもりで電話を入れ、
「4時までに開始の宴会は飲み放題料金半額となっているけれど、
これは4時開始でも適用されるのでしょうか」と尋ねたら、
可愛らしい声の女性店員さんがしばし迷い、
「いま店長がいないので、店長に確認して折り返し電話します」とのこと。
ならばいっそ3時開始にしようかと思ったら、
「あ、3時50分からというのはいかがでしょうか」。その提案、めちゃカワイイ。
こちらはウケてしまって、「んじゃ3時半からにします」と答えた次第。

マニュアルは大事だけど、マニュアルだけではない前後の対応に嬉しくなりました。
誠実な心、一方的ではないコミュニケーションを取ろうとする気持ち、届いています。

こんなこともあって、思い出した十数年前のこと。
引っ越しする間際、お世話になっていた新聞屋さんにお礼の葉書を出しました。
トークが面白い新聞屋さんで、配達に不備もいっさいなしでしたから。
そのときの新聞屋さんも返事をくれたのを思い出します。
「感激です。新聞屋冥利に尽きます」と。

そのほか、誕生日に顧客に花を贈るサービスをしている化粧品メーカー。
初めてお花が届いたとき、HPの問い合わせフォームを利用してお礼のメールを送ったら、
社長の直筆署名入りのお手紙をいただきました。
「お礼のメールをもらったのは初めてです」と。

どこへでもお礼のメールや葉書を送っているわけではありません(笑)。
あらためて感謝したい気分になったときだけ。
お礼を申し上げたいのはこちらなので、その返事は求めていないし、なくて当たり前。
なのに、こんな気持ちのこもった返事を予期せずもらえたら、ジーン。

贔屓屋 北野阪急店さん、どうもありがとうございました。
ちょうどこの夜、虎が連敗して最悪の気分だった私、一気に元気になりました。

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映画館が出てくる本

2015年08月28日 | 映画(番外編:映画と読み物)
あまりに暑いから、ヘヴィーな読み物は手に取る気が起こらず、
ついスイスイ読めるものを選んでいた真夏。

マイブームの作家は現在3人いて、
1人目は高野秀行、2人目は三羽省吾、3人目が山本幸久
1人目と2人目の著作すべてを「大人買い」してしまったのが6月。
その直後に読んだのが山本幸久の『ある日、アヒルバス』でした。

バスガイドのデコこと秀子は、東京の観光スポットをめぐるバス会社に就職して5年。
彼女の毎日がおもしろ可笑しくて、またしても著作を全部、大人買い。
別に出版された順に読む必要もなかろうと、
次に読んだのが『男は敵、女はもっと敵』でした。

連作短編集の本作、1話目の主人公はフリーの映画宣伝マン、藍子。
2話目以降、彼女が関わる人たちが数珠つなぎ的に主人公として登場します。
藍子の不倫相手やその妻子、不倫相手への腹いせに結婚した男の再婚相手と、
見る側が異なる楽しみが味わえて面白い。
この繋がり方は『セレモニー黒真珠』とも似ています。

小説として楽しいだけでなく、嬉しいのは映画の話いろいろ。
映画好きが高じて宣伝マンとなった藍子は、
自分が気に入った映画に客を呼ぶために体を張ります。
そんな彼女の姿にシビレる若手宣伝マンや、女好きの長老評論家、
東映まんがまつりでしか映画を観たことがなさそうな配給会社のオッサンなど、
映画関係の登場人物がたくさん。

もう1冊は、まだ大人買いしていないけれど、大人買いしてしまいそうな、
(そしてこれをUPした時点ではすでに大人買い済みの)
吉田篤弘の『それからはスープのことばかり考えて暮らした』。
初めて読んだのですが、『つむじ風食堂の夜』(2009)の原作と併せて読むべき本らしい。

路面電車が走る町に住む主人公の青年は映画が大好き。
だけど、家から映画館までが近すぎても味気ないと、
お気に入りの映画館「月舟シネマ」がある隣町にわざわざ引っ越してきました。
古い映画の脇役の女優に恋をして、彼女の出演作をくりかえし観ています。

