水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-36- 気楽にやる

2017年12月02日 00時00分00秒 | #小説

 これから、やろう! …とすることを頭の中で正確に推(お)し量(はか)り、力んで行動しても上手(うま)くいかない場合が多い。まあ、先々のことを事前に考えておくことは大事だろうが、かといって、細部に至るまで緻密(ちみつ)なまでの正確さでやり過ぎれば、コトをし損じる・・ということになりかねない。逆転して、軽く気楽にやった方が返ってスンナリと終わる・・ことになる訳だ。
「入価(いるか)さん、そのAファイルが出来次第、このBファイルをお願します。昼までに出来ますか?」
「ああ、そりゃ大丈夫ですよ。私の処理量は1分当たり、おおよそ3枚ですから、Aファイルの残余枚数から逆算しますと、11時半ばには、Bファイルも含めすべて終える計算です」
「そんな正確にっ?」
「ええ! 間違いなく。さて、やるかっ!」
 海波(うみなみ)は、そんなに力まなくても…とは思ったが、口には出さず思うに留(とど)めた。もう一人、同じ仕事を任(まか)された籤螺(くじら)は入価とは正反対で、気楽にやろうとしていた。妙なもので、この適当にやる・・方法がよかったのか、暗に相違して11時前に籤螺はすべて終えてしまった。ところが一方の入価は、俄(にわ)かの携帯が入ったことでぺースを乱し、すべてを終えたのは昼休み抜きの1時過ぎだった。
「ご精がでますな、入価さん…」
 昼食を終えたあとの口元を満足げに楊枝(ようじ)でシーハーさせながら、籤螺は嫌味(いやみ)でなくそう言った。
 これは飽くまでも一例だが、正確より、逆転したその時々に処す・・という精神で、気楽にやる方がいいようだ。世の中は自分中心には回っていない・・ということになるだろう。

                               


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