村越茂助は眠れず、困っていた。別に眠気がない訳ではなかった。音が気になって眠れないのだった。それは、近所で行われていた深夜工事の騒音から始まった。
「五月蝿(うるさ)くて眠れん!!」
カ~~ンカ~~ン! キンキンキンキン! ガガガガァ~~! という音が、まったく同じリズムのようにくり返しで、していた。何をすれば、あんな音がするんだろう…と、村越は眠れず困った挙句(あげく)、ふと、そう考えた。
『まあ、明日までの辛抱だ…』
諦(あきら)めた村越は、毛布を頭まで被(かぶ)ると、目を閉ざした。深夜工事といえど、日が変われば音が止まることは村越も毎日のことだったから、分かっていた。
そして、次の日である。零時を過ぎ、音は止まった。やれやれ、これで眠れるぞ…と、毛布を被っても眠れなかった村越は思った。ところが、である。また、音が気になり出し、寝られないのだ。なんの音? かといえば、それは規則正しく運針する目覚ましの音だった。
「あああ~~~っ! もう!!」
村越はベッドから飛び出した。
『東軍の諸将、旗幟(きし)を鮮明にせざれば、ご出馬、これなく…』
目覚ましの音が、村越にはそう聞こえた。昼に観た大河ドラマの台詞(セリフ)の一部だった。
「今年は参議院選挙か…」
村越は眠ることを完全に諦(あきら)め、カップ麺を食べることで困らないことにした。
完