水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-43- 正しい掃(は)き方

2017年12月09日 00時00分00秒 | #小説

 寒くなると北風が吹いて木枯らしを起こす。そうなれば当然、広葉樹の枝葉(えだは)は色づき、やがては枯葉となって地上へと降り注ぐ。その数のなんと多いことか…と、人々は溜(た)め息を吐(つ)きながら大量の葉を掃(は)き集めることになる。ここで問題となるのが、掃く方向である。風が吹いている日、吹く風に向かって掃く行為は、労力を費(つい)やすだけでなく、時間を取られ、せっかく掃いた落ち葉をまた散らされたりして腹立たしくさせるから、やめた方がいい・・という掃き方の結論が導き出される。かといって風が吹く方向に向かって掃けばいいのか? といえば、実は効果面からすると、そうでもないのだ。
『よしっ! あちらから…』
 禿川(はげかわ)は、そう心で呟(つぶや)くと北の隅(すみ)から風の向きに従って南方向へと掃き始めた。最初のうちは順調だった。というのも、風が吹いてどんどんと掃く方向へ落ち葉を運んでくれたからである。
『これは早いぞっ!』
 禿川はまた心で呟きながら、気分を高揚(こうよう)させて掃き続けた。ところが、である。案に相違して早く終わりそうに思えたそのときだった。状況は落ち葉の山が完成し、禿川は、そろそろ袋に入れよう…としていたときである。一陣の強風が吹き荒れ、あれよあれよ・・という間に元の掃き始めた元の状態へと戻(もど)してしまったのである。双六(すごろく)ではないが、振り出しへ戻る・・である。禿川はガックリと意気消沈(いきしょうちん)し、すっかりやる気をなくしてしまった。そして、もういいっ! と自暴自棄(じぼうじき)になってやめようとした瞬間だった。禿川はハッ! と気づいた。そうだっ! なにも今、掃かねばならない・・という決めはないんだ…と。そう気づいた禿川はタイミングをずらすことにした。いわゆるバレーボールで使用されるところの時間差攻撃というやつである。この攻撃法でいけば、北風は自然と落ち葉を北から南へと吹き流してくれることになる。すると、掃く労力もいらず、その時間分、他の事をできる訳だ。いわゆる逆転の発想である。すぐ掃いて綺麗(きれい)に・・という気分にはなるが、そこはそれ、━ 慌てる乞食(こじき)は貰(もら)いが少ない ━ と言うではないか…と馬鹿馬鹿しいことを巡りながら、禿川は家の中へと撤収(てっしゅう)した。
 1時間後、風はやんでいた。禿川は、ふたたび掃こう…と玄関戸を開けた。すると、禿川が予想したとおり、落ち葉の山がすでに南の隅に出来上がっているではないか。禿川は漁夫の利を得た気分になり、これが正しい掃き方だな…と、ニヤけた。

                              完 


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