夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『こっぴどい猫』

2012年11月29日 | 映画(か行)
『こっぴどい猫』
監督:今泉力哉
出演:モト冬樹,小宮一葉,内村遥,小石川祐子,平井正吾他

タイトルに「猫」と入っているだけで、反応してしまいます。
ナナゲイでは11月に入ってから公開。
16日の終映までに観に行かなくちゃと思っていたら、
終映より前にTSUTAYA DISCASにてレンタル開始。
ほならDVDでええかと、家で観ました。

「猫」に惹かれたのに、本物の猫はまったく出てこず。
モト冬樹生誕60周年記念作品なのだそうです。

モト冬樹演じる高田は、寡作ながらも高い評価を受ける人気作家。
しかし、妻に先立たれてからというもの、まったく書けない。
高田を慕う後輩作家の安藤は、「書けないのではなく、書かないんだ」と憤りつつも、
高田の還暦祝いのパーティーを行きつけのスナックで開こうと計画中。

パーティーまであと数日となった夜、高田と安藤はそのスナックに立ち寄る。
従業員のひとりである桃と交際中の安藤は、桃とともに一足先に退店。
酒のおかわりをした後、帰ろうとした高田に向かって、
もうひとりの従業員、小夜が相談に乗ってほしいと言う。

小夜は、とにかく既婚男性にばかり惹かれて悩んでいるらしい。
その晩、小夜の家に泊まった高田だが、手を出したりはしない。
しかし、何度かこうして相談に乗るうち、
小夜は自分のことを好きにちがいないと考え、再婚をも視野に入れはじめて……。

何が「猫」って、この小夜ちゃん。
思いっきりネタバレですが、小夜ちゃんは誰にでも思わせぶりで、
中にはほんとにデキちゃってる人もいる。

高田の娘の夫の不倫相手が小夜で、高田の息子の片想い相手が小夜で、
安藤が本当に好きなのは小夜で。魔性の女なワケです。
高田の息子の場合は、あきらかに片想いだと自覚していますが、
娘の夫にしろ高田にしろ、小夜に振り回されているのに、
自分のほうが優位だと思っているところが嘆かわしい。
嗚呼、オッサンの妄想

130分はちと長いけど、オチにはふきだしました。
いくつか印象に残る台詞もあり、特にボーッとした高田の息子の、
「じゃあいったいいつ嫌いになるの。つきあったこともない人のこと、
どうやったら嫌いになれるの」という台詞には、ふんふんなるほど。
幼少時代の初恋は、だから心に残るのかなと思いました。

「体裁とか、不謹慎とか。友情とか、家族とか。
生活とか、夢とか。社会とか、身分とか。
そういう類いのものは『好き』という気持ちの前では無力だ」。
はい、そのとおりだと思います。

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『カラスの親指』

2012年11月27日 | 映画(か行)
『カラスの親指』
監督:伊藤匡史
出演:阿部寛,村上ショージ,石原さとみ,能年玲奈,小柳友,
   ベンガル,ユースケ・サンタマリア,古坂大魔王,鶴見辰吾他

先週の土曜日、大阪ステーションシティシネマにて。
封切りしたところなのに、どの劇場も回数が少ないなぁと思ったら、
160分という上映時間がネックなのですね。
何も考えずに予約して、あれ?よく考えたら予告編を含めて3時間?とビックリ。

道尾秀介の著作を初めて読んだのは数年前、『向日葵の咲かない夏』でした。
痛々しい描写や唖然呆然の仕掛けゆえ、レビューサイトの評価は若干低め。
私もこのオチには苦笑いしたものの嫌いにはなれず、文庫化された著作は全部読みました。
やはり評価イマイチの『片眼の猿』と『ソロモンの犬』が大好きで、
京極夏彦を思い起こさせる道尾秀介と真備庄介コンビのシリーズもお気に入り。
十二支をなぞったとおぼしきタイトルもののうちのひとつ、
『カラスの親指』も原作を読み終えて、映画公開を心待ちに。

原作にさまざまなアレンジが加えられ、
冒頭のシーンも銀行ではなく競馬場から始まります。

中年男のタケは、保証人となった友人が飛んだせいで借金を丸ごと背負う。
妻も仕事も失い、幼い娘の沙代を抱えて、借金返済のために自ら取り立て屋に。
しかし、取り立てに行った先の女性が自殺した日、
タケは事務所から顧客リストを抜き出して警察へと持ち込む。
おかげでヤミ金業者は一網打尽にされ、平穏な生活が訪れるかに思えたが、
自宅から原因不明の火が出て、留守番をしていた沙代をも亡くす。

