依存症のようにギャンブルから抜けられない人がいる。これはある種の心理的な病気だが、こういう人がいるから公営ギャンブルや遵法(じゅんぽう)遊戯(ゆうぎ)[たとえばパチンコなど]は成立するのかも知れない。ただ、それには程度というものがあるし、株式関係からゲームに至るまで天地の差がある。どちらが天でどちらが地とも言えないのが人の世の妙(みょう)だが、大ごとと小ごとの差は歴然(れきぜん)としている。この男、縞馬(しまうま)は白黒が入り混じった斑模様(まだらもよう)の性格で、ギャンブルは小ごとから大ごとまで、ひととおり手がける一流会社員だったが、法の枠(わく)は踏み外(はず)したことがない堅物(かたぶつ)の男だった。ギャンブルは依存症に至らない程度に精通していて、同僚や知人に対するこの手の相談にはよく応じていた。しかも、欲がなく、確定申告が必要となる一時所得の収入は、すべて寄付する・・という欲のない奇特な変わり者だったから、税務署員も首を捻(ひね)った。
「いや…ギャンブルをされた収入について厳密な調査を実施いたしましたが、違法性のようなものもなく、収入はすべて寄付しておられる。あなたのような欲がないお方も、まだこの世におられたのですなぁ~。私も長い間、税務署員として調査をして参りましたが、あなたのような方にお出会いしたのは初めてです。あなたこそ、正義の味方だっ! いや、神か仏か…」
税務署員は神々(こうごう)しい目で縞馬を見た。
「いや、そんないい者では…」
「なにをおっしゃる! …そこで、ひとつお願いなんですが、私、育ち盛りの子が5人もおりまして、いささか収入に難儀(なんぎ)いたしております。で、なにか、いい手立ては、と…。ははは…いやなに、飽くまでもプライベートな話ですよ、プライベートなっ!」
税務署員は縞馬に相談をした。
「ああ、それなら、ご相談に乗りましょう…」
縞馬は税務署員の相談員になった。
完