邪魔(じゃま)とは、人がしよう! とする行為を制限することである。これは、強制的に相(あい)反する行為をすることで相手の行為を妨(さまた)げることに他ならない。ところが、強制した者は回り回って必ずその報(むく)いを受ける・・という破目に陥(おちい)る。この3次元世界の科学では到底、説明がつかない現象を、残念で悲しいことながら、誰も認識できていない。平たく言えば、自業自得(じごうじとく)となる・・ということを。
「登入(といれ)さん! 悪いが明日(あす)、私に変わって忘年会に出てくれませんか? 私、ちょっと急用が出来ましてね」
「ああ、はい。いいですよ…」
課長の糞野(ふんの)に頼まれた係長の登入はニタリ! と思わずしそうになり、懸命に堪(こら)えた。というのも、登入にとってこういった会合は楽しみ以外のなんでもなかったのだ。だが、今一、仕事が遅(おそ)い登入は、いつも残業を余儀なくされ、出席できなかったのである。そこへ、この天女が舞い降りたような幸運な話だ。美酒(びしゅ)に酔いしれ、美味(うま)い料理に舌鼓(したつづみ)を打つ・・なんとラッキーだっ! …と、登入はニヤけ出した。
「んっ? どうかしたの、登入さん」
「いや、べつに…」
懸命に堪えていたものが、ついに…である。それを近くの席で見聞きしていた課長補佐の手蕗(てふき)は面白くない。課長、俺でしょ?! と思わず言いそうになり、不満げに机上のパソコンへ視線を落とした。よしっ! こうなっては妨害以外に俺が頼まれることは、まずない…と思えた手蕗は、登入が忘年会へ出られないようにしようと策を練(ね)った。
「登入さん、このファイル整理、明日(あした)までにしてもらいたいんだ、よろしくねっ!」
手蕗は内心で、フフフ、これで明日の忘年会は無理だろう…と読んだ。ところが、である。次の日の朝が巡ると、事態は一変していた。他の課から回された急な仕事が課長の糞野から手蕗に命じられたのである。しかも、登入が手蕗に頼まれたファイル整理は、これも課長命令でボツになったのだった。
「じゃあ! 課長。出席させてもらいますっ!」
「ああ、なにぶん、よろしく頼むよ」
近くの席で聞いていた手蕗は、思わずチェッ! と舌打ちした。
結論として言えることは、邪魔をすれば逆転して邪魔をされる・・ということだ。
完