朝から馬毛(うまげ)諸島を震源として群発(ぐんぱつ)する地震情報がテレビで報道されていた。その映し出される画面を観ながらその男は腕組みをし、首を横に振った。この手の話はまったく信じない男、彦崎である。彦崎は自分の手で触れたもの、目で見たものしか信じない男だったのである。
「ブゥ~~! いやいやいや…その手は食わな[桑名]の焼き蛤(はまぐり)だっ! …蜆(しじみ)でもいいが…」
彦崎は不正解を思わせるブザー音を口にしたあと、意味不明な言葉を発し、全否定した。テレビはアナウンサーが途切れることなく、地震の詳細を読み上げていた。そのとき、また新たな臨時ニュースが入った。アナウンサーは渡された原稿を慌(あわただ)しく追加して読み始めた。
『&%市 震度4、#%町 震度3 … … ただ今、入ったニュースです! 本日昼過ぎ、突然、姿を現した謎の彗星(すいせい)は、地球に向け急速に接近しており、二日後の昼過ぎ、地球上に落下、激突する公算が高まりました。この異常事態に対し、ただいま国連本部では、その対応策を講ずべく、緊急の協議が開始された模様です!』
「チチチ! またまたまた…」
彦崎はテレビに向かい、笑顔でアナウンサーを指差したあと、その人差し指を立てて軽く横に振り、鳥の囀(さえず)り声で全否定しながら言った。
二日後の夜、彦崎は美味(うま)そうな蜆汁で山菜釜飯を頬張(ほおば)っていた。
完