水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-50- 意気込み

2017年12月16日 00時00分00秒 | #小説

 思ったことを、何がなんでもやってしまおう! というのが意気込みだ。意気込みがない思いつきは失敗を招(まね)きやすい上に、下手(へた)をすれば、逆転して取り返しがつかないことにもなりかねない。
 日曜の朝、味噌川(みそかわ)は、ふと思いついた料理を作ってみよう…と思わなくてもいいのに思ってしまった。テレビに映(うつ)っていた料理番組の料理が余りにも美味(うま)そうだったからだが、思ってしまったものは仕方がない。生憎(あいにく)、妻と子は田舎(いなか)の実家へ帰っていて、家の中は味噌川一人だった。まあ、思いようによっては横からとやかく言われず、やり易(やす)くはあった。ただ、綿密に計画を立てて、やろう! と意気込んだ調理ではなかったから、材料も当然、整っていなかった。それでも、まあ代用品でもいいか…とキャベツ代わりに白菜を、牛肉代わりに豚肉を使って調理することにした。主役が倒れたから急遽(きゅうきょ)キャストに代役を立てる・・というのに似ていなくもなかった。
「おかしいなぁ…」
 この言葉が味噌川の口から漏(も)れ出たのは、調理を始めて小一時間が経(た)った頃である。味はそれなりの味に仕上がっていたが、仕上がった外観がサッパリだった。どうサッパリなのか? といえば、見た目がグチャグチャで、材料をそのまま放り込んで煮た・・というような仕上がりだった。テレビでは綺麗(きれい)に皿へ盛り付けられていたから美味そうだったものの、出来上がった代物(しろもの)はサッパリ食欲が湧(わ)かなかった。
「まあ、仕方ないか、そのうち腹も減るだろう…」
 愚痴ともつかない言葉で調理をやめて片づけると、味噌川は他の雑用をやることにした。出来上がった料理は、容器に入れて冷蔵庫へ収納しておいた。
 それでも人間は上手(うま)く出来ている。雑用をしているうちに味噌川は腹が減ってきた。よしっ、食べるかっ! と、味噌川は意気込んで腹を満たすことにした。そして、冷蔵庫から意気込まずに仕上がった料理を取り出し、意気込んで食べ始めると、案に相違して美味かった。
 意気込むことは、大事なのだ。

                              


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