水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-5- 有効利用

2017年04月15日 00時00分00秒 | #小説

 浜嶋は痛んだ布団を見て、さて、どうしたものか…と考えていた。手早いのは、廃棄(はいき)して新らしい布団を買うことである。それには、いくらかの出費を余儀なくされる。困ったのは、その布団が、そう痛んでいないということだった。派手に破れたり汚れているのなら、考えなくても、すぐ買い換えられるのだが、モノは少し片隅が破れているだけだった。そう汚れている訳でもないから、浜嶋は困ったのである。ならば、修理をするか・・と日曜大工的に浜嶋は考えた。布団だから当然、工具は使えないし、出る幕もない。そこは、鋏(ハサミ)や針、糸などの裁縫道具の出番となる修繕作業だ。ほんの小一時間…と目論見(もくろみ)、修繕を始めた浜嶋だったが、ことのほか手間取り、作業が終わったのは昼頃になっていた。他にすることもないから、まあいいか…と、浜嶋は昼食にすることにした。出した鋏を片づけようとしたときである。刃先の一部が錆びついていることに浜嶋は気づいた。使うだけ使った挙句、このまま片づけるというのも気が引けた。ここは砥(と)ぎだろう…と思え、浜嶋は研ぎ始めた。そして火で乾かし。油を塗布し、元の場所へと収納した。物はモノを言わないが、モノだけに物々しい…と、訳が分からないことを思いながら時計を見ると、ずてに昼の1時を回っていた。他にすることもないから、まあいいか…とまた思いながら、浜嶋は、ようやく遅い昼食にありつけた。やり遂げた達成感と、なんとも言えない味わい深いいい気分に浜嶋は包まれた。困った気分が完全にいい気分に逆転するノックアウト勝ちだった。

                            完


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