水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-19- 車社会

2017年04月29日 00時00分00秒 | #小説

 困ったことに、高3の歩代(ほしろ)は動き回る車社会に怯(おび)えていた。このままでは社会へ出られそうにない…と、日々の授業が身につかなかった。就職先も内定し、卒業まであと数ヶ月だったが、歩代の悩みは解決されそうになかった。
「先生、俺はもうダメですっ!」
「ははは…なに言ってる、歩代。お前、毎日、自転車で通学してるじゃないか」
「自転車はいいんです…」
「なんだ、その勝手な理屈はっ。なぜ、自転車はいいんだ?」
「ガソリンが、いらないからです」
「なるほど! 車だが、ガソリンがな。一理ある…。ということは、お前の場合、歩くか自転車ならいい・・ということになるな」
「はい!」
「だったら、それでいいじゃないかっ! お前は間違ってないと先生は思うぞっ」
「そうでしょうか? 車先生!」
「ああ、車の私が言うんだから間違いがないっ! 車社会に自信を持て、歩代」
「はいっ!}
 二人は顔じゅう涙だらけにして抱き合った。

                             完


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