水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-62- 雨の日

2017年12月28日 00時00分00秒 | #小説

 雨が降っている。しかし、よくよく考えれば、雲海の上は晴れている・・と、話は逆転する。早い話、お日さまは楽しい休日となる訳だ。お日さまが日々の疲れを取ってお休みになるのは、いわば、人が骨休みで快適な旅に出て保養する・・みたいな感じだろう。恐らくは、新鮮で美味(おい)しい霞(かすみ)なんかを食べ、舌鼓(したつづみ)を打たれていることだろう。
「ああ…降っているか。まあ、今日は別にすることもないからな…」
 歯を磨(みが)きながら下界の川豚(かわぶた)は朝から降り出した雨空(あまぞら)を見上げ、陰鬱(いんうつ)にブツブツと呟(つぶや)いた。こういう雨の日は、なぜか心のテンションも下がるというものだ。そこへ飼っている猫のミケが現れた。動物病院の獣医、鳥海(とりうみ)が、「ほう! 三毛で雄(おす)とは珍しいっ!」と、驚いた曰(いわ)くつきの猫だ。今年で三才になる。そのミケが顔を手でナデナデしたあと、ニャ~~とひと声、鳴いた。
『雨ですか…』
 ミケはそう言ってご主人である川豚の様子を窺(うかが)ったのだった。
「はいはい…」
 ミケは川豚の気分を言ったのだが、ニャ~~の意味が分からない川豚は、さてと…と、餌(えさ)の準備を始めた。ミケは、ふたたびニャ~~と、やや大きめの声で鳴いた。
『そうじゃないんですよっ!』
 雨の日は意味が通じない逆転した誤解を生むようである。

                               


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