高1の蒲口(かばぐち)はよく失敗した。だが、教師の原塚は蒲口に他の生徒とはどこか違った一面を感じていた。というのは、蒲口は一度、失敗した失敗を二度と繰り返さなかったからだ。むろん、他の者の目には普通の失敗だったから当然、蒲口は出来の悪い生徒に見えていた。そんなことで、でもないが、いつの間にか蒲口の味方はクラスで担任の原塚一人になっていた。蒲口が別に苛(いじ)められた・・というのではない。失敗ばかりするから、蒲口の前から皆が遠退(とおの)いた・・ということだ。
「ははは…またかっ! しかし、他の者ならしないミスを、よくもまあお前は出来るな。先生も失敗してみたいよ」
「先生、からかわないで下さい。僕はもうダメなんです。ぅぅぅ…」
蒲口は急に号泣を始めた。
「馬鹿野郎! 泣くやつがあるかっ! 先生は、お前を高く買ってるんだ。お前は他の生徒にはない何かがあるっ! 失敗は決して人生の無駄ではない。いや、むしろいい勉強になるはずだ。だから、他の者には出来ない、いい経験をしてるんだ・・と思えばいいんだ。分かったなっ!」
「はいっ! 先生! ぅぅぅ…」
「ははは…それにしても、よく泣くやつだな。ははは…」
そう言う原塚の瞼(まぶた)も泪(なみだ)で溢(あふ)れていた。
それからひと月が経ったある日、蒲口は、また失敗をした。原塚の机に置かれていた答案用紙を誤って燃やしてしまったのだ。その日、蒲口は掃除当番だったのだが、どうしてそんなポカをやるのかっ! と、誰もが思う失態だった。
「ははは…まあいい! お前の失敗は、決して無駄じゃない。ははは…」
顔では笑っていたが、原塚は他の者と同じように思え、かなり怒れていた。
完