夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『夜明けのすべて』

2024年02月20日 | 映画(や行)
『夜明けのすべて』
監督:三宅唱
出演:松村北斗,上白石萌音,渋川清彦,芋生悠,藤間爽子,久保田磨希,足立智充,
   宮川一朗太,内田慈,丘みつ子,山野海,斉藤陽一郎,りょう,光石研他
 
イオンシネマ茨木にて、封切り日のレイトショーを鑑賞しました。
その前日に瀬尾まいこの原作は読了。原作の感想はこちら
 
映画版はまず男女ダブル主人公の片方、女性のほうがPMS(月経前症候群)で苦しむ様子や、
PMSとはどういうものかをモノローグで話すシーンで始まります。
 
25日から30日間の周期で1度、生理が始まる前に途轍もないイライラに襲われ、
それを口に出さずにはいられずに爆発させてしまう藤沢美紗(上白石萌音)。
大学卒業後に大手企業に勤めたものの、PMSが原因で上司に暴言を吐くなどの悪態をつく。
それを抑えようと飲んだ薬の副作用で会議室で居眠りも。
どうにも居たたまれずにわずか数ヶ月で辞表を提出した。
現在勤めているのは面接の段階でPMSを打ち明けて採用してくれた唯一の会社・栗田科学。
 
中年以上の社員が何人かいるだけのこの小さな会社に、藤沢の後に入社してきたのが山添孝俊(松村北斗)。
やる気はまるで感じられず、仕事もたいしてしないくせして誰よりも早く帰る。
ある日ちょうどPMSに見舞われた藤沢は、山添についにイライラを爆発させる。
 
しかしそんな山添も実はパニック障害を抱えて苦しんでいた。
希望先に就職して希望の仕事をし、誰とも上手くやってきていたはずなのに、
突然、電車に乗ったり食事に行ったり、人のいるところでは発作を起こすようになったのだ。
 
山添が服用している薬を見て自分と同じような障害に悩まされていると知った藤沢は……。
 
主に原作との違いについて書いてみると、まず原作では「栗田金属」、映画版は「栗田科学」。
「夜明けのすべて」というタイトルから「夜」→「プラネタリウム」としたのでしょうか。
確かに映像にするなら金属を見せるよりもプラネタリウムのほうが美しいか。
 
原作では山添のパニック障害発症後にとっくに別れていた彼女が登場、映画版ではまだ交際中です。
芋生悠演じる彼女は正直言って本作に要らないと思いました。
山添の定期診察についていって精神科医(内田慈)に詰め寄るなど、山添を追い込むことしかしていない。
藤沢のことをわざわざ呼び止めて「彼に寄り添ってくれてありがとうございます」と言うなんて、
心から藤沢に感謝しているというよりは、自分の存在を藤沢に見せつけたいかのようで好きじゃない。
ただ、実際に自分の恋人がこんなふうになったら、カノジョはこう出るでしょうかね。
 
藤沢の母親(りょう)は車椅子生活を送っているなんていうのも原作にはない設定。
母親の介護のために藤沢は実家へ戻ろうと、栗田科学から転職を検討中。
こんなにもいろいろと原作にない設定を盛り込む必要を私は感じません。
映画にするならばこれぐらい「ない」設定を入れなきゃいけないということなのかなぁ。
 
と文句を言い気味になってしまいましたが、キャストはよかったと思います。
主演のふたりに好感が持てるし、会社の人たちを演じる役者陣がとてもいい。
栗田科学の社長に光石研、山添の元上司に渋川清彦
あ、そういえば、このふたりが共に身内を亡くしていて、グリーフケアの会で顔なじみというのも原作にない設定でした。
 
そして何よりも残念だったのは、
原作ではあれほど盛り上がった『ボヘミアン・ラプソディ』の話が映画版にはまったくなかったこと。
ま、映画版にそんな話を入れたところで、ボラプ未見の人にはどうでもいいですもんね。(^^;
 
こんな会社があれば救われる人がいっぱいいると思う。

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『ヤジと民主主義 劇場拡大版』

2024年01月18日 | 映画(や行)
『ヤジと民主主義 劇場拡大版』
監督:山崎裕侍
ナレーション:落合恵子
 
3連休の中日、伏見稲荷大社にお詣りに行く前に、十三・第七藝術劇場にて1本。
観た順にUPしていると、3連休っていったいいつでしたかって感じですけど。(^^;
 
2019年7月15日、北海道札幌市内で、参院選立候補者の応援にやってきた安倍晋三首相が演説。
その最中にヤジを飛ばした人たちが北海道警の警察官に排除される騒動が起きました。
本作はその「ヤジ排除問題」を北海道放送報道部の取材班が追ったドキュメンタリーです。
 
