水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑えるユーモア短編集-91- 風の旅

2017年04月01日 00時00分00秒 | #小説

 なんとなく出かけよう…と思った川竹は、ひょいと、家を出た。どうも自分の意思ではないような気もしたが、まあいいか…と、そのまま出た。家の玄関を閉めたとき、風がソヨソヨ・・と吹いた。風が少し髪を乱したが、まあ、いいか…と、川竹はまた、そのままにした。行き先を決めていないから、なんとも気楽だった。時間に追われなかったこともあった。
 川竹がしばらく歩いていると、なんとなく気分が心地よくなった。それがなぜなのか? は、そのときの川竹には分からなかったが、なぜか心が安らぎ、ホッとする気分になったとき、またソヨソヨと風が流れた。このとき、川竹は初めておやっ? と訝(いぶか)しく思った。
『どうです?』
「なにがっ?」
 不意の声に、川竹はハッ! と我に返り、後ろを振り向いた。だが、辺りに人のいる気配は微塵(みじん)もなかった。川竹は少し不気味に感じ、歩(ほ)を早めた。
『私ですよっ!』
 風がソヨソヨと吹き、川竹を通り過ぎて流れた。川竹には、その音が人の声のように聞こえた。
「んっ?」
 今日は風の旅だな…となんとなく思え、川竹は誰もいないのに一人、ニッコリと微笑んだ。そのとき風が少し強めにソソヨ・・ソヨソヨと流れ、川竹の帽子を吹き飛ばした。川竹は慌(あわ)てて帽子を追った。

                             完


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