幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第五十七回
「いやあ、そうしてもらうと気楽で助かるな」
『一人、食べてるシチュエーションって、見られると僕でも嫌ですから…』
「だよな…。君は94だ」
『えっ?』
「空気が読める」
『ああ…』
上山の言葉にはそれ以上返さず、すぐに幽霊平林の姿は消えていた。上山は少し急(せ)きながら食べ始めた。
それからの二十分ほどは幽霊平林にとって、ただフワリフワリと浮いているだけの時の経過だった。退屈な気分が訪れないのは便利といえば便利な幽霊の特性と云えた。
食後の上山は食器を洗い場へ運ぶと、すぐに茶の間の方へ向かった。
『ああ…、もうお済みになりましたか』
「んっ? おお…待たせたな。それじゃ内容を詰めるとするか…」
『グローバルに念じるってのは、要は武器輸出禁止条約のときを参考にすりゃいいんですよね?』
「そうだな。この小ノートに、その時の内容が書いてある」
上山はキッチンから茶の間へ向かう間に、小ノートとボールペンを書斎から持ってきていた。そのノートを幽霊平林に示したのである。
『そうですね。武器輸出の内容が世界語になると、ただそれだけですから…。確か、あのときも、特定の国に対しては念じていなかったはずです』
「…だな。そう書いてある」
上山は小ノートをめくりながら云った。
『そんなことまで書かれていたんですか?』
「ああ、一応、結果と反省を末尾にな。今後の参考になると思ったのさ。事実、今になって参考になってる。他意はない」