お詣りの前に1本観たかっただけで、この問題に興味を持っていたわけではありませんでした。
前日も映画をハシゴして疲れていましたし、観ながら寝てもいいかな、ぐらいのつもりで。
そうしたら、面白くて眠くならず。
 
ヤジを飛ばしたりプラカードを持ち上げようしたりして警察官に取り囲まれた、
あるいは腕などを掴まれてその場から移動を強要された人は少なくとも10人はいたそうですが、
本作では主に2名、ソーシャルワーカーの男性と大学生だった女性に焦点を当てています。
裁判を起こしたのもこのふたりだからということもあるのでしょうかね。
 
2名は特定の政治団体に所属しているわけではなく、無党派の一般人です。
もしも私がこの場にいたら、あぁ、なんかおかしい人だと思ってしまったかもしれません。
しかしこうしてインタビューを見ると、私なんかよりよほど社会を知っている、
少なくとも知ろうとしている人でしょう。
 
2名は共にヤジを飛ばしたのではなくて、先の男性が叫ぶのを聞いて、
後の女性も声を上げなければ後悔すると思ったそうです。
 
安倍政権を批判するヤジだったから排除されたのか。そりゃそうでしょう。でもそうは言わない。
北海道県警の言い訳はとても苦しく聞こえます。
 
表現の自由を侵害された」とふたりが訴えた裁判。
一審では原告の2名が勝訴しましたが、二審では女性のみが勝訴。
北海道県警の何十名も動員して作成したという再現イメージ映像は少し笑ってしまいました。
茶番にしか見えないのですけれど。
 
演説中のヤジに私は賛成とは言えません。でも私は何にもしないから。
何にもしない、声を上げない私にヤジを非難する権利はありません。
どうせ何を言ったって何も変わらないと思うけれど、何もしなければ絶対に何も変わらないのですよね。
 
こういう裁判があったことを今まで気にも留めずに来ました。
せめてもう少し興味を持たなければいけない。
 
ヤジだけで、誰かに危害を加える可能性などなかったこのふたりを排除して、

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『雪山の絆』

2024年01月14日 | 映画(や行)
『雪山の絆』(原題:La sociedad de la Nieve)
監督:J・A・バヨナ
出演:エンソ・ボグリンシック,アグスティン・パルデッラ,マティアス・レカルト,
   エステバン・ビリャルディ,ディエゴ・ベヘッシ,フェルナンド・コンティジャーニ・ガルシア,
   エステバン・ククリツカ,フランシスコ・ロメロ,ラファエル・フェデルマン,バレンティノ・アロンソ他
 
年が明けてから2日に5本ハシゴ3日に2本ハシゴしたから、
翌日から仕事の4日は家から一歩も出ることなくこのブログ用の記事を書きつづけ、
夕方になってようやくNetflixにて1本だけ観ることにしました。
4日に配信が開始されたばかりで、塚口サンサン劇場でも1週間限定で公開されていました。
 
1972年10月に起きたウルグアイ空軍機571便遭難事故を描いています。
この事故は映画化には打ってつけの内容というと不謹慎かと思いますが、たびたび映画化されていて、
いちばん有名なのはイーサン・ホーク主演の『生きてこそ』(1993)。
ドキュメンタリー作品としては『アライブ 生還者』(2007)などもあり、いずれも鮮烈な印象。
 
若者たちがラグビーをするシーンから始まります。彼らはウルグアイのラグビーチームの面々。
その年、チャーター機でチリへ旅行できることになり、
所属メンバーはもちろん、家族や友人知人も誘って、総勢45名でサンティアゴへと向かいます。
 
ところが途中、アンデス山脈の雪山墜落
大破した航空機から放り出されて即死した人もいますが、生き残った人たちも。
無線は壊れて連絡するすべはなく、パイロットも死んでしまったから自分たちが今どこにいるかわからない。
すぐに救助が来ると信じていたのに来ず、数日後に荷物の中からラジオを見つけてつけてみると、
無情にも捜索が打ち切られたというニュースが流れてきます。捜索の再開は雪解け後になると。
 
何もできないまま日々は経過し、その間に次々に誰かが死んでゆく。
氷点下何十度という世界ですから、航空機が墜落しなくともここにいるだけで凍死する。
皆で励まし合い、時に怒鳴り合いながらもなんとか生き延びようとする若者たち。
 
やがて食糧が底を突き、食べられそうなものは亡くなった人の肉だけ。
解体作業を買って出た人が、正気を失う者が出ないようにと、皆から見えないところで解体。
これは犯罪だ、人肉を食べることが許されるのかなどと葛藤しながら、
でも「生きてこそ」。食べなければ死ぬ。生きる望みがあるかぎり、食べる。
 
