夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『オオカミは嘘をつく』

2014年11月29日 | 映画(あ行)
『オオカミは嘘をつく』(原題:Big Bad Wolves)
監督:アハロン・ケシャレス,ナヴォット・パプシャド
出演:リオル・アシュケナージ,ツァヒ・グラッド,ロテム・ケイナン,ドヴ・グリックマン,
   メナシェ・ノイ,ドゥヴィール・ベネデック,カイス・ナシェフ,ナティ・クルーゲル他

この間の日曜日にシネ・リーブル梅田にて。

ほかにもたくさん観たい作品はあったけど、これはわりと珍しいイスラエル作品。
世界中が賞賛、クエンティン・タランティーノも「今年ナンバーワンだ!」と大絶賛。
タランティーノが褒める作品は確かに面白いことが多いし、
釣られてみようかと思ったわけですが、え~い、私にはまったく良さがわからん!(--;

私と同様に釣られて唖然とする人がいると気の毒なので、
久々にネタバレ全開で行きます。
どうしても観るつもりの人は絶対にこの先を読まないでください。

かくれんぼをしていた少女が行方不明になり、
後日、森の中で首を切断されて椅子に括りつけられた状態で発見される事件が起きる。

刑事のミッキは教師ドロールに小児性愛の傾向ありと見て、犯人と断定。
証拠が何もないままではしょっぴくこともできず、
廃墟にドロールを連れ込むと、叩く蹴るの暴行を働いて自白させようとするが駄目。
たまたま廃墟にいた少年が暴行の様子をこっそり撮影してYouTubeにアップしたものだから大問題に。
世間体を守りたい署長はミッキに休職を命じ、しかし休職中は気の済むようにしろと言う。

ミッキはドロールを尾行、拉致に成功して、人目につかない場所で再び暴行するが、
背後から近づいてきた何者かに突然殴られて気絶してしまう。

ミッキを殴ったのは、殺された少女の父親ギディ。
彼は娘の頭部を見つけたい一心で、ここ数日ドロールを監視していた。
ドロールに自白させるにはミッキを共謀者にするのが好都合と、ミッキをも拉致。
今回の作戦のために入手した邸の地下室で行動を開始するのだが……。

私にしてみると、イスラエルって、「イ」と「ラ」が付くし、
なんとなくイラクやイランの映画と似ているのかなと思っていました。
ところが、これは思いっきりホラー映画。
暴力に対する意識が普通ではなく、彼らにとって当然のことのように見えます。

拷問の道具を揃え、手指の骨を砕く、爪を剥がす。
これらのことを嬉々としてやってのけます。

しかも、途中でギディを訪問した彼の父親ヨラムは、とりあえずは息子をたしなめるものの、
息子が拷問をやめる気がないと知るや、「じゃ、わしも」と参加。
地下室に入るとミッキに「大切な孫を殺すなんて許さん」と凄み、
ギディが「父さん、犯人はそっちじゃないよ、こっちだよ」。
ヨラムは「おお、そうか、わしとしたことがボケちまって」。
ここ、もしかすると笑うところなのでしょうが、まったく笑えません。
軍時代を思い出すなぁなんて言いながら、ドロールの皮膚をバーナーで焼くのです。

必死に無実を訴えるドロールの姿に、こいつは犯人じゃないのかもと思うミッキ。
けれど、逃げるときには怪我だらけのドロールが足手まとい。
自分ひとりで隙をついて現場から逃走します。
「僕を見捨てたら、必ず君は後悔する」と、なんだか意味深なドロールの言葉。

逃走途中に出会う馬に乗った兄ちゃんは、意味深ながら何も意味なし。
兄ちゃんから携帯電話を借りて自宅にかけてみると、自分の娘が行方不明になっている。
なぜか慌てて邸に戻るミッキ、地下室に飛び込むとドロールに尋ねます。
「俺の娘はどこにいるんだ」と。
しかしこのときはすでにギディがドロールの首を錆びたノコギリでぎこぎこ切った後。

さて、姿を消したドロールの家を捜索するほかの刑事。
怪しいものは何もなく、撤退します。
カメラが引くと映し出されるドロールの家の隠し部屋。
そこに横たわる意識のない少女、これがミッキの娘だったのでしょう。

中盤にドロールが少女にケーキを食べさせる場面があり、
このときはこの少女はドロールの娘だとこちらは思い込まされます。
それは巧かったと思いますが、私にはそれだけ。
オチとしても想像できるものであり、想像させないほどに役者の演技は達者ではなく。

とにかく残酷で、どの場面もすべて音だけではなく丸写しにされます。
『神さまの言うとおり』では残酷なシーンも笑えたけれど、
本作はそうじゃないし、ただただ震え上がるばかりです。

宣伝文句に「あなたの価値観が崩壊する」。
映画におけるイスラエルに対する認識という点ではそうかもしれません。
暴力が当たり前の国だということを身にしみて感じさせられます。
そういう意味では観てよかったと言えるのかなぁ。

デヴィッド・フィンチャーを思わせるタイトル・シークエンスまでは秀逸でした。
最初だけやがな。(^^;
あと、1カ所だけ笑ったのは、ギディがヨラムに電話で「俺はもう45歳なんだから」というシーン。
アナタ、私より年下だったんですか。60ぐらいにしか見えへんっちゅうの。

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『6才のボクが、大人になるまで。』

2014年11月27日 | 映画(ら行)
『6才のボクが、大人になるまで。』(原題:Boyhood)
監督:リチャード・リンクレイター
出演:パトリシア・アークエット,エラー・コルトレーン,ローレライ・リンクレイター,
   イーサン・ホーク,マルコ・ペレラ,スティーヴン・チェスター・プリンス他

全館停電の日に3本ハシゴの3本目。これがこの日の本命。
165分の本作はマイルを貯めるのにうってつけですから、
できればTOHOシネマズで観たかったところですが、
ハシゴの効率を優先して大阪ステーションシティシネマで観ました。

少年時代と青年時代、そしてそれ以降の役者の使い分けは当然ですが、
あの子がこんな顔になるかよ、とか、その顔の小さいときがそれかよ、とか、
映画を観ていてツッコミを入れたくなることはしばしば。
そうならないように同じ役者を使ったはいいけれど、
老けメイクがほどこされているのを見ると一気にテンションが下がる私です。

本作はそんなツッコミもテンション下がりも無用。
6歳のボクと18歳のボク、両親も姉もすべて同じ役者。
ドキュメンタリーではない、まったくのフィクションで、
12年間、毎夏、カメラを回して1本の映画を撮りあげたのですから。
過去に例を見ない、ぶっ飛んだ製作手法が見事に結実しています。

今年はおそらく今日までに劇場で190本近く観ています。
そのなかでいちばん良かったというのか、いちばん好きだったのはこれかもしれません。
ずっとずっと観ていたい、そんな気持ちに駆られました。
リチャード・リンクレイター監督の『スクール・オブ・ロック』(2003)は、
私が来世まで持って行きたいほどのお気に入りなのですが、これはそれを超えたかな。

テキサス州の田舎町に暮らす6歳の少年メイソンは、
母親のオリヴィアと姉のサマンサとの3人暮らし。
父親のメイソンSr.は23歳のときにオリヴィアと結婚したが、
離婚してアラスカへ放浪の旅へと出かけてしまう。
アラスカから戻ってきた父親は、週末をメイソンとサマンサとともに過ごしている。

シングルマザーとなったオリヴィアは、自らのキャリアアップを目指し、
大学に入学することを決意する。
そのため、メイソンとサマンサを連れてヒューストンへ引っ越す。
そこで多感な思春期を送ることになるメイソン。

泣かされるわけでも大笑いさせられるわけでもありません。
ただ、メイソンと彼と関わる人たちの日常が描かれているだけ。
だけど、人生って、それだけでドラマなんだとしみじみ思います。

12年間カメラを回したといっても、それを繋ぎ合わせるのはものすごく難しいはず。
なのにとても自然に繋ぎ合わされています。
気がつけばメイソンが声変わりしていた、ニキビができていた、ヒゲが生えていた。
親のほうも、もともとむっちりしていた体型がよりそうなり、いつのまにかシワが増えていた。
特に今が何年かという情報が与えられることもなく、
台詞やニュースや音楽の端々から、観ている者は自然とその時代に想いを馳せます。