傷心のまま、詐欺師として生きるようになって8年。
タケはひょんなことから初老の詐欺師テツと出会い、コンビを組むことに。
今日もひとつ詐欺を働こうと街へ出たところ、
若い女がスリに失敗して追われているのを見かけ、
同業者として放ってはおけないと、彼女を助ける。

彼女の名はまひろ。
タケは、まひろが8年前に取り立てのせいで自殺した女性の娘であることに気づく。
家賃が払えずもうじき部屋を追い出されそうだというまひろに、
タケはテツと暮らす自分の家へ来ればいいと思わず声をかけてしまう。

数日後、まひろは姉のやひろとその恋人である貫太郎を連れて、本当にやって来る。
こうして家族のように暮らしはじめる5人だったが、
やがてこの家にもタケへの昔の恨みからか嫌がらせが起こるように。
逃げてばかりはいられないと、5人は一世一代の勝負に打って出る。

原作にはみごとに騙されました。
未読のほうが映画を素直に楽しめるし、驚きもあると思いますが、
原作を読んでいるからこそわかる伏線があって、めちゃ楽しい。
ビミョーな価格設定の違いは映画のほうが納得の金額。
原作のままだとややこしくなりすぎそうな部分は上手にやんぴ。
村上ショージの標準語にはやはり違和感があるけれど、赤井英和よりはマシ。(^^;
まぁまぁいい配役だったのではないでしょうか。

理想的な詐欺は、相手が騙されたことに気づかない詐欺。
そんな原作中の言葉を思い出しながら、ニヤリ。
原作をお読みになった方は、原作とは大きく変更された点もお楽しみください。

テツが最後に読んでいた文庫本、タイトルまでは見えなかったのですが、
ジャケットの色から想像するに『向日葵の咲かない夏』では。違います?

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『その夜の侍』

2012年11月25日 | 映画(さ行)
『その夜の侍』
監督:赤堀雅秋
出演:堺雅人,山田孝之,綾野剛,高橋努,山田キヌヲ,坂井真紀,
   谷村美月,安藤サクラ,田口トモロヲ,新井浩文,でんでん他

前述の『ねらわれた学園』とハシゴ。こちらは梅田ブルク7にて。
大阪駅近辺の駐車場はどこも高いので、
両者をハシゴするために決めた福島駅近くの駐車場からぷらぷら歩いて。
いつも最大料金設定のあるタイムズばかり調べて駐めていたら、
先月末にタイムズから「あなたはプレミアム会員です」との連絡が。
そのプレミアム会員とやらは今月から設置されたそうで。
こうしてますますタイムズにしか駐車しなくなるのでした。

本作はもともとは舞台劇とのこと。
劇団“THE SHAMPOO HAT”の旗揚げメンバーで、
同劇団では劇作に脚本、演出まで務めるほか、
俳優として『モテキ』(2011)など多数の映画やTV番組にも出演する赤堀雅秋が、
自身のヒット舞台を自らメガホンを取って映画化した作品です。
堺雅人主演とあらば、『鍵泥棒のメソッド』の余韻もあり、
早く観たくて駆けつけましたが、びっくりするほど評価が割れていますね。

小さな町工場を営む中村健一は、妻の久子を事故で失う。
買い物の帰りにひき逃げにあった久子。
犯人はろくでなしの木島宏という男で、
同乗していた小林英明が良心の呵責に耐えかねて自首したために御用となったが、
数年の懲役刑を受けただけで、服役を終えて出所。

あの事故から5年経ったいまも、骨壺は目の前のちゃぶ台の上に置いたまま。
宏を殺して自分も死ぬと心に決め、健一は毎日を過ごしている。
復讐決行日までをカウントダウンする脅迫状が宏のもとへ届くようになり、
匿名ではあるが、健一の仕業にちがいないと宏は考える。

久子の兄である青木順一は、宏から健一をなんとかしろと脅される。
順一だって遺族のうちの一人なのに、宏は気にもかけない。
なんとかしなければ警察へ連絡するぞ、金を持って来いと言うばかり。
健一の幸せを願う順一は、穏便に済ませてくれと宏に頼み、
一方で健一には再婚も考えるべきだと同僚の川村幸子を紹介する。
しかし、当の健一は復讐以外のことは何も考えられない様子で……。

