幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第八十二回
「ああ、なるほど…。記憶が消えたあとじゃ、私も上山さんとこんな話は出来ませんからねえ」
「ええ、そういうことです。よろしくお願いします」
「分かりました。まあ、お願いされるほどの話でもないんですが…」
二人は顔を見合せて軽く笑った。
「さてと…。これで何が起ころうと安心できます」
「ところで、その幽霊さんの調子は、どうですか? 死んだ方に調子と云うのも、なんなんですが…」
「ははは…、平林ですか。彼の場合は、私と違って大変化ですよ」
「と、いいますと?」
「なんでも二段階アップなんだそうです」
「二段階とは?」
「ええ、私も詳しくは分からないんですが、なんでも一段階アップで幽霊から御霊(みたま)に、さらにもう一段階昇って生まれ変われるということらしいんです」
「生まれ変われる?」
「はい、そうです。霊魂が新しい身体を持って胎内に宿るということだそうです」
「妊娠した女性の身体に宿る、ということですね?」
「ええ、まあ…。らしいです」
「いや、このお話は、霊動学者の私としては非常に貴重です。なるほど…。そういう…。ああ、これは今、研究中の課題に大いに参考となる材料です。有難うございました。ふ~む、そうか…、なるほど!」
佃(つくだ)教授は一人で納得して悦に入った。
「はあ…」
上山は佃教授の言葉が解せぬまま、訝(いぶか)しげに頷(うなず)いた。佃教授は、さも当然のように、机上に置かれた長数珠(じゅず)を白衣の上に首からかけた。上山の目には、その姿が少し奇異に映った。