水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第七十三回)

2012年03月22日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション  第三章   水本爽涼 
                                                                 

   
第七十三回
「そうだよ。何のことでしょう? なんて、云えないしさ。しかし、恐らく、その時の私は君の記憶がまったく消えているから、そう云うだろうしねえ…」
『はい、そうですよね…』
 上山と幽霊平林は、先の見えない想定を考え、押し黙った。二人(一人と一霊)が次に目標とすることもなくなり、地球上の正義の味方活動も最終段階に入ったなあ、などと話し合っていた頃、霊界では霊界司と霊界番人の問答が展開されていた。
『そう、なされますか?』
『ああ番人、それが、よかろうぞ』
『畏(かしこ)まりました。では、そのように取り計らうことと致しますゆえ…』
 霊界番人の光の輪は、さらに大きな光の輪から離れていった。何を、どうしようというのか分からないのが霊界なのである。つまりそれは、直接的な言葉や伝達手段
が一切、霊界支配者には必要ないということを意味する。では、霊界司と霊界番人がどんな遣り取りをしていたのか…ということだが、それは、上山と幽霊平林の身の上に、やがて起ころうとする霊界の意志であった。
 それが現われたのは、三日ほど経った頃である。まず、上山に異変が起きた。いつものように幽霊平林を呼び出したとき、幽霊平林の声は聞こえたが、その姿は見えなくなっていたのである。
『どうか、されたんですか? 僕は、ここにいますよ、課長。見えないんですか?』
「ああ…」
 上山は虚ろにそう云いながら、声がする辺りに目を凝(こ)らしたが、やはり幽霊平林の姿は見えなかった。
『今度は課長ですか。ここですよ! ここ!』
「そう云ってもなあ…。見えないんだよ」
 上山は何度も目を指で擦(こす)ったが、やはり幽霊平林の姿は見えなかった。


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