人である以上、必ず失敗は付き纏(まと)う。ははは…私に失敗など、ありはしないっ! と嘯(うそぶ)きながら大笑いした途端(とたん)、躓(つまづ)いて捻挫(ねんざ)する・・といったような出来事は日常(にちじょう)茶飯事(さはんじ)である。問題は、失敗に気づいたあとの行動差だ。ただちに修正しようと行動する者、あとで修正しようと思う者、まあ、いいか…次から注意しようと思うだけの者と、三者(さんしゃ)三様(さんよう)の違いを生じる。
「長鼻(ながばな)はどうしたっ?!」
「ああ、長鼻さんは奥さんの出産が近いそうで早退されましたよ」
「ああ、そうだったな。弱ったな…。コレ、君に出来るか?」
「ああ、コレですか。コレは、その…出来そうな、出来なさそうな…」
顎川(あごかわ)は副課長代理代行の足尾(あしお)に曖昧(あいまい)に返した。
「はきつかんヤツだっ! もう、いいっ!」
「いや、出来ますっ!!」
足尾の言葉にムカッ! とした顎川は、思わずそう言ってしまった。
「本当(ほんと)かっ?! …まあ、いい。君しかおらんのだから仕方あるまいっ! じゃあ、明日までに頼んだぞっ!」
「はいっ!」
返事はよかったが、顎川に先の見込みはついていなかった。
足尾が去ったあと、顎川の奮戦が始まった。失敗しては、いや、まだまだ…と、心を新(あら)たに修正していった。いつの間にか退社時間となり、皆が帰ったあとも顎川の奮戦は続いた。いつしか外は漆黒(しっこく)の闇(やみ)になっていた。
「精が出るね…これ、コンビニ弁当。暖(あたた)めてもらったから、すぐ食べなさいっ!
お茶とケーキも買っておいた。それじゃ、頑張ってなっ。頼んだよっ!」
「はいっ! 有難うございましたっ!」
立ち去る足尾の後ろ姿を見て、足尾さんって、実はいい人なんだな…と、顎川は思った。そして、来年は、きっと副課長代理に出世されるだろう…と瞬間、思ったが、大した出世にも思えなくなり、修正して思うのをやめた。その後も顎川の奮闘は続き、失敗と修正を繰り返しつつ完成させ、いつの間にか眠ってしまっていた。気づけば明け方近くで、東の空が明るくなり始めていた。楽しみにしていたスキ焼パティーには参加できなくなった半面、顎川には達成感が残った。修正は逆転して達成感を生む。
完