最初はいくぶんませたガキだったメイソンなのに、
次第に年齢のほうが彼に追いついてくる。
母親の再婚相手への失望、そして初恋や失恋の痛みをメイソンとともに感じ、
その時代に自分がどうだったかも思い返す。
鑑賞中、そういったことをごく自然にしている自分に気づきます。

イーサン・ホーク演じる父親とメイソンたちの会話にクスッと笑い、
パトリシア・アークエットの突然の号泣に共感する。
自分が何気なく発した言葉がその人の人生に良い意味で影響したと知って救われる。
どれもこれも、12年を通じてのことだと思うと、余計に幸せを感じます。

「瞬間を逃すな」と言うけれど、時間は途切れることのないもの。
すべての時間が「瞬間」。

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『神さまの言うとおり』

2014年11月25日 | 映画(か行)
『神さまの言うとおり』
監督:三池崇史
出演:福士蒼汰,山崎紘菜,染谷将太,優希美青,大森南朋,リリー・フランキー,神木隆之介他
声の出演:トミーズ雅,前田敦子,肥後克広,上島竜兵,寺門ジモン,山崎努他

あまり観るつもりはなかったのですが、
この日、3本ハシゴの計画を立て、1本目と3本目はすんなり決定、
2本目に観るのにちょうどいいものがなかなか見つからず。
1本目の終映時間が本作の開映時間で、無謀ではあるけれど、
どうせ予告編が10分以上あるのだし、トイレに行っても本編には余裕で間に合うかと。
いつものごとく、出入り口すぐの端っこの席を確保して。

観るつもりがなかったのは世間の評価が低いからではありません。
三池崇史監督ですもの、私は好きですから。
だけどホラーは苦手なので、監督の前作『喰女 クイメ』もパス。
これもグロそうだけど、『悪の教典』(2012)より描写穏やかとの書き込みを見つけ、
『悪の教典』をそんなにグロいと思わなかった私はOKかもしれないと思い。

高校生の高畑瞬(福士蒼汰)は退屈な毎日にすっかり嫌気が差している。
ところがある日の授業中、教壇に突然、しゃべるダルマ(声:トミーズ雅)が現れる。
ダルマは戸惑う生徒たちに“ダルマさんが転んだ”を強要。
ダルマが振り向いたときに動いた生徒はただちに首をはね飛ばされる。
泣きわめく生徒たちが次々と死亡してゆくなか、
唯一冷静なサタケ(染谷将太)の知恵により、瞬は生き残るが、サタケは死んでしまう。

呆然とする瞬は廊下で幼なじみの秋元いちか(山崎紘菜)と会う。
いちかとともに体育館へ向かうと、そこにはほかのクラスで生き残った生徒たちが。
今度は巨大な招き猫(声:前田敦子)が現れる。
その招き猫に鈴をつけることができればゲーム終了だとわかるが、
いったいどうすればいいのかと迷っているうち、猫は次々と生徒を殺してゆき……。

原作の同名漫画にかなり改変を加えているらしく、
ほぼオリジナル映画と言ってもよさそうな雰囲気。

ま~、とにかくぶっ飛んでいます。
駄目ですよ、駄目ですけれど、それなりに私は楽しめました。
あまりに残虐、だけどモロ作り物だからさほど怖くはなく、笑えます。
直視できなかったのは、招き猫の次に登場するこけし軍団(声:ダチョウ倶楽部)。
“かごめかごめ”に負けた生徒が床に頭を打ち付けられるシーンや股を裂かれるシーンは、
最後までは見せなかった三池監督に感謝。
ただ、このシーンの途中で、私の後ろの席にいた老婦人は出て行かれました。
そりゃそうやろと思う半面、なぜこれを観にきたのかとっても疑問です。

スノボに乗って新巻鮭持参で現れた巨大シロクマ(声:山崎努)や、
かねてから私の笑いのツボであるマトリョーシカ(声:水田わさび,小桜エツコ)など、
ゲームを仕掛けてくる化け物はみんな独創的。
駄目駄目なのに、憎めないんだなぁ、三池監督。

それにしても、あれだけ美少年だった神木隆之介くん
すっかりイカレた奴が似合う役者になりましたねぇ。怖すぎる。
リリーさん、相変わらずオイシすぎだし。

生き残るには知力、体力、想像力、そして運が大事ですと。
退屈な毎日、バンザイ!