青年が住むアパートの大家さんはその名も「オオヤ」というマダム。
商店街のはずれにあるサンドイッチ店「トロワ」の店主は「アンドウ」さん。
そう、アンドゥトロワ。その親父のセンスを許せない小学生の息子。
月舟シネマのポップコーン売りのお兄さんと、街の情景が目に浮かぶよう。
くすっと笑いながら時には涙。実に温かいお話です。

映画も楽しい。本も楽しい。映画が出てくる本があれば一石二鳥。

ちなみに『ある日、アヒルバス』は、NHK BSプレミアムにてつい先日まで放映されていました。
放映前、藤原紀香が出演すると聞き、へ~、誰の役なのかなと思っていました。
だって原作の主人公デコは23歳。
藤原紀香が出演するとすれば、まさかそんな年齢の役はないだろうし、
ならばデコが尊敬する先輩バスガイドの役かなと。
そしてビックリ、40歳の新人バスガイドの話だとぉ。原作の設定無視にもほどがある。
で、観ずじまいだったのですが、面白かったんですかね。

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『ナイトクローラー』

2015年08月26日 | 映画(な行)
『ナイトクローラー』(原題:Nightcrawler)
監督:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホール,レネ・ルッソ,リズ・アーメッド,ビル・パクストン他

この間の日曜日、高校3年のときの同級生たちと宴会。
高校卒業後25年が経つまでは一度も開催されなかった同窓会ですが、
以降はなんとなく毎夏集まるようになりました。
と言っても、このところはほぼ固定メンバーの10名程度。
メールアドレスがわかっている人全員に一応毎年知らせるものの、
出席であれ欠席であれ返事をくれる人は毎回同じ。
無視されるのは心が折れそうになりますが、最近は開き直り気味。(^^;

日曜日に宴席を設けたら、翌日からの仕事が気になる人が多いから、
昼宴会できるところをあちこちチェック。
梅田D.D.HOUSEの贔屓屋 北野阪急店ならば昼間でも飲み放題プランあり。
2時間3,100円のプランと3時間3,800円のプランで迷っていたら、
店長さんが裏技(?)を駆使して3,600円で3時間にしてくれるとおっしゃる。決まり!
15時半から3時間。長いかなぁと思ったけれど、あっというまでした。

この宴会が始まる前に映画を2本観たかったけれど、
例のごとく前日にアホほどお酒を飲んでいるため、早起きするのは断念。
せっかく出かけるのに1本だけなんてと思いつつも、
何が何でも観たかった本作をシネ・リーブル梅田にて。

ロサンゼルスで窃盗を働いて日銭を稼ぐ独身男ルイス。
盗んだフェンスを買い取ってくれる業者に持ち込み、
ついでに自分を雇ってほしいと言ってみるが、泥棒は要らないと一蹴される。

そんなある日、ルイスはたまたま交通事故現場に遭遇。
どこからともなく駆けつけた男たちが、ビデオカメラ片手に現場を撮影。
彼らは通称“ナイトクローラー”、ニュース映像専門のパパラッチだった。

誰よりもショッキングな映像を誰よりも早くカメラに収め、
すぐさまテレビ局に持ち込んで高値で売りつける。
その様子を目の当たりにしたルイスは、これこそ自分向きの仕事だと考える。
盗んだ自転車を売った金でビデオカメラと無線傍受器を入手。
助手にリックというホームレスの青年を雇うと、
見よう見まねでナイトクローラーとしての活動を開始するのだが……。

いや~、面白かった。

ジェイク・ギレンホール演じるルイスの不気味さと言ったら。
ビルドアップした肉体を披露している作品も多いですが、本作では「脱ぎ」なし、
やつれてギョロリと落ちくぼんだ目の、何を考えているかわからない男。
おそらく荒んだ暮らしをしてきたであろうことはその顔から察せられますが、
人生をあきらめたふうでもなく、野心がみなぎっています。
しかし、彼の口から発せられる言葉に、最初はこいつはバカなのか賢いのかと迷い、
途中からは彼の緻密な計画に乗せられて、その冷酷さに引き込まれます。