ホラー作品ではないので、生々しいシーンはほとんど映りません。
本人の許諾なく肉を食べるなんてという会話のあと、「自分が死んだら食べてくれ」と言い始めるところや、
自らの命が友人の命を救えるならこれほど素晴らしいことはないという遺言には泣いてしまいます。
 
最後まで生きる望みを捨てず、いちばん体力のある2名が人里まで歩いてたどり着いたおかげで、
生存者がいると世界中が知ることになり、16名が生還。
人肉を食べて生き延びたことに批判もあったかと思います。でも、誰がそれを責められましょう。
 
生還した人ではなく、途中亡くなった若者のナレーションという形で進められるのが切ない。
 
どんなときにも自然は雄大で美しい。星空の美しさに余計苦しくなります。
劇場に観に行けばよかったとちょっぴり後悔しました。

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今年観た映画50音順〈や行〉

2023年12月30日 | 映画(や行)
《や》
『屋根裏のアーネスト』(原題:We Have a Gohst)
2023年のアメリカ作品。Netflixにて配信。
これ、邦題が『屋根裏のアーネスト』なのか『ウィー・ハブ・ア・ゴースト!』なのか不明。
後者の場合は「や行」ではなくて「あ行」の作品になってしまいます(笑)。
Netflixのオリジナル映画一覧では前者になっているので、そっち採用ということで。
夫婦と息子2人、4人家族のプレスリー家は、歴史的建造物だという一軒家に引っ越し。
そのわりに安価なのを訝るが、不動産屋は顔をひきつらせながらながら事故物件ではないと言う。
しかしそれは真っ赤な嘘で、この家の屋根裏にはアーネストという幽霊が住み着いていた。
最初にアーネストと遭遇したのは、次男の高校生ケヴィン。
これまでの住人と同じように脅せば出て行くだろうとアーネストは思っていたのに、
儲け話にすぐに乗っては失敗する父親フランクのせいで引っ越しばかり強いられたケヴィンは、
幽霊などまるで怖くない、自分の今までの人生のほうが千倍怖かったのだからと言う。
アーネストは姿を見せることができても声を発することができない。
しかも記憶障害を起こしており、生前の自分が何者で何が起きたのかさっぱりわからないらしい。
成仏できないのは何か理由があるからにちがいないと、ケヴィンはアーネストに協力を申し出る。
隣家の変わり者女子ジョイも一緒に調べてくれることになり……。
アンソニー・マッキー演じるフランクが終盤まではどうしようもない(最後に挽回するけれども)親父。
長男のフルトンと共にアーネストを利用して金を稼ぐことしか考えていません。
母親のメラニーも夫と長男の行動を黙認しているところはありますが、最後はやっぱりケヴィンの味方。
コメディ色が強い作品を期待していたらそうでもなくて、その代わりにミステリー色が強い。
アーネストがとどまっていた理由が想像以上に悲しいものでした。
なんといってもアーネスト役がデヴィッド・ハーバーですもの。台詞はなくても表情だけで泣かせる。
 
《ゆ》
『赦し』
2022年の日本作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
監督は、インド出身で日本を拠点に活動するアンシュル・チョウハン。
17歳の女子高生だったときに、同級生を殺害した福田夏奈(松浦りょう)は、
20年の刑を言い渡されて7年服役したところ。
弁護団は殺人の事実は認めつつも、未成年の犯罪で20年の刑は重すぎるとして再審請求
事件をきっかけに別れた被害者の両親(尚玄MEGUMI)は再び過去と対峙することを余儀なくされる。
やがて、夏奈は被害者・樋口恵未(鳴海花音)から凄絶ないじめを受けていたことがわかり……。
少年犯罪の加害者と被害者遺族を描いたドラマですね。
こういうテーマの作品を観るとどちらかに肩入れしたくなるものですが、
松浦りょうの容貌は決して美人とか可愛いとかいったタイプではないし、
見た目から同情するようなことにはなりません。
それを監督は狙ってキャスティングしたのかと思うほど。
肩入れはできないけれど、尚玄演じる被害者の父親が、
若気の至りでいじめたら、殺されてもいいというのか」という台詞はすごく嫌でした。
若気の至りならいじめてもいいのかっちゅう話です。そんな言葉で済まさないでほしい。
 
