夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『笑いのカイブツ』

2024年01月17日 | 映画(わ行)
『笑いのカイブツ』
監督:滝本憲吾
出演:岡山天音,片岡礼子,松本穂香,前原滉,板橋駿谷,淡梨,
   前田旺志郎,管勇毅,松角洋平,菅田将暉,仲野太賀他
 
シネ・リーブル梅田にて2本ハシゴの2本目。前述の『市子』の次に。
 
原作はツチヤタカユキの自伝的小説。
彼は、NHKの『着信御礼!ケータイ大喜利』で「レジェンド」の称号を獲得した後、
ラジオ番組や雑誌などにネタを投稿しまくって「伝説のハガキ職人」と呼ばれた人です。
これまでテレビドラマを撮ってきた滝本憲吾の長編劇映画デビュー作品。
 
ツチヤ(岡山天音)はおかん(片岡礼子)とふたり暮らし。
5秒にひとつ、笑いのネタを書くことを自らに課しており、その才能はなかなかのもの。
テレビ番組の『デジタル大喜利』でレジェンドの座についた後、
人気漫才コンビのベーコンズが担当するラジオ番組にネタを書いて投稿しまくり、
コンビの片方・西寺(仲野太賀)からの呼びかけに応じて東京へ行く。
 
晴れてプロの構成作家になれたかと思いきや、人づきあいが極端に苦手。
挨拶すらろくにできないものだから、彼をかばってくれるのは西寺のみ。
ほかの構成作家やプロデューサーから総スカンをくらってどうしようもなくなり……。
 
およそ可愛げがあるとは思えない主人公。
パンツ一丁でひたすらネタを書き、髪の毛はボサボサ、目がすわっています。
ハガキ代を捻出するためだけに働いているわけですが、
バイト先でもネタを考えることで頭がいっぱいだから、ミスばかりやらかす。
当然バイトはすぐにクビになります。
 
しかし、とにかく人を笑わせたいんだという心意気が伝わってきて憎めません。
彼をこの道で生きられるようにしたいと考える西寺は、
人づきあいのいろはからツチヤに教え、それに素直に従おうとする頃には可愛げも出てきます。
 
フードコートでネタを書き続けるツチヤに興味を抱いて声をかけるミカコに松本穂香
街角で泥酔するツチヤを放っておけずに拾うムショ帰りのチンピラに菅田将暉
仲野太賀にしても菅田将暉にしても、今さら脇に回るような俳優ではないにもかかわらず、
脇役で「ちょうどいい」存在感を放つのは凄い。主役を食うわけではなく、実に良い塩梅。
 
ただ、この手の「お笑い」に関わる人を主人公にした作品で私がいつも不満なのは、
本作でいちばん笑ったのは、缶コーヒーを買いに行ったツチヤが転ぶシーンでしたからね(笑)。
 
おかん役の片岡礼子も素晴らしかったことを付け加えます。
そういえば、男をとっかえひっかえ連れ込んでいるらしいおかんが、
その日連れ込んでいた相手に「おまえの息子、アホなんか」と言われて、
「アンタよりは賢いわ」というシーンも笑ったのを思い出しました。
どうあろうと息子は息子。応援しつづけるオカンとのラストのやりとりもめちゃくちゃよかった。
 
うん、私はやっぱりこの映画が好きだ。

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今年観た映画50音順〈わ行〉

2023年12月31日 | 映画(わ行)
《わ》
『ワム!』(原題:Wham!)
2023年のイギリス作品。Netflixにて配信。
1980年代に洋楽を聴いていた人なら誰でも知っているイギリスのポップデュオ、ワム!
ジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリーの出会いからワム!結成、
世に認められるまでの紆余曲折、ジョージのソロ活動と解散に至るまでのドキュメンタリー。
観はじめて驚いたのが、「私、ジョージ・マイケルの相方の名前知らんやん」ということ。
そうですか、アンドリューという人だったのですね。顔もわかりませんでした。
それだけジョージの印象が強かったワム!だけど、
小学校のときに転校してきたジョージの案内役を買って出たのがアンドリュー。
当時のジョージといえば眼鏡で小太りの少年で、アンドリューのほうがイケてます。
20歳を前にしてヒットメーカーとなるも、モテモテのイメージにじゃまをされて、
曲の評価が低いことに悩んでいたジョージ。
また、19歳のときにアンドリューにはゲイであることをカミングアウトしていたけれども、
なかなか公表はできずにいた苛立ちなども収められています。
ワム!のファンとまでは行かずとも、ワム!を知っている人には興味深い作品。
本作を観てからしばらくはワム!の曲が頭の中を流れっぱなしでした。
 
《を》《ん》
今年もありませんでした。誰か、これで始まるタイトルの映画を作ってくだ〜い。
 
今年も1日たりとも休まずに更新することができました。
毎度おつきあいをありがとうございました。
どうぞ良い年をお迎えください。

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『私がやりました』

2023年11月14日 | 映画(わ行)
『私がやりました』(原題:Mon Crime)
監督:フランソワ・オゾン
出演:ナディア・テレスキウィッツ,レベッカ・マルデール,イザベル・ユペール,
   ファブリス・ルキーニ,ダニー・ブーン,アンドレ・デュソリエ他
 
