水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第六十三回)

2012年03月12日 00時00分00秒 | #小説

  霊パッション  第三章   水本爽涼
                               
    
第六十三回
「いや、見当もつかんが、私の場合も急に周りの景色が白黒(モノトーン)になっただろ? それを考えると、霊界のお偉方がなさったこととしか思えん。訊(き)いてみちゃ、どうだ? 私に訊くよりは確かだぜ」
『あっ! そうでした。そうすりゃ、よかったですね。僕としたことが…』
「いや、君だからここへ現れたんだ。普通は、もう少し冷静に考えるぞ、ははは…」
『笑いごとじゃありません!』
「いや、申し訳ない。考えよう…」
 上山は腕組みし、幽霊平林も追随した。
 しばらく二人(一人と一霊)は沈黙していたが、やがて上山が口を開いた。
「ふ~む。…やはり原因は分からん。まったく思い当たる節(ふし)がないからな。先ほどの話のように、霊界トップに訊(き)いた方が早いし、確実だろう」
『…はい、そうします。それじゃ、さっそく! お騒がせしました』
「何か分かれば、また現れてくれ」
『そうします。じゃあ…』
 幽霊平林は語尾を暈(ぼか)して消え去った。もちろん、格好よく消えることだけは忘れていなかった。
「…なんだ、人騒がせな奴だ!」
 自分の異変のときは慌(あわ)てた上山だったが、ことが幽霊平林となると、からっきしで、人ごとのように、つれない呟きを洩(も)らすのだった。
 一方、霊界へ戻った幽霊平林は、すぐに如意の筆を手にすると、両瞼(まぶた)を閉じ、何やら念じ始めた。もちろん、霊界番人を呼び出すために念じたのだ。いつもの所作で瞼を開けたあと、如意の筆を二、三度、振ると、たちまちにして光が上方より射し、光輪がその光に沿って幽霊平林の前へ下りてきた。
『なんじゃ! また、そなたか…。この忙しい折りに、いったい何用じゃ! つまらん戯言(ざれごと)なら、聞きとうもない。…というより、そのような暇(ひま)はない故(ゆえ)、またの機会にしてくれ』


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする