料理教室の調理実習で2人の男がカレーを作っている。見守る審査員はプロの料理家2名である。審査を受ける片方の男のカレー鍋(なべ)は、コトコトコト…と美味(うま)そうに煮えている。すでに豚肉、タマネギやニンジンを十分に炒(いた)め、水を足して固形スープの素(もと)、香辛料などを入れたあと煮立たせている段階だ。あとはカレーのルーを入れてしばらくすれば出来上がるところまで完成している。もう片方の男は、そこまで至っておらず、フライパンを2丁使い、煮汁と炒めを別にして、ゆっくりと調理している。この男の思惑(おもわく)はカレー味を重視している点にある。片方のフライパンで野菜を十分に炒め、もう片方のフライパンで豚肉を炒める。そしてそこへ水を足して固形スープの素(もと)、香辛料などを入れて煮汁を作るという寸法だ。煮えればルーを溶かし入れ、炒めた野菜を軽く絡(から)めれば出来上がり・・となる。こうすれば、確かにカレーは甘くならない。恰(あたか)も片方の男が長刀の佐々木小次郎とすれば、もう片方の男は二刀流の宮本武蔵に例えられるだろう。佐々木小次郎は平凡な甘口カレーを、片や宮本武蔵はカレー味を重視している訳だ。
調理後のプロ料理家による寸評(すんぴょう)である。
「確かに、甘口の方(かた)は、それはそれでいいんでしょうねぇ~」
「ええ。しかし、タマネギなどの野菜を煮立たせると味が甘くなる・・というもう片方の方の調理も頷(うなず)けます」
「それは、そうです。手順前後で甘口と辛口に分れるということでしょうね」
「手順前後は結果を大きく変化させます」
「…はい。私は妻より先に私の下着を洗い、叱(しか)られました」
「叱られましたか。手順前後にすれば叱られなかったでしょうね」
「はい…」
料理会場に参加者達の割れんばかりの爆笑が起こった。
完