幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第五十六回
『って云うか、でしょ?』
「ああ、そうだな。まっ! いいだろう」
『では、内容を詰めましょうか』
「おい! 今かよ!」
『いやあ…。ご帰宅なさってからで結構ですから…』
「だよな」
二人は簡略な打ち合わせをして、その場は別れた。
夕方になり上山が帰宅すると、まだ幽霊平林は現れていなかった。そういや、こちらから呼び出すとも、いつ頃とも云ってなかったぞ…、と上山は気づいた。まあ、いいか…と、背広を脱いで普段着のセーターに着替えて、お茶を飲んだ。幽霊平林が現われたのは、上山が台所で夕飯の準備をしているときだった。買っておいた市販のステーキをミディアムに焼き、付け合わせの温野菜なども準備して、ワインとロールパンも添えた。そして、ワイングラスを手に、ようやく上山がテーブルに着こうとしたときだった。
『美味しそうですね!』
ニンマリと陰気に笑った幽霊平林が、いつものように何の前ぶれもなくスゥ~っと格好よく現れたのは丁度、その時である。
「なんだ、君か…。ははは…、なんだと訊(き)くのも妙だがな。部屋の中へ突然、現れるのは、君しかいなかった」
『そりゃ、そうですよ、課長』
二人(一人と一霊)は互いに陰陽の差こそあれ、ニンマリとした。
「食べながらでもいいが…」
『いえ、僕はお茶の間の方にいますから、済ませて下さい。じっと見ているというのも気が引けますので…』