来る日も来る日も健一が聞く、久子が残した最後の留守電メッセージ。
『さよなら。いつかわかること』(2007)では亡き妻の応答メッセージを
主人公が何度も外から電話をかけて聞いていましたが、
故人が唯一残した声をただただくり返し聞くシーンは本当に切ない。
冒頭では健一が久子のことを愛していたのかどうかすらわかりませんでしたが、
このシーンを見れば、いかに大事な人だったのかが伝わってきます。

堺雅人を食っていると言っても過言ではないのが、宏役の山田孝之。
このろくでなしのアンポンタンさは凄まじい。
おそらく彼も『悪の教典』のハスミンと同じく、共感能力が欠落していますが、
ハスミンよりは人間的な部分も見えるがゆえ、余計にムカつきます。

宏に言われるがままになってしまう同僚(田口トモロヲ)やネエちゃん(谷村美月)。
一人でいるのは寂しいからというだけでは無理があり、
この辺りはちょっと舞台的だなという気はしますが、
英明(綾野剛)や順一(新井浩文)、幸子(山田キヌヲ)の人間味には深いものが。

健一がどう決着をつけるのか、それはぜひともご覧ください。

平凡でありたいだけなんだと叫ぶ英明に対して、順一が言ったこと。
平凡とは、全力で築き上げるものだ。

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『ねらわれた学園』

2012年11月23日 | 映画(な行)
『ねらわれた学園』
監督:中村亮介
声の出演:渡辺麻友,本城雄太郎,小野大輔,花澤香菜,戸松遥,
     平田広明,内田直哉,木内秀信,木村良平,石川由依他

日曜日、友人と会う前に2本は観られそうな気がして、ハシゴを計画。
1本は絶対観たかった作品を梅田ブルク7で。
もう1本を何にしようかと迷い、大阪ステーションシティシネマにて、
効率の良さだけでノーマークだったこのアニメ作品に決定。
AKB48のまゆゆが自身初の映画主演声優を務めたことでもちと話題。

原作はもちろん眉村卓による1976年のベストセラー小説。
同氏の著作は小学生のころにさんざん読みました。
その前後のNHKの少年ドラマシリーズも懐かしい。
ノーマークだったとはいえ、観たい要素はいっぱいです。

鎌倉に暮らす中学生ケンジは、同級生で生徒会書記を務めるカホリに片想い中。
早朝の海辺でカホリに会えると気づき、早起きしては必死に犬と散歩。

そんなケンジの隣家に住む幼なじみで、カホリの親友でもあるナツキは、
ケンジに会えば憎まれ口ばかり叩いているが、本当は大好き。
「お隣さん」以上には感じてくれないケンジに気持ちがもやもや。

ある日、彼らのクラスに転校生がやってくる。
イケメンで謎めいた雰囲気のリョウイチは、たちまち女生徒の人気の的に。
カホリもリョウイチにひと目惚れしてしまう。

その日の朝、偶然にも散歩中にリョウイチと対面していたケンジは、
さっそくリョウイチと意気投合。
ケンジらの所属する演劇部にリョウイチも入部することに。

ところが、リョウイチがやってきてから、不可解な現象が起こりはじめる。
留年して欠席つづきだったユリコが登校してきたかと思うと、
ほかの生徒が急に学校に来なくなったり、引っ越したり。

実はリョウイチはもはや地球が存在しない未来からやってきた人間で、
言葉を交わさずとも人の心を感じ取れる「能力」を持った者を
未来の世界へ一人でも多く連れてゆくためにここにとどまっているらしく……。

この絵は苦手です。(^^;
胸の大きさを強調するかのような服装で、常に頬を赤らめている女子。
「うふっ」みたいなしゃべりかたもなんだか落ち着かない。
これが萌え系というやつなのでしょうが、私にはツライ。
レンタル最新作の『虹色ほたる 永遠の夏休み』の絵のほうがずっと好きです。
期せずしてこれは過去にタイムスリップする少年の話でしたけれど。

ただ、『ねらわれた学園』は光の射しかたが尋常でないくらい美しい。
これには息を呑みました。風景だけならこっちのほうがいいかも。

絵が苦手だったと言っても、話もつまらなかったわけではありません。
時代に合わせたツールに替えながら、何十年も映像化されつづけているものはやはりおもしろい。
本作ではそのツールが携帯電話となっています。

人の心がテレパシーでわかれば生きやすい。そんなふうに考える未来人たち。
けれどもナツキが訴える、言葉にしないと意味がないことだってある、
本気で伝えようとしない気持ちを知ったところで何になる、それは胸に響きました。

言わなわからん。それは私の持論でもありますから。(^o^)

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『ふがいない僕は空を見た』

2012年11月21日 | 映画(は行)
『ふがいない僕は空を見た』
監督:タナダユキ
出演:永山絢斗,田畑智子,窪田正孝,小篠恵奈,田中美晴,
   三浦貴大,銀粉蝶,藤原よしこ,山中崇,原田美枝子他

封切り日だった先週土曜日、テアトル梅田にて最終の回を。
友人と別れたあと、家にまっすぐ帰ろうかなと思いつつ、
風邪気味の気分を奮い立たせ、中崎町に車を駐めてぷらぷらと。

原作は、山本周五郎賞の受賞作であり、R-18文学賞の受賞作でもあります。
後者は新潮社の主催で、応募者は女性限定ならば選考委員も女性のみ。
性について書かれた女性のためのエロ小説発掘が目的なんだとか。

女性がターゲットの原作で、映画化したのも女性監督のタナダユキ
なのにおっちゃん一人客がやたら多いのは、脱いだ田畑智子ねらい?
……って失礼ですよね、すみません。(^^;

300頁ちょいの文庫本だったので、映画も短めを予想していたら142分。
「ミクマリ」、「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」、「2035年のオーガズム」、
「セイタカアワダチソウの空」、「花粉・受粉」の5編で成る原作から、
主要なエピソードをほぼ網羅していて、なるほどこの長さと思わせます。

高校生の卓巳は、友人に連れられて行ったアニメの同人誌販売会で、
たまたま同じ町に住む主婦の里美と出会う。
彼女の好きなアニメのコスプレが卓巳には似合いそうだと言われ、
以降、学校帰りに彼女の部屋を訪れては、コスプレで情事にふけるようになる。
アニメにならい、卓巳は「ムラマサ」、里美は「あんず」になりきって。

ある日、憎からず思っていた同級生の七菜から突然コクられる。
七菜は色よい答えは期待していなかったが、
卓巳は「きちんとつきあいたいから、もう少しだけ待って」と言う。
その足で里美に別れを告げに行き、追いすがる里美を振り払うと、
正々堂々の気持ちで七菜とつきあいはじめる卓巳。

ところが、卓巳と里美のコスプレ情事の写真がどこからか流出し、
校内や近所中にばらまかれて、ひやかしや中傷の的に。
卓巳は学校に来なくなり、親友の良太が卓巳を訪ねるのだが……。

原作は登場人物のうちの5人が1話ずつ、一人称の語りの形。
卓巳、里美、七菜、良太、卓巳の母によるものです。
映画版は対象を誰かだけに絞り込むのかと思っていたら、
上手い具合にそれぞれの話を取り込んでいました。

卓巳以外のみんなも、さまざまな心の闇を抱え、傷つきながら生きています。
里美は不妊治療中で、姑の容赦ない言葉に心を痛める。
七菜は卓巳のことが好きで好きで、コスプレ情事さえも見てしまう。
彼らの担任の天然教師、野村先生は、デキちゃったのに彼氏が煮え切らない。
良太のバイト先の先輩、田岡さんは、ぼんぼんでゲイ。

原作で特に好きだったのは良太の章、「セイタカアワダチソウの空」。
認知症の祖母を残したまま、母は家を出て男と暮らし、
お金に困ったときだけ息子の顔を見に来ます。
コンビニでバイトしながら極貧生活に耐える良太が卓巳に投げかける、
「自分だけ不幸なふりしてるんじゃねぇよ」は効きました。
ようやく登校してきた卓巳に何を言うでもなく、
自転車を並ばせてただ走るシーンがたまらなくよかったです。

卓巳ら高校生には「ら抜き」でしゃべらせて、
母親役の原田美枝子の台詞が「ら抜き」じゃなかったのには、おぉ~。(^^)
そうそう、その母親が経営する助産院を手伝う「みっちゃん」は、原作・映画ともにめっちゃ○。

男の子だけでなく、誰もがきっと持っている「やっかいなもの」。
でも、やっかいなものも、悪いことばかりじゃない。

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