金になることなら何でもやる。こうでもしなきゃ辛い時代に生き残れない。
こんなにギラギラしていたら、もっと若いうちからなんとかなりそうなところ。
それともさんざん辛酸をなめているうちにこうなってしまったのか。
ものすごく嫌な話だけど、成功するための駆け引きのコツを皮肉に示しているようで、
非常に面白かったです。大満足。

女性ディレクター役のレネ・ルッソは、いつのまにか還暦を過ぎていたのですね。
本作のダン・ギルロイ監督の奥様だとは知りませんでした。
『リアル・スティール』(2011)の原案や『ボーン・レガシー』(2012)の脚本を書いている彼、
監督デビューは本作だそうで、56歳ながら今後が楽しみ。

余談ですが、茶屋町口から劇場へ向かう途中、新しくパン屋が開店しているのを発見。
なんと長年行きたくても行けなかった摂津富田の“ルート271”の支店ではないですか。
本作を観たあと、思わず列に並んでパンをいくつか購入。
同窓会にもパンを抱えて行くはめになってしまいました。でも嬉し。

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『彼は秘密の女ともだち』

2015年08月24日 | 映画(か行)
『彼は秘密の女ともだち』(原題:Une Nouvelle Amie)
監督:フランソワ・オゾン
出演:ロマン・デュリス,アナイス・ドゥムースティエ,ラファエル・ペルソナーズ,
   イジルド・ル・ベスコ,オーロール・クレマン,ジャン=クロード・ボル=レダ他

シネ・リーブル梅田で2本ハシゴにしたはいいけれど、
これがどうしても観たかったので効率良いハシゴはできず。
1本目の『奇跡の2000マイル』と2本目の本作の間が2時間近く空いてしまい、
ほかに観るものもなかったので、ロビーでずっと読書。
戦争野球の話、横山秀夫の『出口のない海』が時期的にタイムリー。
1時間半経ったところでこれを読み終えてしまったので、
マイブーム中である山本幸久の『笑う招き猫』に突入。
女漫才コンビの話で、『出口のない海』からは雰囲気も重みも一転。

フランソワ・オゾン監督にしては一般受けしそうな予告編。
ますます下品な顔つきになってきて(笑)、タイプじゃないはずなのに、
なぜかいつも見てしまうロマン・デュリス主演にも惹かれ。
昔よく読んだはずのルース・レンデルの短編『女ともだち』が原作。

幼なじみで大親友のローラを亡くした主婦クレール。
残されたローラの夫ダヴィッドと赤ん坊のリュシーを見守りつづけると誓うものの、
ローラを失った悲しみがあまりに深く、ダヴィッドを訪ねることができない。
寝込んだままのクレールを夫ジルも心配、ダヴィッドの様子を見てきてはどうかと言う。

数日後、ジョギング中のクレールは意を決してダヴィッドを訪ねる。
チャイムを鳴らしても返答がないが、家の中からはリュシーの声。
開いていたドアを押して入ってみると、
そこにはローラの服を着てリュシーをあやすダヴィッドの姿が。

ダヴィッドにはもともと女装癖があり、ローラもそれを知っていたという。
にわかには信じられず戸惑うクレールだったが、
ダヴィッドに懇願されて、女装した彼に“ヴィルジニア”と名づけ、
女物のショッピングにつきあうなど、彼を女友だちとして受け入れるのだが……。

オゾン監督が明るいだけのコメディを撮るはずもなく、ちょっと面白い風味。
映像化されるクレールのどぎつい妄想にも笑わされます。
ジルを演じるのは、アラン・ドロンの再来と称されたラファエル・ペルソナーズで、
ものすごい美男子なのに、女性にあっさり捨てられそうなところも可笑しい。

ダヴィッドに女装癖はありますが、ゲイというわけではありません。
男性として女性が好きだということは事実のよう。
ならば結局、クレールが愛するようになったのはダヴィッドという男性なのか、
それともヴィルジニアという女性なのか、女装したダヴィッドなのか。
いろいろ考えさせられるところではありますが、こういう形もあっていいのかと。
ゲイをカミングアウトしているオゾン監督の願いでもあるように思います。

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