TOHOシネマズ西宮にて、前述の『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』の次に。
 
フランソワ・オゾン監督がこんなコメディタッチの作品を撮るとは思いませんでした。
いつの時代設定かしばらく不明で、とにかく最近ではないなと思っていたら、
作品中に登場する映画館で上映されているのがビリー・ワイルダー監督の『ろくでなし』(1934)。
中盤以降になってから「1935年」と会話にはっきり出てきます。
 
売れない新人女優のマドレーヌは、親友でこれも新米弁護士のポーリーンと同居中。
お互い仕事がないものだから、家賃を滞納して大家から責め立てられている。
 
その日、有名プロデューサーのモンフェランから呼び出されたマドレーヌは、
新作映画のキャストに抜擢されたのだと喜ぶが、
モンフェランは端役をマドレーヌに与えただけで、愛人になるように強いる。
レイプされそうになって必死に逃げ出したマドレーヌは泣きながら帰宅。
 
翌日、刑事のブランがやってきて、モンフェランが銃で撃ち殺されたと告げる。
第一容疑者はアリバイなし、動機ありのマドレーヌだと。
予審判事のラビュセも彼女のことを犯人と決めつけ、マドレーヌはまずい立場に。
 
しかし、ラビュセに状況を詳しく明かしたところ、
もしもマドレーヌが犯人であれば正当防衛が認められるであろうこと、
情状酌量の余地ありで、無罪になる確率が高いと言われる。
 
そこでマドレーヌはポーリーンに相談し、「私が犯人」と嘘の告白をする。
ポーリーンが弁護人となってすべてのシナリオを整えて裁判に臨み、見事に勝利。
マドレーヌは一躍スターとなり、取材や出演のオファーが舞い込む。
彼女を弁護したポーリーンにも断れきれないほどの依頼が入る。
以前とは打って変わった優雅な生活を送るふたり。
 
ところがそんな折、彼女たちの前に真犯人を名乗る者が現れる。
彼女は無声映画時代の大女優オデット。
自分の犯罪を盗んでスターになったマドレーヌに嫉妬しており……。
 
面白いのですけれど、序盤はイライラ。
時代が時代なものだから、男尊女卑が激しすぎるのです。
女性に参政権は無し、裁判の陪審員は全員男性。検事裁判長の態度も差別的。
そもそも最初に彼女を犯人と決めつける刑事と予審判事も実に不愉快。
殺害に使われた銃なのかどうかの確認もないのは映画の中だけの話だと思いたいけど、
この時代だと本当にこの程度の捜査だったのかと思わなくもない。
 
フランスと日本の笑いの違いを強く感じる作品でもあります。
私が見て不愉快なシーンも、フランス人が見れば笑えるのかしら。
でもフランスのコメディで笑える作品もたくさんあったはず。
 
幾分イライラしましたが、マドレーヌ役のナディア・テレスキウィッツと
ポーリーン役のレベッカ・マルデールはどちらも美しくて見ていて楽しいし、
オデット役のイザベル・ユペールの怪演は怖気が走るほどで良かった。
男性の共感はまったく得られそうにない(笑)。

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『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』

2023年09月18日 | 映画(わ行)
『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』(原題:Frere et Sœur)
監督:アルノー・デプレシャン
出演:マリオン・コティヤール,メルヴィル・プポー,ゴルシフテ・ファラハニ,パトリック・ティムシット他
 
TOHOシネマズ梅田別館で『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』を観た後、
いったいいつになったら涼しくなるのか、厳しい日差しの下、てくてく歩いてシネ・リーブル梅田へ。
 
アルノー・デプレシャン監督は著名ですが、私は監督作を1本も観たことがないと気づく。
出演作の『ヒッチコック/トリュフォー』(2015)を観たことがあるだけ。
無意識に避けてきたのだろうか、なぜだろうと思ったけれど、本作を観てなんとなく納得。
 
この日のハシゴ2本目でした。1本目のTOHOシネマズ梅田別館ではビールを飲みました。
生ビールのつもりで注文したら、「缶ビールを紙コップにうつすんですが、それでもよろしいですか」と聞かれました。
「いいですよ」と答えたけれど、あのビールで800円って、ぼったくりやないですか。
甲子園の生ビールより高いっちゅうの。生である必要はないけれど、値段高すぎ。
 
で、それに憤って飲んだ気がせず、本作の鑑賞中にハイボール缶を飲みました。
これは冷え冷えで美味しかったけど、おかげで眠気に襲われてしまいました。
しかし、飲んでいなくても寝てしまったと思うのですよね。この監督とはたぶん合わない。
 
昨年がんで亡くなった私の弟。弟と私は本作のタイトルのような関係ではありません。
でも、姉弟の話ならば観たくなるじゃないですか。なのに、この関係性はまったく理解できず。
 
人気舞台女優のアリスには2人の弟がいるが、長弟で詩人のルイとは絶縁状態。
ルイがまだ幼い息子を亡くした折にアリス夫婦が弔問に訪れるも、ルイは追い返す。
アリスの夫ボルクマンはもともとルイの友人だったにもかかわらず、いまやボルクマンのことすら憎んでいる。
 
ある日、両親が交通事故に遭って入院。
次弟のフィデルから連絡を受けたルイも病院へと向かうが、アリスには絶対に会いたくない。
しかしお互いを避けたままでいられずはずもなく、姉弟は久々に再会するのだが……。
 
憎み合う関係になった理由すら思い出せないって、どういうことですか。
アリスのことを自分の著作でルイが悪く書いたから?
でもルイがそんなことを書くような感情を抱きはじめたのはなぜ?
 
序盤で睡魔に襲われたため、どういう流れだったのかおぼろげにしかわかりません。(^^;
だけど、理由もわからずに憎み合う様子は不愉快にしか感じられなくて。
スーパーで偶然会ってしまったときの姉弟の会話も私の理解を通り越し、
完全にルイの味方である妻フォニアの態度もよろしくなくて、すべてが不可解。
 
アリス役のマリオン・コティヤールもルイ役のメルヴィル・プポーも好きな俳優です。
でも彼女たちの出演作の中でいちばん意味不明でした。
最初から最後まで起きていたら共感できるところもあったのでしょうか。
何の脈絡もなく面と向かって「大嫌い」と言うところからしてワケわからん。

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『罠 THE TRAP』【4Kデジタルリマスター版】

2023年09月16日 | 映画(わ行)
『罠 THE TRAP』
監督:林海象
出演:永瀬正敏,大嶺美香,南原清隆,杉本哲太,山口智子,夏川結衣,麿赤兒,
   梶原善,阿南健治,近藤芳正,佐野史郎,千石規子,馬渕晴子,宍戸錠他
 
林海象監督による“私立探偵 濱マイク”シリーズの4Kデジタルリマスター版が公開中。
第2作『遙かな時代の階段を』(1995)を観たときに、第1作『我が人生最悪の時』(1994)をスルーしたことを後悔。
第3作である本作は見逃さないようにしようと心に誓いました。って、んな大げさなもんやない。(^^;
ま、とにかく109シネマズ箕面へ。1週間限定公開ですからね。1996年の作品で、これが完結編。

横浜・黄金町に事務所を構える私立探偵濱マイク(永瀬正敏)。
交際中の百合子(夏川結衣)にぞっこんで、毎日会うのが楽しくて仕方ない。
その日もデート前のイソイソを隠せずにいるのを妹の茜(大嶺美香)に見破られ、
百合子のためにプレゼントぐらい用意するようにと、香水を手渡される。
 
このところ、横浜では同じ手口の殺人事件が起きている。
いずれも黒髪の美女で花柄ワンピース姿、綺麗に化粧をほどこした顔で、同じ香水をつけていた。
彼女たちは注射器で毒を打たれた後に殺害場所から人目につく場所へ移動されたらしく、
公園のベンチや遊園地観覧車の中などで目を見開いたまま死亡していた。
 
事件にまるで興味はないものの、百合子に危険が及ぶかもしれないと考えるマイク。
そして心配したとおり、百合子が襲われかけたところ、間一髪でマイクが救う。
マイクは、犯人が現場に落とした注射器を伊勢佐木署の刑事・中山(麿赤兒)に見せるが、
中山はマイクのことをまるで信用せず、調べようとしない。
見かねてマイクに声をかけたのは、本件のために神奈川県警からやってきた若手刑事・神津(杉本哲太)。
 
やがて、現場からなぜかマイクの指紋が発見され、中山がマイク逮捕に向かおうというとき、
神津はマイクにこっそり連絡すると逃げるように言う。
後にマイクとマイクの仲間たちに神津は合流し、真犯人を挙げるために協力し合い……。
 
なるほど、第1作を観ていないので気づきませんでしたが、
第2作と第3作にも同じ俳優がまったく違う役で出演しているのですね。
杉本哲太なんて、前作ではヤクザの役でしたから、刑事役で驚いた。
それにしても腹が立つ、麿赤兒演じる中山はマジで悪徳刑事です(笑)。
 
話自体も面白いけれど、やはり著名な役者の若かりし頃を見られるのが楽しい。
聴覚障害者の百合子役、夏川結衣が可愛いのなんのって。マイクがぞっこんなのもわかる。
そして山口智子演じるみづきのサイコパスぶりが怖すぎる。可愛いけど。
彼女と同じ施設で育ち、彼女が溺愛する弟分で知的障害者の役を永瀬正敏が一人二役。
また、殺害される美女役も知った顔ばかりで、喜多嶋舞、杉本彩、黒沢あすか
いや~、もうビックリしました。こんな役で彼女たちが出演していたなんて。
 
山口智子と永瀬正敏の役柄のせいで、夢か現かわかりません。
本当の自分はどっちだったのかなどと考えさせられ、第2作より少し難解。
そこがまた林海象っぽいです。
 
ところで劇場には私ひとりでした。今年5度目の“おひとりさま”

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