幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第七十九回
「実は…、こんなことを云うと口幅ったいんですが、教授にお話しした平林のことは、聞かなかったこととして、忘れて下さい」
「平林? ああ…、君が見えるという幽霊のことかね」
「ええ、そうです…」
上山は静かに肯定して、滑川(なめかわ)教授の隣の椅子へ腰を下ろした。
「その平林君が、どうかしたのかな? この前は、ゴーステン騒ぎだったが…」
「平林が、私にはもう見えないんですよ、実は」
「なに! そりゃ、大変化じゃないか! いったい、どうしたというんじゃ」
「どうした、ってことじゃないんですよ。霊界トップの意向で、そうなったんです。今のところは、まだ声は聞けるんですがね」
「ほう…。それで?」
「霊界トップの話ですと、私の平林に対する記憶は、孰(いず)れ、完璧に消えるそうです。もちろん、彼の記憶なんですが…」
「ああ、それでか…。消えれば、私が何を訊(き)いても駄目だからな」
「はい、そうなんです。これは平林が直接、霊界トップから訊いたことでして…」
「結局、何も起こらなかった元の状態になるということかな?」
「いえ、私と平林のやった世界変革の成果は、そのまま残るんですよ。それに、地球語も…」
「おお! そういや今、やっとるなあ、国連で…。なんでも、各国の義務教育で必須科目になると決まったと、朝のニュースが云っておったぞ」
「はい、それです…」
「君らは、ついに世界の正義の味方になったってことだな、わっはっはっはっ…」
顎髭(あごひげ)を撫(な)でながら、滑川(なめかわ)教授は豪快に笑った。