《よ》
『夜明けまでバス停で』
2022年の日本作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
実在のホームレス女性殺人事件をモチーフにした作品で、監督は高橋伴明
居酒屋に長年アルバイトとして勤務する北林三知子(板谷由夏)。
アクセサリー作家でもあり、如月マリ(筒井真理子)が経営するカフェで教室も開いているが、
コロナの煽りを受けてどちらもしばらく休業に追い込まれてしまう。
その結果、三知子は同僚の小泉純子(片岡礼子)や石川マリア(ルビー・モレノ)と共にクビに。
介護施設での住み込み職員にオンライン面接で採用されて安心したのも束の間、
出勤してみるとコロナ禍で雇えないと言われて途方に暮れる。
住むところも金もなく、それを誰にも言えず、インターネットカフェまでもが休業中。
致し方なく長距離バスが出払った後のバス停で過ごす日々が続くのだが……。
居酒屋チェーンの社長の息子を演じるのが三浦貴大
役だということを忘れるぐらい嫌な奴で、しばらく彼の顔を見たくない(笑)。
同類かと思われた店長の寺島千春(大西礼芳)を途中から大いに応援しました。
「元気なんてありません。ランチするお金なんてありません」、そう言えたら。
でも言えたからって、誰が助けてくれるのでしょう。
そりゃ爆弾のひとつも作って何もかも吹っ飛ばしたくなるわ。
根岸季衣柄本明など、公園に集うホームレスに励まされるけど、現実はこんなもんじゃ済まないのかな。

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『屋根裏のラジャー』

2023年12月20日 | 映画(や行)
『屋根裏のラジャー』
監督:百瀬義行
声の出演:寺田心,鈴木梨央,安藤サクラ,仲里依紗,杉咲花,山田孝之,高畑淳子,寺尾聰,イッセー尾形他
 
前述の『ウィッシュ』を観てそのまま帰ろうかと思ったのですが、なんとなくまだ体力的に大丈夫そう。
同じく109シネマズ箕面にて、21:50からの回を鑑賞しました。上映終了は23:50。しんど。
 
原作はイギリス人作家A. F. ハロルドの児童文学『ぼくが消えないうちに』。
イギリス文学協会賞(7~11歳対象部門)の受賞作品なのだそうです。
制作はスタジオポノック。私は『メアリと魔女の花』(2017)よりこっちが断然好き。
『二ノ国』(2019)の百瀬義行監督、結構私好みかもしれません。
 
少女アマンダ・シャッフルアップは父親を亡くし、母親リジーと2人暮らし。
リジーは書店を切り盛りしているが、諸事情によりまもなく閉店予定。
 
アマンダの親友は少年ラジャー。
ラジャーはアマンダの想像がつくり出した友だち“イマジナリ”で、アマンダ以外の人間には見えない。
見えないラジャーと遊んでいるのを見て、リジーは訝るばかり。
 
ある日、見るからに怪しげな男ミスター・バンディングが書店を訪ねてくる。
追い返そうとするリジーの後ろにラジャーの姿を確認すると、バンディングはいそいそと退散。
リジーには見えなかったようだが、バンディングの背後には恐ろしげな少女がいた。
殺気を感じておびえるアマンダとラジャー。
 
実はバンディングはイマジナリを食べることで永遠の力を得ているらしく、
これまでに見たこともないほど出来の良いイマジナリ、ラジャーを狙っているのだ。
 
リジーとアマンダ、ラジャーが出かけた折、追いかけてきたバンディング。
逃げようとするアマンダは車に撥ねられ、病院へと運ばれる。
 
ひとりきりになって途方に暮れるラジャーに声をかけたのは、猫のジンザン。
言われるがままについて行くと、イマジナリたちが住む町にたどり着き……。
 
想像上の友だちというものが私には居たおぼえがないけれど、
もしかすると本作の登場人物たちのように、居たのに忘れているのかもしれません。
悲しいとき、寂しいとき、つらいときに支えてくれるイマジナリ。
そんな子ども時代が過ぎ去れば、一緒に居たことさえ忘れてしまう。
 
忘れられて、一度は消えてしまったイマジナリたちが、再び必要とされることがある。
必要としている人の前に現れて、また救ってくれるのですね。
 
おかしなことを言う子どもだと叱るのは簡単。
でも子どもには本当に見えているのだと思ったほうがいいのかな。
 
声を聞いてすぐに誰かわかったのはリジー役の安藤サクラとバンディング役のイッセー尾形のみ。
イマジナリを仕切るエミリの声は仲里依紗でしたか。エミリは泣かせてくれます。
ジンザンは山田孝之、冷蔵庫という名の老犬の声は寺尾聰とな。なるほど。
 
序盤、あまりにもアマンダの話を信用しないリジーに怒りすらおぼえていたのですが、
終わってみればとても良い話。IMAXでもう一度観るのもいいかも。

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