水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-41- クローン

2017年12月07日 00時00分00秒 | #小説

 すでに畜産界ではクローン牛の生産で食肉を増産しよう・・という時代に至っている。体細胞を卵子に注入して新個体を生産するという人工の繁殖技術だ。
 未来のとある時代である。
「確か、山吹さん…でしたね?」
「ええ、まあ。山吹は山吹なんですが…」
「と言われますと、枝番の方でしたか?」
「ええ、枝番の方です。自分が枝番の方・・という言い方もなんなんですが…。山吹1の2です」
「分かりましたっ! 山吹1の…」
「2です」
「はいはい! 山吹1の2さんね。ああ! ありました。山吹1の2さんは、お2階の6201号ですね。お渡しして…」
「かしこまりました…」
 受付のフロント・マスターに指示されたサブ・マスターは、1ヶの飴(あめ)ちゃんを山吹1の2に渡した。山吹1の2は、その飴ちゃんを口中(こうちゅう)へ放り込むと、美味(うま)そうに舐(な)め始めた。飴の成分は施錠(せじょう)装置と反応してドアを開けさせ、その者だけが室内へ入れるのである。忘れや内ロックといった前近代的なミスは、もはやこの時代では皆無(かいむ)だった。さらにコンシュルジュというシステムはすでになく、山吹1の2は手の平に浮かび出た映像を頼りに進めばよかった。荷物も自動転送装置により部屋へ届けられた。
 山吹1の2が去ったあと、フロント・マスターは小声で呟(つぶや)いた。
「それにしても、逆転してややこしい時代になったねぇ~。クローンだらけでクローン[苦労]するよ」
「過去の遺跡で発見された古いギャグですね」
 サブ・マスターは顔では笑わず、心でニヤけた。
「そう…」
「進み過ぎましたか?」
「進み過ぎたね」
 二人は顔を見合わせ大笑いした。実は二人も人口増産のために生産されたクローンだった。

                              


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