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『デビルズ・ノット』

2014年11月23日 | 映画(た行)
『デビルズ・ノット』(原題:Devil's Knot)
監督:アトム・エゴヤン
出演:コリン・ファース,リース・ウィザースプーン,デイン・デハーン,ブルース・グリーンウッド,
   ジェームズ・ウィリアム・ハムリック,セス・メリウェザー,アレッサンドロ・ニヴォラ他

またまたやってきました、全館停電の日
停電の日は早くからわかっているにもかかわらず、
今回はその日に職場体験を受け入れてしまったとかで、
昼過ぎまでは完全停電にはできないらしく、
私たちももしかしたら休めとは言われない可能性もありましたが、
なんだかんだで休みを取ることに。

せっかくみんな一緒に平日の日中休みなんだから、
ラブホで女子会する!?という話も噴出。
しかし、これもなんだかんだで都合が合わず、お流れに。
ならばレディースデーの水曜日、私はもちろん映画に行くぞ。
大阪ステーションシティシネマにて。

好きなんです、アトム・エゴヤン監督。
亡命したアルメニア人の両親のもと、エジプト・カイロに生まれ、
移住したカナダで映画製作に興味を持ったという監督。
私が魅入られたのは『スウィート ヒアアフター』(1997)でした。
以来気になって、『エキゾチカ』(1994)に戻り、『フェリシアの旅』(1999)、
『アララトの聖母』(2002)、『秘密のかけら』(2005)などもチェック。
『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』(2006)では製作総指揮を務めていたものの、
『クロエ』(2009)を観たときには、この監督もう駄目かもと不安に。
そこへ本作が公開されて、久々にこれは監督らしい作品ではと嬉しくなりました。

過去にも多くのドキュメンタリー作品が撮られている“ウエスト・メンフィス3”事件。
全米中に衝撃を与えたという未解決の猟奇殺人事件だそうです。

1993年の初夏、アーカンソー州ののどかな田舎町ウエスト・メンフィス。
3人の男子児童が自転車で出かけたまま戻らず、捜索を開始したところ、
森の中の小川で無惨な姿の死体となって発見される。

いずれも全裸で、手首と足首が本人たちの靴紐で結ばれており、
その猟奇的な手口から、悪魔崇拝者の仕業だと考えられる。
まずは被害者宅に出入りしていたクリスが警察に呼ばれるが、無関係を主張。
すると今度は、子ども並みの知能指数しかないジェシーが呼び出され、
彼の自白によって逮捕されたのは、オカルトとヘヴィメタ好きなダミアン。
その友人ジェイソンも共犯として逮捕される。

警察の捜査に疑問を抱いた私立探偵のロンは、公選弁護人への協力を買って出る。
また、被害児童のひとりであるスティーヴィーの母親パムも
裁判を傍聴するうち、真犯人が別にいるのではという疑念を持ちはじめるのだが……。

全米での公開時、批評家から酷評されたそうですが、見応えはあります。
最初は、冤罪かどうかが監督の問題ではないのだと思っていましたが、
締めくくりかたを見れば明らかに冤罪だと決めてかかっています。
現在も生存しているとおぼしき関係者が真犯人だとにおわされていますから、
そりゃこれを公開してしまうといろいろ大変でしょうねぇ。

観賞後は、私だって冤罪に間違いないと思います。
こうなると、監督は本作で冤罪を訴えたかっただけなのかと思わなくもない。
もしも冤罪であれば、また3組の親が息子を失うことになる。
そのロンの台詞が心に突き刺さります。

久々に監督らしい作品を観た気はしましたが、
コリン・ファース演じるロンが本件に固執する理由などもさっぱりわからず、
穴だらけといえば穴だらけか。

いずれにしても、ヘヴィメタファンが気の毒で気の毒で。
いい人、多いのに!

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『紙の月』

2014年11月21日 | 映画(か行)
『紙の月』
監督:吉田大八
出演:宮沢りえ,池松壮亮,大島優子,小林聡美,田辺誠一,近藤芳正,
   石橋蓮司,平祐奈,伊勢志摩,佐々木勝彦,天光眞弓,中原ひとみ他

仕事帰りに1本だけ、109シネマズ箕面にて。

私は女性作家よりも男性作家のほうが好きなようだとたびたび言ってきました。
今もその思いは変わらないのですが、
最近は女性作家の著作でも琴線に触れるものが多くあります。
角田光代は『対岸の彼女』を読んで以来のお気に入り。
どれもこれもハッピーエンドとは行かない物語、心がざわざわするけれど不快ではない。
どうあっても生きていくしかない女性の姿を切なくもしたたかに感じます。

原作を読んだのは1カ月半ほど前。
その頃からしばしば目にしていた予告編では、原作との違いがわかりませんでしたが、
映画オリジナルの構成や登場人物がかなりおもしろい。
『桐島、部活やめるってよ』(2012)の吉田大八監督、もっとお若い方だと思っていたのですが、
年齢を調べてみたら私と同年代だと判明。
作家も同年代の人に共感してしまうのと同様に、この監督にも共感できます。

わかば銀行に勤める梅澤梨花(宮沢りえ)は、
エリート会社員の夫・正文(田辺誠一)と郊外の一戸建てに二人暮らし。
ずっとパート社員だったが、契約社員として外回りを任されるように。
顧客からのウケも良く、次々と大口の契約を取って、
上司の井上佑司(近藤芳正)から高く評価されている。
しかし、家庭では正文との会話に空しさを感じはじめていた。

そんなある日、顧客の平林孝三(石橋蓮司)を訪問したさいに、
彼の孫で大学生の光太(池松壮亮)と出会う。
後日、駅ですれちがった光太から声をかけられ、気持ちが浮き立つ。
それ以来、光太と逢瀬を重ねるようになる梨花。

これまではあり得なかったことなのに、高額化粧品が気になる。
外回りの途中にふと足を止めた化粧品売場で購入を決めるが、
持ち合わせが足りないことに気づき、顧客から預かった金に手を付けてしまう。
ATMでお金を下ろしたらすぐに戻すのだから大丈夫。
そう自分に言い聞かせる梨花だったが、どんどん歯止めが利かなくなり……。

原作は、梨花に関わりのあった人物が彼女について語るという構成で、
『白ゆき姫殺人事件』にも似た進み方(『紙の月』のほうが発行年は先)。
映画はその手法は採らず、彼女が横領に手を染めてゆく様子が順序正しく描かれています。

原作を読んでいると膨らむイメージいろいろ。
結婚前はカード会社にいて、その経験を生かして銀行に職を得た梨花。
優しく理解ある夫に見えるけれど、妻にたいした仕事なんてできないと思っている。
妻の仕事はあくまで主婦のひまつぶし、家計を支えているのは俺。
そんな態度に梨花の胸にふつふつとわき上がる、釈然としない思い。
こういった点は、宮沢りえの演技からも十分に推し量ることができます。

最初は原作のほうがおもしろいかもと思って観ていたのですが、
原作にはほとんど出てこなかった銀行業務のあれこれや、
映画オリジナルの登場人物がおもしろくてたまりません。

イマドキの女子で同僚の相川恵子役を演じる大島優子
彼女の「使わないお金なんて、ちょっと借りても、
お客さん意外と気づかないと思うんですよね」という台詞も映画オリジナルで、
まるで原作にあったかのようにハマっています。

圧巻はなんと言っても勤続20年を超える先輩社員の隅より子役を演じた小林聡美
彼女と宮沢りえとの対峙シーンは、“半沢直樹”堺雅人香川照之のそれ以上かも(笑)。

音楽もツボを得ていて、いい具合に重みのあるエンターテインメント作品でした。

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