水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-12- 逆転

2017年04月22日 00時00分00秒 | #小説

 世の中は困ったことに富む人と貧しい人とに片寄りを見せ、分かたれる。植土(うえつち)も貧しい側へ吸引されそうな一人だったが、なんとか堪(こら)えて踏みとどまり、富もう! と日々、農業に汗していた。そんな植土をあざ笑うかのように、近所の豪邸に住む生楽(しょうらく)は鼻毛を抜きながら欠伸(あくび)をし、¥百万の札束を数えていた。
「梅雨の晴れ間に一度、虫干しせんと、カビが生えていかんな…」
 しらこい[しらじらしい]顔で数十億はあろうか・・という札束の山を、生楽は腕組みしながら恨めしげに眺(なが)めた。
 何年かが経(た)ったとき、世界に大恐慌が起きた。その結果、貨幣は紙くず同然となったが、植土は食べ物にはこと欠かなかったから穏やかに生活を続けることができた。一方、生楽は飢えた空腹の腹を抱えて食べ物を求め、さ迷っていた。両者の立場が逆転し、植土が富む人となり、生楽が貧しい人になったのである。誰も拾わないゴミとなったお札が木の葉のように道で舞っていた。

                             完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする