中年以降になると肥満体になりやすい。
「君さぁ~、もう少し痩(や)せた方がいいんじゃないか?」
「はあ…」
真夏の午後、外回りの営業から会社へ戻(もど)った小橋に、課長の石桁(いしげた)が声をかけた。びっしょりと汗を掻(か)き、それをハンカチで拭(ふ)きながら課に入ったところを、運悪く石桁と鉢合わせしてしまったのだ。
その日以降、小橋は太った体重を元に戻(もど)そうと、ダイエットに躍起(やっき)になった。まず、炭水化物を取らない作戦に出た小橋は、豆腐にカレーをかけて1年食べ続ける・・という離れ業(わざ)をやってのけた。まあ、離れ業というよりはアイデア業なのかも知れなかったが、馴(な)れると妙なもので、これがどうしてどうして結構、いけたのである。お蔭で体重も約10Kg落とすことが出来た。
「ほう! なかなかスリムになったじゃないかっ! 汗も掻かなくなったしさぁ~。いい塩梅(あんばい)だよ、小橋さん!」
1年後、石桁は小橋にそう言った。
「はあ、どうも…」
小橋は内心で少し自慢げに石桁を見た。すると、以前より少し石桁が太って見えるではないか。
「課長、太られましたね。少しお痩せになった方がいいんじゃないでしょうか」
「ああ…どうも」
その日以降、小橋は太った体重を元に戻(もど)そうと、ダイエットに躍起(やっき)になった。立場が逆転していた。
完