幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第六十七回
落ちついて茶の間の座布団へ腰を下ろすと、自分と幽霊平林がやってきた行いが、走馬燈のように上山の脳裡を駆け巡った。上山にしては珍しい追憶感情の湧出で、この先、何か起こるのではないか…という妙な不安感に苛(さいな)まれた。とはいえ、自分の霊現象を語れるといえば、人間では田丸社長と滑川(なめかわ)、佃(つくだ)両教授の三名である。幽霊の平林を含めたとしても四名、というのは、いかにも心細い。この先、はっきりとどうなる、という可能性の確実さと保証が皆無なのである。上山は異常体質で霊力が備わった己(おの)が身が疎(うと)ましかった。上山は、その気持を拭(ぬぐ)おうと、何気なく左手首をグルリと回した。別に幽霊平林を呼びたい気分というのではなく、疎ましい気分を拭いたい潜在意識が、そうさせたのだ。
『今朝の新聞ですか…。また一歩、前進しましたね、課長』
幽霊平林はスゥ~っと近づくと、朝刊を覗(のぞ)き込んで、そう云った。
「ああ…、ご覧のとおりさ…」
『効果は着実に出てますね』
「そうだな。もう少し、かかると思ってたんだが、いい意味で予想外だよ」
『これなら一年後には、国連総会が同時通訳抜きの地球語で語られるんじゃないですか?』
陰気に笑いながら幽霊平林が上山を窺(うかが)った。
「ははは…、それはどうか分からんが、可能性もあるなあ、この分だと…」
上山も笑みを浮かべて、湯呑みの茶を啜(すす)った。
『いや、いやいやいや、課長、そんなには待てませんよ。でしょ?!』
「そうそう、そうだった。悠長なことは云っとられんのだ」
『でしたよね。僕も課長も、早く何とかしたい身の上ですからね』
「ああ…。だっただった。どうも、状況が逼迫(ひっぱく)してないから、ゆったり考えていかん」
『はい!』