水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-42- ダイエット

2017年12月08日 00時00分00秒 | #小説

 中年以降になると肥満体になりやすい。
「君さぁ~、もう少し痩(や)せた方がいいんじゃないか?」
「はあ…」
 真夏の午後、外回りの営業から会社へ戻(もど)った小橋に、課長の石桁(いしげた)が声をかけた。びっしょりと汗を掻(か)き、それをハンカチで拭(ふ)きながら課に入ったところを、運悪く石桁と鉢合わせしてしまったのだ。
 その日以降、小橋は太った体重を元に戻(もど)そうと、ダイエットに躍起(やっき)になった。まず、炭水化物を取らない作戦に出た小橋は、豆腐にカレーをかけて1年食べ続ける・・という離れ業(わざ)をやってのけた。まあ、離れ業というよりはアイデア業なのかも知れなかったが、馴(な)れると妙なもので、これがどうしてどうして結構、いけたのである。お蔭で体重も約10Kg落とすことが出来た。
「ほう! なかなかスリムになったじゃないかっ! 汗も掻かなくなったしさぁ~。いい塩梅(あんばい)だよ、小橋さん!」
 1年後、石桁は小橋にそう言った。
「はあ、どうも…」
 小橋は内心で少し自慢げに石桁を見た。すると、以前より少し石桁が太って見えるではないか。
「課長、太られましたね。少しお痩せになった方がいいんじゃないでしょうか」
「ああ…どうも」
 その日以降、小橋は太った体重を元に戻(もど)そうと、ダイエットに躍起(やっき)になった。立場が逆転していた。 

                              


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