水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第五十三回)

2012年03月02日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章    水本爽涼
                
    第五十三回
「いやあ、ちょいと早く目覚めて、そのまま出勤しただけのことさ。私としては珍しいことだよ」
 上山は罰が悪く、愛想笑いした。
「君さ、二人目の子供は、まだなの?」
 上山は、それとなく訊(き)いてみた。こういう話は他の社員がいる前では課長として出来ないから、この際、と思ったのである。
「ははは…、稼ぎが稼ぎですし、あとしばらくは、って妻と話したんですが…」
「ああ、そう…。で、赤ちゃんは順調?」
「ええ、首が据(す)わってからはスクスクと育ち、もう可愛い盛りです」
「ははは…、親馬鹿だな、君も」
 二人は賑(にぎ)やかに笑った。その直後、他の社員がドカドカと業務第二課内と出勤してきた。岬は事もなげに自席へと戻った。上山は上山で、咳(せき)ばらいをひとつすると、ノートパソコンを徐(おもむろ)に開けた。
 その頃、のんびりと街のアチラコチラと漂いながら、幽霊平林は、とある公園へと舞い降りた。昼近くの陽射しからして、上山が勤務を終える夕方までには、まだかなりの時があった。ベンチ上へ漂って移動した幽霊平林は、ベンチの上で自然を感じつつ腕を組んだ。彼の感覚としては、生前の頃、ベンチへ腰を下ろした自分である。ポカポカと暖かい陽光が射し、ベンチも生きている身ならば凌ぎよい爽快感に包まれるだろう…と、幽霊平林は、ふと思った。そして、ひとつの考えが閃(ひらめ)いた。世界語を考え、創造するメンバーなど、個々に考えずともいいのではないか…という発想である。如意の筆の荘厳な霊力を使わぬ手はないのだ、という想いである。
『グローバルに念じればいいかっ! ははは…。少しミクロで考え過ぎていた。こりゃ、課長に云っておく必要がある…というか、これしかないぞ!』
 幽霊平林が腕組みを解き、スゥ~っと上空へ昇ると、家やビルの佇まいが一望できた。


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